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バラは何色でもいいんだよ

私は小学生の時、油絵の教室に通っていました。
家から歩いて20分くらいのところにある、
古い借家で当時60代くらいのおじさんが1人でやっている絵画教室でした。
先生は「松村先生」と呼んでいたと記憶しています。


そこはお世辞にも人気とは言えず、
週に1回通うその教室には、私と、その絵画教室をお勧めしてくれたサキコちゃんと、他校に通う同じ小学生の男の子の兄弟、4人しかいませんでした。

油絵の具の使い方すら知らない私に、先生はとても優しく分かりやすく教えてくれたと思います。
なぜならどう教わったか全く覚えていないのに、
30代になった今でも油絵の具の使い方やキャンバスへの書き方などは覚えているからです。

教室へ通って少し経った頃、
松村先生はバラの造花の花束を水差しに入れて、それを描くことを課題にしました。

その造花は少し埃が被っていて、今まで何度もその教室で課題の役割をしてきたであろう造花でした。

私は鉛筆で下書きをし、
茶色い油絵の具で線を描き、
赤い絵の具に茶色や黄土色、少し黒を混ぜたり、
茶色に黄色、朱色を混ぜたりしてバラを描きました。
全部のバラを違う色で描きました。

それを見て同じ教室の男の子が
「バラは赤いんだよ」と私をからかいました。

すると先生は男の子に
「バラは何色でもいいんだよ」と優しく言いました。

当時小学生だった私は「バラは赤なのか!」とも驚き、
「私赤で塗ってないし黒混ぜてる!」とも驚き、
「何色でもいいのか!」とも驚きました。

「バラは赤い」というのは誰かが決めた事。
それに気づくのはもっと後の事です。


大好きで今だに色々な瞬間に思いだす松村先生の絵画教室。
私が小学6年生の頃、先生は体調不良で教室を閉めました。
今どこでどうされているか知る術もありません。

先生が何気なく言った「バラは何色でもいいんだよ」は今でも私が生きる上で大切にしている言葉です。

世の中は誰かがいつか決めた事で溢れていて、
それに添えないと戸惑うこともあるけど、
本当は「バラは何色でもいい」
親になった今、子供に必ず伝えたい言葉です。