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おりおりいっぴつ #057(どこまでも行ける気がする)

どこまでも 

行ける気がする


博多から鹿児島まで一気に行ける時代がくるなんて、思いもしませんでした。

移動ばかりの人生を長くやっておりますが、だからこそ出会える奇跡があります。そのエピソードは、毎週水曜日13時からオンエアしております。広島のちゅーピーFM76.6Mhzをお聞きください。

さて、なぜこんなに旅をするようになったのか。拙著、「三日月の輪舞曲(ロンド)」が始まり、ではありません。実は僕、幼い頃から冒険者でした。

初めて三輪車に乗ったのが、4歳になった時です。短い足で必死にこいだペダル。こいでいると風が僕の真っ赤なほっぺに当たり、すごいスピードで走っているような感覚になります。

今では考えられませんが、当時の時代的に、僕はひとりで保育園に歩いて通っていました。ある朝、僕は唐突に、三輪車に乗って保育園まで行くことを決意したのです。

保育園まではだいたい2キロくらいの道のりです。僕は、意気揚々と水色のスモッグを着て、黄色いカバンをぶら下げ、黄色い帽子をかぶりながら、「行ってきます」も言わず、三輪車にまたがって、そこのけそこのけと道を走っていきます。

三輪車から見る風景と、いつもの歩いている風景は、全然違いました。そして、これは僕の悪い癖ですが「いつもと同じ道を通りたくない」という不思議な欲求が頭をもたげてきまして、全く知らない道をキコキコと走っておりましたら、突然砂利道になりました。

昔はまだ舗装されている道の方が少なかったので、僕は三輪車を降り、引っ張って歩き始めたのですが、どうにも歩きにくくて仕方がありません。

中ほどまで来たときに、ついに戻ることも進むこともできなくなってしまい、このままでは保育園にたどり着けないのではないかと不安になってきて、ついつい泣いてしまったのです。

ひとしきり泣いてると、近くの住宅からおばちゃんが出てきて、

「どうちたの? 坊や。迷子?」

と言われ、なんとなくうなずいていたら、

「どこに行きたいの?」

と聞かれたので「保育園」と言えばよかったのに、

「おうちに帰りたい」

と言ってしまいました。おばちゃんは、こころえた! とばかりに張り切って、僕を軽々と抱っこし、三輪車を片手にぶら下げ、もと来た道を歩き始めました。

その頃、保育園からいつまでたっても僕が来ないと家に電話があったようで、母はあわてて僕を探しに出ました。しかしタイミングが合わず、僕は母と入れ違いになってしまいます。

おばちゃんに抱きかかえられたまま、家の前まで連れてきてもらった僕ですが、最悪なことに、そこにいたのは、怒りっぽい父。たまたま非番で家にいたのです。

泣きながら帰ってきた僕を見て、父は激怒です。

「コーラ幸一! 保育園に行ったんじゃないんかワレー!!」

しかし父は後ろにいるおばちゃんを見てとっさに冷静になったようで、父の剣幕に驚いて立ちすくんでいるおばちゃんにお礼のみかんを3つほど渡しながら、お詫びをし、頭を下げ、お礼を言い、帰ってもらいながら、保育園にすぐ電話をかけて、そこでも先生に平謝りし、今家に帰ってきましたと言って、頭を下げています。

母はまだ戻って来ません。今頃、お母さんは僕を必死に探しているんだろうなと思ったら、なんだかまた泣けてきて、大号泣に大発展。

父は「三輪車で保育園に行く途中、歩道からはみ出て、車にひかれでもしたらどうするんだ!」と、僕をえんえんと叱るばかりです。

怒りのボルテージが下げ止まらない父は、僕を持ち上げ、ズボンをペロリと剥き、お尻を出して叩き始めました。もう三輪車には乗るな! バシバシ! 保育園にはこれから、お母さんに連れて行ってもらうからなバシバシ! と何回も叩かれて、僕は泣き叫ぶ一方でした。

しばらくすると、ようやく母が戻ってきました。しかし、母は、満面の笑顔。

「幸一、怪我はなかった?」

そこで父はようやく僕を床に降ろしてくれました。僕は泣きながらうなずいて、大丈夫。と小声で言ったら、母は僕の目の前にしゃがんで、

「あーよかった! 大冒険したのね! 楽しかった?」

とにっこり聞くのです。

父は、そんな母のあっけらかんとした物言いに、脱力した様子で言いました。

父:「2丁目の、中村さんが連れてきてくれたんや」

母:「えー? そんな遠くまで行ってたの? すごいね! じゃあ、冒険じゃないね、大旅行だね! おかえり!」

そう言って頭を撫でてくれる母。僕のほうは、ヒリヒリするお尻を撫でつつ、はにかんで「ただいま」と笑いました。

それ以来、僕はまたおかしな横道にそれないようにと、母と一緒に通園することになったのですが、ある日、魚屋さんのおじちゃんが車を急にバックしてきて、僕たちにぶつかりそうになったことがあり、震え上がりました。

その時僕は、こんな想像をしました。

「もし僕を保育園に送った帰り道、母が車にひかれたらどうしよう」

そして、そのことが頭から離れず、怖くなり、母に言ったのです。

僕:「お母ちゃん。もう僕、1人で大丈夫だよ」

母:「ほんと?」

僕:「うん」

母はしばらく考えて、僕に聞きました。

母:「お母ちゃんといっしょは、恥ずかしいの?」

僕:「恥ずかしくないよ。もし、あのね。今日の帰り道にね、お母さんが車にひかれたらと思ったら、嫌だから。僕、一人でいく」

そしたら母は、一瞬立ち止まり、僕を追いかけてきて、しゃがみ込み、僕をぎゅっと抱きしめてくれました。

母:「お母ちゃんの心配してくれてるの?」

僕は黙ってうなずき、しかし道端で抱きしめられていることが恥ずかしくなり、僕は母のぎゅうを振り解いて、保育園に向かって走り始めました。

僕:「もう僕、1人で行ける! お母ちゃんは気をつけて帰ってね!」

母は僕が保育園の建物が見えるところまで走るのを見守り、その間、ずっと手を振っていてくれました。

大冒険の事件以来、父の厳命により僕は三輪車には乗せてもらえず、一人旅はお預けになってしまいましたが、いまだにその癖は抜けず、地図もなしに、いろんなところを走り回っております。

そんな僕は、いつも思うのです。乗り物さえあれば、どこまでも行けるんじゃないかって。だから、ついつい出かけたくなってしまうんです。

日本の、至るところに僕は出没しています。もしあなたが僕から話しかけられたら、無視はせず、お話を聞いてください。楽しい会話で、いっしょに笑顔の花を咲かせましょう。

あなたに、今日も幸あれ。

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