見出し画像

「清水 新スタジアム問題 その5」

今回は、エネオスさんが市との間で締結した基本合意で掲げたもう一つのテーマと、スタジアム構想との関係性など核心に迫って行きたいと思います。

(1)基本合意のもう一つのテーマ

「その4」で触れましたが、エネオス遊休地は約20haもあります。そのうちの4haが次世代型エネルギー施設としての活用が決まっています。しかし、16haもの広大な残地の活用はまだ決まっていません。

この遊休地は港湾法の規制を受けているために、この残地の16ha部分を「次世代型エネルギーの利用を促進するエリア」としての位置づけを受けたことは前回お話しました。

次世代型エネルギーの利用促進エリアといっても、一企業としてのエネオスさんは「利益を生む」ものにしたいのは当然です。

さて、市とエネオスさんが締結した基本合意書には「静岡市清水区袖師地区を中心とした次世代型エネルギーの推進と”地域づくり”に係る基本合意書」というタイトルが付けられています。
そして、連携事項の(2)として次のように掲げられています。

(2) 袖師地区を中心とした、「まち」と「みなと」が一体となった魅力的かつ持続可能な地域づくり推進に向け、相互に連携し、協力する。

合意書にはもう一つのテーマがあり、「地域づくり」に協力することを約束しているのです。
エネオスさんの企業としての本質からすると「利益を生むもの」としたい。一方で、「地域づくり」に寄与しなければならないという条件が付いています。この地域づくりは、県との基本合意書にも盛り込まれています。

「街の賑わい」という視点で考えれば、ショッピングモールのような商業施設というのはあるのかもしれません。そこで、次世代エネルギーを使う。ただし、それだけで持続可能な「地域づくり」に繋がるでしょうか?

そもそも、この土地は港湾法に基づく「工業港区」に属しており、商業施設を設けることは県条例では許していません。賑わいを生むだけで特例を認める大義には成り難いと思います。「地域づくり」という目標を掲げた以上は、もう少し踏み込んだ市民の福祉に寄与するような土地活用にしないとならないのではと思います。

(2)基本合意締結に連動した市の動き

少し話は変わりますが、新サッカースタジアムは長年の懸案事項でした。田辺市長は、2019年の選挙でスタジアム構想に着手する公約をやっと掲げました。
しかし、それでもなかなか動きが見えない中で、2021年になって目に見える動きが出て来ました。その初めて具体化したものが「サッカースタジアム先行事例調査(基礎調査)」の業務委託です。

そこで、関係する市の動きについて時系列で整理してみましょう。

2021年度に執行された基礎調査委託ですが、当然として予算が必要です。予算化の作業は前年度(本件では2020年)に行われています。その9月頃に各部署の予算要求がされていたはずです。
予算化というのは簡単に言えば税金を投じることです。ですので、無益なものには使えません。市議会の審議にも耐えられるものでなければなりません。
つまり、サッカースタジアムの実現性が乏しいのに300万円もする基礎調査委託の予算化をするというのは普通では考えられません。

上の時系列表を見てください。予算要求時期と同じ9月に注目すべき市の動きが見受けられます。
市の企画局長がエネオス遊休地での新スタジアムの可能性に初めて言及しているのです。

静岡新聞の記事より

この発言には、大きな意味があるはずです。と言うのも、民地であるエネオス遊休地に新スタジアムの可能性があるということを、行政がその所有者たるエネオスさんの意志を確認せずして勝手には言えないばずです。
つまり、エネオスさんからの提案か、静岡市からの要請かは分かりませんが、この時点で新スタジアム用地の供出の可能性があることが相互で確認されていたと推察されます。
それを受けて、新スタジアムに関係する初めての具体的な動きとして、基礎調査委託の予算化に踏み切ったと思います。

長年の懸案事項であった新スタジアム問題について、放置とも言える状態が続いた大きな要因は、適地が見当たらなかったからだと思います。

・東静岡の用地はアリーナ構想があり、サッカースタジアムとしては面積が足らない。
・アクセスの悪さや渋滞などの問題を抱えるアイスタを考えると、市街地や駅から遠いような場所は問題解決には繋がらない。
・アクセスを優先したくとも、静岡市内、特に清水区内の市街地での大規模な用地確保は難しい。

そのようなことから新スタジアムへの動きが踏み出せなかったというのはあると思われます。
その膠着状態の中でエネオス遊休地に可能性が出てきた。そこに公約を掲げていた市長が乗り出した。その背景があるからこその基礎調査委託であり、検討委員会開催に繋がっているものと思われます。

(3)地域づくりの意味

さて、基本合意書にある「地域づくり」の意味について戻ってみましょう。

「地域づくり」の中身はこれから具体化していくようですが、前述したように単なる賑わいを醸成するものでは足りないと思います。
この地域づくりの核となるのは、やはり「新スタジアム」を想定しているものと思います。
賑わいを醸成するものとしては適当です。そして、清水区民がサッカーを中心とした築いてきた文化。その新拠点としてのスタジアムは「地域づくり」のテーマにはまさに適当だと言えます。
そのような構想への用意があるということを確認したうえで、この基本合意書の締結に繋がっているものと思います。
更に、市が予算を伴うスタジアム関連の委託業務の発注や検討委員会の開催をしていることも含めて考えると、やはり、新スタジアムの用地供出については"ある程度"の相互理解が醸成されているものと思います。

川勝知事がエネオス遊休地での新サッカースタジア構想については、「県も応分の負担も検討したい」として好意的な発言をしているように、クリーンエネルギーとその地産地消、清水地区らしいサッカースタジアムを核とした地域づくりへの協力で地域貢献を示し、港湾法の特例を知事に認めてもらうというシナリオが感じられます。

(4)ゼロカーボン宣言との関連性

少し別角度からになりますが、エスパルスはJリーグクラブとしては初の「ゼロカーボン プロスポーツクラブ宣言」を2021年11月にしています。この中の具体的目標としてスタジアムの再生可能エネルギーの活用を掲げています。

エネオス遊休地が次世代型エネルギーの利用促進エリアとして位置づけされていますが、まさにここにスタジアムを建設することで再生可能エネルギーの活用が実現され、ゼロカーボンの目標に大きく近づくことになります。

この宣言をしたのが2021年11月です。市とエネオスの基本合意書の締結が同年の7月なので、この基本合意を背にして、クラブが目標の一つとしてスタジアムでの再生エネルギーの利用を掲げ、単なる理想でなく実現可能なものとしてゼロカーボン宣言をしたとも思えます。

(5)エネオスさんの真の狙い

前述のように、エネオスさんには新スタジアム用地としての供出は用意があるものと思われます。市が設置したサッカースタジアムを活かしたまちづくり検討委員会(以後「検討委員会」という。)でスタジアム用地として想定した面積は3.5ha以上です。
つまり、16haの残地のうち最低限度の3.5haをスタジアム用地として供出しても、まだ約12haが残ります。

この残る12haの土地で「利益を生む」ものにしていかないと、エネオスさんとして何の意味もありません。
ということは、逆にスタジアムを核とし、また機能連携や相乗効果を持った商業施設をはじめとする複合的な機能を盛り込んで行きたいのではないかと思います。そこにクリーンエネルギーを供給する。
このようなテーマ性を持ったエリア開発で、残りの12haの部分についても知事から港湾法の許可を特例として認めてもらい、利益を生む土地活用に繋げたいということではないでしょうか。

また、次世代型エネルギー施設用の4haを除き、16haは何の利益を生んでいないばかりか、固定資産税を払い続けているので、なるべく早期に決着を付けたいと考えているものと思います。

ただし、エネオスさんとしては新スタジアム用地としての供出は考えているものの、3.5ha以上もの土地を無償ということは考えてはいないと思います。営利企業ですから有償貸与か有償譲渡(売買)を考えているのは当然だと思います。

しかし、ここに問題が生じて来ているのです、、、。

今回は長くなりましたので、この先は次回にさせていただきます。次回は先の定例記者会見での市長発言と今後の進展等について考えていき、総まとめとしたいと思います。

(6)今回のまとめ

・エネオス遊休地の一部をサッカースタジアム用地として供出してもらえることをエネオスさんから引き出している可能性が高い。
・それを背景として、基礎調査委託の発注や検討委員会の開催に繋がっていると思われる。
・基本合意書のテーマである「地域づくり」は、サッカースタジアムが核として考えられており、次世代エネルギー活用と地域づくりへの協力姿勢という地域貢献を全面に打ち出してエネオスさんは遊休地の活用を前進させ、利益を生たいと考えているものと思われる。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?