「華麗なる盗っ人、トランプ大統領」
こんにちはプチ鹿島です。
きのう、トランプ米大統領が大相撲見物。
本日の新聞には、かつてトランプ氏がアメリカでプロレスのリングに上がった過去を紹介する記事がいくつかありました。
日経新聞の一面コラム「春秋」は、
《▼本国でプロレス団体の殿堂入りも果たし、その政治手法をまさにプロレス的と評されるトランプ大統領である。来日2日目に訪れた両国国技館で目にしたスモウレスラーたちの所作に何を思ったであろうか。ぶつかり合う迫力はともかく、マイクアピールどころかガッツポーズもない光景は、物足りなかったかもしれない。》
朝日新聞の「天声人語」は、
《▼思い出すのは、トランプ氏がかつて米国のリングで見せた呵々大笑(かかたいしょう)ぶり。前髪をカツラと疑われたのが原因で、プロレス団体代表と、丸刈りをかけた代理レスラーの対戦を提案。トランプ氏側が勝ち、自らバリカンで敗者の髪を刈り上げた。政界で泡沫(ほうまつ)候補扱いされたころの話である▼》
スポーツ報知の名物コラム「仙ペン」は、
「プロレスを見れば野球が分かる」。
ありがたいことに私の著作が取り上げられていました。
そうなんです。
おととしに発売した『プロレスを見れば世の中がわかる』(宝島新書)の第一章で私はトランプ大統領について書いていました。
今回は、その原稿の一部を載せようと思います。
「華麗なる盗っ人、トランプ大統領」(2017年7月)
それにしても、討論会でのトランプのあのリアクションはどこかで見たことがある。
相手を小馬鹿にしたり、肩をすくめたり、舌戦時のあの顔芸。刺激的なショーマンシップにサプライズ。
そう、WWEのビンス・マクマホンなのである。
※WWEとはアメリカのプロレス団体。世界最大。ビンス・マクマホン氏は代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)。
プロレス流パフォーマンスを体現するトランプをみて、思い出されるのが、2007年4月1日の『レッスルマニア23』。
ここでトランプはビンスと直接対決している。あの経験は大統領選挙中のトランプのパフォーマンスに大きく影響してるはずだ。
対決のテーマは「億万長者対決」だった。
事の発端は、トランプがビデオレターでビンスに宣戦布告をしたこと。
トランプは入場する際、本物の100ドル紙幣を数万枚降らせた。まさにリアル・レインメーカー!
もともとビンスとトランプには「ヅラ疑惑」があり、当然のようにWWEはこのおいしいネタを利用する。代理レスラーに試合をやらせて、負けた方がつるっぱげにされるという髪切りマッチ。なんとも大人げのない対決である。
トランプはボビー・ラシュリーを、ビンスチームはウマガを代理レスラーとしてチームを結成。レフェリーはスティーブ・オースチンが務めた。
試合のほうは、トランプが突如ビンスに襲い掛かって、アックスボンバーを喰らわせた後に馬乗りパンチを連発。その間に、レフェリーのオースチンのアシストもあり、ラシュリーがウマガをフォール。トランプチームが勝利した。
ツルッパゲになったのはビンス。
最後はビンスのツルッパゲに協力したオースチンに、スタナーを喰らって悶絶したが、トランプがこの試合から学んだことは計り知れなかった。
私はこの「ドナルド・トランプ=ビンス・マクマホン説」を、大統領選まっただ中の2016年3月に、レギュラー出演しているラジオ番組『荒川強啓デイ・キャッチ!』(TBSラジオ)で紹介した。スーパーチューズデーの結果が出た日だ。
この放送の後、「トランプとプロレス」の関係性についてワイドショーや週刊誌などが後追いしたことを見ると、我ながら良い企画だったと自負している。
『デイ・キャッチ!』はニュース番組なので自分の見立てだけでなく、専門家のコメントもとろうと思い、迷うことなく斎藤文彦さんに連絡をとった。アメリカンプロレスと言ったらこの方だ。
斎藤文彦さんはズバリ「トランプはビンス・マクマホンをパクッています」。
トランプを一躍有名にしたリアリティーショー『アプレインティス』。番組内でのトランプの決めセリフ「You're fired(おまえはクビだ)」は、元々はビンスが使っていたもの。ものの見事にパクったのだ。
顔芸や言動だけではなく、ビンスの手法にも影響を受けているという。
WWEの特徴はわざわざタブーを破ること。殴っちゃいけないところで殴る。たとえば男が女を殴り、権力者はパワハラをし放題。
現実では許されないことがWWEのリングでは許されるのだ。それこそが刺激的なエンターテインメント・WWEの真骨頂だからである。
その極みとも呼べるのが、1991年に開催された『レッスルマニア7』。
そこでモチーフとなったのは「湾岸戦争」である。
米軍を中心とした多国籍軍がイラクへの爆撃を開始した『砂漠の嵐作戦』を開始した2日後、サージェント・スローターが、WWF(現WWE)世界王座を奪取。
スローターのキャラクターは、「サダム・フセインに魂を売った元米国軍人」という強烈なもの。
フセインからリングシューズをもらったとウソぶき、リング上ではイラク国旗を振り回した。さらに「アメリカの愛国心の象徴」星条旗を燃やすなど、大一番『レッスルマニア7』に向けて観客の憎悪を一身に受け続けた。
最終的に挑戦者の「アメリカン・ヒーロー」ホーガンが、稀代の大ヒールを演じきったスローターを「成敗」して一件落着するわけだが、プロレスの世界とはいえ、米国民にとって許容のレベルを超えていた。当時のWWFには500本近い抗議の電話があったという。マット上のファンタジーとしても非難が集中してしまったのだ。
ところが今、トランプは、現実社会にその方法論を持ち込んでいるのだ。
トランプの「アオリ演説」は、WWEそのままというのがよくわかる。
「麻薬や犯罪を持ち込むメキシコとの国境に壁を作る!」
「イスラム教徒はアメリカから入国禁止!」
「移民なんて受け入れない。くそくらえ!」
「株安はアンフェアな中国、お前らのせいだ!」
政治家としては完全に「不適切」だが、これがWWEのリングと置き換えれば、アメリカ人の隠れた本音を捉えたマイクパフォーマンスにも思えるだろう。
タブー破りに「思想」をかぶせたら、「主張」になるというマジックである。
そして舌戦、アオり、顔芸。ハレンチさの中に仕掛けられているある種の本音。眉をひそめながらもついつい見てしまう仕掛け。トランプのやっていることは「ビンスの大統領選」なのである。
ビンスとトランプは長年の友人でもある。
ここで私は、斎藤文彦さんにあらためて尋ねてみた。
「ではビンスは今のトランプの活躍に喜んでいるんじゃないですか?」と。
ビンスは共和党支持者で、過去にブッシュの時などレスラーを党大会に送って応援もしていたほどだ。しかし、いまは「静観している」という。自分のエンターテイメントの世界から飛びこえ、トランプは現実世界で化けていく。しかもWWEはファミリーエンターテインメント。いまのトランプは刺激が強すぎるのだ。
この構図って、敵方の民主党ではなく、味方の共和党の主流派のほうがトランプに「困っている」というアメリカ全体の話にそのまま通じるではないか。
やはり、プロレスを見ていれば世の中の大抵のことはわかるのである。
今回のトランプ現象は「観客論」でもあると私は思う。大統領選ですら刺激的なエンタメとして見物するムードをつくりあげることに成功したら、そりゃ主役をさらうのはトランプである。
(中略)
TPP離脱など、現実にトランプ大統領が誕生し動き始めてる今、あらためて、
「トランプが支持を集めた理由をプロレス的に言うとどういうことでしょう?」と斎藤文彦さんに聞いてみた。
「今回の大統領選の組み合わせは、トランプさんが絶対的なヒール(悪役)でした。ヒラリーさんは女性初の大統領を目指すという意味でも、どう考えても絶対的なベビーフェイス(善玉)でしたよね。これなら最後はヒラリーが勝つのが普通です。ところが……」
ご存じのとおり、ヒラリーの人気が思いのほか上がらなかった。
それどころか既成政治家、既得権益の代表としてむしろ悪いイメージが増幅していった。これをプロレスではなんと呼ぶか。「ヒールターン」である。
ナチュラルヒール・ヒラリー。
プロレスでは時折、悪いことばかり言う悪役のほうが、善玉を演じるいけすかない奴より人気が上回ることがある。
「本音を言っている」と好感度が上がるからだ。今回のトランプとヒラリーの関係性そのものだ。
しかしそれはあくまでリングの上での話。現実の世界で、ましてや大統領選で差別発言を連発する人が容認されるとは……。斎藤さんも憂いていた。
これからのトランプとアメリカはどうなるのだろう。
中小企業局(SBA)局長には、WWEのCEOを務めたリンダ・マクマホンが指名された。夫は言わずと知れたビンス・マクマホンである。WWEと世界最高権力者トランプの蜜月を示す格好となった。WWEで奮闘中の元IWGP王者シンスケ・ナカムラ(中邑真輔)を含め、米マット界はさらなるメジャー・エンターテインメント化を突き進んでいくだろう。
では、現実世界のアメリカは……。
メキシコとの国境の壁や、一部の国からの入国制限など、「現象としてのトランプ」ではなく「現実としてのトランプ」というシビアな展開は始まっている。
※以上、第一章から抜粋しました。
ほか、気になる方は『プロレスを見れば世の中がわかる』(宝島新書)を宜しくお願い致します。Amazonを見たらトランプ相撲の影響か、在庫が少なくなってました。
ちなみに冒頭のビンス・マクマホン氏の写真は『語れ!WWE』(2015年・KKベストセラーズ)からです。
この本には私も参加しています。
というわけで、今回もどうもありがとうございました。
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