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ロードムービー原作 「また会えたときに 2」 第11章 (福岡白バイ 編)

みなさんは、路線変更、得意ですか?

僕は運転中の路線変更なら得意なんですが、人生の路線変更は大の苦手です。

こうだと思ったらとことん、その方向に進んでいってしまうのです。

当時、旅の途中で見た、トラックのフロントガラスに書いてあった文章が今でも忘れられません。

「俺の人生に、バックギアはない!」

最高です。同感です。

でも、僕流に書くなら、

「僕の人生に、ウインカーはない!」

になるのかもしれません。

はい、危ないです。

とにかく僕は、誰かが喜ぶならと、行きつくところまでまっすぐに行ってしまう習性があります。

それでうまくいくこともあるのですが、その反対に、どうにもうまくいかない事態に陥ることもあります。

でもバカな僕はそれでも諦めずに進み続けてしまうようで、結局どこかに思い切りぶつかってしまい、誰かに迷惑をかけたり、体を壊してしまったことも多々あります。

周囲からはこれが「暴走」にも見えるようで、見かねてムリヤリ止められることも恥ずかしながら幾数回。

だから僕は、ここだ! というタイミングで、スッと路線変更が出来るヒトを心から尊敬します。

と、思うところを書いていたら案の定、八幡様から路線変更の指令が飛んできました。

八幡様:「今日は冒頭から福岡編を書いていくつもりでしたが、変えます。

まずは奄美大島の後日譚をご紹介していきましょう。その後に、福岡での事件を持っていきます。」

僕:「ふむ! でもまた、なんでですか?」

八幡様:「前回ご紹介した古川さんのメール、皆様の感応がとても良かったからです。」

僕:「長崎の女の子の話ですね。たしかに好反響でした! ノブさんもきっと喜んでくれていることと思います。」

八幡様:「ということで、今から古川さんを準主役に据えようと思います。」

僕:「だ、大抜擢ーーーっ!」

八幡様:「古川ご夫妻がわざわざ奄美に行き、身を賭して調べてくださったレポートがあったはずです。」

僕:「はい。ノブさんからメールで送っていただいたので、データで残っています。」

八幡様:「その文章をお借りして、ここで一気に綴りましょう。きっと読者さんに喜んでいただけると思います。」

僕:「なるほど。かしこまりました!」


「また会えたときに 2 」 第11章

古川ノブさんからのメール 

〜2018 年8 月1 日のメールから引用〜

鈴木さん。おはようございます。

今、奄美に来ております。

以前長野でご一緒させていただいたおり、学生時代の奄美大島へのバイク旅の話題が出ていたのを思い出し、さちこと相談して奄美に降り立ちました。

1週間ほど滞在しましたが、鈴木さんが約30年前にここにきた軌跡を見つけることができませんでした。

最終日、奄美空港から帰る予定で、近くの村の民宿に宿泊中、事件はおきました。

私が夜の海岸で、大怪我を負ってしまったのです。

そしてなんと現在、病院です。

実はかれこれ5日間。全く動けません。

実は、鈴木さんにはまだ伝えておりませんでしたが、あまりにも面白すぎる鈴木さんの旅の歴史を辿るために、家を売ろうと決め、奇跡的に半年で売れました。

心配はご無用です。

代々続く家とはいえ、子どももいませんし、誰かに渡すものはなし。

多少の借金はあるけれど、それは売ったお金で返してしまえばいい。そう思って、姪の経営する不動産会社に頼んで、今は小さなマンションを拠点にして、私たちは自由になったのです。

さちこも大賛成してくれていて、「誰かの歴史を辿る旅がこんなに面白いとは思わなかった」と大喜びです。

その誰か、とは鈴木さんです。

経営していた塾も人に渡し、お金も不動産も、ほとんどを綺麗さっぱり処理し、身軽になって、あらゆる場所に飛んでいます。

その土地土地で、鈴木さんらしき存在を探していく趣味? が楽しすぎてやめられません。

そして今回、満を持して奄美大島です。

が、全くネタは集まらず、逆に入院という奇跡。

私たちが探した場所が悪かったのかもしれません。

わかりやすいように、時系列にお話しいたしましょう。

これは5日前のお話です。

私は、風が強くなってきた夕方、どうしても訪れたい場所がございまして、民宿にチェックインした後、さちこがお風呂に入っている間に用事を済ませようと外出しました。

雨も降りそうでしたので、傘を旅館にお借りして出ました。

向かう先は歩いて20分ほどです。大きな岩でできた、扉の神様です。

旅の無事を祈る神様がいらっしゃるとお聞きして、鈴木さんの旅の無事を祈りに参りました。

しかし、私の軽い体は、折からの強風に耐えることができません。

何度も煽られて転びそうになってしまいましたが、踏ん張って、ゆっくりと歩きながらようやく到着。

岩の景観が圧倒的で震えるほど感動でした。

しかも、祈っていても波状的にいただけるエネルギーが温かく、思っていたより素晴らしい場所で、正直驚きました。

しかしその時、大粒の雨が降ってきたので思わず、何も考えず傘をさしたのが災いしました。

私は、風で浮き上がり、数メートル飛びました。

その時、足に激痛が走りました。同時にバチんと音がして、何かが切れたということがわかり、激痛で歩けなくなりました。

しかも、足首から血が流れています。岩で切ってしまったのでしょう。

片足では戻ることは不可能でした。雨足は強くなる一方。

もうすぐ夜になります。

不幸にも落ちた場所が海に近い岩で、少しずつ潮も満ちてきています。

血も流れ続けているし、恐怖感が訪れます。

このままでは、命の危険に晒されてしまうからです。

ああ、しかもカバンがない。

飛んだ衝撃で、拍子に海に落ちたのかもしれない。

近くにはない。携帯電話もない、声も出ない。助けを呼ぶことも無理だ。

私はどんどんパニックになっていきます。

民宿の人には、ここにくるとは告げていませんし、もちろんさちこにも言っていません。すぐに戻るつもりだったからです。

自分としたことが。と後悔しても後の祭りでした。

しかし、30分ほどたった頃です。

声が聞こえるのです。

私の名前を呼んでいる複数の声。

私は声を振り絞りましたが、風の音に立ち向かえるほどの声量も出ません。

ただ、待つのみでした。

やがて、

「おった!」

という声と共に、素早く海から引き上げられ、名前を聞かれ、住所まで聞かれました。

その人は自分のことを、私は松山です。と短く自己紹介してくださり、一人が民宿に、一人は救急に連絡。

松山さんは救急隊の方ではありませんでしたが、私を軽々と抱き上げて海から出してくれました。

私は、「カバンもどこかにあるんです。」と伝えました。

しかし、投げ出されたカバンは見つからず。

これは海に沈んでしまった可能性が高い。

諦めて、松山さんの背中に揺られながら大きな道まで出ました。

タイミングよく救急車も到着し、さちこも心配そうに駆け寄ってきてくれたのですが、どこか変に落ち着いている様子。

とにかく、病院へ走ることになり、そんな時に私は、飛行機、キャンセルしなきゃな、と思っている自分の性格が笑えました。

さて、病院まで寄り添ってくれて、誰よりも心配そうにして私たちをサポートしてくれた松山さんに尋ねました。

なぜこんなに早く助けに来れたのでしょうと。

すると不思議な返答。

「私のお店に電話がかかってきましてね。

たまたま私が出まして、どうもさっき、バイクでこの道を通りかかった時、一人、おじさんがお宅の近所の大きな岩に向かって歩いているのを見たんだが、風も強くなってきてるしフラフラしてたからって。

で、もしかして、もしかするってもんで、慌てて探しにきたのさー。」

と、私のことを見た人がなぜか松山さんのお店に通報してくれたようです。

しかし、私は、道が見えていましたが、バイクが通ったという記憶がありません。

車すら通っておりませんでした。

さちこはまだ黙っています。

怒っているようには見えないのですが、黙って付き添ってくれていまして、どうも怪しいと思い、少しさちこと2人っきりにしていただき、問いただしたわけです。

案の定でした。

鈴木さん。

ありがとうございました。

2人のやりとりをお聞きして、この2人の洞察には敵わないと舌を巻きました。

  • さちこ → 風呂から上がる → 私がいない

  • 旅館の人の証言で傘を借りたらしいが、行き先がわからない

  • 「今日は旅の神様に挨拶しておきたい」という私のセリフを思い出す

  • 近所に旅の神様がいないかどうかを旅館の若い方に確かめるがわからない

  • 風が強くなってきて、雨も降ってきたことで不安が重なる。私の体調もよくないのでなおさら

  • 鈴木さんに連絡。我々が今いる場所を伝え、私がいきそうな場所を一緒に考える

  • 旅館から近い場所で2つ考えられる

  • さちこが、私なら大きい方を選ぶと断定

  • 鈴木さんが胸騒ぎがする、とさちこに連絡あり

  • 警察に連絡するかどうか悩むが、「なんとなくざわつくから」では警察は動かない。

  • さちこが近くにあるお店を検索 → マリンショップがある → 鈴木さんに報告

  • 鈴木さんがマリンショップに、怪しいおじいさんを目撃したと連絡。

  • 松山さん。すごくいい方で、社員さんと一緒に、すぐ様子を見に行ってくれる。

  • 私は無事確保されて、病院で処置されてここにいる。

松山さんは、マリンショップのオーナーであり、ライフセーバーであるとのこと。人命救助の達人だったわけです。

そうです。鈴木さん。もうわかりましたね?

ご明察。

松山さんのお名前は、拓海さんです。

鈴木さんの電話を受けた後、どうもどこかで聞いたことがあるような、懐かしい響きがあったそうです。

「あん不思議ーな電話の声ー、どっかで聴いたことあるがよーう」

と首をひねっていまして、そこで私、ピーンときました。

この人が昔、鈴木さんに救われた人ではないかと。

そこで思い切って尋ねました。

「もしかして松山さんは幼い頃、旅の人に生命を救われたことはありませんか?」

と。

松山さんは、一瞬きょとんとして、なんでそんなこと聴くのか? という顔をしたのですが、私はこれは、とピンときまして、

「電話の声、その人の声に似てませんか?」

と続けて聞きますと、

「えーーー!!! うそやろーー!!」

と絶叫して、ぴたりと繋がったようです。

「そうやそうや。あん人ん声や。おんなじや。なんでわかると? あんたはなんや? なんかおろしよるお人かな?」

と、しどろもどろになりました。

たっくん34歳

お待たせいたしました。

「たっくん」のお話をいたしましょう。

当時のことはありありと思い出せるそうです。

松山さんは生まれつき体が弱く、なかなか成長しないため、背も低く近所のガキ大将にいつもいじめられていたそうです。

当時はおばあちゃんが番頭さんだったそうですね。

鈴木さんが銭湯に入ってきてすぐ、その風体をおばあちゃんがからかっていたのを、松山さんはお風呂に入る前に一瞬見ています。

鈴木さんが引き戸を開いて浴場に入る時、松山さんはすでに湯船におり、そこで一瞬目があったそうです。

「目が合った瞬間あのお兄さん、あ、鈴木さんは三日月のような目で、ニコッと笑ってくれたです」

と松山さんは懐かしそうに話しました。しかし、そのあと、いつもやっている遊びをしている途中に意識を失います。

男湯と女湯は、お湯の温度を一定に保つため、お湯の通路で繋がっていました。松山少年は、その通路を素潜りで渡る遊びをしていたのです。

2回は成功したのですが、3回目で、女湯から熱湯が流れてきたのです。

お湯を混ぜた人がいらっしゃったみたいで、その熱さに驚いてのけぞってしまったらしいのです。

松山少年は、天井に頭を強く打ち、お湯を飲み、溺れました。

ここからの話は、銭湯に入っていた近所のおじさんの目撃証言です。

鈴木さんが湯船に入り、首を振ってモゾモゾと体を動かしていたと思ったら、突然鈴木さんも潜ったと。

そしてすぐ子供の足を引っ張って、外に出してきて。

体は真っ赤、顔だけ真っ青の子供を抱いて出てきたと。

おじさんが、たっくんが溺れていることを叫び、銭湯全体が騒然となりました。

猛然と鈴木さんが、抱いて脱衣所まで行き、扇風機と牛乳とタオル! と叫び、素早く処置して、たっくんを生き返らせました。

人々が見守る中、たっくんが息を吹き返し、そして救急車で運ばれていきました。

鈴木さんは、幼い命の恩人となったわけです。

メモ帳に書かれた手紙は、今でも自分のバイブルですと涙し、思い出してまた涙でした。

フェリーでの別れを思い出すたびに、人生で苦しかった時に奮い立ったとのことです。

大学を卒業したのち、ライフセーバーになり、今はマリンショップで働きながら、海の命を守る活動で生きていらっしゃいます。

今、こうして人の命を救う尊い仕事ができているのは、鈴木さんに助けていただいたおかげであると、熱い心で語っていらっしゃいました。

その恩人と一瞬でもお話ができたこと、その声に自分が少なからず反応できたことを、喜んでいました。

こんな話をしながら、毎日お見舞いを持って、松山さんがきてくださるので心強いのです。

また会いたいそうですよ。鈴木さん。

奄美に行きましょう。

ここは最高です。

亜紀さんと孝臣くん、48歳と47歳

さて、もうひとつ。

不思議と私は動けない状態になってからの方が、情報が集まります。

そしてこれは昨日のお話です。

病院食についてくるヨーグルトや牛乳などを運んでくる女性と、私は出会いました。

その方は、おじいちゃんが入院しているので、病室まで入って来て、皆とワイワイ話をして帰るのですが、いつの間にか私の話題になりました。

例の、不思議な導きで助けられたものですから、私は病院内ではすでに有名人です。

松山さんが鈴木さんのことも含めて皆に話す内容が、ドラマチックで面白く、同じ話を何度も聞きたがる方も出てくるほどで。

その女性は、そういう不思議話を最初は笑顔で聞いてましたが、だんだん真顔になっていきました。

そして、「私も若い頃、不思議な人に出会ったんよー」と言い始めたのです。私は内心、来たっ! と興奮した次第です。

その方は当時、20歳の娘さんでした。

漁師の19歳男子とお付き合いしていたのですが、親からは付き合いを反対され、引き離される寸前までいってました。

結婚を考えていた二人は、相当悩んでいたそうです。

ある日の早朝。タンデムバイクで西古見という場所まで走ったそうです。

その土地には、古い神様がいらっしゃり、そこで願いを伝えると、3つ聞いてくださるというスペシャルな場所だそうです。

そこからホノホシという場所まで行くのですが、そこに謎の青年が、小さな50ccバイクを停めて、ラジオ体操らしき体操をしていたそうです。

青年は、首を傾げながら同じような動作を何度も繰り返していたので、不思議に思って声をかけたそうです。

それってラジオ体操第2、ですよね?

と。

すると青年は、多分そうなんですけど、途中が思い出せなくて、、この動きの後は、これでしたっけね?

と。

娘さんは、思わず吹き出してしまったそうです。

その後3人で、ラジオ体操第2を思い出しながら最後までやり通して仲良くなりました。

悩みの相談を思わずしてしまい、納得のいく答えをもらったとのこと。

「大丈夫。2年だよ。たった2年。」

と言ってVサインをしながら笑う顔が今でも忘れられないということでした。

2人は感激して、その青年の提案の通り、頑張ったそうです。

周りの反対はいつしか消えていて、逆に「もうそろそろ結婚したらええんじゃないか」と言われるくらいまでになっていたと。

タカオミさんは、なんと漁師をやめ、空港近くに引っ越し、建設の仕事を頑張り、必死に働いたそうです。

アキさんは新聞配達。牛乳配達。普通のお仕事。とにかくがむしゃらに働いたそうです。

2人の姿は、村の人たちの心を少しずつ変えていき、絆も深くなり、結婚式は村総出のいい式になったそうです。

旅の青年にもらった言葉は、今でも宝物で、二人は晩酌しながらラジオ体操第2の話から、旅の行程、言ってもらった言葉の数々。全部言えるとのこと。

たっくんのお話、アキさんタカオミさんのお話、私のお話、全てに鈴木さんが関係していることをアキさんにお話ししたところ、目からハンカチが外せなくなっていました。

アキさんは、しゃくりあげながら言いました。

「今さー、下の私の娘が付き合っている男の子がまた年下でさー。

鈴木さんに言ってもらった言葉を旦那が、また彼氏に言ってるのを聞いてさー、今日またこんな話聞いてさー。

私胸潰れそーだわ。感動だーこりゃ。」

と。感無量のアキさんでございました。

鈴木さん。奄美は熱いです。そして不思議です。

私は、怪我をしてここにおりますが、もし入院していなかったら、こんな話を聞くことができませんでした。

このえにしは、おもしろし! いとおかし!

いつかまた鈴木さん。一緒に飲みましょうよ。岡山で。いい店があります。

そのときはぜひ、新宿ハグ事件の続きのお話をしましょう。

ではまた。

古川より

福岡の白バイ

時間を戻そう。

青年は、30年後の自分の未来を知る由もなく、走り続けている。

諫早の「櫂」を辞してから長崎、そして佐賀をぬけ、意気揚々と福岡に入った。

しかし長時間の運転は、視界を狭め、注意力を散漫にさせ、さらにスピードが出る。

気がついた時には遅かった。

直線の、長い下り坂でサイレンが鳴った。

追い抜かれて、左に寄りなさいという合図。そのまま白バイに導かれて路側帯に停車。

スピード違反だ。

※ダックス号はいちおう、60キロまでは出せるのです。坂道でさらに加速してしまいました。(法定速度は時速30キロ)

白バイから降りてきたおじさんは、サングラスをかけている。超怖い。

白バイのおじさん:「スピード出し過ぎ。」

青年:「すみません。急いでしまいました。」

白バイのおじさん:「どこまで行くの?」

と言って、青年の横に立つ。サングラスの奥に、怒りの形相。

めっちゃ怖い。

青年は、身を捩って謝る。

謝るたびに車体が揺れる。揺れるたびにチリンと音がなる。

白バイのおじさん:「ちょっとその音。どこから?」

青年:「はい?」

白バイのおじさん:「どこだろう。」

そう言って、青年のバイクを観察し始めた。すぐにベルのお守りを見つけたおじさんは、青年の顔をまじまじと見つめて聞いた。

白バイのおじさん:「どこを走ってきたの?」

青年:「あ。すみません。この道をまっすぐ下ってきて・・・。」

白バイのおじさん:「違う。どこを旅して回ってきた?」

旅程を聞いているのだ。

青年が、大阪ー岡山ー香川ー徳島ー高知、まで言うやいなや、おじさんはそれを遮った。

白バイのおじさん:「キーホルダー、見せてもらっていい?」

青年は、ダックス号の横についている鍵穴からキーを抜いた。

その時またチリンと鳴った。

白バイのおじさんは、そのベルと青年の顔を交互に見ながら、尋ねた。

白バイのおじさん:「これを、どこで?」

青年はガソリンスタンドでいただいたくだりを丁寧に話した。そして話しているうちに、青年が気づいた。

青年:「え? もしかして? このベルを預けていった方? ですか?」

白バイのおじさん:「免許証を拝見。」

答えになっていない。

おそらく、おまわりさんとしては、こんな偶然があっていいのだろうか。いや、そんなことより職務に戻らなければならない、という観念が襲ってきたと見えて、突如警察官に戻った。

青年は、免許証を出す。それを見たおじさんは、顔を引き攣らせた。

白バイのおじさん:「えええええ。」

青年:「ど、どうしました?」

白バイのおじさん:「こ、幸一さん・・・ですか。」

青年:「はい。えっと、それが、何か?」

白バイのおじさん:「え。あ、その。うちの父と同じで。」

白バイのおじさんは動揺を隠しきれず、その顔はますます曇っていく。

やがて観念したように言った。

白バイのおじさん:「鈴木さん。すみません。ちょっとお話しするお時間をください。

職務中なので、喫茶店でというわけにはいきませんが、ここをしばらく走ると日陰ができる場所があります。そこまでご同行、願えますか?」

青年:「あ、はい、それはいいですが、その・・・切符は?」

白バイのおじさん:「切符は切ります。これは絶対に切らなくてはならないので、切ります。」

青年は、「切符切るんか〜い!」と思うが、こればっかりは規則なので仕方がない。それよりも、おじさんの真剣な表情が気にかかる。

もちろんついていきますよということで、エンジン始動。

父からのメッセージ

しばらく走ると、日陰に囲まれたバス停が見えてきた。

白バイからおりたおじさんは、サングラスもヘルメットも取り、青年に一礼した。

太い眉が、意思の強さを感じさせる。目鼻立ちもはっきりしていて、なんだかガイジンさんみたいなお顔だ。

白バイのおじさん:「自分の父は、アメリカのバイクが大好きで、自分もその影響か、大好きで。

よく後ろに乗せてもらったもんです。

しかし、父は四国一周してから帰ると言ったまま、帰らなかったんです。

スピードの出し過ぎです。

後ろに乗っていた、当時不登校に悩んでいた娘。自分にとったら姉ですね。

その姉の心をなんとか癒やそうという親子の2人旅だったんですが、父と姉、2人とも即死でした。」

青年は、あまりにショッキングな話であったのと、残された弟と母の気持ちを思うと涙が出そうになっていた。

白バイのおじさん:「それから13年経ちまして、自分も交通機動隊に配属されて、バイク事故の恐ろしさを伝える人間として生きてきて、いまだにバイク事故が減らない現状を悲しく思い、父と姉が死んだ場所に花を手向けたあと、このガーディアンベル作戦を思いつきました。

あとひとつ。

これを偶然もらった人は、きっと交通安全に気を付けるだろうし、命も守られる。そう思いまして。」

青年:「ああ。それなのに、すみません。交通違反・・・。」

白バイのおじさん:「いえ、それはいいんです。・・・いえ、よくありません! 

それよりも、自分がこのベルをもう一度見ることができたことが、父の答えだと思えたから今、こうやってお話ししています。」

青年:「お父さんの答え?」

白バイのおじさんは、このガーディアンベルの逸話を話しはじめた。

お父さんは、ツーリングクラブを発足し、アメリカンバイクのチームだったそうで、一時期は50人くらいの組織を束ねていた。

いたって真面目な暴走族と、自分では言っていたそう。

そこで、自分がデザインしたお守りを作りたい。となり、友人に依頼して作ったガーディアンベルが65個。

お父さんはそれを友人みんなにあげて、息子である白バイのおじさんの手元に残ったものは7つ。

その内の4つはどうしても欲しいという方に差し上げ、おじさん自身は最後の3つを持っていた。

その中のひとつはこれです。と見せてくれたのは、ヘルメットの上の窪みに入れてある巾着袋。

その中から、青年が持っているベルと同じものが出てきた。

もう一つは、お兄さんがガソリンスタンドで手渡されたこれ。

そして最後のもう一つは、うちの母が持っています。

「そして、父の名前が、幸一で。」

そこでおじさんは、一呼吸置いた。

白バイのおじさん:「ですから、あなたが、絶対に死んではいけない人なんだってことがわかりました。ですので、切符を切ります。」

青年は、やっとおじさんの気持ちがわかった。

本当は、こんなあり得ない出会い方をした感動は、見逃す方向に心が揺れるはず。

でも、あえて、何度も切りますと伝えているということは、この思いをお父さんに向けて言っているのだ。

自分は、人の命を守るためにこの仕事に就いた。

同じ苦しみを、他の人に味わわせることをしたくないから、あえて罰金を払い、点数が引かれることで、2度と違反をしないようにさせてあげたいのだ。

そしてお父さんも、青年の体を使って、息子の勇姿に会いにきた。

であれば青年は、お父さんにはなりきれないが、おじさんに向かって、お父さんからのメッセージを伝えてみよう、そう思った。

青年は白バイを見ながら、こう話しだした。

青年:「それにしてもかっこいいバイクだなあ。いいなあ。みんなの憧れ、白バイ。乗ってみたいなあ。僕はいつか、白バイにのるのが夢なんです。」

白バイのおじさんは返事はせず、必死に切符を書いている。

青年:「僕がなぜ四国が好きで回っていたかというと、どこに行っても人が温かくて、優しかったからです。

どんなに心が疲れても、どんなに人にどやされても、四国を巡れば、自分はひとりで生きてるんではないとわかります。

同行二人。必ず、横に誰かがいる。

そばに、大事な人がいる。

それがわかった時、きっと報われるんだと思うんです。」

白バイのおじさんは急に青年に背を向けた。

免許証の住所を書き写しているはずだ。

青年:「僕は、後悔はしていません。

スピードは出しちゃったけど、ベルを預けてくれた人に会えたことが最高のプレゼントですし、最高の思い出です。

短い間でしたが、この出会いに、感謝しています。

またどこかで会いましょう。」

振り向いたおじさんは、流れる涙をそのままに、青年の人差し指の指紋を取り、切符に押し付けた。

おじさんは「鈴木さん」と言ったが、自身の声が震えていることに気づき、少し間をあける。

白バイのおじさん:「いいですか。バイクは、一旦倒れると、死が待っていますからね。スピードを出しすぎたらそれだけ危険度が高まります。

あなたにも家族がいるでしょう。死んだらだめですよ。交通ルールを守って、どうか生き抜いてください。

これ、お返しします。」

そう言って、ガーディアンベルのついたキーを青年の手にそっと渡した。

そのまま、青年に向かって、敬礼。3秒間。

視線は青年ではなく、空を見上げて。

青年には、おじさんが、

「お父さん、ありがとう。」

と呟いた気がした。

おわりに

僕:「今回もありがとうございました。」

八幡様:「さて、そろそろ岡山に近づいていますが、準備はよろしいでしょうか?」

僕:「旅の終わり、ということでしょうか。」

八幡様:「いいえ。厳密にいうと、始まりです。あと3話でまとめていきましょう。」

僕:「はい。でも、うまくまとまるでしょうか・・・。」

八幡様:「大事なのは、文章でうまく表現しようと思いすぎないこと。これが映像になると思って描くのです。」

僕:「なるほど・・・。引き続き、がんばります!!」

ではまた次回、お愛しましょう♡

チリン♪

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