メタバースって結局どうなの? ということのまとめ その1

 最近やたらにメタバースが話題になっている。
 しかし、話を聞いているとどうも言葉だけが一人歩きしているような気配がある。

 ある人は「メタバースで今後の我々の生活が大きく変わる」というし、またある人たちは「VRがかつて大騒ぎされたのと同じように大したものにはならないんじゃないか」という。

 つまりまだみんなよくわからないのだ。
 そしてそんなよくわからないものに旧Facebookやマイクロソフトのような大企業が力を入れている。

 なんとも不思議な気がする。

 そもそもメタバースはそんなに儲かる見込みがあるものなのか。まあ、ないのなら大企業がそんなに力を入れるわけがない。だからあるのだろう、ということになる。

 ではどういう儲けの見込みがあるのかが問題だ。

 ・メタバースでもう一つの人生をというのは誇大広告

 先日旧Facebookこと「Meta」が発表したメタバースの戦略に関する映像を見ていると、まずいくつか疑問が浮かんだ。
 
 「我々はいずれ電脳空間のオフィスで、自分の分身、つまりアバターを使って働くことができるようになるだろう」と。
 これはまあいいだろう。
 しかし、メタバースの中で生活する、とまでしたらどうだろうか。

 我々が毎朝しているように、朝まず目を覚まして朝食をとる。
 そこから身支度をして会社に向かう。
 電車か、おそらく車を使うことになるだろう。

 ここで気になることがある。
 仮にメタバースの中にある土地や、物件を買い、そこに住んでいるとしよう。
 朝、メタバースにアクセスすると、窓の外には風景が広がる。
 家のドアを開けると外の空間に出られる。
 そうすると私たちはメタバースの中でもやはり住宅街のようなエリアからオフィス街へと時間をかけて「出勤」することになるのか。

 当然、そんなことを考えるのは馬鹿げているとみんな思うだろう。
 そもそもテレワークにしても、自宅で仕事ができることで作業の効率化を図るのが目的なのだから、仮想現実の中でも通勤や通学の手間がかかるというのはけしてあり得ない仮定なのだ。

 するとこうなる。

 「我々はおそらくメタバースの中に自分の部屋のようなものを持ち、そこからドアをひとつ開けて駅のホームのように、様々な空間に繋がっている場所へと向かい、仕事場や公園、商店街やイベントスペースに向かうことになる」と。

 何を当たり前のことをいっていると思われるかも知れないが、実はこの時点でメタバースの限界というものがある程度見えてくる。

 つまりメタバースは「現実の世界の生映し」ではなくて、あくまでも「複数の空間が連結されたもの」になるのだ。

 例えば買い物に出かける場合。メタバースの中に再現された都市の中でオンラインゲームのようにアバターを動かすか、あるいはVRゴーグルでリアルな商店街を歩くことになるだろう。

 だが問題はその「都市」の形なのだ。

 日本でいえば、おそらくそれは京都のような伝統的な景観を持つもの。あるいは渋谷のセンター街や秋葉原を再現した場所になるかも知れない。
 そういう街の中を我々をうろつきながら仮想空間でのショッピングを楽しむわけだ。

 だが、これもいうほど簡単ではない。

 例えばバーチャル秋葉原に雑居ビルを作ったとして、それが6階建てだったとする。
 これが現実の秋葉原であれば、我々はまず店の看板を見るなり、スマホで情報を調べるなりして階段をのぼったり、エスカレーターを使って目当ての店にいく。

 さて、ここで問題がまた起こる。

 メタバースの空間の中でそんな地道な散策をみんなしたがるのだろうか。
 それならばそのエリアにどんな店があるのかを全体のマップに表示し、アクセスするだけで訪問できるようにした方がはるかに便利だろう。
 その方が目的もなく街を歩き回るよりも、目的のものに効率よくたどり着くことができるし無駄がない。

 なんだかこういう話ばかりしていると意地が悪いように思われるが、私がいいたいのは「基本的に我々がしているような生活をネットの空間上でする」というのは効率が悪いということなのだ。
  
 インターネットをイメージしてもらえばいい。

 我々はまず検索サイトで、自分が調べたいと思う情報を入力する。そしてその求めている情報に適応していそうなサイトを探して訪問する。

 インターネット上にはそもそもどれだけ膨大なサイトがあるのかは誰も知らない。

 ブログなどもそうだ。
 数千、数万のユーザーが記事を書いていたとして、そのひとつひとつを訪問し、中身を確かめてみようとする人間はそう滅多にはいないだろう。

 ようするに我々はできるだけ手順を簡略化して自分の欲しいものを探すということに慣れ過ぎている。

 それにも関わらずメタバースの中では広大な都市空間を歩き回ることが楽しい、ということになるのだろうか。
 さすがにそんなに時間にゆとりのある人間ばかりではないだろう。

 ここからわかることはひとつだ。

 メタバースの都市空間はあくまで「簡略化の先にあるもの」であり「日常の延長ではない」。つまり無限に広がるスペースではなく、コンパクトにまとまった機能的なものでなくてはならないのだ。
 そうなれば当然「メタバースの中で生活をする」というのは、結局のところ作業の効率化が目的だということに気づくだろう。

 ・メタバースやMMORPGやVRchatの延長ではない

 このように見るとそもそもメタバースは多くのユーザー、あるいはプレイヤーといった方がいいかも知れないが、そうした人々が自由に内部を開拓するような世界を想定したものでもないというのがわかってくる。

 ここで最初の自室と住宅街、オフィス街の話に戻ろう。

 我々が知っているメタバースのイメージに近いゲーム。例えば「あつまれどうぶつの森」であるとか、「マインクラフト」のような場合、ユーザーは基本的に自分の与えられた土地で自由に資材を集め、開拓することができる。

 だがメタバースの中でそれぞれのユーザーが数万人の単位でこんなことをはじめてしまえば、そこには都市計画も何もないのだから、当然どうしようもないカオスな空間が出現することになる。
 
 アバターにしてもそうだ。

 オンラインゲームやVRchatの場合、ユーザーは基本的に服装なり、あるいはキャラクターの外見であるとかをカスタマイズしたりして、服をデザイン、モデルそのものを持ち込むことができる。

 そうすると我々は自分の好きなキャラクターや、ロボット、モンスターまで自分の好きなアバターを被りながら、でたらめに広大な都市をどこまでも歩き回ることになるわけだが、こんなことは今のメタバースに力を入れている企業は当然想定していないだろう。

 それは最近のメタバース関連のニュースを見ていてもわかる。

 例えばあるメタバースの土地が数十億円で売れただの、メタバースでのファッションをブランドを展開する企業があらわれただの……。

 もしもユーザー側がメタバースの中でキャラクターのアバターや土地開発を自由に行うことができるのであれば、こんなことは当然あり得ない。

 とくにファッションブランドなどは、ゲームのキャラクターをモチーフにした3Dモデルの場合、衣装はあらかじめできているか、欲しい衣装があればモデルごと変えてしまう方がよいのだからわざわざメタバースの内部で着るための服を買う必要などなくなってくる。

 この点ではメタバースの空間は、多くのオンラインゲームがそうであるように、基本的に開発を行うのは「運営側」ということになるだろうし、それぞれのメタバースの中で使用できるアバターや衣装もかなり限定されるだろう。

 つまり多くのユーザーに無償で与えられるのは「複数のメタバースの入り口となる自室と簡単な服装」くらいのものなのだ。

 そして部屋の家具にしても、新しい衣装にしても、メタバースできちんとしたライセンスを持っているものを使用する必要がある。
 
 なんだか夢のない話ではあるが、企業が何かのキャンペーンで配布するものであるとか、定額で発売される家具、衣装セットのようなものを買うことからメタバースでの生活ははじまるのかも知れない。

 しかしまだそれだけではない。
 メタバースの内部で土地売買が行われているということは、メタバース内の空間を利用できる権利が売り買いされているということになる。

 そうすると例えば我々がもしメタバースの中で何か商売をするとなると、まず土地の権利者から許可をもらい、出店料であるとか、そうしたものを払うことになるのだろう。

 さて、ここまで書いてくると

 「それはもうあんまり面白い世界じゃないんじゃないの? 普通にゲームやVRchatのが面白い」

 と思うだろう。
 
 しかしそれはユーザー側にとってのことであって、企業が管理するメタバースはそもそも企業にとっての利益こそ最優先であるのだから仕方のない話でもある。
 我々はむしろそこにどんな可能性があるかを考えた方がいいだろう。

 ・仮想通貨、デジタル資産、労働環境の提供こそメタバースの目的

 ここまでの話を振り返るとメタバースはどうやら一般のユーザーにとってはあまり自由度の高い空間ではないということになる。

 ただ遊びの場や、コミュニケーションだけを求めるのなら従来のSNSやオンラインゲームで十分かも知れない。

 ではそうした制約を上回るような価値があるのか。個人的にはある特定の人々にはあるのではないかと思う。

 例えばメタバースの中で独自の通貨を使うことになったとしよう。
 それはおそらくマイクロソフトなり、Metaなりの運営企業が発行する電子通貨になるのだろう。

 我々はその通貨を手に入れるためにまず現金等でそれをポイントとして購入するようになる。
 それは我々がスマホゲームなどでもよく行っている課金と変わらない。

 だが、もしその価値がドルや円の通貨のように「変動する」としたらどうだろうか。
 現在のところ仮想通貨というのは一種の投機対象としての側面が大きく、実際の支払いに活用するには不向きという印象が強い。
 これは価格の変動が激し過ぎるせいだろう。

 通貨というのはその価値をどこが担保しているのか、ということに大きく関わってくる。
 だが仮想通貨の場合、その発行者がどの程度の資産を持っているのかが不透明であるのに加え、国家の中央銀行と異なり、その国の景気動向や経済展望が関係しているわけではない。

 ようするに国境を越えた通貨という概念を作ることはできても、それをメインに使用する空間がないということになる。

 だがメタバースの場合、そこに誕生する空間は運営企業が作り出した仮想の都市であり、国家ともなり得る。

 「企業が国家を運営する」というと、さすがに冗談のように思うかも知れないが、現代ではこれも必ずしも荒唐無稽とはいえない。

 数年前からしばしば「タックス・ヘイブン」(租税回避地)を利用した政治家や資産家の脱税行為が問題視されているが、この対象とされる地域はいずれも金融業が主体であり、スイスを除けば小規模な国家が多い。

 ようするに現代では「資産」というものは必ずしも自国の通貨で持つものではなく、しかも必ずしも「現金」である必要さえないのだ。

 例えばあるメタバースのひとつが今後発展しそうであり、多くの収益が見込めるとなった場合に、そこで運用されている通貨は当然高騰することになるだろう。
 するとそれを見越して投資家が集まる。
 結果、仮想通貨がメタバースの発展と連動して変動する、というシステムが生まれることになる。

 もっともこれはあくまで理論上の話であって、実際のところそううまくいくかはわからない。
 だが、現状ではこれが最もメタバースに多くの企業が注目している理由であろうとも思える。
 
 もしも前近代であれば我々は未開な荒野を開拓して都市を作っていたわけだが、今やそうした土地は現実の世界には少なくなっている。
 いうなればメタバースとはそうした荒野をインターネットの中に作ろうという試みといえるだろう。

 するとファッションブランドをメタバース上で展開したい、という企業の思惑も見えてくる。

 先ほども述べたようにメタバースの中で一般ユーザーは自分のデザインした服や、3Dモデルを自由に動かすことはできない。
 むしろそれは企業にとっては邪魔でしかないのだ。

 だからこそ「メタバースの中の生活を充実させるためのもの」に価値をつけようとしてくる。
 ファッションブランドなどは当然そうした中で「複数のメタバースで利用できる衣装」を販売しようとするだろう。
 おそらくアバターも同じようになる。

 ここまで読んだところで

 「そんなもので生活したいと思う人間がいるわけがない」

 と考えるのはある種当然だろう。

 しかし、これが労働環境やイベントとセットになった場合、話はだいぶ変わってくる。

 日本のような先進国ではあまりすぐに結びつく発想ではないかも知れないが、例えばこのメタバースの中で企業がアルバイトを募集したとしてみよう。
 その報酬はメタバース内の通貨で支払われる。

 こうなると、例えばそれほど賃金の高くない途上国にいるエンジニアなどの場合、同じ時間を実世界で働くよりも、メタバース内で働いた方が高額の収入を得るということも可能なのだ。もちろんその場合の税金の対策などは必要となるだろうが。

 日本人であれば「でも正社員ではないんでしょ」という人もあるだろうが、そもそも世界には雇用環境がまだそれほどよくない国や地域も多い。
 そうした人々にとっては高額な報酬が見込めるメタバースはかなり魅力的な空間になり得る。

 また、ビジネスの場としてはどうだろうか。

 メタバースの場合、国という壁が存在しない、あるいは国ごとにチャンネルが分かれていたとしても、その敷居ははるかに低い。
 そうした中で、ひとつの企業が海外でビジネスをやろうとする。
 そうすると現地に詳しいアドバイザーなりが必要となってくる。

 もしメタバースの中にいくつもの企業がオフィスを構えた場合、例えばシンガポールで事業をしたい会社があり、現地に詳しいコンサルタントや法律家が必要となったときに、メタバース上でそうした相手を探してコンタクトをとり、直接話を聞くことがしやすくなる、というメリットはある。

 現在のビデオ通話を中心としたテレワークはある程度やり取りする人数が限られてしまうのに対して、メタバースの場合は企業訪問と同じように「必要な相手を探してコンタクトをとれる」という点では間違いなく優れているといえるだろう。

 まとめればメタバースはビジネスに特化した都市空間をネット上に作るということが現在のところ目標であり、基本的には運営の権限が極めて大きいものだが、それ以上にユーザーの受ける恩恵が大きいのであれば発達するし、小さいと思われればそれほどのものにはならない、ということになる。 


 ※一応ここまで 
 

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