![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/111498252/rectangle_large_type_2_8c28de2ad4a3c659efa37aef7f7f4003.jpeg?width=800)
ロードムービー原作 「また会えたときに 2」 第7章 (奄美奇譚 前編)
奄美大島は本当に素晴らしいところです。
風景は絶品ですし、食べ物にも地球の愛がまるごと詰まっている。
あとは、忘れてはいけない悲しい歴史があったことも勉強になりましたし、西郷隆盛さんの足跡も知ることができました。
八幡様:「薩摩時代における暗黒の奴隷時代の歴史を知ったことで、押さえつけられても健気に生きる人々の力強さを再確認できたと思います。
奄美の人の明るさと強さと美しさは、その歴史の上に成り立っているのです。」
僕:「はい。奄美で出会った人々の優しさは、忘れることができません。
でも、あまりにエピソードが多すぎて、投稿は前編と後編、2回に分けることになりそうです。
それでも駆け足になってしまうかもしれませんが、八幡様、お力添えをよろしくお願いいたします。」
八幡様:「かしこまりました。ほら、東の空をご覧なさい。水平線から朝日がのぼってきましたよ。」
僕:「ああ、なんて神々しいんだ。。。」
「また会えたときに 2」 第7章
順子さんを探せ
日の出を見るために早起きをした青年は、まだ薄暗い中、ひとり甲板に立っていた。
ようやく顔を出した太陽が、水平線の彼方から静かにのぼってくる。
青年:「んぬうううううううう。」
あまりに美しすぎて、声にならない低い声が腹の底から湧き上がってくる。
青年は、太陽に平伏したい気持ちだ。
フレッシュな光のエキスを取り込むように、大きく息を吸って、吐く。
海上の湿った空気と、機械油の匂いと、船員の朝ご飯の香りか、混ざり合う薫香が青年の鼻腔をくすぐる。
奄美大島への上陸は近い。
青年は心なしか、緊張している自分に気づいていた。
心のどこかで、今回の順子さんとの邂逅は難しいのではないかと思っている。しかし、とみちゃんと約束したのだ。やれるだけのことはやろう。
フェリーが到着したのが朝の6時半。
手紙の住所は、古仁屋(こにや)になっている。港からバイクで2時間くらいはかかる場所だ。とにかく向かってみよう。
前田順子さん。
もう結婚されていて、苗字も変わって、引っ越しでもされていたら、どうしようもないが・・・。
結婚していなくても、これはだいぶ昔(19年前)の住所だから、今もそこにいるとは限らない。
うう。やはり無謀だ・・・。
と、ますますこのミッションがインポッシブルな気がしてきた青年だが、奄美はどうしたって風が底抜けに気持ちいい。頬を撫でる風が、大丈夫だよと言ってくれているようだ。
遮るものが何もない道で、時折開ける盆地には、背の低い木が均等に並んで生えていて、見ていて飽きない。人の手が、この島をもっと良くしようと頑張っている姿が見えるようだった。
古仁屋に到着するまでに、青年の心に変化があった。
どうも青年は、芳醇な自然の豊かさに飲み込まれてしまったようで、どんどん頭が真っ白になっていったのだ。つまり、気持ちがリラックスして、考え方が楽になっていったということ。
いつのまにか、
青年:「まあいいか。やれることはやるって決めたんだから、どんな結果になっても一生懸命やればいいさ。そう。まずは、ひとつずつだ。住所の場所へ、行く! その後のことは、その後決める。」
と、やる気メーターはポジティブ方向に大きく振り切っていた。
訪れるその土地土地が持つパワーとか、独特のエネルギーは確かに存在する。青年はそれをありがたく受け入れるだけで、心と体に変化が訪れることを知った。
古仁屋も広い。
小さな公園の横の駐車場にバイクを停めて、住所を探して歩く。
太陽にほえろ! という刑事ドラマの聞き込みシーンのように、とはいかないが、青年は、出会う人にもれなく尋ねた。
前田順子さん。50代なかばの女性。昔このへんに住んでいた、らしい。という情報だけを頼りに。
青年:「すみません。お手紙を配達したいんですが、こちらの住所がわからなくて。」
地元のお母さん:「どこ? ああ、その住所なら、ここ真っ直ぐだと思う。昔っからの家だからわかりやすいよ。50代の女性? うーん、前田さんはもっと歳いってるけどね。」
そう言って教えてくれるのだが、高齢の女性の情報だけで、順子さんの情報はない。やはりここにはいないのかもしれないと、不安になる。
まあでも、いなかった場合は他にも手がある。交番に行くのだ。大丈夫、大丈夫。
青年はなんとかその住所にたどり着いた。古いコンクリート造りの平屋だ。琉球石灰岩で作られたであろう低い石垣は、崩れている。
呼び鈴はない。表札もかかってない。
恐る恐る、玄関の引き戸を叩く。
青年:「おはようございまーす! すみません〜! どなたかいらっしゃいますか〜!? 」
返事はない。
しかし人が住んでいる形跡はある。
カーテンは閉まっていて、玄関に鉢植えの花も置いてある。確実に、誰か住んではいる。しかし、朝が早いからまだ起きていない可能性もある。
出直してみるか。ここで無理やり起こすのは違う気がする。
青年はもう一度お昼に来て、探索を再チャレンジすることにした。
3人の子どもたち
そう決めた青年は、少し緊張が解けてきた。
気温もだいぶ上がってきたようだ。
せっかくだし、近くの風光明媚な場所にいってみようと考え、バイクを置いた小さな公園に戻った。
するとそこには、子どもたちが集まって、バイクを珍しそうに眺めているではないか。
青年は、三日月の目で躊躇なく声をかけた。
青年:「おはよう〜。どう? かわいいやろ〜。ダックスっていうバイクやねん。」
子ども:「おはよう! オレ、カズキ! で、弟のジロー、で、友達のイワちゃん!」
子どもたちは一見やんちゃな感じだが、その礼儀正しさに驚く。青年も負けじと、かしこまって自己紹介をする。
青年:「大阪からきた鈴木です。20歳です!」
リーダーはカズキ。小学校の低学年だ。弟のジローくんは5歳くらいか。
ダックス号を指さして、
カズキ:「これ、速い?」
青年:「遅い。」
カズキ:(ずっこけるジェスチャーで)「ずるっとな。」
イワちゃん:「これ、高い?」
青年:「安い。」
イワちゃん:「ずるっとな。」
ジロー:「こり、飛びゅ?」
青年:「泳ぐ。」
ジロー:「じゅるっとにゃ。」
3人は弾ける声で「キャハハハ〜!」とお腹を抱えて悶えている。なんて可愛いんだろう。
青年:「はい、ではみんなに聞きたいことがあります〜。」
カズキ:「なあに?」
青年:「少しこの辺を観光してみたいんやけど、近くでちょっと変わった場所ってない?」
イワちゃん:「そんなのない。」
青年:「あ、そうか。聞き方間違えた! ごめん。この辺で、丸くって、四角くって、三角な場所ってない?」
カズキ:「お、ナゾナゾか?」
ジロー:「なじょなじょ〜!」
子どもたちは、おもしろそうに笑いながらあそこか? 違うか。いや、あそこや! 違う。あそこや!!! と会議中。
30秒後、リーダーが閃いたようだ。
カズキ:「あった。ホノホシじゃ?」
ジロー:「うん。ホニョホチ〜。」
イワちゃん:「え? なんで〜?」
合点がいかないイワちゃんに、カズキが小声で教える。
イワちゃん:「ほんとじゃ! ほんとに丸と三角と四角じゃ!」
出揃ったようだ。青年は答えを出してくれた少年たちを全力で称えた。3人とも誇らしい顔で胸を反らせる。
青年:「では、ホノホシへ! 早速行ってまいります!」
と言ってヘルメットを被り、キックでエンジンをかけ、少年たちの憧れの目を欲しいままにバイクにまたがり、発進させた。
少年たちは手を振りながら追いかけてくる。
カズキ:「帰ってこいよー!」
イワちゃん:「こーこーでー! 待ってるからなあーーー!!」
ジロー:「なじょなじょ、もっとおーーーー!!!」
青年は少し振り向いて大きく何回か頷いた。
帰ってくるよ。という合図だ。
僕もあの子たちにはまた会いたい。頷いた姿がわかってくれただろうか。
しかし、とにかく昼までに、ホノホシという場所に行って、帰ってきて、それから前田さん宅訪問に再チャレンジだ。
亜紀と孝臣
30分後の午前10時半。青年はホノホシ海岸にいた。
なんて強い陽射しだ。
バイクから降りて、東から吹く強い海風をモロに体に受けて、少しでも体温を下げる。
青年はゆっくりと辺りを見渡す。たしかにここは完璧に、丸い石と、三角の山と、四角い岩の風景だ。
子どもたちの観察力と想像力と分析力。そして大人に対する当意即妙のコミュニケーション能力の高さに感動冷めやらず。
子どもってすごいなあ。と感嘆する青年。
沖の白波を見ながら、やはり僕は先生になりたい。子どもたちと一緒にいたい。心からそう思う。
心も体も熱くなった青年は、両手を左右に振り、腰を回しはじめた。それが次第にラジオ体操第2になっていく。青年は実は、第2の運動が好きなのだ。
「おいっちに、おいっちに。」
そこで事件が起きた。
体操が、ある箇所でループしてしまい、そこから次の動作が分からなくなってしまったのだ。
あれだけ第2に親しんできた青年にとっては、これは屈辱的なことだ。
何回やっても、どうしても途中で止まってしまう。首をかしげながら仕方なく、ずっと同じ動きを繰り返す青年。
そこに後ろから恐る恐る声をかけてきたのは、地元のカップルだった。
彼らは青年がいた場所の反対側でデートをしていたのだ。
地元の若者:「あのう、すいません。それって、・・・ラジオ体操?」
若者の彼女:「もしかして、第2・・・ですか?」
青年:「あ。せ、正解。だけど、なんだか、どんな体操かわかんなくなってきて。やっぱ音楽って大事ね。あれがないと・・・わからんようになる。」
と、三日月の目で照れまくった。
地元の若者:「た、多分そこは、・・・こんっな感じで、こう! です。」
若者の彼女:「そうきてからの、っこうして、こんな動きで回す! 回す!」
青年:「あ、それ!!! はぁあっ! それです!!!!」
と、こんなきっかけで3人は仲良くなったので人生は本当に不思議だしNHKさんに感謝だ。
聞けば、青年たちもバイクが好きで、今日もタンデム(二人乗り)でやってきたのだという。
いろいろ雑談もして良い雰囲気になったところで、青年はふと感じた疑問を投げかけた。
青年:「でも、何で彼女にさん付けなの?」
若者:「あ、だってひとつ年上で。亜希さん。ね。」(見つめる)
彼女:「このこは年下だから、孝臣くん。ね〜。」(見つめ返す)
とても仲の良い2人だ。
礼儀正しいし、どちらとも爽やかで、なんの問題もなくお付き合いしているように思われた。しかし、亜希さんがポロリとこう言う。
亜紀:「でも私たち、本当はお付き合いを許されてないんです。」
孝臣:「早々に別れなきゃならんかもです・・・。」
2人、見つめあって「ね」とハモる。ふふふっと笑って下を向く。どう見てもお似合いなのに、どういうことだ?
亜紀:「実は今日は、ね。私たちどうしても離れたくなくて朝、待ち合わせて、あのバイクで西古見の神様にお願いしてきたんです。3つの願いを叶えてくれる場所があって。」
孝臣:「僕、3つとも同じのを願った。あはは〜。」
亜紀:「私は2つはおんなじ。もうひとつは、結構ストレートに。。。」
孝臣:「なんていいよったん?」
亜紀:「だれか助けてーーーって。」
孝臣:「亜紀さんらしい!」
2人は、強烈なプレッシャーの中、誰にも言えずに逢瀬を重ねながら話し合っているのだろう。お互いに相手を思いやる優しさが溢れ出ている。
青年:「離れたくないのであれば、どんなことをしてでも離れなければいいと思うけど、そうはいかんのね?」
2人は悲しげに首を振った。
青年:「そうか。。。」
青年は、当時まだあった長い髪をなびかせながら、海のほうに向かってしばらく考えを巡らせた。
ひとりでふんふんと頷くと、突然、カップルに振り向く。
青年:「わかったよ。たぶん、大丈夫。2年だ。」
と言った。
孝臣:「な、なにが2年ですか?」
青年:「たった2年。」
指でVサインを出す。
亜紀:「2年離れるって意味で?」
青年:「違います。これはあくまで、僕の考えだけど・・・。」
青年は、独自の見解をカップルに説明しだした。
2年計画
青年:「別れなくてもいいです。多分ね。今の段階での、周囲からの反対は、亜紀さんと孝臣さんの『未熟さと若さ』が要因となってますよね?」
亜紀:「そうです。私が20歳で仕事をしてて、彼は19歳になったばかりで、訳あって漁師見習い。バイトです。」
青年:「ということは、つまりお金と、経験だと思うんです。きっと、周りの人たちは苦労人です。お金は苦労しないと手に入れられないものと信じてます。
でも、そんな苦労の経験もない2人が、勢いで結婚することが危険すぎて、心配すぎて、許すことができないんだと思います。」
孝臣:「そう。そうなんです。」
青年:「であれば、まず孝臣さん。」
孝臣:「は、はい!」
青年:「まず、半年でいいです。バイトを掛け持ちして、土方でもなんでもして、お金を貯めましょう。できますか?」
孝臣:「はい。もちろんできます。」
青年:「亜紀さんも、今のお仕事頑張ってください。ところで、何をしてます?」
亜紀:「牛乳とかの配達です。」
青年:「ああ、あれは大変ですね。僕も小さい頃、母と兄妹3人でヤクルト配達をしてました。お疲れ様です。
これは継続さえすれば、お客様は増えます。
あなたなら、ご新規さんを増やせます。ノルマを達成し続けて、上に行きましょう。
そうなると、確実に2人が会う時間は減りますが、未来のためです。耐えてください。で、半年後、2人の貯金額を合わせてみましょう。」
亜紀:「全部足して、一歩を踏み出す?」
青年:「いえ、まずはシミュレーションです。もしこれで、2人で新生活を始めたらどのくらいの出費が必要かを考え抜きます。生活するってなかなか大変なことです。
計算すると、必ず、まだまだ足りないな、と気づきます。」
孝臣:「確かに。もう、想像がつきます。」
青年:「大丈夫。ここからが大事です。お金の大切さや、生活の大変さや、2人の気持ちだけでは難しい結婚生活の真実に気づいたら、それを周りに伝えるんです。」
亜紀:「あ! それなんかすごい。すごいかも。」
亜紀さんは、もうなんとなく、この作戦の全貌が見えてきたようだ。
青年:「まずは、ご両親に気づいた結果をお伝えください。
自分を育てるためにどれだけの思いで、お金を稼ぎ続けてきたのか。
子どもが生まれてからの稼ぎは、全力以上の力を出さないと得られないことを肌で知りましょう。
亜紀さん。あなたのご両親は20年間、あなたのために、休むことなく動いて、稼いできてくれたはずです。」
亜紀:(涙を堪えながら)「はい・・・。本当に、その通りです。」
青年:「結婚を反対されるってことは、亜紀さんを大切に思うからこそです。孝臣さんの将来を心配するからこそです。
だから、まずは伝えましょう。今までの感謝と、心からの労いです。
生活するってだけで、大変なことなのに、お2人をずっと、命をかけて守ってきてくれたこと、本当にありがとうございます。とご両親に必ず、自分の言葉で伝えましょう。」
孝臣:「それはもう、今すぐ言いたいです。」
青年:「まだダメです。口だけになってしまうからです。
まずは、半年、お金を稼ぐために死力を尽くしてください。もちろん大変ですよ。
大好きな人の辛そうな姿は見たくないかもしれませんが、それはきっと、いつかちゃんといい思い出になります。」
孝臣:「はい。僕、頑張ります。」
青年:「その懸命な2人の姿を見て、今、反対している人たちは、2人が感謝の気持ちを行動で示していることを見て、少しずつ、それを受け取っていきます。
1年半が経つ頃には、2人の頑張りをみんなが認めていることでしょう。
同時に、資金も貯まります。周りに感謝して、それを言葉にするあなたたちは、みんなに愛されて、祝福されて? 2年後に?」
孝臣:「結婚・・・ですか。」
亜紀さんはもう、ハンカチで顔を抑えている。
亜紀:「私、がんばります・・・。」
気丈にそう言う亜紀の肩を孝臣はやさしくさする。
青年:「孝臣さん、亜紀さん。」
2人のそれぞれの片手を取った青年は、その手をゆっくりと合わせた。
そして、空に高く掲げ、天に向かって力強く言葉を放った。
青年:「お二人をつなぐ皆様に、幸あれ。」
順子と富美子(とみこ)
2人からお礼を言われ、青年はハッとした。もうお昼じゃないか。
青年は、「人を探しているので、これで!」と慌ただしくそこを去る。名前も告げずに。
孝臣と亜紀の二人は、名を聞かなかったことを後々後悔するが、もらった言葉を胸に、決意を新たにし、青年を見送った。
再び古仁屋(こにや)に戻ってきた。
13時を過ぎたあたり。
公園の横を通り過ぎるが、あの子たちはもういない。暑い。この炎天下だ。仕方がない。
バイクは、さっきの家の前につける。
玄関横の花に、水が撒かれてある。やはり人がいる! 窓が開いていて、扇風機がまわる影が見える。
緊張の一瞬。しかし迷わず声をかけた。
青年:「こんにちは〜! 前田さ〜〜〜ん」
老婆:「はいよー。開いてるよーう。」
ガラガラ。玄関から入ってすぐの部屋に、小さなお婆ちゃんが座椅子に座っている。テレビを見ているようだ。
青年:「あ、すみません。こちら。前田さんのお宅でしょうか?」
老婆:「そうだよーう。」
お婆ちゃんはリモコンでテレビの音量を下げてくれている。
前田家、まだ住んでたよ、とみちゃん! 青年は見えないように小さくガッツポーズ。
青年:「順子さんはおいででしょうか?」
老婆:「順子? 順子は伊集院。鹿児島だあー。」
青年:「鹿児島? ええーーーーーっ!?」
鹿児島といえば、むしろ、とみちゃんが住んでるところじゃないか! 青年はショックに震える。
老婆:「でも、またすぐ帰ってくるぞ。行ったりーきたりーさー。」
話を聞くと、このおばあちゃんは順子さんのお母さん。
お母さんの妹さん(順子さんの叔母)がひとりぼっちで鹿児島に住んでいるそうで、順子さんは月の半分くらい、そのお世話をしに行っているんだとか。
青年は悩んだ。選択は3つだ。
鹿児島に戻り、カチューシャとお手紙を順子さん本人に渡す
とみちゃんと連絡を取り、鹿児島で2人を会わせる
カチューシャをここに置いて行き、おばあちゃんに伝言してもらう
ううううむ。
しかし、どれも浅くて薄い気がする。と悩んでいると、おばあちゃんが言った。
「お茶飲む? うちのは美味しいしさー。まずあがんなさーい。」
青年は、すっかり喉が渇いていた。遠慮なくいただきますと、部屋の中に入る。ああ、南の島の家ってどうしてこんなに良い匂いがするんだろう。
ふと、テレビ台に、写真が立てかけてあるのが見えた。
青年:「あらっ! とみちゃんじゃん!」
老婆:「あーれま? なんだー。とみこを知ってるんかい?」
青年:「知ってるも何も、とみちゃんから預かってきたものを、僕は今日、順子さんに渡しにきたんです。」
老婆:「あれー、まああーーー。」
経緯をすべて話し、とみちゃんが後悔していることを伝える青年。
老婆は、時折涙を拭きながら話を聞いていたが、カチューシャを大事そうに抱えて言った。とみこに伝えてくれっか? とポツリ。
老婆:「とみこは、心の優しい、本当にいい子。ここに、戻っておいで。
順子は、何も怒ってはいないさ。
他の誰も、とみこのことを悪くいうやつはいないさ。
あの男は、とみこの思った通りのひどい男だったからね。順子は引っ掛からなくて済んで、感謝しかないのさ。
順子を救ったのはとみこさ。」
青年は、この意外すぎる現実を聞いて絶句した。
とみちゃん、あなた、感謝されてるよ! 悔やんでる場合じゃないよ!!
青年は歯痒くて悔しくて、とみちゃんの傷を早く癒してあげたくてどうしようもなくなった。
とみちゃんに連絡を取りたい。今すぐ電話したい。
そこで青年は衝撃の失態に気付く。
なんということか、僕はとみちゃんの電話番号を聞いてない。
青年は自分の無能さを強く恥じた。
こんなときのために、連絡先を聞いておくのは基本じゃないかっ!
あ、待てよ!?
手紙の裏に、とみちゃんの実家の住所が書いてあるんだ!
青年:「おばあちゃん。とみちゃんの実家って、誰かまだいる?」
老婆:「いやあ、4年前までかな。静か〜に住んでいたけどね。島を出てしまったよ。あいや、もう5、6年経つかな。今は誰もいないねえ。」
完全に行き詰まった青年は、心を決めた。
鹿児島に戻って、順子さんを探すのだ。探すしかない。
もちろん、とみちゃんも探す。陸走の会社(会社名がわからないけれど)をタウンページで調べればいい。最悪、道後温泉の居酒屋カンジで張り込みだ!
もう、やるしかない。幸い、時間はたっぷりある。
そうだ! もし、とみちゃんとまた会えた時に、鹿児島の順子さんがいる住所と連絡先がわかれば、2人を会わせる段取りを組めるじゃないか。
おばあさんに聞くと、住所をすぐに教えてくれた。
写真の2人をよく見れば、同じカチューシャをして笑っている。このプレゼントは、仲良しの証だったのだ。
そんな写真をここに飾り続けてあるということは、順子さん自身が、とみちゃんに対して申し訳なかったと思っているに違いないし、むしろ感謝しているなによりの証拠だ。
青年は改めて思う。
カチューシャも、お手紙も持って帰ろう。そして、とみちゃんを探し出す!そう心に固く誓ったのだった。
それから、おばあちゃんのお話は案外長く続いた。
順子さんの小さい頃の話とか、一度結婚したが、うまくいかずに離婚して、子どももいないこと。
酔っ払うと、とみちゃんとの豪快な友情話に発展すること。2人がいつも一緒だったこと。
それで十分だった。青年は、お茶をご馳走になったお礼を告げて去ろうとしたら、おばあちゃんが、とみこに渡してくれと、奥からなにか持ってきた。
サンゴのかけらだった。
綺麗なピンク色をしている。小さなプラスティックの箱に入って、周りをセロテープで密封してあった。
これ、とみこにもらったもんだけど、「おばあがとっても大切にしていたもの」だと言って渡してくれとのことだった。
青年は、必ずやお渡しいたします。と約束をして前田宅を辞去した。
天使たちとの約束
青年は帰りがけに小学生と出会った場所を通る。
一応、念のため、もしいたら、お別れをしようと思ったのだ。
近づくと、誰もいない・・・かと思ったら、一人、大きな麦わら帽子を被ったジローが扇子をパタパタしながら、公園の奥の木陰に座っているではないか。
ジローは青年を見るなり、パッと笑顔の花が咲いた。
ジロー:「やった! かえってきた! かえってきたじょ〜!」
と小躍りをすると、青年に向かってこう叫ぶ。
「かずちゃん、よびにいくから、ここにいてーっ!」
と、念押しをして、青年とは反対方向に全速力で走っていった。
そこで青年は気づいた。
おそらくあれからお昼ごはんを食べに、みんなお家に一旦戻ったが、その前に話し合ったんだろう。
ご飯を食べた後、お兄ちゃんを待っておこうと。
しかし、暑い中、3人がここで一緒に待っているのは効率が悪いので、交代で青年を待つことにしたのだ。
青年は、オレンジ色のヘルメットを外し、さっきジローが座っていた、小さい木の影の下で座って待つことにした。
それにしても暑い。陰にいてもこんなに暑いのに、子どもたち、しかも一番幼いジローがずっと待っていてくれたなんて。。。
待つ。という行為。これは大変なことだ。
しかも、帰ってくるかどうかわからない人を待ち続けるのは、正直キツい。
子どもの浅知恵と笑う人もいるかもしれない。わざわざ炎天下で待つ必要もないだろうと思うかもしれない。
青年はそれを思うと、自分が今、日陰で待つことはダメだと感じた。僕はみんなを堂々と、太陽の下で待とう。
青年が太陽の元に飛び出すとすぐ、おおお〜っという唸り声を上げながら、遠くから3人が坂道を駆け下りて向かってきた。先頭のカズキが、手に何かを持っている。
みんなわんぱくそうに笑っていて、今にも飛んでいきそうな麦わら帽子が本当に可愛い。
カズキ:「はい! これ。」
ぜえぜえした息で青年に渡したのは、アイスだった。チョコレートがコーティングされている美味いやつ。
暑い空気の中で食べるアイスは至高の喜びだ。
青年が遠慮なく口の周りをチョコだらけにして食べる姿を、うふふ、えへへ、あははと笑いながら見ている3人。
青年:「つんめたくって美味しい! これ、いくら?」
カズキ:「オレん家のだし、お金はいらん。代わりになぞなぞちょうだい!」
ジロー:「なーじょーなーじょー!」
青年:「わかった。じゃあ、ここは暑いから、まず、大きな木のある場所を知ってる人! 涼しいところがいいな!」
3人:「はいはいはいはいはーい!」
少し歩いたが、高台の大きな木陰がある公園に移動する。町の向こうに奄美の海がキラキラ光っている。涼しい風に癒やされる3人。
しかし、考えてみると面白い。
今の世であれば、青年は変質者の域に達する。3人の子どもを連れて歩く変態と見られてもおかしくない。
それにしても、子どもたちは3人とも、青年を気に入っている様子だ。
彼が醸し出す雰囲気と、乗っているバイクの意外な可愛さと、その話し方や、言葉の使い方も気に入ってしまい、あとはおかしななぞなぞ(クイズ)を出す面白そうなお兄ちゃんと仲良くなりたくて仕方がない。
青年:「それではクイズです!」
子どもたちは真剣な表情で、拳を握って息を呑む。
青年:「この島にあって! お兄ちゃんが住んでいる大阪にはないもの。それはなーんだ!!!!!」
カズキ:「どろぞめ!」
青年:「早い! 正解! フェリー乗り場の案内にも書いてあった! お兄ちゃんもやってみたい! パンツを染めてみたい! それから〜? まだあるぞ!」
イワちゃん:「つむぎ?」
青年:「またでた! 正解! 大島紬。うちのおばちゃんがいつも着てた! 他には?」
ジロー:「あいちゅ?」
青年:「大正解! こんな美味しいアイス、僕はここに来てはじめて食べました!」
そう言いながら、少年たちの答えを全て正解にしてしまう。郷土に対する愛情が深い彼らは、答えがいくらでも出てくるのだ。
こうして、たった1個のクイズだけで、みんな汗をかくくらい夢中で答えを出し合った。
最後にひとつだけ、僕も答えを言います。と青年は言った。
青年:「この島にあって、大阪にはないもの。それは、3人の友情。これはどこを探してもない。」
3人:(顔を見合わせて)「・・・?」
青年:「みんなは、初めて会った僕に、とっても優しく声をかけてくれたよね。
そして、暑い中、交代しながら、僕がここに戻ってくるのを待っていてくれた。
ジローくんが僕を見つけると、走ってみんなを呼びに行ってくれた。
みんなで考えて、美味しいチョコレートアイスを持ってきてくれた。
そして、ここ、木陰のある公園に連れてきてくれたね。
それから、僕の出したたったひとつのクイズに楽しく乗ってくれた。
3人とも、誰も嫌な気持ちになることなく、させることもない。
お互いのことをよくわかっていて、邪魔しない気遣いができている。
お互いを大切な存在だと思っている友情が、大阪にはない。
この日本にない。
でも、ほら、ここにある!
君たちが持っているんだ!
僕は、この島に来て、君たちに会えて、本当に嬉しかった。
お友達になってくれて、ありがとう。」
カズキ:「オレたちも・・・。」
と言って、そのあとは言葉にならず、うつむいてしまう少年。
イワちゃん:「お兄ちゃん。僕、面白かったぞ。楽しかった。ありがとう。」
ジロー:「もうかえるん? いやだあ・・・。」
みんなの寂しそうな顔が、青年の胸を痛くするが、とみちゃんとの約束を果たすために、青年はどうしても今日帰らなければならない。
青年はぐっと涙をこらえて、
青年:「きっとまた会えるよ。みんな、僕の顔を覚えておけるかなあ。」
カズキ:「わすれない。」
イワちゃん:「オレも。」
ジロー:「ぼくも、わしゅれない!」
頬をつたう涙をげんこつで拭く子どもたち。
カズキ:「お兄ちゃん。」
青年:「うん?」
カズキ:「約束を守ってくれて、ありがとう。」
青年:「こちらこそ。待っていてくれて、ありがとう。アイス、ごちそうさま。」
青年は、3人それぞれに握手をする。わんわん泣き出してしまったジローをしばらく抱っこしてから、別れを告げてバイクにまたがる青年。
ゆっくり走るダックス号を追いかけて、手を振りながら坂道を走って下る3人の天使たち。
青年はそれをバックミラーで確認しながら、元気で健やかに。また会えますように。と心から祈った。
青年は、今晩出港する鹿児島行きのフェリーに乗らなくてはいけない。
フェリーターミナルがある名瀬(なぜ)港に向かって走る青年。
夕方には着けるはずだ。
今日のお話はまだ終わらない。次回は、銭湯でのお話。
〜つづく〜
ここから先は
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/103618072/profile_cbddb90850b3df386b314473ddacb281.jpg?fit=bounds&format=jpeg&quality=85&width=330)
KAMI ing out マガジン
「僕のアニキは神様とお話ができます」「サイン」の著者、アニキ(くまちゃん)が執筆。天性のおりられ体質を活用し、神様からのメッセージを届けま…
ご支援ありがとうございます。このnoteはサポートのお志で成り立っております。メッセージにお名前(ご本名とご住所)も入れていただけると、感謝とサチアレ念をダイレクトに飛ばさせていただきます。