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ロードムービー原作「また会えたときに 2」 第3章(徳島の霊水編)

本日、第3章は香川から徳島に移動していきます!

本編にいく前に、まずは2章まで書いていて気になることがあったので、八幡様に聞いてみます。

僕:「八幡様、お尋ねします。こうやって僕が日本中を旅している間、八幡様はずっとそばにいらっしゃったのですか?」

八幡様:「もちろんです。私も一緒に、旅を楽しませていただいておりました。」

僕:「ああ、やっぱり。旅をしていた頃って、不思議な存在の話が、僕からじゃなく、周りの人から聞くことがやたら多くて。

そうだよなあ。不思議なことって、実際にいっぱいあるよなあと。

だから、僕っていつも守られてるよなあ、ありがたいなあ、と思いながら旅を続けていたのです。」

八幡様:「そんな不思議なことが起きる理由はなんだと思いますか?」

僕:「それはもう、答えは明らかでしょう!」

八幡様:「・・・そうやって、目を細めてじーっと私を見るのはやめなさい。不思議なことが起こる理由は、私ではありません。

アニキの旅の計画が決まっていないから。です。」

僕:「えっ! そこですか?」

八幡様:「目標を完璧に決めて動くと、人の心は想像力と知識量であらかじめ固められ、やがて旅自体が『想定内の出来事』になっていきます。

そうなると、安心感は増えますが、驚きは減っていきます。

しかしアニキの場合は恐ろしいことに、寝るところも、行く場所も、食べるものも決めずに出発してしまいます。

ですから当然、事前にはなにも想像もできないし、何が起きるかも全くわかりません。」

僕:「はい。僕の旅は、下調べもしません。なので、情報はいつもゼロ。安心感はありませんが、期待感の方が大きくてワクワクしちゃうんです。

ただ、何が起きたとしても、そこで解決する、ということだけがマイルールでした。」

八幡様:「第1 章で話した魂の相続が、良い方向に進んでいるということですね。」

僕:「そうなんですかね? でもおかげさまで、なぜだかわからないのですが、僕は旅がしたいんです。

前に進んでいくと、新しい文化と、新しいご縁に出会えます。

それらの出会いに新鮮な気持ちで相対することで、新しい考え方や、人の素晴らしさに、尊敬の念が生まれます。」

八幡様:「いいことばかりではないハプニングも起きるのが旅です。それでも良いのですね?」

僕:「あ、それ、旅しているときに思ったんです。ハプニングはダイ歓迎ですし、旅のダイ醐味だなあって。」

八幡様:「なるほど。では、それをダイ好きになれば?」

僕:「うわあ、そうなったら間違いなく、楽しい流れになるはずです。

例えば、急な雨に打たれて、雨宿りしつつお蕎麦を食べていると、地元の人との会話から、次に行きたいなと思う場所が生まれたりします。

そして、行きたいな。と思ったら、僕はどんなに遠回りをしてもそこへ行きます。なぜなら、地元の人に勧められたら、それが最高に決まってますから。

ですので僕は、1 度も選択を迷った事はありません。

しかしそこでは結局必ず、まるでそうなることが決まっていたかのような、不思議な出来事が起きるのです。」

八幡様:「つまりハプニングこそが、人生においてダイ事なんですね。」

僕:「くわあっ・・・!」

八幡様:「さて、その不思議を、アニキは楽しめましたか?」

僕:「はい。楽しめた・・・のもありますが、全てが勉強になりました。徳島県の旅も、そんな思い出がいっぱいです。」

八幡様:「では早速、徳島の旅も『おりられらー』の皆さんにシェアいたしましょう。」

僕:「はい! 喜んで!」


「また会えたときに 2」 第3章

霊水のありか

徳島の自然は深く、清く、美しい。

古代の様式を残しながら、現代にも受け継いでいく力強さも兼ね備えている。

どこを走っても、緑の渦に巻き込まれ、まるで幽玄の世界へと誘われているような感覚に陥る。

カーブのゆるさからも、その土地の人間の優しさを感じる道が続いていく。

河の水の美しさに魅せられて、何度もバイクを止めて、岸まで下りていき、清廉な水の感触に癒され、顔を洗った。

しかし青年は、少しだけ焦っていた。もう燃料がほとんどないのだ。

ガソリンスタンドに出会うことを願いながら、山道を慎重に走っていく。ダックス号は一回の給油で100 キロほどしか走れないので、こまめに入れていかないと、途中で押し歩きに変わってしまう。

給油の失敗を何回も経験しているはずなのに、青年にはこまめに入れる癖がないため、その度にエンストして、バイクを押して歩く羽目になる。

しかし、青年はそれも良しとしているので世話はない。ただ、この上り坂で押し歩きをするとなると、なかなかに辛そうだ・・・。

青年の焦りは、赤い顔が描いてある看板を目にした時、安堵に変わった。

幸運なことに、ガソリンスタンドが見つかったのだ。ついでに自分も水分補給をすることにした。三日月の目でスタンドに滑り込む青年。

青年:「ああ暑い暑い! こんにちは〜!」

スタンドの店内で新聞を読んでいた店員が、青年に気付いて走ってくる。

「あーい、いらっしゃーい。暑いねえ。」

青年は驚いた。走ってきた店員は結構なお婆さんだっだのだ。70 歳はゆうに越えていそうだが、なんて若々しい体の動きだ。

青年:「おばさん。ここに自動販売機はありますか?」

お婆さん:「うん、ないよ。」

青年:(ずっこけて)「ないんかーい!じゃ、水道水でもいいから飲めますか〜?」

お婆さん:「お兄ちゃん、喉、かわいとんか?」

そう言うと、青年をじっと見る。青年は三日月の目をして微笑んだ。

お婆さん:「ちょっと待っとき。」

お婆さんはスタンドの店内に駆け戻り、またすぐに水色の水筒を抱えて戻ってきた。

そして青年に、自分の水筒かコップはないかと聞く。水筒はないが、金属製のコップは持っているのですぐに差し出す。

お婆さん:「ほい。これをお飲みやー。」

青年のコップになみなみと注がれたお水。

青年:「やったー!」

ゴクゴクゴク。なんて美味しいんだ! 一気に飲み干して叫ぶ。

青年:「うまい! 冷たい! 柔らかい!」

お婆さんは、あははー! と大きな口を開けて笑う。

そこで青年は気が付く。このお婆さんは肌がすごくつやつやだ。うちのお婆ちゃんとは全然違う。

青年:「お肌が! 綺麗ですね〜!」

お婆さんは「まあた、なにゆうとんじゃ〜」と大笑いしながら青年の背中を叩く。そして再度コップにお水を注いでくれた。青年はまた一気に飲み干す。

青年:「おばちゃん! この水、めっちゃ美味しいやん! 水道水ちゃうね。なんなん、これ?」

お婆さん:「こーぼーさんのお水やけんね。そらあ美味いし、若返るっちゅうもんや。あははー。」

青年:「へえ〜! その山はどこにあるんですか?」

青年は聞き間違うことも得意技のひとつだ。

「こーぼー山」という山があるのかと思ったようだが、もちろんそんな山はない。

お婆さんが言ったのは、「弘法さん」。

四国霊場の「平等寺」にある霊水で、弘法大師が祈願した時、井戸を掘ると乳白色の水が湧き出したという、伝説の水だ。その事から「白水の井戸」と呼ばれ、万病に効く水だと古くから愛されている。

この四国は、空海の足跡を水脈とともに表すことができるのだ。

青年は給油が終わるまでに、その霊場に向かうことを決めていた。

お婆さんからは一言も「行っといで」とか「そこは素晴らしい」とも言われてはいなかったが、青年は、2 杯飲んだだけで、その水の美味しさに強力に惹かれていたのだ。

お婆さんが大切にしている信仰心をこの目で見てみたいと思った。さらに、お肌の若々しさの秘密も、そのお水に隠されているのかもしれない。

よし、行くぞ、こーぼー山!

弘法さん

30 分も走ると、「弘法の霊水」と書かれた看板が出てきた。到着だ。

あ、その弘法なのね、と思いながら駐車場にダックス号を停めて、ワクワクしながら参道に出る。

そこで驚いたのは、お遍路さんの集団が行列をなしていたこと。ここは「札所」なのだと気がつく。

これがお遍路さんか。みんな、表情が柔らかくて、のんびりしている。

青年は赤いTシャツにジーンズで、ヘルメットを片手にぶら下げて歩いているから、白い集団からは浮き上がって見える。

水筒も持っていないので、周囲からは、ふらりと水を飲みに立ち寄っただけの若者に映ったはずだ。

このお寺に入るには、まず、駐車場から少し階段を登ったところにある仁王門を潜らなくてはならない。

赤い2 体の仁王像に出迎えられた青年。仁王様は何か物言いたげなお顔をしていることに気づく。青年はそれを見て思う。

「このお仁王様が真っ赤な顔をして怒り、夜な夜な悪者たちを退治しに動き出したら面白いなあ。しかも、この大きさで歩き回るから、かなりの迫力になる。

そうだ。いずれ僕も大きな人形を作って、物語を作って、動かしてみたら面白いかもしれない。

性格も、怖い顔はしているんだけど、心は優しくて、赤ちゃんを見るとすぐに抱っこしたくなる。

でも、人は恐れ慄き、敵とみなす人も出てきて、葛藤する。」

青年は大学で児童文学研究会に所属しているため、想像力はたくましい。しかも人形劇をやっているため、全て「お芝居」になるかどうかに繋げて考える癖がある。

そうしてニコニコしながら仁王門をくぐると、左手に大師堂、正面に本堂へ上る石段がある。そして、石段の左脇に、あった。

弘法の霊水。これだ。

霊水は祠の下、板戸でしっかりと守られていた。さっそく行列に並んで、皆様の信心深さに感動しながら列が進むのを待つ。

しばらくすると、青年の後ろにも続々と人が並びはじめた。霊水に近づくにつれてよく見ると、みんなは水をその場で飲むだけではなく、しっかり水筒に入れて帰っていく。

青年は、水筒も持っていないし、お遍路さんのように確固たる目的があるわけでもない。むしろ時間と体力だけは人一倍ある。

なので、皆さんの邪魔をすることなく、行列がなくなるまでは日陰で待とうと決め、またニコニコしながら、列から一旦出た。

それを遠くから、竹ぼうきを持って見ていた一人のお爺さんがいる。

薄い紺色の作務衣を着て、頭には白い手ぬぐいを巻いている。この霊場の管理をされている方のようだ。

青年が遠慮がちに行列を離れた姿を見かねて、このお爺さんは柄杓にお水をたくさん汲んで、わざわざ持ってきてくれた。

お爺さん:「ほい。あんさん、これを飲みにきたんやろ?」

青年:「ああ、はい! 飲みに来ました! ありがとうございます!」

そう言って柄杓をうやうやしく頂いて、そのままダイレクトに霊水を飲み干した青年。そしてまた唸るように、しかしよく通る声で叫ぶ。

青年:「うまい! 冷たい! 柔らかい!」

その拍子に、お遍路さんの集団は青年のほうを見る。お爺さんはそれを見て、ひとり天を仰いでカッカと笑った。

お爺さん:「あんさん、どっから来たんや?」

青年:「大阪です!」

お爺さん:「それはわざわざ、大阪から。みんなの心に化学反応を起こしにきてくれて、おお〜きにやで。」

青年:「は? えっと、何が起こっているってことでしょうか?」

お爺さんは微笑みながら、ちょっとすわろか、と言って青年を促し、2 人で日陰の石段に座った。

頭の手ぬぐいを取る。70 歳くらいか。髪の毛はないが、ガソリンスタンドのお婆さんと同じく、肌がつやつやしている。

お爺さんは手ぬぐいで顔を拭いてから、こう言った。

お爺さん:「しかしまあ、うまい! 冷たい! 柔らかい! か。

うまいこと言うたもんやな。あんさん、ビジネスマンになったらキャッチコピーで成功するで。」

青年:「あはは、全然ひねってないですが、、、ありがとうございます。」

お爺さん:「いやいや、その3 拍子を聞いたお客さんたち、見てみい。30人はおろうな。このお客さんたちがあんさんの言葉を聞いて、もう化学反応がはじまっとる。」

青年:「ええっと? 僕の言葉で、ですか?」

お爺さん:「あんさん、生まれは?」

青年:「あ、福井県です。」

お爺さん:「ほう、越前のお國か。ならご両親とは子どもの頃、一緒にカニ、食べたか?」

青年:「はい。あ、いえ! カニは高いので食べていませんが、食事は一緒でした。」

お爺さん:「ならそんとき、あんさんはよう言うてたはずや。美味しい!って。」

青年:「あはっ! なんでわかるんですか?」

お爺さん:「そんで、あんさんのおとさんも、おかさんも、美味しいって言えば笑顔になったやろ?」

青年:「はい。でも、それは母が教えてくれたことで。美味しいときには美味しいって言うと、もっと美味しくなるよ。って。」

お爺さん:「ほう! あんたのおかさんは、化学反応をようわかってる人やな。」

青年:「えっと、その化学反応っていうのがよく・・・。」

化学反応

お爺さん:「あんさんはなんで毎日、この霊水にこーんなぎょうさんの人が集まってくるか。わかるか?」

青年はこの作務衣のお爺さんとの謎だらけの問答に、困惑・・・などしていない。むしろ燃えるような好奇心を感じ、三日月の目がお仁王様のそれのごとく輝いている。

青年:「そりゃあ、御利益があるからですよね?」

お爺さん:「そのとおり。なら、まず、その御利益は、誰が作った?」

青年:「弘法大師様です!」

お爺さん:「そやな。んなら、その御利益を高めたのは?」

青年:「高めた? あ、わかった。おじさんですね? こういうサービス精神で。」

そういって青年は、自分が手にしている柄杓を少し持ち上げる。

お爺さん:「ちゃうがな! あんさんや!」

青年はポカーンとする。このお爺さんはいったい何を言っているんだろう?

お爺さん:「正確には、あんさんのような人たちや。さっき、あんさんは、うまい! 冷たい! 柔らかい!と叫んだ。それをたくさんのお遍路さんが聞いた。そうすると?

あんさんのおかさんは、なんて言うた?」

青年:「あ、美味しいって言うと、ますます美味しいって。」

お爺さん:「そうや。聞いた人がますます、うまい!冷たい!柔らかい!って思うわけや。その不可思議な人間の心の高まりを化学反応と言わずしてなんという。」

青年:「な、なるほど・・・。」

お爺さん:「そうして、今日も霊水の御利益がますます高まっていくんや。つまり、昔からいる、あんさんのような素直な声をあげる人さんたちが、この霊水の御利益を高め、連綿と今に至るまで続けさせてきてくれたんや。

つまりこれが!」

青年:「これが?」

お爺さん:「言霊の力や。」

青年:「コトダマノチカラ?」

お爺さん:「水はな、人間の言葉で、分子構造を自在に変えるんや。人間の体の7 割は水でできとるという。やから、言霊が大事なんや。

あんさんは、それを上手に使えとるけん、素晴らしい。ええか。その才能を腐らせたら、あかんで。」

青年:「はい。気を付けます。ありがとうございます。」

お爺さん:「お礼を言うのはこちらのほうや。ほんまに、おおきに。」

座ったまま、同時に深々と頭を下げる2 人。

ちょうどそのとき、霊水を飲んだ集団が、2 人の横を通り過ぎていく。

「ほんとだあ。すっごく柔らかいね。」

「冷たくて美味しい! 私好きだな、これ。」

「おかわりしよう。全部飲んじゃった。」

お爺さんは青年に目配せすると、大きな声でカッカと笑った。青年もそれを真似しておおいに笑う。

するとお爺さんは突然立ち上がり、そや! ちょっと待っててや。と言って向かいの宿坊に入っていく。

しばらくして戻ってきたお爺さんが手にしていたのは、プラスチックの小さい2 個の水筒だ。一昔前、新幹線で飲んだポリ茶瓶のような、コップ付きの水筒。それを青年に手渡した。

お爺さん:「これ、お連れさんの分もあるけん、持っていきなさい。」

青年:「あ、いえ、僕は一人旅をしているので。」

お爺さん:「大丈夫や。これ持っとると、福を呼ぶけん。」

青年はありがたく頂戴することにした。

そのままお爺さんは仁王門まで青年を送ってくれて、「無事でいきや!」と、最後は手ぬぐいを振って見送ってくれた。

福井、そして海へ

寺を後にした青年は、なんだかものすごく、海が見たくなった。

お爺さんとの会話を反芻しながら山の中をひた走り、美しい川を横目に見ながら、進む。

すれ違う車もなく、ダックス号はのびのびと進んでいく。

お爺さんとの会話をきっかけに、福井の実家をしみじみと思い出す青年。そこで見つけたのはまさかの「福井」という地名。

青年は、福井だらけの土佐東街道を半ば呆然と走りつつ、激しい郷愁に誘われる。

こうやって、悠々とバイクの旅ができるのも、父と母に大阪の大学に送り出してもらえたからだ。

今思うと、子ども時代の家族での食事はどんなに幸せだったかが、よくわかる。

青年は思わず、故郷の方角を向いて、両親の健康を願って手を合わせた。

川沿いの道をさらに走り、山を越える。するといきなり、目の前に濃紺の海が広がった。見えるのは日本海ではなく、太平洋だ。

青年:「うわああああ・・・。」

ヘルメットの中で、思わず声が出る。

徳島の海は、青年の故郷のそれとは違う青さがある。

また、陸地においてはどの水も綺麗で、どこを見ても景観が美しい。近くにはいくつも島があり、後ろの山は切り立って雄々しい。柔らかさと厳しさが心を揺さぶっていく。

青年は、ため息が出た。

太陽の光と、木陰のコントラスト。蝉の声の合唱と、波の音。何も足さなくても、ここにいるだけで、心が満ち足りていく。

そんな道の途中、大きな駐車場に人だかりができていた。バイクを止めて見てみると、みんなが囲んでいる車の上にはカヌーが積んであり、なかなかに騒がしい。

誰か有名な人が来てるんだな。

青年は、あまり有名人には興味がない。そこは素通りし、さらなる地球からのプレゼントを享受するため、夢中で走った。

どれくらい走っただろうか。

ガソリンが心細くなってきたため、開けた街のスタンドに入る青年。

若い女性のいらっしゃいませー! の元気な声に、一瞬で疲れが吹き飛ぶ。バイクの長距離運転は、お尻が痛くなるのだ。

スタッフのお姉さんは長い栗色の髪を後ろで束ねて、キャップのバンドの間から揺らしている。挨拶する笑顔を受けて、青年も自然と笑顔になる。

スタンドのお姉さん:「へえ〜っ。なんか珍しいバイクやねえ!」

青年:「珍しいんですか?」

お姉さん:「見たことないなあ〜。あ、ダックスっていうんや、これ。」

バイクに付いているDAXというプレートを読んでくれたようだ。

お姉さん:「あ〜、犬のダックスに似てる形やからか〜。可愛い!」

青年ははじめて分かった。

なるほど。そうだったのか。胴長のダックスフンドから来ていた名前とは、全く想像していなかった。

面白いもので、その意味を知るだけで、ダックス号は生命の瑞々しさを増し、愛着もますます高まっていく。

青年:「そういうことか。だーからキミは最初っから可愛かったのか、 ダックスちゃんっ!」

青年は、人目もはばからずダックス号を強く抱きしめた。

お姉さんはガソリンを入れつつ、その姿を見て大笑いする。

そしてナンバーもちらりと見ていたようで、にこやかに言った。

お姉さん:「大阪からなんねえ? 遠かったやろう。ここは何にもなくてごめんねえ。」

青年:「いえいえ、たくさんありすぎて困ってるところですよ。」

お姉さん:「住んでるもんにとっては、当たり前やからかな。旅の人がここにくる理由がわからん。」

青年:「きっとここは、高める場所だからですよ。」

お姉さん:「高める? なにを?」

青年:「えっと。なにをでしょう?」

お姉さん:「わからんのかーーーい!」

青年:「あはは。きっと、高めるのは、心だと思います。」

お姉さん:「心が? 高まるの?」

青年:「はい、僕はもう、高まりましたよ。お姉さんのおかげで。」

お姉さん:「ん? なんで?」

青年:「お姉さんの元気な声。ダックスという名前。褒めてくれる言葉。それで僕の心が化学変化して、ぐっと高まりました。ありがとうございます!」

お姉さん:「あ、はあ。。。なんやようわからんけど、まあ、よかった!」

そう言ってまた大笑いする。

ガソリンも満タンになり、青年もヘルメットをかぶり直し、いざ出発。

と思ったら、お姉さんが慌てた様子でちょっと待っとって! と青年を止めた。

事務所に駆けていったお姉さんは、すぐに戻ってきた。なにかを手に持っているようだ。

お守り

お姉さん:「お兄さん、うち、思い出したんやけど、これねえ。今朝、ここにきたお客さんが、次にここに来たバイクに乗ってる人に渡してくださいって言うて。

なんかのお守りみたいなんよ。」

それは、鈴のお守りだった。

鈴と言っても丸い形ではなく、教会のベルのような形状で、綺麗な高い音の出るものだった。青年は、初めて見るものだったので興味が湧き、こう尋ねた。

青年:「これ、なんでここに預けていったんですか? どんな方でしたか?」

お姉さん:「それがなあ、面白い人で。

お兄さんみたいなタイプのどこかおっとりしてるような、あ、ごめんね。悪い意味じゃないからね。でもどこか厳しい感じもして、なんかすごい真面目な顔で、私は交通安全行脚してますから、って。」

青年:「そうなんですね。交通安全行脚。。。もしかして、その人のご家族が、事故で亡くなられたんでしょうか。」

お姉さん:「え? なんで?」

青年:「大切な人が亡くなったことで、できることって、同じように苦しむ人を減らすことだと思うんです。

だからその人も、こういうお守りをいろんなところで渡していったら、交通安全に絶対に気をつけるだろうと思ってやってるんじゃないかなって。

・・・いや、なんとなくそんな気がしただけです!」

お姉さん:「へえ〜〜〜。」

思いもつかなかった顔をして、青年を見る。

青年:「その人は、どんなバイクに乗ってましたか?」

お姉さん:「バイクじゃないよ。車。」

青年:「そっか、そうだったんですね。だったらなおさら、やっぱりバイク事故で・・・とか。」

考えすぎかもしれないと思いつつ、青年はそのお守りをいただけたことに感謝した。

そしてそれを、ダックス号のキーホルダーにありがたく、つけた。チリリン、と軽やかな音がする。それを聞いたダックス号も、なんだか嬉しそうにブルルン! と震えた気がする。

こうして青年は、静かに学んでいる。

ガソリンスタンドは、ガソリンを入れるだけの場所ではない。霊水の情報といい、ベル型のお守りといい、未来の何かにつながっているきっかけを補充できる場所と認識した。

ガソリンが満タンになった安心感で、青年はこのまま一気に高知県に入ることにした。おそらく、夕方には到着できるだろう。

その先には何が待っているか。全くわからない。でもきっと、素敵な出会いが待っているはずだ。

お姉さん:「お兄さん、めっちゃ高まったんちゃう?」

青年:「はい、お姉さんのおかげさまです!」

お姉さん:「うちやないよ。鈴のお守りで、運転の安全性が高まったんや!」

青年:「ああ、ほんとだ! 嬉しいです!」

お姉さん:「じゃあまたね、お兄さん、 気いつけていくんやで〜!」

普通は、お客様に対して「ありがとうございました」なのに、旅に出る友達に贈る言葉のように、心配そうに、でも笑顔で送り出してくれたお姉さん。

心も安全も、そして僕の学びも。

高めてくれた徳島の方々、本当にありがとう。

バックミラーで手を振ってくれているお姉さんに向かって、左手を上げて応えながら、青年は高知県に向かって走り出した。

〜つづく〜

おわりに

八幡様:「なかなか面白くなってきましたね。」

僕:「いやいや、それは僕のセリフです!」

八幡様:「この物語は、アニキが若き頃、何を感じて、どう生きたきたかが炙り出されてきます。それが良いとか悪いとかではなく、当たり前の青春時代を送った事実が明らかになるのです。

起きる事象に一喜一憂し、ハプニングで四苦八苦し、旅の中で花鳥風月を愛し、危機一髪の危険を回避しつつ、意気揚々と前に進んでいく。

そしてそれが、後からつながっていく物語。面白くなるのは必定です。」

僕:「そ、そうなのでしょうか。もう自分ではこれが普通なので、よくわかりません。」

八幡様:「霊水のお爺さんも言っていましたが、言葉の表現はすごく大切です。」

僕:「ああ、文章でも同じ、言霊なんですね。」

八幡様:「ですから文章を書くコツは、『思ったことをそのまま書かないこと』になります。」

僕:「なるほど。わかりません!」

八幡様:「昔から使われている言葉や、比喩や、例え話を使いこなす努力をすることです。

そうすることで、表現に広がりが出てきます。人々の心を掴むことができるのです。」

僕:「なるほど・・・。ぜひそれを僕も学びたいです。過去にあったことを、皆さんに分かりやすく表現し、それでいて独りよがりにならないような表現を吸収し、使っていきたいと思います。」

八幡様:「その努力はきっと報われます。」

僕:「でも僕は正直、このロードムービーの原作企画で報われるとは思っていません。おそらく、他のことで報われていくのでしょうね。」

八幡様:「それは分かりませんよ。まずは今を楽しんでいきましょう。」

僕:「はい! 引き続き、よろしくお願いします。」

この前も書いた通り、この原作執筆は、なかなかに時間がかかります。

ですが、面白いのです。

自分の旅の振り返りができることと、それがどういうご縁で今につながっているのかを改めて確認し、出会いの素晴らしさを心から堪能しております。

これから皆様が、ご自分の人生で出会う人たちに対し、どういう気持ちで接していくか。

さらに、未来の自分に、それがどう返ってくるのか。

それを楽しみにしていただけたら嬉しいです。

とはいえ、僕は引き続き、今に集中して書き続けます!

皆さんの応援も届いています。そのたびに、僕の心が高まります。

コメントも、メッセージも、お志のサポートも、全部拝読して、お返しになるかどうかはわかりませんが、いつも最大の感謝の念を送っております。

ではまた明日、お愛しましょう♡

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