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価格理論 (消費者/生産者/均衡理論)

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ミクロ経済学の主要分野の1つである価格理論に関する記事のまとめ。消費者や企業の行動、そして両者が直面する市場メカニズムの特徴に関する原理・原則を学ぶ。
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#経済

価格理論のエッセンス | 日曜経済学者

連載シリーズ「価格理論(消費者理論・生産者理論・均衡理論)」の全章をリスト化し、それらのエッセンスを章別に概説した。理論の全体観の整理や各章の要点確認など学習の参考になれば幸いである。また、記事作成にあたり収集した参考文献も末尾に全てリストアップしている。 「価格理論」とは価格理論の本質を一言で表せば、我々個人や社会全体が満足度を最大化するために、「市場」という資源配分メカニズムを採用すべきかを問うことである。逆に「市場」が有効に機能を果たすためには、消費者や企業、政府がど

消費者理論(4):効用最大化問題

消費者の好みを反映した効用関数をベースに、予算の制約下で消費者が採る最適な消費行動がどのような性質を持つかを議論する。連載はこちら。 予算制約式と効用最大化問題効用関数の導入により、消費者の合理的行動(選択肢$${S}$$内の任意の$${x}$$に対して$${x^*≻x}$$となるような$${x^*}$$を選択する行動)は効用最大化問題の解として解析的に取り扱うことが可能となる。但し、現実的には無限に財を購入し消費することは不可能であるため、有限の予算制約の中で効用を最大に

消費者理論(5):需要の性質

効用最大化問題の解である最適消費の価格・所得依存性や需要関数が満たす性質を明らかにする。更に需要関数を、(観測不可能な効用関数からではなく)測定可能な量に基づき推定する方法を学ぶ。連載はこちら。 最適消費と所得・価格の変化所与の予算制約式$${p\cdot x=I}$$の下での効用最大化問題の解$${x^*}$$を最適消費計画という。$${x^*}$$は価格$${p}$$と所得$${I}$$に依存して決まる。一般に$${x^*}$$は集合となるが、一意に定まる場合の$${x

消費者理論(6):支出最小化問題

消費者がある効用水準を実現するための最小支出を選択する消費行動を考え、効用最大化問題との対比を踏まえて整理する。更に直接は観測が難しい支出関数を、測定可能な量に基づき推定する方法を学ぶ。連載はこちら。 支出最小化問題ここまで消費者の合理的行動を効用最大化問題の解として取り扱ってきたが、以下のような支出最小化問題の解として考えることも可能である。すなわち消費者には目標とするある効用水準$${u}$$(定数)があり、それを実現する消費計画$${x}$$の中で支出$${p\cdo

消費者理論(7):Slutsky方程式

ここまで議論してきた、効用最大化問題と支出最小化問題の相互の関係性を整理し、消費者理論の最重要テーマである「財の需要量は市場価格の変化にどう反応するか」を考える。連載はこちら。 消費の双対性消費者が予算$${I}$$の下で消費計画$${x}$$を達成し効用$${u}$$を得た場合、消費者はそれを「予算制約下で最大効用を実現する消費を選択した(効用最大化)」とも、「目標効用を達成する消費のうち最小予算となるものを選択した(支出最小化)」とも見ることができる。これを消費の双対性

生産者理論(1):生産集合

前回までは、価格理論のうち消費者理論を取り扱ったが、今回からは古典的な生産者理論を取り扱う。今回は、生産者(主に企業)を特徴づける生産集合の性質と生産ベクトルの解釈について整理する。連載はこちら。 経済学における企業の捉え方伝統的なミクロ経済学(価格理論)では、企業が市場の中で果たす中心的な役割を明確に捉えるため、企業の内部は捨象し、生産要素を投入すると生産物を産み出すブラックボックスとして捉える。 一方、組織内部では制度や規則、慣習など価格メカニズムとは本質的に異なる力

生産者理論(2):生産の効率性

前回は、生産者が技術的に選択可能な生産ベクトルからなる集合を生産集合として定義した。今回は生産の効率性の概念を導入し、生産集合のうち効率的な生産ベクトルが満たす性質を学ぶ。また、効率的な生産ベクトルを扱う上で利便性の高い変換関数、生産関数を導入する。連載はこちら。 効率生産集合狭義効率生産集合 $${N}$$種類の商品が存在する経済において、生産ベクトル$${y}$$は純産出量の組として$${y=(y_1,\cdots, y_N)\in \mathbb{R}^N}$$とし

生産者理論(3):利潤最大化問題

生産者が自身の生産技術を所与とした場合の利潤最大化行動を考える。今回導入される最大化問題の解集合や価値関数といった概念は、消費者理論における効用最大化問題・支出最小化問題と形式的に非常に類似しており、重複する証明は割愛するため以下の連載から参照されたい。 利潤最大化問題価格体系$${p}$$の下での利潤最大化問題は、以下のように定式化される。 この最大化問題の解の集合$${y(p)}$$が一意に定まる時、これを供給関数という。利潤最大化問題の定式化の背後には以下の重要な仮

生産者理論(4):費用最小化問題

生産者が自身の生産技術を所与とした場合の費用最小化行動を考える。今回導入される概念は、前回の利潤最大化問題や消費者理論における効用最大化問題・支出最小化問題と形式的に非常に類似しており、重複する証明は割愛するため、以下の連載から参照されたい。 費用最小化問題$${Y}$$は任意の$${\bar y \in Y}$$と任意の$${n<N}$$について$${\bar y^n≤0}$$を満たすとし、$${f:\mathbb{R}_+^{N-1}\rightarrow \mathb

生産者理論(5):1生産物モデル

今回は、ここまで議論した生産集合の性質や最適化問題をベースに、生産要素と生産物を事前に区別できる場合に用いられる1生産物モデルを導入し、その関数表現となる生産関数の性質を整理する。連載はこちら。 1生産物モデル生産者は原材料や労働力などの生産要素を市場で購入し、それらを利用して新たな生産物を作り出し、市場で販売する。生産者の選択肢はどの財をどれだけ投入しどれだけ生産するか、その組み合わせに相当する生産計画として表現可能である。 分析対象となる生産者にとって、経済に存在する

生産者理論(6):生産費用

生産者理論(4)にて、費用最小化問題の解集合としての条件付要素需要関数、価値関数として費用関数を導入した。今回はそれらをベースに、生産者の技術や生産要素の性質を考慮し分析することで生産費用の諸概念を明らかにし、それらの幾何学的関係を整理する。連載はこちら。 生産費用の諸概念以下の議論では、前回整理した生産集合の5つの性質を仮定し、それぞれ以下の通り生産関数を用いて表現する。 また、長期生産関数においては追加で以下の性質も仮定する。 可変費用と固定費用 まず、生産費用の

生産者理論(7):利潤と会計利益

ここまで議論してきた生産関数や生産費用の概念を用いて、企業の利潤最大化行動を分析する。ミクロ経済学上の「利潤」と会計上の「利益」の橋渡し役となるLegendre変換を導入することで、価格や利潤などの会計情報がミクロ経済学上も重要な情報を要約していることが示唆される。連載はこちら。 利潤と会計利益等利潤曲線と生産関数 生産者理論(3)で導入した利潤最大化問題では、生産ベクトル$${y=(y_1, \cdots, y_N)\in \R^N}$$を純産出量の組として、以下のよう

均衡理論(1):消費者と生産者の集計

前回までは、個別の消費者や生産者の最適化行動を取り扱ってきた。今回は、消費者や生産者が複数存在する市場経済において、市場全体の需要関数や供給関数が、個別の需要関数や供給関数の総和として表現されるために満たすべき条件を明らかにし、均衡分析の準備を行う。連載はこちら。 生産者の集計$${J}$$社の生産者が存在する生産セクターを考える。第$${j}$$番目の生産者は$${Y_j}$$で表され、各$${Y_j}$$に対し供給関数、利潤関数が定義できる。この生産セクター全体の生産集

均衡理論(2):部分均衡分析

前回、集計により求めた市場需要関数と市場供給関数を用いて、市場における均衡概念を導入する。今回は主要な均衡理論:一般均衡理論と部分均衡理論の差異をまとめつつ、部分均衡の分析について議論する。連載はこちら。 市場需要と市場供給消費者が$${K}$$人、生産者が$${J}$$社参加する市場経済を考える。ある財$${n}$$に対する消費者$${k}$$の需要を$${D_k^n(p)}$$とすると、前回の通り消費者の準線形効用を仮定することで、市場全体の需要(市場需要)を以下のよう