シン・ウルトラマンのプロモーション戦略の巧みなところ ほんとにありがとう
シン・ウルトラマンを見てきたのでざっくり感想を書いてみたいと思います。今回は本編の内容にはあまり触れませんので、未見の方もご安心ください。
まずはシン・ウルトラマン。映画としての評判はやはり非常にいいようです。公開3日目の時点で興行収入は9億9千万円と、好評だったシン・ゴジラを上回る勢いで、このまま順調にいけば本年度全体でもかなり上位にいきそうな雰囲気です。
後出しのように思われるかもしれませんが、この映画は公開前から「たぶんヒットするんだろうな」と思っていました。
そういう雰囲気がすでにあったんです。
どこでそれを感じたかといいますと、ひとつは映画の主題歌に米津玄師を選んだという点でです。
まず、今回のウルトラマンのキャッチフレーズは
『そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン』
です。
ここで初代のウルトラマンを知っている人からすれば
「え、『来たぞ!われらのウルトラマン』じゃないの?」
と不思議に思った人も結構いたんじゃないかと思います。
このキャッチフレーズは初代ウルトラマンのメインテーマ曲の重要なサビの部分の歌詞で、劇場版の「ウルトラマンX」では正式なタイトルにもなっている、ウルトラマンの世界観そのものをあらわしたものでもあります。
いうならコンテンツとしては「多くのファンが知っている武器」になるものなんですが、それをあえて選ばずに、もっとマイナーなセリフをメインに置いたことにどんな意味があるのか。その回答が米津玄師の起用なんだろうと思いました。
米津玄師はPVを作るのに非常に「世界観」を重視するタイプのアーティストです。そうしますと、おそらくシン・ウルトラマンの本編でも視聴者がウルトラマンに対して感情移入できる部分を用意しているんだろうなとそれでわかったんです。
「怪獣と戦う特撮」という印象の強いウルトラマンという作品にある、遠い宇宙からの来訪者であるウルトラマンと人間との交流によって生まれるドラマというもうひとつの根底を重視する。これは挑戦として非常に面白いなと思いました。
次にザラブ星人の映像が出て、さらにメフィラスが名刺を出す場面を公開したことで、とくにシン・ウルトラマンにシン・ゴジラとの連続性を感じていた特撮好きの人々の予想を大きく裏切ることに成功したのも、これはすばらしかったです。
その予想というのはあくまで私個人のものでしたが、他の人も大体こんな感じだったのではないかと思います。
シン・ウルトラマンで最初に公開された映像を見てみますと、これは明らかに庵野監督が関わっている(今回庵野監督は「総監修」で監督ではありませんが)シン・ゴジラを意識しているなと、みんなに思わせるような内容でした。
「怪獣災害と戦うための特殊チーム」
「ウルトラマンという銀色の巨人」
このイメージからしますと
・たぶんウルトラマンの出現前に怪獣の出現が日本ではすでに何度も起きている
・そのたびにシン・ゴジラと同じように日本政府が総出で対処していたんだろう
・だから怪獣対策のための特殊チームのようなものが創設されている
・でも怪獣はそうするとあくまで自然災害の延長のようなもの
・宇宙人が出てくる余地はなさそう
・そうするとウルトラマンの戦いも、人間の手に負えない災害(強い怪獣)から人類を守る存在として描かれることになるのだろうか
と思ってしまう人はかなり多いわけです。
実際にウルトラマンの漫画版では巨大怪獣を命がけで倒したウルトラマンが宇宙の彼方に去っていくところで終わり、というものもあるので(一峰大二版『ウルトラマン』)、もしかするとシン・ウルトラマンもそういう終わり方にするんじゃないか、などと、なまじ知識のある人ほど考えてしまうことになったのではないでしょうか。
そうした予想をメフィラスの登場シーンはすべて打ち砕いてしまいました。
怪獣は人類にとってあくまで「巨大生物」であって、どんな強力な能力を持っていようが基本は自然災害と同じです。
ですが宇宙人は地球外の生命体であり、他の惑星から地球にやってくる技術を持っている人間よりもはるかに高度な存在です。
こうなると「自然災害」である怪獣退治を目的にした特殊部隊では、宇宙人を相手にすることは一気に難しくなってきます。
さらに映像に登場するザラブとメフィラスはウルトラマンの登場宇宙人の中でもはじめから地球を侵略しようという意図で計画を練ってきている、かなり狡猾なタイプです。
それだけにこの二人の宇宙人が出てくるということは、ウルトラマンという宇宙人と、ザラブ、メフィラスという宇宙人同士の駆け引きの間に人類が巻き込まれていく、というドラマ性が必然的に出てくることになるわけですが、そこに重点を置くのならこれは間違いなく面白い作品になるだろうなと確信しました。
人間の味方をする宇宙人のウルトラマンと、地球を侵略しようとする宇宙人たちとの戦い。
これは初代のウルトラマンよりはウルトラセブンでとくに大きな主題となった部分ですが、今の時代にウルトラマンという作品をあらためて作るのであれば、こうした回答はありだろうなと思いました。
同時にこうしたプロモーション戦略を考えたシン・ウルトラマンはほんとにすごいと思いました。
ですから、それがヒットして大きな話題になっているのは、まさにまずは戦略の勝利だといえると思います。
日本の特撮で過去にこれだけ当たった広告戦略ははじめてではないでしょうか。
内容についてはまた別に書いていきたいと思いますが、今回のシン・ウルトラマンは今後ウルトラマンというコンテンツがさらに大きな飛躍をする上において、きわめて大きな一歩を踏み出すことに成功したのは確かでしょう。
これは昭和のウルトラマンが好きだった世代として、とてもうれしいと感じています。
ですので、今後はぜひ続編の『シン・ウルトラセブン』も見たいと思ってしまうのですが、それはいささか早急な贅沢として、まずは心からファンとしてウルトラマンの成功を喜びたいと思います。いやあ、ほんとにいいものを見させていただきました。ありがとうございます。
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