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「“歩けない僕”と“見えない私”の交換日記」を振り返る

パラクライミング世界選手権“視覚障害”クラスで4連覇のレジェンド・小林幸一郎さんと、“車いす”クラス銀メダリストのルーキー・大内秀之さんが、クライミングへの思いを語り合うため、交換日記を始めました。これまで、11回のビデオレターのやり取りが行われ、熱い言葉のラリーが繰り広げられています。

ここで、ひとつの節目として、これまでの企画を、2人に振り返ってもらいました。


▼あなたの言葉は、“最強の栄養素”

大内:
この企画をもらったとき、なんて光栄な企画なんだろうと思いました。小林さんはすごい人。僕が登り始めるきっかけをくれた人で、3連覇したとき、4連覇したときに、生で会場にいて、すっげえクライマーの人の登りをリアルタイムを見れたことはすごく感動。その相手とこうした交換日記ができているということは、驚きです。最初、僕からビデオレターを投げたんですよね。逆ちゃいますのって思ったんですよね。レジェンドが “下々の君、大内、がんばりたまえ”、それで僕が “はい、分かりました”っていう感じだと思っていたのに、下っ端から先にビデオレターって…。でも回を重ねるごとに、どんどん素直な自分を出せてきたと思います。新型コロナのご時世の中、自分の中ではマインドがいろいろ変わっていった様子も、小林さんに聞いてもらったことが、いまも励みになっています。このビデオレターのやりとり、僕はラブレターのやりとりだと思っているんですけれども、レジェンドの小林さんと引き続きやっていけたらと思っています。

小林:
始めたときはまどろっこしい感じがあって、コロナの時代にズームを使ったビデオ会議が日常的になった中で、一方的に画面に向かって語りかけるのがまどろっこしい感じがあって、“いや、つなげて話そうよ!”という気持ちがすごくあった。でも回を重ねていく中で、最初やりづらかったものが、だんだん喋りかけやすく、自分の言葉が出てくるようになっていく感覚が不思議だった。この人すごい人と言ってくれたけど、俺からすると逆で、大内のこの強さは何なんだろうって、それを毎回毎回感じさせてくれて、自分には学びしかないやり取りの機会をもらえてありがたかった。出会ってから時間は経っているけれども、こうした直接のやり取りがあるようでなかったので、これを機会に、途切れさせず継続していきたいなと。

大内:
小林さんの言葉は、僕にとっては“最強の栄養素”なので、一人語りでないと僕はずっと聴き入ってしまうんですよね。対談形式にやってしまうと、小林さんの言葉に耳を傾けて、ふんふんって言っているだけになってしまうんですよね。キャッチボールをした方が僕はやりやすいです。

▼君の言葉が、自分の中に入ってくる感覚

大内:
ふだんやっている情報発信と明らかに違うのは、背筋が伸びていますね。小林さんに、大内もよくやっていると言ってもらっているので、しょうもないことは言えないなと思いながら、関西弁でしょうもないことも言っているので、いつか、どつかれんちゃうかなと(笑)。でも、そういった気軽さを許してもらえるような小林さんの懐の深さもあるので、背筋を伸ばしながら、一生懸命そのとき感じていることを、小林さんにまっすぐストレートに、変化球なしで伝えさせてもらっていることがいいのかなと。格好つけず、お兄ちゃんに聞いて聞いてって言っているような感じで、背筋を伸ばしてやっています。

小林さんの言葉を、一度ノートに書いたり、note文字化されているので、それを読んだりしながら、小林さんの声を聞きながらトレーニングしたり、自分の中で引っかかったキーワードを1回だけではなく2回3回聴いたり、文字を読んだりして、小林さんは何を言いたいのかなと噛み砕いて。電話でのやりとりとは違う、ちゃんとした意味付けをしたいなと思っているので。レジェンドとこうした企画をやらせてもらっているので、 やる以上はしっかりとした礼節を持ってやらせてもらっています。偉そうなことを言っていますが、緊張しています、毎回。

小林:
自分で手紙を返すとき、収録する前に間を空けて2回くらい聴いていて、手紙を読み返すように、その言葉を自分の中で反芻するようにしている。言葉に重みがあるというか、デジカメになる前のフィルムで写真を撮っていた頃のように、一枚一枚シャッターを切るのが大事だった頃を思い出すような、ビデオでやり取りをするのではなくて、手紙としてもらったものなので、読み返して言葉を返すというプロセスが新しい感覚で、大内の言葉が自分の中に入ってくる感覚がすごく新鮮です。

Q 大内さんの言葉はどう響いている

小林:
リスペクト、尊敬です。年齢でも経験でも何でもないと思っていて、私にとっては行動を続ける人、発信を続ける人、常に謙虚であるその姿は尊敬でしかなくて、自分がどうして行ったらいいかというのを、いつも考えさせてくれるので、ありがたいです。

(了)

“歩けない”大内さんと、“見えない”小林さん

▼大内秀之さん

  • 兵庫県出身

  • 生まれながら脊髄にガンを抱える

  • ガンは摘出するも、腹筋から下にまひが残り、車いす生活に

  • 13歳、車いすバスケを始める

  • 大学で社会福祉士の資格を取得

  • 現在、大阪府堺市立健康福祉プラザに勤務

  • 36歳、小林と出会い、クライミングを始める

  • 38歳、一般社団法人フォースタート設立。車いすバスケチーム「SAKAIsuns(サカイスンズ)」を運営

  • 2018年パラクライミング世界選手権インスブルク大会(オーストリア)AL1(車いす)クラス初出場

  • 2019年ブリアンソン大会(フランス)AL1クラス準優勝

▼小林幸一郎さん

  • 東京都出身

  • 16歳でフリークライミングと出会う

  • 大学卒業後、アウトドアインストラクターとして活躍

  • 28歳、「網膜色素変性症」が発覚。将来失明すると宣告される

  • 34歳、米国の全盲登山家エリック・ヴァイエンマイヤーとの出会いから、障害者クライミング普及を目指す

  • 37歳、NPO法人「モンキーマジック」設立。同年、アフリカ大陸最高峰キリマンジャロ登頂

  • 2011年パラクライミング世界選手権イタリア大会(アルコ)視覚障害B2クラス優勝

  • 2012年フランス大会(パリ)B2クラス準優勝

  • 2014年スペイン大会(ヒフォン)B1クラス優勝

  • 2016年フランス大会(パリ)B1クラス優勝

  • 2018年オーストリア大会(インスブルク)B1クラス優勝

  • 2019年フランス大会(ブリアンソン)B1クラス優勝 4連覇

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