僕の本名と情けない過去
「全て、おにいちゃんが中心でいけばいい」
これは僕が幼い頃から母に何度も何度も諭されたことです。
でも僕はずっと、自分が中心になることが嫌でした。
だから、なにをしていても、自分が中心になりそうな怪しい(?)雰囲気を感じると、そこから全力で逃げ出していました。
母はそんな僕に対し、どうすればわかってくれるのかを模索しながら、いろんな言葉で、いろんな角度から根気よく伝え続けてくれました。
その気持ちは有り難かったのですが、素直さには自信がある僕も、こればっかりはすぐにわかったとは言えませんでした。
しかし、母が亡くなる数ヶ月前。
二人だけの会話で初めてしっくりきたのです。
母が根気強く伝えてくれたこと
秋のやさしい風が吹き始めたある日、海が見える高台で母の車椅子を押しながら、僕たちは話をしました。
母:「おにいちゃん。人間はねえ。バカでいいんだからね。」
また始まってしまった。一瞬そう思った僕ですが、このときはなぜかこの会話を少し深堀りしてみよう、そう思いました。
僕:「本当に、バカでいいのかなあ?」
母:「いいのよ。じゃあおにいちゃん、クイズ。」
僕:「わーい!」
母:「賢くて、面白くて、かっこよくて、もう完璧。なんでも器用にこなせる人がいたとしましょう。その人がチームの中心になったらどうなると思う?」
僕:「そりゃあ最強のチームになっちゃうだろうね〜!」
母:「ぶー。そうなったら、実は危険なの。だって、周りの人が活躍する場がないじゃない? それって、みんな楽しいかな?」
僕:「ああ、楽しくないのかも?」
母:「そうね。つまり、完璧な人って、もう完成しているから応援されにくいの。あとはひょっとすると、完璧だからゆえに周囲からの妬みを買ってしまったり、みんなに嫌われて孤独になってしまったりするかもしれない。そうなったらチームは崩壊しちゃうわよね。」
僕:「ええ? でも、そんなの理不尽だよ!」
僕が大丈夫な理由
母:「でも、おにいちゃんは、バカだから大丈夫。」
僕:「お母さん、僕はバカではないつもりなんだけど?」
母:「うふふ。あなたはね。本当にバカなのよ。」
僕:「ええ〜? そこまでじゃないと思うんだけどなあ・・・。」
母:「だって、私は見てきたわよ。あなたはいきなりおかしな行動をして周りをびっくりさせるし、こだわりが強すぎてうまくいかなくなって、しまいには癇癪を起こすし、やることなすこと失敗を繰り返しては途中で投げ出して、ダメダメな自分をなんとか魅力的に変化させようと頑張ってまた新しいことをやるけど、それも失敗。
なんだかずっと遠回りしてるでしょ?」
僕:「・・・。」
やっぱりこの会話、深堀りなんかしなければよかった。
母:「でも、最後の最後に、うまくいくじゃない?」
僕:「あ、確かに。」
母:「じゃあ、なんでうまくいくのか、考えたことはある?」
僕:「そりゃあ僕が頑張って、、、いや、ないな。僕にできないことを、周りの人たちが助けてくれるパターンだね。」
母:「そう! じゃあなぜ、周りの人たちはあなたを助けてくれるの?」
僕:「え〜? なんでだろう? はっ・・・ひょっとして!?」
母:「なあに?」
僕:「まさか、僕がそういう(ヒーロー的な)オーラを出してるとか?」
母:「そう。あなたが一生懸命なバカのオーラを出してるから、天才秀才がみなこぞって助けてくれるの。」
僕:「ぶふっ! そっちのオーラか。でも、ありがたいな。。」
母:「ありがたいね。つまり、おにいちゃんが周りの人に恵まれて、愛されて、中心となっていけば、みんなが幸せになるの。あなたが一番幸せになれば、周りの人が幸せになるの。」
僕:「僕が一番幸せになれば、周りも幸せになる・・・。」
愛されるワケ?
母:「おにいちゃん、知ってる?」
僕:「うん?」
母:「あなたが愛されるわけ。」
僕:「ええっと。。。だから、一生懸命なんだよね?」
母:「なにに対して?」
僕:「うーん、わからない。」
母:「目の前の人よ。」
僕:「あ、そっか。」
母:「そう。目の前にいるたった一人を、幸せにしようと一生懸命、全力を出し切るところ。それは損得ではなく、商売でもなく、ただ一人を幸せにしたいという願い。それだけでしょ?」
僕:「うん。でもそれって、小さいころお母さんが僕に言ってくれた言葉だよ。当たり前のことじゃん。」
母:「当たり前じゃないよ。人は、一人を幸せにしたいと考えるなら、まずは自分を幸せにしたいものだからね。目の前にいるたった一人を幸せにすることは、ちゃんとしたバカにしかできないわ。」
あ、申し遅れました。わたくし、ちゃんとしたバカの、おりられオジさんです。
ニックネームはくまちゃん。そして、本名は「幸一」と言います。
名前の意味
僕はいつも幸せ一番。であるのと同時に、目の前の一人が幸せじゃないと罪悪感にすら苛まれてしまうという、我ながらちょっと厄介な性格です。
相手を一瞬でも嫌な気持ちにさせたくないのです。
なのに、なのに・・・!
僕はなにをやっても失敗して、人を悲しませる。ずっとこのジレンマに悩まされてきました。
どうやったら人を幸せな気持ちにできるのか、結局僕は50 歳をとうに過ぎても、まだ答えを見いだせず、真っ暗闇の中にいる。。。
そんな暗い気持ちで車椅子を押していると、自然と目線が下がってしまいます。そこに見えるのは、小さくなってしまった、愛する母の背中。
すると突然、僕が子どもだったある日の風景がフラッシュバックしました。
暑い夏の日でした。市営住宅の子供部屋。窓からは耳をつんざかんばかりの蝉の大合唱が鳴り響いています。目の前の大学ノートには大きく「幸一」と書いてあり、母はそれを僕に見せながら講義しているようです。
僕は6 歳。大好きなカルピスを飲んでいます。美味しそう。
27 歳の美しい母がそこにいました。
母:「幸一。あなたは昨日、とってもダメなことをしましたね。わかるかな?」
僕:「わかるー!(本当はわからない)」
母:「じゃあ何をしたのか、言ってみなさい。」
僕:(笑いながら)「えへへ、わからない〜。」
母:(しゃがんで僕と目線を合わせて)「ほら、お父さんがお仕事にいく前、大切なクシをカバンから取って、ゴミ箱にポイしたでしょ?」
僕:(きょとんとしながら)「うん。でもあのクシ、臭くて、腐ってたよ?」
母:(吹き出すのを我慢して)「お父さんね。会社でなくなっているのに気がついて、幸一のイタズラじゃないかって言ってたわよ。」
僕:(イタズラだとは思っていないけど、謝る)「ごめんちゃい。」
母:「謝ってくれてありがとう。幸一、あなたは、人の嫌がることや、大切にしているものを壊すことや、それを捨ててしまうことは、絶対にしてはいけないの。この字は、あなたの名前です。幸せに、いち。幸一。ここにぜんぶ、大事なことが書いてあります。覚えておきなさい。じゃあ一緒に書こうね。」
僕:(ノートに自分の名前を何度も書く練習)「カンタンカンタン!」
母:「幸一。あなたは誰も不幸にしてはいけません。この名前が泣きます。もし不幸にしてしまったら、ちゃんと謝って、二度と繰り返さないようにしないといけませんよ。」
僕:「わかった! じゃあボク、みーーーんなを幸せにする!」
母:「立派ね! でも、あなたは欲を張らずに、ただ一人。目の前のたった一人を、幸せな気持ちにさせてあげるのよ。それが、あなたのお名前。ね。」
こうやって僕は、自分の名前に恥ずかしくない生き方をしなさいと、何度も何度も言われました。
ことあるごとに、あなたのお名前は? と聞かれ、その度に、恥ずかしくなって自分を律することができたのです。
僕の情けない過去
さて、ここからは、いままで家族にしか伝えていなかった僕の経歴を伝えることになります。
真実の僕をありのままに伝えることで、嫌悪感を持つ方もいらっしゃるでしょう。
でも、これも母との約束のひとつです。すべてお伝えします。
僕は20 代となり、就職、そして結婚し、母と遠く離れて暮らし始めると、だんだんと傲慢になっていきました
自分がやることは全て正しくて、素敵なことが勝手に起きてくる。自分が考えたことをやれば、いいことがたくさん起きるんだ。だから周りも笑顔になる。
どうだ! すごいだろう! そんな自分がいたのです。
しかしその傲慢さに鉄槌がくだされる日がきます。
妻からある日突然、「離婚してください」と言われたのです。
安易な表現ですが、僕はただただ、愕然としました。
でも言われてみれば、全部僕が悪いのです。
理由はまず、僕の借金です。
それと、毎日の忙しさで家に帰らない夫(僕)からもたらされた精神的苦痛に、妻はもう我慢できないとのこと。
僕はなんとか挽回し、離婚を回避しようと努めましたが、時既に遅し。調停にもつれこんだ後、結局離婚することになってしまいました。
とうとうこれで離れ離れだという時、母は言いました。
母:「おにいちゃん。あなたがお嫁さんを幸せにできなかった理由をよく考えなさい。自分が足りなかったところはなんだったのか。お嫁さんは悪くないよ。あんなにいい子はいない。それなのに、あなたはあの子を傷つけて、心に鎖を巻いてしまったのよ。」
僕:「ごめん、お母さん。僕はいつも妻に苦労かけてばかりだから、借金して新しい事業を始めたんだよ。これで楽をさせてあげられると思ってた。
でも上手くいかなくて、頓挫して。家から少し遠い場所にあった教育関係のバイトを始めたら、それが面白すぎて。そうしたら家に帰らなくなった。泊まり込みで仕事してたんだ。
しかも、休みの日は一攫千金を夢見てギャンブルに走ってしまった。
そしたら、勝手に借金をして、家庭を振り返らない人、お給料も生活に入れてくれない人になってしまっていて、僕はいつの間にか彼女の心をズタズタに壊していたんだ。」
母:「幸一。あなたの名前を思い出しなさい。もう戻ってこないことは、どんなに悔やんでも仕方がない。だから、あの子にはしっかり謝って、もう会えなくなったとしても、あの子の幸せを祈り続けなさい。一生よ。」
はい、母さん。今でも僕は、彼女の幸せを心から祈っております。
消してはいけない悲しみ
皆様もご存知の通り、離婚は、勝ち負けではありません。
でも、自分の言い分を優位にさせ、どちらが悪いかをはっきりさせていく作業でもありました。
知らず知らず、相手が悪いんだ。こちらが正義だ、という間違った方向に持っていってしまったときもありました。
それも全部、自分の弱さでした。
お互いを許しあえるチャンスもあったのですが、家族すらも巻き込んで盛り上がってしまったお互いの感情のもつれは、もう誰にも収めることができなかったのです。
それもあって、僕は今も毎日、胸の中に錆びた楔を打ち込み続けています。
目の前の一人を幸せにすることなく、悲しませ、傷つけ、怒らせ、寂しい思いをさせ、幸せの反対に導いてしまったこと。
このことは、僕の中では消えない苦しみであり、消してはいけない悲しみだと思っています。
これは同時に、僕の名前に反することをすれば、報いがくるということを自ら実証した形とも言えます。
はい、これで皆さん、お分かりになったことと思います。
僕は、本当にバカなのです。
世間に出て、本も出版して、今もこんなふうに文章を書いて、人様の前でお話をした身でもある僕が、どんなにバカか。
耳に残るのは、命尽きかけた母が、最後の力を振り絞って僕にくれた「覚悟を決めなさい」という言葉。
僕は、そんな母の教えを実践し、僕の弱さや罪や、バカさ加減を全てここでさらけ出そうと思っています。
もちろん、恥ずかしいです。
しかし、それも自分です。その自分を育ててくれた母の心配や憂いも今ならわかる気がしますし、僕の成長を嬉しそうに見守ってくれていたことも、よくわかります。
不思議過ぎる、神様の存在
さらに、僕にはなぜか、おかしな神様がついています。
なにかを聞くと答えてくれる変な神。ううむ。神と呼んでいいものか、いまだに迷うのですが、望むと望まざるとに関係なく降りてくるので、正直怖いときもあります。
たまに、こっぴどく叱られることがありますし、一年に一回くらい、めちゃくちゃ褒められたりもします。
彼は、とてつもなく不思議なことを言います。母とは全く違う視点で、様々なご意見や知らなかった知識を僕に渡してくれます。
それは歴史の裏側であったり、人の心の奥深くであったり、地球の秘密だったり。それらを惜しげもなく語ってくれるのです。
それが本当なのかどうかは置いておいて、それは興味深く、楽しく、恐ろしく、そして感動的でもあります。
ただ、以前のブログを閉じてからは、僕は神様と疎遠になったときもあります。
そもそも普段から自分の悩みの解決などに手を貸してくれる神様ではありませんし、僕もそれを望んだことは一度もありません。
しかし母の遺言をきっかけに、僕は神様に対し、再び自ら語りかけるようになっています。
マガジン連載の件も、快く了承してくれました。
僕の名前に、母に、そして神様の応援に恥じないように、これからも精一杯、自分らしく地道に頑張っていこうと思います。
おわりに
今回も最後まで読んでくれて、ありがとうございました。
さて次回は、これもいままで誰にも語ってこなかった神様とのルールがありますので、それをお伝えしていこうと思います。
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