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ミッション in くま渋る
僕と八幡様は仲がベッタリなんてことはありません。むしろ逆です。よくぶつかります。いわゆる口ゲンカもしょっちゅうしますし、だいたい僕が泣かされます。
そんな僕たちですが、実は二人で細々と続けているボランティア活動があります。どちらが言い出したのかは忘れましたが、僕たちはそれを「ミッション」と呼んでいます。
それがなかなかに大変な作業だったりするので気の小さい僕はよく渋ってしまったりもするのですが、みなさまにとっては興味深いポイントもあるかと思いますので、今回はその一例を初公開してみようと思います。
目覚めは強制
ある朝早く、僕はこんな「声」で叩き起こされました。
八幡様:「起きよ。」
僕:(ねぼけている)「やだ。」
八幡様:(低く響く声)「今すぐ、そこ(布団)から出でよ。」
僕:「だからやだ! まだ暗いでしょうが!」
八幡様:(音波発生)「きーーーーーーーん」
僕:「うっ。。。(耳鳴りから痛みに変わる音波に変化)」
八幡様:(ほぼ怒号)「仕事だ。今すぐ起きよ。」
僕:(超不機嫌に)「だからいつもキーンは反則だって言ってるでしょ! もうっ!!」
実を言うと僕は、右耳が12 年前からあまり聴こえていません。
それにプラスされて耳鳴りが出てきていて、八幡様はたまにその弱点をくすぐってくるのです。病院では突発性難聴と診断され、普段、僕は補聴器で人の声を聞いています。
八幡様は、その耳鳴りを激しくブーストさせて、意思表示をしてくるのです。どういう仕組みでそんなことができるのか、本当にやめてほしいと思うのですが、僕の耳は好き放題に鳴らすけど、聞く耳は持たない主義のようです。
事件はすぐそばに
ねぼけていた僕は飛び起きました。
そういえば、今朝提出すべき仕事があったのに、僕は昨夜、仕事途中で寝落ちしてしまったようです。もし八幡様に起こされなかったら、、、と思うとゾッとします。
急いで昨日の作業の続きをして、なんとかギリギリ納期に間に合いました。よかった。ってことで、よし、眠い。10 分だけ寝るか。と思ったところで、また八幡様におりられます。
八幡様:「次は何をすべきか。わかるな?」
僕:「えっと今日はナレーションのお仕事が夕方から4 時間ほどあるので、それまではフリーです。すこし寝よっかなあ〜。」
と言った途端。
八幡様:「もうひとつ仕事があるだろう。」
僕:「は?」
八幡様:「覚えているはず。昨日のことだ。」
僕:(すっとぼけて)「忘れまし キーー(電波の轟音!!)ったあっ。なにをでっすか!? ーーーン。いやあああああっ!」
八幡様:「昨日出会った母子との会話だ。」
僕:(ぜえぜえ)「・・・はい。それは覚えていますが。。」
八幡様:「今頃あの母子はどこにいるか。」
僕:「ああ、きっと西浦海岸(仮名)ですよ。だって昨日、僕が推し推しで紹介したじゃないですか。」
八幡様:「うむ。お前があそこで気づけなかったのは、二人の笑顔があまりにも爛漫であったからだ。あれでは彼女の質問の深さには辿り着けなかった。」
僕:「え? 何を、気づけなかったって? 質問の深さってなんのこと?」
死に場所を探す旅
八幡様:「悩んで悩んで、迷って迷って、この現世で生まれ変わるために必死にやったことが全てダメで、追い詰められて、自らを何度も傷つけて、この世界に絶望し、死に場所を探している時にお前に会えた。
お前は階段で、娘さんの足がもつれて転びそうになった時、しっかり腕を引いたお母さんを褒め、娘さんに声をかけた。
娘さんの髪留めが『ひまわり』だったことで、お前が言った言葉が、二人を痺れさせ、現世に引き戻したのだ。」
僕:「えっと僕、、、あのときなんて言いましたっけ。。」
八幡様:「すごい! お母さん! あーかわいいね〜! あ! ひまわりちゃんだ。転ばなくて良かったねえ! だ。」
僕:「うーわ。僕のモノマネもできちゃうんだ。気持ち悪い。。」
八幡様:「なにか言ったか? 向日葵。あの娘の名前だ。」
僕:「ええ〜? 偶然〜!!!」
八幡様:「その時母親が、娘の名前を知っている人がいる、と思ったかどうかはわからぬが、お前に笑顔でお礼を言い、転びそうになったサイン
(これからの人生がつまづきの連続になるかもしれないイメージ)
をお前の言葉で救われ、自分たちがこの世に生きてきた喜びに少し立ち返り、会話に発展したのだ。」
僕:「そ、そうだったのですね。」
八幡様:「では西浦海岸へ急げ。間に合うかもしれぬ。」
僕:「わかりました。」
ということで、ミッション開始です。
僕は急いで支度をし、昨日の母娘との会話を思い出しながら、なぜ八幡様が今日起きる悲劇を予見できたのか、車を走らせながら考えました。
ちなみに予言ではなく、「予見」です。八幡様による、人間を観察したうえでの深い洞察による見立てです。この予見の凄さには今まで数え切れないほど驚かされています。
僕が見た様子
僕も負けじと思い出した昨日のシーンはこんな感じです。
お母さんの痩せ方があまりにも辛そうで、足取りも重く、着ている服もスエットで、サンダル。娘さんの可愛いピンクの服との乖離が激しかった。
僕が母子と出会った場所は、海へと続く階段で、そこは犬の散歩ができる道。寂しそうな場所に見えるが、実は人通りが多い。
お母さんとの会話の内容。観光客がいない絶景はないか。写真を撮れる場所はないか。この子の可愛い写真を撮りたいが、このあたりは岩場ばかりでいまいちとのこと。
僕はそれならと花畑がある場所を紹介したが、あまり興味はなさそうだった。しかも、ちゃんとしたカメラは持っていそうになかった。
痩せていて顔色が悪く、あまりご飯を食べてなさそうだったので、美味しいご飯を食べられるお店をお伝えしたが、興味を示さず。
西浦海岸を伝えた時、僕の方を向かず、違うところを見ながら、何か小さな声で言った気がした。僕は気に留めず、聞き返さなかった。
お母さんの瞼がずっとぴくぴく動いていた。
僕は、笑顔の二人を見て、まさか死に場所を探しているなどとは全く思わなかった。
駐車場に置いてあった軽自動車の後部座席が相当汚れていて、お菓子の袋とペットボトルで溢れていた。その母子の車であることは間違いない。去っていくところは見ていないが、お母さんの着ている服と同じだった。好きな色で占められていたので、好みの色なのだろう。
八幡様は、きっとこれだけではない何かを見て洞察し、悲劇を予見したのでしょう。彼女たちが向かった先に僕を向かわせて、なんとか思いとどまらせようとしているようです。
僕は急速に焦り、緊張してきました。
まだ午前10 時前。二人とも生きていてくれ。生きていてください! 心の中は海岸に近づくにつれ、そう叫びたい衝動で溢れてきます。
二人がどれだけ辛い思いをして生きてきて、何から逃げているのかわかりません。でもあのお母さんはこんな辺境の地へ車で旅をしてまで、自分たちの命を終わらせなくてはならない理由があると思っているのでしょう。彼女たちがどれだけ理不尽な思いをしてきたか、僕には想像もできません。
ふと我が身を振り返ると、もし自分がどんなに辛い思いをしていても、僕の周りにはそれを励まし、支え、動いてくれる仲間がいます。どんなに孤独な思いをしても「わかるわかる」と言ってくれる人がいるのです。
どんなに悲しい気持ちになっても一緒に泣いてくれる人がいるということ。僕はどれだけ恵まれているか。当たり前に過ごしてきましたが、僕はそれに気づくことなく人生を過ごすところでした。情けない。
発見!
八幡様の声が大きく響きました。
八幡様:「あそこだ。親子の車がある。」
僕:「あ! 生きてた!」
八幡様:「話しかけてみなさい。」
僕:「はい! でもいきなりの声掛けは怪しまれるな。どうやって、何を話せばいいんだろう。。。」
お母さんは後ろから近づいてきた僕の車に気づいたみたいで、慌ててエンジンをかけたようです。この場を去ろうとしているのか。いかん。このままでは追いかけっこになってしまうかもしれない。
咄嗟に、僕は車から降りました。そして、そのまま地面に思いっきり倒れ込みました。
僕:(お腹を抱えて)「いたたたたた、あー、いったあー!!!」
母:(運転席からじっと見ているのがわかる)「・・・。」
僕:(さらに大きな声で)「くっはあー!いったああああいい!!!!」
母:(車から飛び降りて駆け寄ってくる)「大丈夫ですか??」
僕:「すみません。急にそこで(車道を指差す)お腹が痛くなっちゃって!」
向日葵:(助手席から降りてきて、僕に近づく)
僕:「あ、ひまわりちゃん。おはよう。ごめんねびっくりさせて。あーいたたたた。」
母:(昨日階段で会話をした人だと気づく)「あ、昨日の!」
僕:(迫真の演技で)「あ、はい、昨日の! うわあ、きぐーだわあ!!!」
向日葵:(黙って僕の横に座り、お腹に小さな手をあてて、ゆっくりさすり始める)
僕:(あまりにも自然な動作に痛みの演技を忘れ、お母さんとしばし顔を見合わせる)「あったかい手〜。。。」
向日葵:(聞こえていないみたいに、懸命にさすり、しばらくさすった後、僕の顔を見てお腹をポンポンと叩く)
母:「治ったでしょ? って。」
僕:(ちょっと不思議な顔で)「あ。ほんとだ。治りました」
母:「この子の優しいエネルギーで、私も何度も救われたんです。」
僕:「すごいエネルギーですね。助かりました。。」
向日葵:(少し誇らしげに笑っている)
僕:「あ、治ったら僕、お腹空いてきたなあ!!!」
母:「ええっ!?(笑)」
僕:「すっごくお腹がグーです! どうでしょう。近くに美味しいカレー屋さんがあるんです。もうすぐオープンする時間ですから、一緒に食べませんか? お腹を治していただいたお礼をさせてください!」
母:「いえいえ、それは大丈夫です。」
僕:「ひまわりちゃんに食べてもらいたいんです。とっても美味しいカレー、食べる?」
心の翻訳トーク
向日葵ちゃんは、大きく頷いてニコニコ笑いました。お母さんは、ちょっと慌てて、手話で向日葵ちゃんに『カレーだよ? 食べるの?』と尋ねました。すると、向日葵ちゃんはもう一度頷いて、カレーを食べるジェスチャー。それも手話。
そうか。この子は耳が聞こえなかったんだ。それでもカレーの雰囲気が僕から伝わったのでしょう。僕の言葉に即答してくれました。
母:「カレー屋さんって、ここから遠いんですか?」
僕:「いえぜんぜん近いですよ〜! 僕が送っていって、またここに戻りましょう。どうぞ乗ってください。ひまわりちゃん、あの車に乗って〜!」
向日葵:(大きく頷いて、僕の車の助手席に自分で乗る)
母:「え?」
僕:「え?」
母:「聞こえたの?」
僕:「聞こえてるみたいですね。」
母:「ええ〜!?」
車に乗り込んだ二人は、手話で会話をしています。やはりどうも耳は聞こえてはいないみたいです。が、僕が言ったことは不思議とわかるとのこと。
僕は運転席で、助手席のひまわりちゃんに向かって静かに話しかけてみました。
僕:「お母さんの悲しみはわかる?」
向日葵:(頷く)
僕:「どうして二人で旅をしてるかもわかってる?」
向日葵:(二回頷く)
僕:「カレーは好き?」
向日葵:(満面の笑顔で三回頷く)
なるほど。八幡様が、向日葵ちゃんの意識に入り、僕の意思をチャネリングさせているのでしょうか。こういう緊急事態の場合はこんな技も繰り出せるのかと、僕は感心しきりです。
お母さんは後部座席で静かにしていました。と思ったら、ハンカチで涙を拭っているようでした。
僕オススメのカフェのカレーはシーフード。具沢山でサラダも付いて、とってもヘルシー。3 人とも笑顔で一気に平らげました。
食後のデザートを頂きながら、お母さんも少し落ち着いた様子。そこで僕は少しだけ、彼女たちの役に立つかも知れない情報を提供することができました。
僕の知っていたクローズドの施設で、働きながら向日葵ちゃんの教育を継続できるかどうかを電話で確認し、紹介したのです。少し離れた場所だけど、農業を中心に住み込みで働きながら、パンを焼けるお店です。
他にも、古いお寺に住み込んで、掃除や給仕が可能なところなども伝えてみました。
さらに、DVから逃げる方法と、法律的なことも少々、お伝えをしました。
ミッションコンプリート?
キラキラ輝く海を横目に、僕が迫真の腹痛演技をした駐車場に戻り、親子の車中を一緒にお片付け。
お母さんも向日葵ちゃんもスッキリした表情。ここでお別れして大丈夫そうです。
「ありがとうオジさん!」
向日葵ちゃんの声が頭に響いてきました。お母さんの車の中から小さな手を大きく振ってくれています。
僕:「お母さんを助けてあげてね!」
向日葵:「うん! わかった! バイバーイ!」
こうしてお母さんと向日葵ちゃんは僕が紹介した施設へと向かい、笑顔で去っていきました。
ほんのさっきまで暗い道を彷徨っていた母子ですが、八幡様の機転で、こうして小さな小さな希望の種を渡すことができました。
一期一会。二人とはもう二度と会うことはないかもしれませんが、向日葵ちゃんの魂には、きっと八幡様のスピリッツが入ったはずです。
であれば、どんな苦難が待ち受けようと、それを真正面で受け取りつつ、それを許しつつ、そこから芽吹いていくはず!
がんばれ、お母さん、ひまわりちゃん!!
自宅に向かっていると、張り詰めていた緊張が次第に解け、普段の僕に戻っていきます。さすがにぐったりとした疲れを感じました。
すると八幡様が言います。
八幡様:「南へ向かえ。」
僕:「げ! 今から?」
八幡様:「早く行け。」
僕:「やだ。今日はもういい。」
八幡様:「ナレーションの仕事はしないのか?」
僕:「あ。そうか。仕事だった! 行きます。」
こうしてこの日のスクランブルミッションは終了となりました。
神様の選択と、人間の選択
ミッションのたびに驚くのは、八幡様の「予見力」の凄まじさ。
そのためにはまず出会った人々の行く末が不幸せにならないように深く観察すること。それが予見に繋がっていくのですね。
しかし、いくら予見をしても、自分で手を出すことはありません。そして、ほとんど答えも出しません。口数は本当に最低限です。
ですから、僕の動き次第、言葉次第では、僕が間違う可能性も十分ありますし、相手の選択が間違う可能性もあります。
正直、時には「神様なのに、助けないの!?」と思ってしまうこともあります。
しかしこれが、八幡様の、人間が自らが選択できるように、自分で考えられるように導こうとする姿勢のようです。
あるときのミッションでは相手と僕の命が危ぶまれる場合もありましたが、基本的に僕任せ。そして相手任せ。いくら人間自らの選択を重視すると言っても、僕としてはこれって非情で、無責任に感じてしまいます。
しかし、それが本当の愛なのかも、と思うところもありはします。
人間はいつも未来のことを知りたがるし、中には自分の将来を案じて、大事な人を顧みることを忘れ、思いやりを捨てて、思い込みに走ってしまう人もいます。
それでも、八幡様は人間という生き物はとてつもなく「可愛い」と言うのです。
そして可愛いからこそ、尊重する。邪魔をしない。ただ、寄り添う。
これが僕から見た、八幡様の選択です。
おわりに
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
今日は八幡様との日常ミッションを書いてみました。
まあこういうことを書くと、くまちゃんってなんて立派なヒト! とか思われてしまうのかもしれません。
でも、、、違うんです。ってことを次回ちゃんと書きなさいって八幡様にプレッシャーをかけられているので、全力で渋ってはみようと思いますが、やっぱり伝えなくてはいけないのでしょうね。。
それも僕のミッションのひとつ! と思ってがんばります。
ではまた次回(水曜日に出します!)、お愛しましょう〜♡
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