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企業価値評価

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株式投資などで馴染み深い企業価値評価やファンダメンタルズ分析に関する歴史や実践的な技法を振り返り、企業の本源的価値に関する洞察を深める。ミクロ経済学、金融経済学、会計学の学際領域…
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2023年9月の記事一覧

企業の「本源的価値」を巡る三大革命(1)

企業の本源的価値とは何か。我々はそこにあると信じた価値を、いかに「発見」し、「形作って」きたのか。今日の投資・経営実務でなじみ深い数々の分析手法が編み出されてきた歴史を紐解くことで、我々の企業「価値観」がいかに形成されてきたのかを探訪したい。 革命前夜:その価値は、砂上の楼閣か?今日「ファンダメンタルズ投資」として知られる企業価値評価法の最も根本的な思想は、上記のようなものだろう。これ自体は株式に限らず広い意味での資産価値評価に通ずる伝統的な価値観ではあるものの、この思想に

企業の「本源的価値」を巡る三大革命(2)

前回のあらすじ 企業に本源的価値という「絶対的な真実」は存在するかー。歴史上初めて株式の本源的価値の公式を明らかにしたWilliamsは「株式価値とは企業が将来生み出す配当の期待値を、投資家の期待収益率によって割り引いた現在価値である」と主張した。それにより配当の源泉となる損益会計が、企業価値評価に決定的意味を持つに至ったが、それは同時に、歴史的文脈や作成者の意図と本質的に不可分な会計によって映し出される企業価値もまた絶対的ではなく「相対的な真実」だということを意味していた。

企業の「本源的価値」を巡る三大革命(3)

前回のあらすじ 配当割引モデル(DDM)をベースとしつつ、会計の人間的・総合的側面を重視したフロー型アプローチで企業の「相対的な真実」を描き出すそれまでの企業「価値観」に対し、20世紀に急速に発展したファイナンス理論が描こうとした価値観は、科学的・客観的側面を重視したストック型アプローチに基づく公正価値評価という「絶対的な真実」であった。会計の恣意性を排除しDDMの根底を揺さぶるファイナンス理論は、非現実的な仮定がもたらす脆弱性を抱えており、論争は混迷を極める。企業の「本源的