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日本語マニアがいる鞄屋SAC'S BAR~まつり と さい~

とある鞄屋のイベント

 駅ビルの中をうろついていたら、方々でよくみかけるかばん屋さんがあった。私もお世話になったこともあるSAC'S BAR(サックスバー)さんだ。

  東京を中心に全国に店舗を展開しているため、ご存じの方も多いだろう。この会社の50期を記念したイベントとして鞄祭というものが開催中だった。


読みが気になる

 2023年の間は毎月レベルで特別にお得な商品を出してくれるらしいが、私が気になったのはそこではない。
 ポスターの中央に書かれたかばんさいの文字だ。文字の上にこそ振られていないがこれは明らかに「鞄祭」に対するルビである。「祭」に対する読みは2つ考えられるが、「まつり」ではなく「さい」と呼んでほしいという意図が強く表れている。

 これは私の体感に過ぎないが、商業の文脈で「祭」の字をみるときの読みは「さい」ではなく「まつり」のほうが多い。
 皆さんがご存じのところだとPayPayの記念イベントは「ちょうペイペイまつり」だった(こちらもふりがなが振られている)。

 ではなぜSAC'S BARは「かばんさい」の方の読みを選んだのだろうか。


「まつり」と「さい」の差異

 そもそも祭という字はどのように読むべきなのかについて調べていたところ、文化庁の国語施策について解説しているサイトで次ような記述があった

活用のある語から転じた名詞及び活用のある語に「さ」,「み」,「げ」などの接尾語が付いて名詞になったものは,もとの語の送り仮名の付け方によって送る。
〔例〕 (1) 活用のある語から転じたもの。
<中略> 狩り 答え 問い 祭り 群れ <後略>

内閣告示・内閣訓令 > 送り仮名の付け方 > 本文 通則4

 文化庁の告示によると「まつり」は「祭る」という活用のある動詞から展示たものであるから、もとの語(=祭る)の送り仮名のつけ方によって送ることになる。つまり、推奨されている表記は「祭り」であって「祭(まつり)」ではない。


つまりは「かばんさい」だ

 先ほどのことを踏まえると、
・「祭り」と書いてあれば「まつり」と読む
・「祭」 と書いてあれば「さい」 と読む

というふうに読み方がそれぞれ一意に決定する。
 つまり、鞄祭の読みは「かばんさい」でしかあり得ない。
(だからといって「ちょうペイペイまつり」は文化庁の方針に沿っていないだけで誤りであるとまでは言えない)

 もしかするとSAC'S BARの中には文化庁(内閣)の告示まで確認している日本語マニアがいて、今回のイベントを企画しているのかもしれない。
 鞄屋おそるべし。


参考サイト


余談

 本題から反れるのでスルーしたが、ルビにひらがなとカタカナが混在しているのが面白い。また、Pのロゴで「ペイペイ」と読ませるパワフルさは好きだ。「みなさんご存じの」という図々しさが感じられて逆にいい。