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価格理論 (消費者/生産者/均衡理論)

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ミクロ経済学の主要分野の1つである価格理論に関する記事のまとめ。消費者や企業の行動、そして両者が直面する市場メカニズムの特徴に関する原理・原則を学ぶ。
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2023年9月の記事一覧

消費者理論(1):選好と合理性

近代経済学、特にその主流である新古典派経済学の根幹となる仮定、「選好」をベースとした主体の選択行動、選好の「合理性」についてまとめた。連載はこちら。 選択行動と選好社会における経済主体(個人や企業等)の振る舞いを、経済学ではどのように記述するか。その最も根幹にある重要な仮定は、以下の2点だろう: 主体がある行動をとるのは、その主体が数ある選択肢の中からその行動をとるという選択を行ったためである(選択行動) 主体が数ある選択肢の中からその選択を行ったのは、その主体にとって

消費者理論(2):効用関数

今回は、前回定義した合理的な選好関係を数値的に表現し、選好の量的比較を可能にする効用関数の概念を導入する。連載はこちら。 消費集合と消費ベクトル選好関係$${≿}$$の合理性を定義する際、「選好関係が定義される集合$${X}$$に属する任意の$${x, y}$$」を導入した。より正確には、$${x, y}$$は$${N}$$種類の財(商品/サービス)からなる経済を想定した時、消費者が直面する個々の選択肢を表現した$${N}$$次元の消費ベクトル、$${X}$$は消費者が選択

消費者理論(3):無差別曲線

前回定義した効用関数を用いて、消費者へ同じ効用をもたらす消費の集合を表した無差別曲線を導入し、消費者の好みに関する様々な性質が、無差別曲線の形状にどのような特徴をもたらすかを議論する。連載はこちら。 無差別集合と無差別曲線ある消費ベクトル$${x}$$に対し、それと同等かより好ましい消費ベクトルの集合である上方位集合$${\{y \in X | y≿x\}}$$、$${x}$$と同等かより好ましくない消費ベクトルの集合である下方位集合$${\{y \in X | x≿y\}

消費者理論(4):効用最大化問題

消費者の好みを反映した効用関数をベースに、予算の制約下で消費者が採る最適な消費行動がどのような性質を持つかを議論する。連載はこちら。 予算制約式と効用最大化問題効用関数の導入により、消費者の合理的行動(選択肢$${S}$$内の任意の$${x}$$に対して$${x^*≻x}$$となるような$${x^*}$$を選択する行動)は効用最大化問題の解として解析的に取り扱うことが可能となる。但し、現実的には無限に財を購入し消費することは不可能であるため、有限の予算制約の中で効用を最大に

消費者理論(5):需要の性質

効用最大化問題の解である最適消費の価格・所得依存性や需要関数が満たす性質を明らかにする。更に需要関数を、(観測不可能な効用関数からではなく)測定可能な量に基づき推定する方法を学ぶ。連載はこちら。 最適消費と所得・価格の変化所与の予算制約式$${p\cdot x=I}$$の下での効用最大化問題の解$${x^*}$$を最適消費計画という。$${x^*}$$は価格$${p}$$と所得$${I}$$に依存して決まる。一般に$${x^*}$$は集合となるが、一意に定まる場合の$${x

消費者理論(6):支出最小化問題

消費者がある効用水準を実現するための最小支出を選択する消費行動を考え、効用最大化問題との対比を踏まえて整理する。更に直接は観測が難しい支出関数を、測定可能な量に基づき推定する方法を学ぶ。連載はこちら。 支出最小化問題ここまで消費者の合理的行動を効用最大化問題の解として取り扱ってきたが、以下のような支出最小化問題の解として考えることも可能である。すなわち消費者には目標とするある効用水準$${u}$$(定数)があり、それを実現する消費計画$${x}$$の中で支出$${p\cdo

消費者理論(7):Slutsky方程式

ここまで議論してきた、効用最大化問題と支出最小化問題の相互の関係性を整理し、消費者理論の最重要テーマである「財の需要量は市場価格の変化にどう反応するか」を考える。連載はこちら。 消費の双対性消費者が予算$${I}$$の下で消費計画$${x}$$を達成し効用$${u}$$を得た場合、消費者はそれを「予算制約下で最大効用を実現する消費を選択した(効用最大化)」とも、「目標効用を達成する消費のうち最小予算となるものを選択した(支出最小化)」とも見ることができる。これを消費の双対性