大塚恭司監督『東京アディオス』を観よう。
こんにちはプチ鹿島です。
10月11日(金)からシネ・リーブル池袋にて公開される『東京アディオス』。
今回はこの映画について書きます。
というのも監督の大塚恭司さん。この方はテレビ史に残る仕事をしてきた人なのです。まさに奇才。
いくつか例を挙げると、
Mr.マリックさん。
バブルの頃に日本テレビに登場し、空前のブームが起きました。その仕掛け人が大塚恭司さんなのです。
※現在マリックさんは山梨・YBS放送のワイドFMのキャンペーンキャラクターをやってます。YBSラジオで番組を持つ私は毎週このポスター見てます。きてます。
1992年には『演歌なアイツは夜ごと不条理な夢を見る』(日本テレビ)
脚本・松尾スズキ、宮藤官九郎
プロデュース、演出 大塚恭司
出演は竹中直人、阿部サダヲ、吹越満、井口昇さんら。
このドラマ、私DVD持ってます。きてます。
そしてお笑いファンならこの作品を忘れてはいけません。
『人類滅亡と13のコント集』(2004年/日本テレビ)
マキタスポーツが主演!
今でこそマキタさんは役者としてもメジャーですが、大塚さんは2004年の時点でドラマの主役に抜擢しています。私もワクワクしながらテレビの前で放送を待ったものです。
そして大塚さんは翌年このドラマを世に送り出します。
『女王の教室』(日本テレビ/2005年)
社会現象にまでなったドラマ!
実は大塚さんはこのドラマにある仕掛けをしています。
主人公がテレビを見ているシーンにお笑い番組があるのですが、その番組名は『エンタの悪魔』という隠れ設定でした。
※大塚恭司ツイッターより。
そう、この『エンタの悪魔』に当時コンビ活動をしていた私も出演してました。『俺のバカ』というコンビでした。
よく見ていただくとわかりますが、私は右手に「なわとび」を持っています。バカ正直な相方が懸命に面白いことを言うとムチ(なわとび)を地面に叩いて褒める、というコンビ芸。
にゃんこスターよりなわとびを持つのが早かった・・・
この当時、我々は『エンタの神様』(つまり本物のほう)に声をかけていただき、2回分の収録を済ませていました。
しかし「今週はオンエアになりそう」と言われてドキドキしていると延期の繰り返し。でも番組のCMには映っている時もある。でもやっぱりオンエアにはならない。悶々とした日々が続いていました。
それもそのはず、スタジオでやっていたネタは「バカがイラク戦争を明るく語る」というもの。
オンエアになりそうになるとイラク情勢が悪くなるという日々。
今から考えるとそりゃお蔵入りにもなるわと思うのですが、オンエアを願う若手からすればまさに生殺し的な時期でした。
そんな我々が『エンタの神様』ではなく『エンタの悪魔』に出れたというオチ。救われました、本当に。
『女王の教室』は大人気となったので翌年に特番がつくられました。それが『女王の教室 悪魔降臨』(2006年)です。
実はそのエピソード2にはコンビで出演させてもらいました。私は「主任」役。天海祐希さんの隣の席。
セリフもあって貴重な体験でした。
エンドロールで「俺のバカ」と出て視聴者は「え!?」と思ったことでしょう。たぶん大塚監督の狙いはそこにあったのではないでしょうか。ニヤニヤしていたはずです。
さて、ここまで読んで薄々気づいた方もいると思いますが、大塚恭司さんは無名の芸人も平気で使う人です。
この頃は「地下芸人」という言葉はまだなかったですが、大塚さんは売れてない芸人が大好きなのです。
いや、それだと語弊があるな。
世の中に気づかれていなくても、自分のネタを追っかけてる芸人をやさしく見守ってくれる人。それが大塚さん。昔から変わっていません。
だからこそ、今回の『東京アディオス』なのです。
東京のお笑い界の極北、アンダーグラウンド。テレビにも出ない、大手事務所にも所属しない、名も知れぬライブだけに生息する芸人たちがいる。彼らは「地下芸人」と呼ばれる。そこで「帝王」と呼ばれる孤高の芸人、横須賀歌麻呂。彼は、自らの芸風をストイックに追求する生き様で、地下芸人仲間から畏敬の念をもたれる存在だ。しかし、その現実は厳しい。バイト生活でアパートの家賃もままならない。そして年一回の単独ライブの経費が重くのしかかる。
彼の創作意欲を支えるのは、ミューズとも言える一人の女性ファン(柳ゆり菜)。彼女の期待に応えるべく、夜ごとネタ作りに励む横須賀だが、次々に襲いかかる困難のために心身はボロボロになっていく。
創作か?破滅か?狂気に取り憑かれた横須賀は、禁断の道に足を踏み入れる。それは、笑いに身を捧げた男が堕ちていく、超妄想劇の始まりだった…
試写会は大盛況でした。私が駆けつけた日は最前列の真ん中しか空いてない!まさかあんな前でチャンス大城の濡れ場も見るとは・・・
映像もやはり「大塚さんが炸裂」していました。
しかし、この主役設定とあらすじを見て「あの映画」を思い出した方はいませんか?
そう、『ジョーカー』です!
「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸に、大都会で大道芸人として生きるアーサー。しかし、コメディアンとして世界に笑顔を届けようとしていたはずのひとりの男は、やがて狂気あふれる悪へと変貌していく。(映画.com)
現在発売中の『映画秘宝』では『ジョーカー』と『東京アディオス』が特集されています。
2019年のこの時期に、同時多発で「クレイジーなピン芸人ムービーが誕生」(映画秘宝)。
大塚監督のインタビュー冒頭で『映画秘宝』はこんな直球を。
『東京アディオス』と『ジョーカー』はシャム双生児のように似た構造をもつ映画だと思ったので、大塚監督にも『ジョーカー』をご覧いただきました。いかかでしたか?
ああ、映画秘宝さん、最高の煽りを大塚監督に!
これに対して、
片や街角で看板を持ったサンドイッチマン、片や街角で看板ぶら下げたティッシュ配りと、ファーストシーンの画がそっくりだったので「全編似てたらどうしよう」と大汗をかきました。
と答える大塚監督。
このあとしばらく「パクられたか、否か」で燃えあがる大塚監督。※くわしくは映画秘宝を読んでください。
しかし読み進めていくと、監督はある映画のタイトルを出します。
『東京アディオス』はあくまで『ロッキー』(76年)なんですよ
『ロッキー』はあくまで自分の夢を実現しようとする話です。(略)『東京アディオス』の横須賀歌麿も、売れようが売れまいが関係ない。ただ自分の夢を追い続けるだけ。だから『ロッキー』なんですよ。
あとはじっくり映画を観て比較してみてください。
では芸人として思ったことを書きます。
『ジョーカー』も『東京アディオス』も、世間から見れば「なんでそんなものにこだわるの?」と不思議がられる日々を送る人たちです。
言ってみれば究極の非生産的な存在、それが芸人でありコメディアン(志望)です。
非生産的な存在ですが、メディア的に売れれば生産的な存在になれるのも芸人です。
でも、そもそも「生産的な存在になりたい」と思って芸人になる人はいるのでしょうか。そんな合理的な人間に向く世界だとも思いません。その自覚は必要です。
もちろん最初からきっちりして生産的で優秀な人もいるでしょうが、多くは自分を過大評価し、うっかり、でも図々しくこの世界に入ってきた人たちです。マヌケの集まりなのです(自戒を込めて)。でも好きだからやっている。
昨年、「生産性がある、ない」で物議を醸した政治家がいましたが、非生産的な存在を許してくれる「人」や「場所」があるから芸人は救われる。続けられるのです。
もっと言えば、そういう世の中には救いがある。
世の大多数には知られなくても「それでいいよ」と見守ってくれる人がいることは十分な幸せなのです、芸人には。
『ジョーカー』に出てきたセリフで忘れられないセリフがあります。
「やさしかったのは君だけだ・・」
凄惨で絶望的なシーンでつぶやかれたセリフでしたが、私はあの言葉に胸をつかまれました。
大げさに言うと、過去、自分が何もないときにお世話になった人たちの顔が浮かびました。私だけでなくあのセリフを聞いた多くの芸人はそうでしょう。
『東京アディオス』には大塚監督がいます。
売れても売れなくても、あとがなく必死で、でも舞台にあがれば下ネタをやり続ける芸人(=どうしようもなく生産性のない人間)を、「それでいいよ」と見守り続けてくれた大塚さん。そんな人が監督として作った作品が『東京アディオス』なのです。
ジョーカーには大塚恭司がいなかった。横須賀歌麿には大塚恭司がいた。
「やさしかったのは君だけだ・・」
これは横須賀歌麿のセリフでもある。どう考えても。
さて。
『ジョーカー』を観るとメンタルやられるとか、疲れるという感想もあるようです。
でも映画館の外に出たほうがよっぽどメンタルやられる世界だろう。現実のほうがヤバいだろう。
そんな世界で、以前より確実に寛容が無くなった世界で、生きている人間がいる。それを描いたのが『東京アディオス』だと思います。
※こっちは下ネタの覚悟とメンタルが必要です。
そんな『東京アディオス』ですが、10月11日(金)からシネ・リーブル池袋で公開されます。
しかしこれで万々歳というわけではありません。
大塚監督によれば「公開3日間の動員」でそのあとの上映予定が決まってしまうらしい。
さらに、この週末は猛烈な台風が関東を直撃する予報が出ている。
ああ、どこまでもチャレンジさせられるのか。これは「地下芸人」を描いた映画ならではの試練(ネタ)かもしれない。
これを読んで少しでも興味を持った方、できることなら10月11日(金)から3日間のあいだに劇場に足を運んでください。
「天気の子」誰か連れてきて。あ、あれも池袋だったっけ。
週末は シネ・リーブル池袋 へ行こう。
※渋谷にある岡本太郎の絵。これを仕掛けたのも大塚さんです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?