ロードムービー原作 「また会えたときに 2」 第4章 (高知の川エビ漁編)
今日はご一緒に、高知県へと参りましょう。
小さな体で頑張ってくれているダックス号は中古車だったこともあり、トラブルだらけでした。
中でもひどかったのは、マフラーの騒音。
僕の前のオーナーさんが付けたマフラーが純正ではなかったため、走っているうちにどんどん隙間ができていってしまったみたいで、音がすごくうるさくなってしまったのです。
夜に街なかを走っていると、酔っ払ったおじさんに、
「うるせえぞてめえ! 夜を馬鹿にすんじゃねぇ! 帰って寝ろ!」
と怒鳴られるくらい、耳障りな音を撒き散らしていたのです、ごめんなさい。
僕は夜を馬鹿にしているつもりなど、けっしてなかったのですが、たしかに、静かな眠りを妨げたり、団欒を邪魔する可能性があるものを撒き散らされるのは、夜にとっては困ったものです。
当時のダックス号の雄叫びを文字で表すと、エジプトの象形文字さながら、こんな感じです。
「バリバリバンバン! バンバババン! バリバリバリパーン。バンバババンン!」
八幡様:「あの音はひどかった。」
僕:「申し訳ありません。ですので、怒鳴られたその日から夜に走る事はやめました。
夕方、日が落ちる寸前まで全力で(といっても30キロ制限ですが)走り、野宿できるところを探し、せめて屋根があるところで寝たいなぁと思いながらも、結局は公園のベンチで寝たり、バス停で寝たり、夏祭り準備中の盆踊りヤグラの中で寝たり。
あるときは交番で寝かせてもらったこともあります。」
八幡様:「交番は助かりましたね。」
僕:「はい、とっても優しいおまわりさんでした。
高知では、どんどん暗くなっていくなか、休む場所が見つかりませんでした。
夜になってしまったので、騒音防止のためにエンジンを止め、川沿いを延々と、バイクを押して歩いたことを思い出します。」
八幡様:「よく御覧なさい。川の右手の階段に、人影ですよ。」
僕:「はい、背の高い男があがってきました。なにか、鉄砲のようなものを持っています!!」
また会えたときに 2 第4章
堤防の出会い
徳島県から高知県に入ったのは夕方過ぎだった。
有名な「はりまや橋」に一切気づかずに通り過ぎ、坂本龍馬の歴史もあっさり通り過ぎ、いただいたベルのお守りの威力効力を試すが如く、どんどんと走った青年。
バイクの騒音があるので、日が沈む一歩手前のギリギリまで走ろうと決めていたのだが、こりゃもうダメだとなった場所は「中村」という町だ。
ダックス号を買ってからの1日の走行距離は、おそらくこの日が最高記録。お尻が激しく痛むこと以外は元気と充実感でいっぱいだ。
高知県には、四万十川がある。
透明度の高い川で、夏には子供たちが川遊びをする姿も珍しくない。生息している生き物も多様で、もちろん魚もいるが、実はエビもいるのだ。
四万十の川エビは、ありがたいことに、人間が捕まえやすくなる夜に活動する。
懐中電灯で川を照らし、小さなヤスを使い、しとめるのだ。
名人級になると、一晩で50尾ものエビを水揚げする。今はしかし漁獲高は激減していて、なかなか獲れなくなったと噂で聞く。
その四万十川の土手を、バイクを押して歩いている青年。
ガス欠ではなさそうだ。歩きながら、今日の泊まる場所を探している。
経験上、河川敷の、できれば屋根のあるベンチがベスト。もしくは橋の下も良い。
以前、段ボールを敷いて橋の下で寝た時、朝起きたら顔の横にまあまあ大きめの蛇が寝ていたことがある。
起きぬけなので夢かと思い、蛇を撫でてみようとしたらシャーッとやられてちびったのは青年のスベらない話だ。
それ以来ついつい、またネタになるような場所を探してしまう。
堤防の下には家が建ち並んでいて、それぞれに明かりが灯りだしている。
その民家に続く階段から、ガシャ、ガシャと音がすると思ったら、背が高く、細身の男が登ってきた。
上下とも黒い服を着て、手には何か持っている。小さな箱と、もう一つ細長いものは、・・・鉄砲? まさか? 暗くてよくわからない。
こちらに気づいたその男は、バイクを押している青年に声をかけた。
よく見ると若い。高校生らしい。
高校生:「あ、お兄さん、そのバイク。どっか悪いんか? 故障か?」
意外と優しい声だ。青年は三日月の目で言う。
青年:「あ、いや。これなあ、エンジンかけるとマフラーの音がうるさくて、夜走ると迷惑やねん。」
高校生:「へえ。なんか、かっこえいに。」
それから青年は、その高校生と四万十川の堤防を2人で歩いた。
聞くと、高校生はひとりで川エビ漁をしているとのこと。たったひとりで川エビ漁師!? 青年は興味ジンジン、いつもの調子で質問をしまくった。
会話はどんどんと盛り上がり、高校生が「そんなに興味あるなら見てみるか?」 といい、青年は「うん!」と答えた。
というわけで、青年は高校生と一緒にエビを取ることになったのだ。
高校生の名前は、「光樹(こうき)」といった。
川エビ漁
しばらく歩いて、光樹だけが知るという絶好ポイントに到着。
青年:「よーし! とったるでえーっ!」
光樹:「静かに。あんまり気合いを入れん方が獲れる。」
そう言ってまずは手本を見せてくれる光樹。
ひとりスーッと川に入っていくと、30秒もしないうちにエビが一尾。
岸辺で見ていた青年は嬉しい声を出すのを我慢するかわりに、音を出さずに拍手し、全身を震わせて狂喜のダンス。
その姿を見て思わず吹き出し、はにかんだ光樹は、岸辺に戻ってくる。
そして小さな箱のようなものと、鉄砲の形をした小さいヤス(エビを刺す、モリのような道具)を青年に黙って差し出した。
これでどうぞ。と言わんばかりの顔だ。本当に? 僕がやるの? という青年の表情に対し、力強く、笑わず、当然じゃろ! の顔。
気圧された青年は、ズボンを膝まで捲って、川に入ってみた。
水は冷たい。でも心地良い。これが有名な四万十川か。と感慨深い。
小さい箱は、ガラスのついた箱型の水中メガネだった。懐中電灯で照らしてみると、夜の川石が色鮮やかに光り、なんとも幻想的だ。
青年はエビの姿を探すが、ぜんぜん見つからない。
ここにはたくさんいると光樹が言ってくれたので、エビが大渋滞していることを想像して入ったのだが、全く見えない。
ここにはいないのではないだろうか? そう不安になって近くに立つ光樹を見ると、川を指をさして、両手でパーをした。
つまり、10匹以上はいるよという合図だ。
青年はびっくりして、もう一度水中メガネを川につけ、懐中電灯をその下に向けた。真剣な眼差しだ。
青年:「・・・いたっ!」
色が苔の色と同じで分かりにくい。が、間違いなく、テナガエビだ。そっと後ろから狙いを定め、ヤスの引き金を引いた。が、外れた。
エビはあっという間に逃げる。しかしそう遠くには逃げない。動きは思ったより速くないのだ。
まだいける。青年が夢中になってを追いかけっこしていると、光樹が近付いてきて言った。
光樹:「今度は僕がやる。」
青年はまるで、楽しい海水浴でまだまだ遊びたいのに、親に「帰るぞー」と言われたときのような気分になった。
もうちょっとやっていたかった。それほど夢中になってしまう、なんとも中毒性がある漁だ。
そうして交代して5分もたたないうちに、光樹は10匹ゲット。なんてクールでヤングなプロフェッショナルだ。
青年:「すごいね。CYPだ。」
光樹:「え、なにが?」
青年:「あ、いや、いいの。これって、何年やってるの?」
光樹:「うう〜ん。15年位かな。」
青年:「げ。そんなに?」
高校生は当たり前のような顔をして言う。
光樹:「これは僕の仕事やき。」
青年は、途端に恥ずかしくなった。
大学生という身分を満喫し、まだちゃんと働いたこともなく、学校の休みを利用して、こうしてバイクでゆうゆうの旅に出て、出会った人たちと交流を深めつつ、泣いたり、笑ったり、歌ったりしながら、ふらりふらりと旅をしている自分と光樹を比べると、胸が痛んだ。
これはしっかり反省しなくてはならないなと思った矢先、
光樹:「お兄さんは、えらい。」
と褒められた。
驚いた青年は、素直に
青年:「なんで?」
と尋ねる。光樹は青年の顔は見ず、川を見渡しながら静かに喋り出した。
光樹:「バイクの音がうるさいき、夜を走らん。て、普通できん。
こがな僕みたいな田舎の高校生をエビ突きの先生みたいにしてくれるんも凄い。あと、顔にウソがないき。」
顔にウソがない。青年にとってこれは、初めて言われた言葉だった。
青年:「ありがとう。でも、光樹くんもすごいね。そのエビ漁はさっき仕事だって言ったよね。僕のほうが尊敬だよ。」
光樹:「エビ、食べる?」
青年:「いま?」
光樹:「そう。今日は余分に獲ったき、うちで。」
青年は、こんな夜にお邪魔してもいいのかどうかを心配するよりも、せっかくのお誘いであるのと、この川エビの味に大きな興味があった。
快諾して、お礼を言いながら来た道を戻った。
光樹の夢
光樹の家は、2人が出会った階段を降りたところにあった。平屋の県営住宅団地だ。青年も小さい頃、県営住宅に住んでいたからよくわかる。
まず光樹だけが家に入り、家族に青年のことを説明するという。
説明とはいったが、ものの1分もしないうちに、玄関のドアが開いた。
お邪魔します、と言って中に入ると、玄関からすぐそこに台所があり、食卓があり、テーブルに妹さんとお母さんが座っていた。
この間取りも青年が住んでいた県営住宅と同じで懐かしい。
お母さんはまだ若く、40代前半か。目が大きく、ショートカットが似合っている。妹さんは中学2年生。
なんだかどちらも、ちゃきちゃきオーラを放っている。あ、これが「はちきん」ってことなのかも?
挨拶もそこそこに、お母さんは手際よく、生きたままのエビをブクブクした水槽に入れ替える。
エビをこうして生かしておく理由は、翌日市場に持っていくためだと早口で説明してくれる。
よく見れば、水槽には数十匹のエビがひしめいている。
お母さん:「で、お兄さん、 今日はどれくらい食べれそうかね?」
出た。やっぱりはちきんだ。話しが早い、早すぎる。
青年は突然現れたにも関わらず、すでにこの家に川エビを食べに来たお客様になってしまっている。
青年は遠慮がちな態度を見せるが、放つセリフには遠慮がない。
青年:「あ、じゃあ、5匹で。」
お母さん:「はいよっ。お酒は?」
青年:「あ、バイクなんで。大丈夫です。ありがとうございます。」
料理の出来上がりを待っている間は、光樹の部屋で、古びた座椅子に正座して待つ。
光樹と妹の光華(みつか)の机も同じ部屋にあり、光華は宿題をはじめた。
妹も突然のお客様には慣れているのか、青年のことは意に介さず、勉強に集中しているようだ。それでいて、居心地が悪くはない。
この家には本当に良い空気が流れている。
そこで光樹と静かに10分ほど待っているとお母さんが大声で、
お母さん:「ほい、できたよー!」
ダッシュで向かう3人。
食卓に座ると、真っ赤になった川エビの素揚げが皿に乗ってやってきた。思ったより結構どっさり揚がっている。
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