見出し画像

【SSC/コネタ】11月12日15時(11日39時)

* ルルクが現代日本にある商品名を叫んだりなんだりしているので、いつもながら、ありとあらゆる細かいことを気にしない方向けです。 *



 気が付いたのは突然だった。今日は十一月十二日である。十二日ということは、つまり昨日が十一日である。十一日が終わっている。なぜなら昨日が十一日だったからである。ルルクは永遠に反復横跳びしそうな意識をぶん殴り、ぎしぎしと首を動かして窓の外を見た。世界はすでに昼過ぎである。遅いが過ぎた。朝からどうも、祭事が終わった後特有のさわさわとした名残の空気が漂っているような気がしていたら、案の定見落としがあったということで。
 このところのルルクは多忙であった。『学園』の勉強の傍らでせっせと『お屋敷』の学びを積み重ね、そうしながらソキの世話をあれこれと焼き、ちょっとした用事があって実家と手紙を幾度となく往復させ、休む間などなかった。それにしても、一年に一度、毎年あることなのに。ぎぎぎ、とした動きで頭を抱えたルルクに、ソキがぱちくり目を瞬かせる。ロゼアが微笑んでソキを抱え上げ、その場を離脱しようとした、その瞬間だった。
 虫のような動きで椅子に座ったまま飛び跳ね、かけて。ごととがっ、がったーんっ、とものすごい音を立てて床に倒れこんだルルクが、肺活量を思うさまいかした、ハキハキとした大声で嘆きをぶちまける。
「やだぁああああぁあぁあポッキー&プリッツの日終わっちゃったあぁあぁあああ!」
「ぴゃっ!」
『よくもまぁ毎回毎回、それだけ奇行に走れるものねアンタは……』
 呆れと怒りを通り越したしみじみとした関心の視線を受け、ルルクは床の上でうごうごとうごめき呻きながら、しょんぼりとした様子で頷いて見せた。
「世にあるありとあらゆる商業的な祭りに、積極的に乗っかって生きていきたい……。生きていきたいのに……。えっ、悲しい……悲しい……。うーん、十一日の三十九時ということでなんとか……?」
『床に転がりながら考えるのやめなさいよ』
「奇行、大声、動き、なにもかも駄目なんですが?」
 ソキの『世話役』としては、これが試験中なら減点を通り越して一発不合格である。ソキ本人はルルクという存在に慣れ始めてしまった為、大きな音や声に驚いただけで、あとはなにやらわくわくした目でルルクを見ているのが不幸中の幸い、といった所だろうか。ルルクはごめんねー、という今一つ反省の薄い声でもそもそと起き上がると、なぎ倒した椅子を元に戻し、服の埃を払い、すとん、と座面に腰掛けなおした。
「ロゼアくん棒菓子持ってない? もうこの際だから細長い食べ物だったらなんでもいい」
「……申し訳ありませんが、形状が危ないことが多いので、なんとも」
「あぁー、そうだよねー。ソキちゃんには特に劇毒物になりかねないもんねぇ、味とか」
 チョコレートは特に、『花嫁』にはそういう扱いであるからにして。分かっているのなら話題を選んでください、というロゼアからの小言を右から左に投げ捨てる顔をして、ルルクはそれじゃあ仕方がないね、と言って立ち上がった。
「待ってて! クッキーを細長い棒状にして焼いて、羊羹溶かしてかけてくる! 今日のおやつにしよ!」
「おやつですぅー!」
『ソキ、都合のいい所だけ抽出して聞くのはやめなさいって、アタシは昨日も言ったわよね?』
 きゃぁんとはしゃぐソキを妖精が叱っている間に、ルルクは風のようにいなくなってしまった。ロゼアが息を吐きながらソキを抱きなおす。とある午後のことだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?