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価格理論 (消費者/生産者/均衡理論)

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ミクロ経済学の主要分野の1つである価格理論に関する記事のまとめ。消費者や企業の行動、そして両者が直面する市場メカニズムの特徴に関する原理・原則を学ぶ。
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2023年11月の記事一覧

生産者理論(1):生産集合

前回までは、価格理論のうち消費者理論を取り扱ったが、今回からは古典的な生産者理論を取り扱う。今回は、生産者(主に企業)を特徴づける生産集合の性質と生産ベクトルの解釈について整理する。連載はこちら。 経済学における企業の捉え方伝統的なミクロ経済学(価格理論)では、企業が市場の中で果たす中心的な役割を明確に捉えるため、企業の内部は捨象し、生産要素を投入すると生産物を産み出すブラックボックスとして捉える。 一方、組織内部では制度や規則、慣習など価格メカニズムとは本質的に異なる力

生産者理論(2):生産の効率性

前回は、生産者が技術的に選択可能な生産ベクトルからなる集合を生産集合として定義した。今回は生産の効率性の概念を導入し、生産集合のうち効率的な生産ベクトルが満たす性質を学ぶ。また、効率的な生産ベクトルを扱う上で利便性の高い変換関数、生産関数を導入する。連載はこちら。 効率生産集合狭義効率生産集合 $${N}$$種類の商品が存在する経済において、生産ベクトル$${y}$$は純産出量の組として$${y=(y_1,\cdots, y_N)\in \mathbb{R}^N}$$とし

生産者理論(3):利潤最大化問題

生産者が自身の生産技術を所与とした場合の利潤最大化行動を考える。今回導入される最大化問題の解集合や価値関数といった概念は、消費者理論における効用最大化問題・支出最小化問題と形式的に非常に類似しており、重複する証明は割愛するため以下の連載から参照されたい。 利潤最大化問題価格体系$${p}$$の下での利潤最大化問題は、以下のように定式化される。 この最大化問題の解の集合$${y(p)}$$が一意に定まる時、これを供給関数という。利潤最大化問題の定式化の背後には以下の重要な仮

生産者理論(4):費用最小化問題

生産者が自身の生産技術を所与とした場合の費用最小化行動を考える。今回導入される概念は、前回の利潤最大化問題や消費者理論における効用最大化問題・支出最小化問題と形式的に非常に類似しており、重複する証明は割愛するため、以下の連載から参照されたい。 費用最小化問題$${Y}$$は任意の$${\bar y \in Y}$$と任意の$${n<N}$$について$${\bar y^n≤0}$$を満たすとし、$${f:\mathbb{R}_+^{N-1}\rightarrow \mathb

生産者理論(5):1生産物モデル

今回は、ここまで議論した生産集合の性質や最適化問題をベースに、生産要素と生産物を事前に区別できる場合に用いられる1生産物モデルを導入し、その関数表現となる生産関数の性質を整理する。連載はこちら。 1生産物モデル生産者は原材料や労働力などの生産要素を市場で購入し、それらを利用して新たな生産物を作り出し、市場で販売する。生産者の選択肢はどの財をどれだけ投入しどれだけ生産するか、その組み合わせに相当する生産計画として表現可能である。 分析対象となる生産者にとって、経済に存在する

生産者理論(6):生産費用

生産者理論(4)にて、費用最小化問題の解集合としての条件付要素需要関数、価値関数として費用関数を導入した。今回はそれらをベースに、生産者の技術や生産要素の性質を考慮し分析することで生産費用の諸概念を明らかにし、それらの幾何学的関係を整理する。連載はこちら。 生産費用の諸概念以下の議論では、前回整理した生産集合の5つの性質を仮定し、それぞれ以下の通り生産関数を用いて表現する。 また、長期生産関数においては追加で以下の性質も仮定する。 可変費用と固定費用 まず、生産費用の