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30年ぶりに見ることができた、今の「たま」


2020年11月 著

コロナになってよかったことのひとつは、
ライブ配信だと思う。
今まで私は、「会う」ことを重視していたため、気になる歌手や俳優がいたら、すぐに劇場やライブハウスに足を運んでいた。
しかし、コロナでライブは中止。演劇も中止。
どこもかしこも中止延期のオンパレード。
そんな中で実施されたのが「配信ライブ」だった。

お金を払って配信ライブを見ること

今はyoutubeもあるし、テレビもあるし、わざわざお金を払って画面に映る人たちの演奏を聴くなんて・・・と、最初は配信ライブに消極的だった。
なんせ私は「会う」ことを諦めたくない人だったから。
しかし、スぺアザの野外ライブ以降、一時的に落ち着いたものの、依然コロナが収束する様子はなく、乾燥する季節になって再び感染者は増加の一途をたどり始めている。

そんな中、元「たま」の柳原陽一郎さんが渋谷のライブハウスでデビュー30周年の記念ライブをやることを知った。
しかも「たま」の時代の曲もやってくれるというのだ。
今年(2020年)はなぜか「たま」がマイブームになり、狂ったように昔の映像やらCDやら本やら資料やらを見聞きしていたので、これは行きたい!!と思った。

……けど、迷った。

今度は野外じゃないし、夜だし、東京は再び増加傾向にある。どうしよう…。

ぎりぎりまで迷った結果、思いきって生配信で見ることにした。
金額はたしか3000円だったと思う。
CD1枚買える値段だ。
生配信は、アーカイブといって、ライブ終了後、何時間~何日か見返せるタイプと、
アーカイブなしというタイプがあるらしい。
今回は5日間見返せる生配信ライブだった。

当日、開始前からパソコンにヘッドフォンをつなげてスタンバイ。
19時開始だったため、3歳児の息子はまだ起きていて、私がやってることが気になって仕方ない様子だった。
いちいち邪魔してくるたび、はやく寝てくれ〜と思ったり(まだ19時なのに)。
子供は主人に託し、ドキドキしながら画面の前で待っていると、突然客席が映り始め、柳原さんが登場した。

舞台はグランドピアノのみ。
サポートメンバーなどもおらず、柳原さん一人のピアノ弾き語りだった。
音はとてもクリアで、思ったより音質はすごくよかった。
こちらもオーディオテクニカのヘッドフォンで聴いていたせいか、臨場感もたっぷりあった。


最初の曲は「たかえさん」。
たまの時の曲だ。懐かしい。
グランドピアノ1台のみで弾き語るその様子は、昔とは違って落ち着いていて、彼が長年、試行錯誤した結果、ようやくたどり着いた場所という感じがした。
30年前の、中性的で怪しげで、何を考えているか分からないような眼差しは、もうそこにはなかった。

途中のMCで、たまの時の話が出た。

「あの頃は、意味のない歌を作ってました。
そりゃあ行き詰まりますよ」
「人が怖かった、信じられなかった」
「だんだん人を好きになったり、好きになられたりして信じられるようになってきた。
それから、意味のある歌を歌いたくなった」

当時の柳原さんは「たま」の中で、虚言癖と言われ、平気で口から出まかせをペラペラと吐き出していた。
それは「柳原幼一郎」を演じていたということなのかもしれない。


初めて、お金を出して生配信ライブを見る、という経験をしたことで感じたのは、貴重なものを見ることができたという満足感だった。
子供がまだ幼いため、夜に行われるライブはなかなかすぐに行くことはできない。
平日ならなおさらだし、遠方はもってのほかだ。
しかし、配信によって好きな人の「今」の状態を知ることができ、思いを共有することができた。
配信ならではの特典である「アーカイブ」も配信期間中、何度か見直した。
ライブだったら1回だけだけど、アーカイブだと繰り返し見れるから、ちょっと止まったり、戻ったり、なんて言ったか確認したりすることができるのが良かった。
そして何より、通常のライブはDVD化なんてされないから、こうして家で今の彼を見ることができたのはとっても嬉しかった。
家だから一緒に歌えたし。

柳原さんのライブの3日後。
京都で、なんと解散したはずの「たま」の3人が揃って出演するライブが2日連続で開催された。
プレミアム感があるせいか、すでに現地のチケットはSOLD OUT。配信チケットのみ販売していた。
こちらの配信は、2日間のうちどちらか1日買えば両日見れる……というわけではなく、それぞれの日にちで視聴チケットが必要で、アーカイブで見れる期間は、ライブ終了後24時間だった(泣)

視聴チケットの価格は3500円。長年のたまファンなら迷わず両日購入するだろう、強気の値段設定だった。

「たま」は柳原さんが1995年に脱退した以降も、3人で活動を続け、2003年に解散している。
そのため、今はもう、3人揃うのは1年に一度あるかないからしい。
今年はたまがメジャーデビューして30年。
そして3日前、柳原さんのライブを視聴したばかり…。

私は1日目のライブがどんな感じだったのかTwitterで確認した。
セットリストや、ライブの感想をエゴサーチして見ていくと、みんながみんな感動している!
えー!ロシヤのパンやったの??学校に間に合わないやったの??
私が知ってる「たま」の時代の曲じゃん!
もうそれだけで「見たい」欲望が沸き上がり…
翌日のライブ視聴チケットを購入していた。


久しぶりに見る彼らの佇まいは、30年前とほとんど変わってなかった。もちろん、年月が経過しているが故の外見の違いはあれど、醸し出すあのノスタルジックな雰囲気はしっかり残っていた。

それぞれのソロの曲は、知らない曲ばかりだったけど、最初に出てきた知久さんがひとりで演奏した「らんちう」は素晴らしかった。
まだこの曲歌ってるんだ!と思ったけど、30年経ってらんちうのコブはさらに大きく、さらに虚しくなっていた気がする。

ベースの滝本さんのソロはギターでの弾き語りだった。
やはり知らない曲ばかりだったけど、声と憂鬱そうな空気感は全然変わってないことに驚いた。

そしてソロのラストは石川さん。
この人も声が全く変わってなかった。
やはり知らない曲ばかりなんだけど、昔から歌詞に重みのある歌を作る人だから、「メメントの森」という曲では号泣してしまった。

休憩を挟み、3人が登場。
知久さんがソロの時より楽しそうに演奏していたのが印象的だった。
やっぱり、このメンバーが好きなんだろうなぁ。
3人で歌う「たま」の歌は、30年経っても本質は変わらず、寂しくておかしくて、どこか虚しかった。

初めての配信ライブはとても貴重なものを見ることができて良かったけど、どうしてもその場の空気や一体感、演者や周りのエネルギーは画面越しでは分からない。
だからやっぱり、これからも会うことは諦めたくないな…。


イカ天に初登場した、たま

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