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母はひと晩の自由時間を得た

 急な展開でひと晩家を開け、自由にしてよいと家の人の同意を得たので、夕方から上田市に行ってきた。子供を産んでからというもの、特に夜の時間を自由に使えるのは久しぶりだ。

道中のこの鍵の看板、素敵。

『NABO』で初めてひとりで隅々まで書棚を楽む

 夕方に上田駅に降り立ち、まず本屋『本と茶「NABO」by VALUEBOOKS』を目指す。何度も来てはいるもののいつだって子供と一緒だったので自分が見たい書棚をサラっと見渡すのが精一杯だった。だからこうして全ての本棚の隅から隅までじっくりと観察できるのは至福の時間だ。1時間以上滞在して、3冊の本を手に取った。

NABOで購入した3冊。今日はこういう気分だった。SNSで気になっていた本もこのタイミングで

ゲストハウスとひと言で括れない『犀の角』

 宿は"〈シアター〉と〈ゲストハウス〉を備えた街中の文化施設" である『犀の角』。経営するご夫婦と知り合ってからかれこれ10年くらいになるし、なんども覗かせてもらっているにも関わらず、設備的な理由からだろうか子供の宿泊はできない宿なので、今回が初めての宿泊。
 部屋はコンパクトな個室を予約した。シングルベッドに小さなテーブル、壁にハンガーがあり、エアコンもある。階段を降りればすぐに広々したシャワー、水洗トイレ、洗面台があり、おそらく夜間は誰も使わないであろう洗面所でさえいつ行っても心地よくオイルヒーターで温められていて、「暖房代バカにならないだろうなぁ」という経営側の心配と「じんわりと温かい…ありがたい…」と客側の感謝が入り混じる。
 ちなみに『犀の角』は<シアター>と前述した通り、演劇設備を持つ。私がチェックインに訪れたときも日曜日の夕方ということもあり、関係者の皆さんが舞台をバラしているところだった。
 そして彼らは“雨風をしのぐ宿”『やどかりハウス』という顔も持つ。これは単なる(というと語弊があるかもしれないが)旅人に対して開かれたゲストハウスという側面だけではなく、「居場所を必要としている人へ、安心して過ごせる場を提供したい」という思いのもと、生活相談などを行っている『NPO法人場作りネット』と協働で運営している。リビングには、旅の宿泊者なのか『やどかりハウス』宿泊の方なのか、いろんな方がごちゃっと混ざっている。

これは朝撮った写真。

どこへ行くかよりも、どんな経験をするか

 今回の上田市逃避旅行の目的は、読書をする、そして貯まった仕事をするということ。観光は二の次というか、ただただ、自分の好きなこと、やりたいことに時間を費やすということ。
 私は本を持って『VACILANDO COFFEE(ヴァシランドコーヒー)』へお邪魔した。ちなみに、"vacilando" という聞きなれない言葉は、スペイン語の動詞だそうで(スペイン語を2年も大学で学んだ割に、まったく知らない単語だった…)。「どこへ行くかよりも、どんな経験をするかということを重視した旅をする」という意味だそう。そんな単語を店舗名につけられるだなんて、センスがいい…。閉店間際のお店でブレンドとケーキをいただく。そして本を読む。

インドア派の旅先の夜

 私はあまり外食欲がない方で、できればゆっくり邪魔をされずに食事をつまみながら、本を読みたい。そう思ったので、近所のTSURUYAでちょこちょこと買い込み、宿のリビングでいただく。食べ終わったら宿に併設しているカフェでドリンクをいただき、薪ストーブにあたりながらまた本を読む。夜遅くに子供を寝かしてまた出勤してきた『犀の角』店主であり、母友でもある舞さんと近況報告をする。
 私はいつもと違う布団、違った環境でも "ぼちぼち寝られる" というより、寝床が変わるのがけっこう好きな方だ。(自分の宿の外線が夜中3時に2度もかかってきたために起こされてはしまったが)よく眠れた。

喫茶店でで垣間見たそれぞれの人生の断片

 旅先の冬の朝はいつも以上に空気がシャンとして心地よい。少し耳の遠くなったようなおじいちゃんがやっている喫茶店でモーニングをいただく。カウンターに座る常連らしき年配の女性がマスターに「ねえ、ここのゴミ当番ってどうなってるのよ」と話かけたと思えば(マスターは耳が遠く聞こえていないようで返事はない)、年配の女性は「デコピンってなんでデコピンっていうのかしらね」とつぶやく。年配の男性は昨日東京でラグビーの試合を観戦したようでそんな話をしている。私の視界の端っこあたりに入っているそのおじいちゃん的男性の後ろ姿から、"東京" "ラグビー" という単語は似合わなかったのだが、そのギャップが楽しい。奥のテーブルではなぜか涙をポロポロ流しながら若い女の子がトーストをかじっている。喫茶店というのは、こうしていろんな人の居場所になり、それぞれの人生が交差しているのだな、と考える。
 その後、いくつかの行きたい場所に立ち寄りながら、私の上田市旅行は終了した。次の自由時間はいつだろう。子どもとの旅行ももちろん楽しいが、定期的にこういうひとり時間も楽しみたい。

いい建物だな、と見上げる。以前は両隣に建物があっただろうにいまや駐車場に挟まれている。
わかりづらいが、右の看板の"吉崎"には"口"がない。そして隣の"時計"の"口"は色が違う。この両者の"口"が気になる。

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