マスク越しにあった目が、笑っているように見えた。
最初は仲良しだったんです、僕たち。彼女、一緒に歩くときはこっちを見てくれた。僕が話せば、続けていろんな話しをしてくれました。よく笑っていました。冬の始まりから、暖かい風が吹き始めるまでの短い期間でした。
夏になると彼女は違う人の様でした。きっとあれも彼女の一面なんでしょう。極端なんですよね。でも、とにかく、違う人の様でした。もう、笑いませんでした。僕が話しかけてもほとんど口を開かなかったです。さみしかったけれど、仕方ないと思いました。最後の夏が、始まっていました。 いつかきっと戻ってくると、いや、春になれば元に戻ると、そう思ってました。そうゆうもんだと。
3か月ぶりくらいに彼女と話しました。久しぶりに見る白い腕はとても細くて、顔つきも前よりずっと大人っぽくなっていました。そこにはまた僕の知らない彼女がいました。彼女の口角は上がっていました。しかし、目は笑っていませんでした。どこか遠くを見ていました。そこには僕のいない世界がありました。彼女の口は僕と話していて、彼女は誰とも話していませんでした。もう2度と、あの日の彼女に会えないのだと思いました。 そして、冬の終わり、僕は彼女に本当のことを言いました。涙が止まりませんでした。後悔したんです。もっと話ができたと思った、もっと彼女が話したくなるような話が。
彼女は雪解けとともに僕の知らない世界へ行ってしまいました。それがあの時彼女が見ていた世界なのか、また別のどこかなのかはわかりません。しかし、わかったこともありました。僕が本当のことを言った日、ほんの一瞬、彼女は出会った頃の彼女であったのです。彼女の目は彼女が思っている以上にずっとずっと美しい茶色でした。彼女は僕と話していました。本当に一瞬の出来事でした。 そして、僕は僕の涙の理由が後悔だけではないことを知りました。僕はどんな彼女も好きです。ただ、やはりもう一度出会った頃の彼女に会いたかった。ただそれだけでした。彼女の僕に向けた笑顔が見たい、笑いあいたい。そうずっと願っていました。 暖かい風が吹き始めていました。
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