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価格理論 (消費者/生産者/均衡理論)

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ミクロ経済学の主要分野の1つである価格理論に関する記事のまとめ。消費者や企業の行動、そして両者が直面する市場メカニズムの特徴に関する原理・原則を学ぶ。
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価格理論のエッセンス | 日曜経済学者

連載シリーズ「価格理論(消費者理論・生産者理論・均衡理論)」の全章をリスト化し、それらのエッセンスを章別に概説した。理論の全体観の整理や各章の要点確認など学習の参考になれば幸いである。また、記事作成にあたり収集した参考文献も末尾に全てリストアップしている。 「価格理論」とは価格理論の本質を一言で表せば、我々個人や社会全体が満足度を最大化するために、「市場」という資源配分メカニズムを採用すべきかを問うことである。逆に「市場」が有効に機能を果たすためには、消費者や企業、政府がど

生産者理論(1):生産集合

前回までは、価格理論のうち消費者理論を取り扱ったが、今回からは古典的な生産者理論を取り扱う。今回は、生産者(主に企業)を特徴づける生産集合の性質と生産ベクトルの解釈について整理する。連載はこちら。 経済学における企業の捉え方伝統的なミクロ経済学(価格理論)では、企業が市場の中で果たす中心的な役割を明確に捉えるため、企業の内部は捨象し、生産要素を投入すると生産物を産み出すブラックボックスとして捉える。 一方、組織内部では制度や規則、慣習など価格メカニズムとは本質的に異なる力

生産者理論(2):生産の効率性

前回は、生産者が技術的に選択可能な生産ベクトルからなる集合を生産集合として定義した。今回は生産の効率性の概念を導入し、生産集合のうち効率的な生産ベクトルが満たす性質を学ぶ。また、効率的な生産ベクトルを扱う上で利便性の高い変換関数、生産関数を導入する。連載はこちら。 効率生産集合狭義効率生産集合 $${N}$$種類の商品が存在する経済において、生産ベクトル$${y}$$は純産出量の組として$${y=(y_1,\cdots, y_N)\in \mathbb{R}^N}$$とし

生産者理論(3):利潤最大化問題

生産者が自身の生産技術を所与とした場合の利潤最大化行動を考える。今回導入される最大化問題の解集合や価値関数といった概念は、消費者理論における効用最大化問題・支出最小化問題と形式的に非常に類似しており、重複する証明は割愛するため以下の連載から参照されたい。 利潤最大化問題価格体系$${p}$$の下での利潤最大化問題は、以下のように定式化される。 この最大化問題の解の集合$${y(p)}$$が一意に定まる時、これを供給関数という。利潤最大化問題の定式化の背後には以下の重要な仮

生産者理論(4):費用最小化問題

生産者が自身の生産技術を所与とした場合の費用最小化行動を考える。今回導入される概念は、前回の利潤最大化問題や消費者理論における効用最大化問題・支出最小化問題と形式的に非常に類似しており、重複する証明は割愛するため、以下の連載から参照されたい。 費用最小化問題$${Y}$$は任意の$${\bar y \in Y}$$と任意の$${n<N}$$について$${\bar y^n≤0}$$を満たすとし、$${f:\mathbb{R}_+^{N-1}\rightarrow \mathb

均衡理論(2):部分均衡分析

前回、集計により求めた市場需要関数と市場供給関数を用いて、市場における均衡概念を導入する。今回は主要な均衡理論:一般均衡理論と部分均衡理論の差異をまとめつつ、部分均衡の分析について議論する。連載はこちら。 市場需要と市場供給消費者が$${K}$$人、生産者が$${J}$$社参加する市場経済を考える。ある財$${n}$$に対する消費者$${k}$$の需要を$${D_k^n(p)}$$とすると、前回の通り消費者の準線形効用を仮定することで、市場全体の需要(市場需要)を以下のよう

均衡理論(3):経済の記述

前回の部分均衡理論に続き、一般均衡理論の議論に入る。今回は議論のセットアップとして、経済の記述方法と効率性の定義、更に価格メカニズムによって達成される価格均衡の定式化を行う。連載はこちら。 経済の記述$${N}$$種類の財、$${I}$$人の消費者と$${J}$$社の企業$${(N, I, J < \infin)}$$からなる経済$${E}$$を考える。各消費者$${i=1, \cdots, I}$$は消費集合$${X_i \subset \mathbb R^N}$$と$$

均衡理論(4):厚生経済学の第一基本定理

今回と次回で、ミクロ経済学において最も重要な帰結である「厚生経済学の基本定理」を学ぶ。これは価格均衡と効率的配分の関係を特徴づける定理であり、完全競争市場における需給均衡分析の核心であると言える。定理は第一基本定理と第二基本定理からなるが、今回は前者を取り扱い、均衡により望ましい資源配分を実現するための条件について議論する。連載はこちら。 前回、一般均衡分析の準備として経済の記述方法を議論し、その中で効率的な資源配分の指標であるPareto効率性、「価格メカニズム」により全

均衡理論(5):厚生経済学の第二基本定理

前回に続き、ミクロ経済学において最も重要な帰結である「厚生経済学の基本定理」を学ぶ。今回は第二基本定理を取り扱い、任意のPareto効率的な配分を価格均衡により達成するための条件について議論する。連載はこちら。 証明の準備弱Pareto効率性と価格準均衡 厚生経済学の第一基本定理の逆は成り立つだろうか。その疑問に答えるものが、厚生経済学の第二基本定理である。まず、この定理に現れる弱Pareto効率性、価格準均衡を定義する。これらはそれぞれPareto効率性、価格均衡よりも

均衡理論(6):私有経済

前回までに厚生経済学の第一・第二基本定理を導入した。今回は、単純な私有経済モデルであるEdgeworth Box経済とRobinson Crusoe経済から、価格メカニズムが如何に需給を調整し、それが動学的なマクロ経済モデルに如何に応用されるかに関する基礎的な議論を取り扱う。連載はこちら。 私有経済とWalras均衡私有経済とは誰が何を所有しているかが定まっている経済のことである。つまり、各消費者$${i=1, \cdots, I}$$の財の賦存量$${\omega_i \