【書籍サマリ】「図解でわかるM&A入門」桂木麻也

はじめに

前提

・書籍のサマリを記載しています。(本記事執筆者による意見感想等は含めていません)

書籍の基本情報

・M&Aの入門書。就職活動中の学生やM&A初心者向け。
・主に「買い手」目線で説明していることが特徴
・2020年9月著出版
・著者の桂木氏:慶應経済学部卒。メガバンク、外資銀行等を経て、大手会計ファーム系アドバイザリーに勤務。

第1章 M&Aの日本史

1980年代後半:M&A黎明期

・バブル景気により資金余りが生じる。それを原資にした大型M&A1が遂行された。
例)ソニーによるコロンビアピクチャーズ買収(アメリカの反感を買う)
・当時はPMIの概念がなく、買収先をマネジメントできないなど失敗も多か
った。

1990年代:バブル崩壊起因での金融機関の統合ブーム

・相次ぐ金融破綻が起こる。
・各金融機関は生き残るために合併や経営統合を実施する。
例)2006年の東京三菱銀行とUFJ銀行の合併。

2000年代:バブル崩壊起因での小売業界の再編ブーム

・バブル期、消費者の購買意欲が増大したため小売業界は伸長したが、バブル崩壊により業績悪化が相次ぎ、2000年代は多くの企業が統合した。
例)2008年、経営不振に落ちいていた三越を伊勢丹が救済合併し三越伊勢丹ホールディングス発足。

2000年代:バブル崩壊によるアクティビストファンドの登場

・業績が不振な上場企業に対し、厳しい株主提案を行う「物言う株主」ーアクティビストファンドが登場し、限られた資源をどう効率的に使うかを経営陣に問い、改善を求めた。
アクティビストファンドの代表例)村上ファンド
・上記により経営陣に緊張感がもたらされ、いかに企業価値を向上しアクティビストにつけいられないようするよう努めた。
・MBOで上場廃止する企業も少なくなく、PEファンドがこれら企業に資金提供を実施した。
例)すかいらーく(野村プリンシパル・インベストメンツがサポート)

2010年代:日本の電器電子産業の衰退

・1990年代、日本の電器電子産業は世界をリードしていたが、その後家電等はコモディティかし、安い人件費が武器の中国や台湾に市場を奪われていく。半導体においても日本がかつては世界トップだったが競争力を奪われていく。
・生き残りを賭け、日本企業はこれら企業へ売却等がおこわれた。
例)シャープによる台湾企業の傘下参入、東芝による中国企業への家電事業の売却。

2008年〜:リーマンショックは日本企業にとってのチャンスだった

・2008年の大手投資銀行リーマンブラザーズの破綻により欧米企業は財務状況が悪化する一方日本企業はバブルからの回復がかなり進んでいた。
・よって、日本企業にとってリーマンショックは欧米企業を買収する大チャンスであった。
例)三菱UFJFGにる、モルガン・スタンレーへの巨額の資金提供を高スピードで実施し、筆頭株主となった。

今後:今後、日本はどこを攻める?

・日本企業は海外を攻めるべし。これまでは欧米が多かったが、今では市場はかなり成熟している。今後は、新興国が高い成長率が見込める。
例)ASEAN諸国、特にインドネシアは人口が成長する見込み。
・新興国進出の壁として、政権による経済関与が大きい点、法整備が進んでいない点が挙げられる。

第2章 M&Aの登場人物

M&Aの主要ワードの定義(一般的な使われ方)
買収=対象企業の過半数の株式を取得すること

売り手と買い手

・売り手:売却対象物:買い手の例
株主:株式:企業
企業:1部事業:企業/ファンド/個人(稀・超富裕層)
企業:土地等の資産:企業

売り手の動機3分類

・パターン1:(購入時より上昇した額で、)投資の回収目的
例)ファンドによる株式売却。IPOでの再上場
・パターン2:リストラクチャリング目的(なんらか起因で生じた返済義務を果すことが目的)
例)値段がつく有料株式・事業・資産の売却。赤字事業や不要資産の売却。
・パターン3:近年ブームである「洗濯と集中」戦略によるBSのスリム化目的
例)ノンコア事業やアセット売却

買い手の動機

・買い手が企業の場合:企業価値・株主価値の最大化
・パターン1:売上増大による企業価値・株主価値の最大化
例)新製品やブランド獲得、海外顧客の獲得、これらによるグローバルシェア向上、優秀人材の獲得
・パターン2:コスト削減による企業価値・株主価値の最大化(売上増大より成果が短期間で出る)
例)人件費削減、I Tシステム集約、サプライチェーンの共有

・買い手がファンドの場合:出資者への高い投資リターンの創造
買収後企業価値向上を図る。成果が短期間で出るコスト削減、例えばリストラの余地があるかなどを見ている。

売買の方法

・パターン1:オークション
オークション執行はアドバイザーに受託するケースがほとんど。競争環境による価格の上昇が期待できるが、書類作成やタイムマネジメントが煩雑。
・パターン2:相対取引
売り手と買い手が1:1・スピーディ。

主要アドバイザーたち

・M&Aの一連の流れに対し、もしくは一部のフェーズにおいて専門家が存在し、介入するケースがほとんど。
・フェーズ:プレディール、インディール、ポストディールに大分される。
・パターン1:金融機関系FA
国内:国内の顧客網の大きさが特徴
例)メガバンク系の証券会社、野村しょうけん
外資投資銀行系FA:海外の売り手や買い手情報を有している
例)モルスタ、GS,UBS、ドイチェバンク
・パターン2:会計会社系FA:プレ・イン・ポストすべてのフェーズを1社で完結でき流。
財務・税務の専門家なので財務/税務DDを担っていたが、近年はアドバイザリーまで手を広げている
・パターン3:ブティック系FA。1,2に当てはまらないFAの総称。得意な専門分野(インダストリー/サービス/売り手買い手の規模感/仲介)に特化した会社も多数あり。
例)かえでグループ(税務に特化)

第3章 M&Aのプロセス

・オークションでの株式売却を例にとる(一番煩雑なケース)
・売り手の流れ:

  1. 売却方針決定→FA選定(売り手)(RFP提供して提案書を提出してもらうビューティコンテスト方式)※FA選定で大事な観点:過去に類似な案件を取り扱いクローズまで無事もち込んでいるかの経験値

  2. 売却可能額算出(売り手側FA)(売り手の財務状況と類似企業から算出)

  3. 買い手候補の選出(売り手側F売り手の評判なのど知見提供が求められる)

  4. 紹介資料を作成し買い手に打診(売り手側FA)(売り手の名前を伏せた案件概要書(ティーザー)、これを見て興味を示した買い手に対してはNDA締結後売り手の詳細説明(インフォメーションメモランダム))記載内容は、詳細に書いた方が書いては判断しやすいが、売り手目線だと万一買収されなかった場合機密を提供することになる、この辺りの匙加減はFAの腕の見せ所。必要かつ最小限の情報を用いて、希少性をアピールする)

  5. ティーザー受領後NDAを差し入れてIM取得、詳細検討、FA選出(買い手)※FA選定で大事な観点:売り手同様過去に類似案件を成功させているかどうか。

  6. 案件が買い手の望みと合致する場合、IMの限られた情報から売り手に提示する買収価格を算出してもらう(買い手側FA)

  7. 1次入札書を作成する(買い手側FA)(価格やその他の面においていかに適した買い手かをアピールする)/その裏でDD準備、売買契約書のドラフト作成。(売り手側FA)

  8. 1次入札の審査。通常2、3社に絞る。(オークション参加者は買い手には秘密)

  9. DD実施。Q&Aが行われる(買い手から売り手への質問)。DDで足りない場合はマネジメントインタビューを実施

  10. 2次入札の実施。DDを経て、瑕疵の判明等で価格修正がされることもある。FAには買収成立後フィーが支払われるため、多少無視してでも買い手には買ってもらうという気持ちが働かないとは限らないので、冷静な判断が必要(買い手)。誰が残っているか秘密、かつ、1社しか残っていなくても交渉のために他に参加者がまだいるフリをする(売り手側FA)

  11. 売買契約書の最終交渉

  12. 株の売買がなされると、クロージングを迎える。

  13. PMI実施。統合作業は100日目処で実施することから、100日プランと呼ばれる。ITの分野は大きなコスト削減効果があるため重要。現在、PMIは会計系アドバイザリーの独壇場となっている。

第4章 M&Aの失敗原因

・失敗例:買収したものの大きな減損計上など。
・KPMG FASによると、2000~2016年の間に、M&Aを実行した企業のうち、想定外の事態に直面した企業は約3割と判明した。実行したM&Aが成功だとアンケートで答えた企業は3割。

失敗原因1:戦略欠如。買収ありきのスタンス

・買収の話が持ちかけられると、中経の実現ではなく案件クローズが目的になってしまう。フェーズが進むごとにFAなどにコストをかけるようになるので尚更後を引きづらい。そもそもの事業戦略と

失敗原因2:高値掴み・DD不足

・高値掴み:案件クローズが目的になり高値を払ってしまう。
・DD不足:後々に大きな負債などの瑕疵が発覚する。

失敗原因3:PMI不足

・買収後のガバナンスは、買収者の経営哲学に合わせる進駐軍型(欧米に多い)と基本はこれまでの経営陣に任せる権限委譲型(日本に多い)がある。海外企業を買収後権限委譲をすると明確な指示がないという現地からの不満が募ったりする・
・権限委譲型においては、買収先の経営陣とのPMI設計の合意を案件クローズ前にしっかり行う必要がある。
・PMI失敗の根本原因1:クローズ前の設計不備。買収先企業がどんな意思決定構造で事業を実施しているかなどの理解が十分にされないまま案件がクローズされ、これまで経営陣に影響力があった株主が不在になった状態でPMIが実施されてしまうこと。→これを防ぐためにガバナンスDDが存在する。
DD実行時から、PMIを念頭に置くことで、PMI成功につながる。
・PMI失敗の根本原因2:日本人の経営能力不足。日本人はサラリーマンがほとんど。経営スキル=企業に関わる全てにステークホルダーの経済的利益を最大化できる経営能力。

海外M&Aの失敗を背景に、経済産業省によるM&A研究会が発足:報告書が発表された
・海外M&Aを成功に導く3要素などが記載されている。
・広義のM&Aの一種とも取れるJVにおいても、M&Aと同じプロセスが必要であり、PMI起因での失敗は少なくない。例)JV設立時のビジョンの共有不足。
※既存の株主と経営陣が残る(つまり100%子会社化以外)合併・統合は広義のJV設立とも取れる。

第5章 M&A勝利の方程式

ショートリストではなく、「ウィッシュリスト」を作成せよ

・買い手は、ロングリスト作成後、M&Aの蓋然性の高さで序列した、出物ありきのショートリストではなく、自社との戦略とのフィットの高さで序列した「ウィッシュリスト」を作成するべきである。(例え対象企業が売りに出していなくても)FAへのリスト作成丸投げは危険である。
・既知のマーケットにおける海外M&Aの場合:対象国における自社の競争環境を分析把握した上で、現地のどんな企業を買収すべきか取りまとめてウイッシュリストを作成する。FAに、ショートリスト作成ではなく、ウイッシュリストを示しその会社へのアプローチ方法の提案を依頼すると効果的である。そうすることで、出物ありきを防ぐ。合わせて自社の戦略とのフィットについても意見を聞き、最も優れた提案をする先をアドバイザーとして任命すべきである。
・未知のマーケットの場合:ウイッシュリスト作成は困難なため、市場に対する理解から始まる。FAには市場理解のための情報提供を依頼(参入余地の検証とパートナー選定に対するアドバイスなど)する。対象会社は売りに出していない可能性もあるため、買い手FAは相手を射止めるWINWINの仮説を立てる。
・ビジネスDDでは、デスクトップリサーチで建てたWINWINの仮説を相手と共に検証する作業とも言える。マネジメントインタビューを前倒しで行うと効果的。
・WINWIN仮説が実現するかどうか=どんなリターンをもたらすかを測るには、企業価値の算定が必要になる。
DCF法による評価をベースに、類似会社比較法や類似取引比較法の結果を加味して総合的に判断するのが一般的である。
・ビジネスDD,企業価値算定後に、買いてから意向表明であるLOI(Letter of Intent)が作成される。含める内容:価格と出資比率、出資後の経営への関与方針、DD範囲とスケジュール、DD後一定期間においての独立交渉権の規定
・DD終了後、約2ヶ月(売買契約書の最終的な交渉とクロージングなど)あるためここでPMIのプランニングを行う
・売買契約書締結:特に海外企業は、会社より人への忠誠心が高く、信頼する経営者が会社をさる場合従業員がついていくなどの人材流出リスクが高い。防衛策として、会社を去るものは従業員を一定期間勧誘しない等の契約をさせることが必要。
・従来FAはM&Aの一部分ーインディールのみの専門家として頼られてきたが、M&Aを成功させるためにはプレの戦略立案へのフィット感の提言や、PMIへの助言が求められている。

第6章 ファンドの種類と利益を得る手法

ファンドの種類
ファンドとは:投資目的で集められたしきん、それを運用する投資家や投資顧問(アドバイザー)

・投資信託ファンド
・ヘッジファンド:デリバティブを使用し相場下落時も利益を追求することを目的とした投資会社
・PE:会社を上場させたり売却することで利益を得るファンド。
手法1:MBO→大正会社の経営陣とPEファンドが共同出資し設立したspc経由で株式を取得する。そして、企業価値を3から7年ほどかけてあげて株価を上げて再上場する
手法2: 事業再生
手法2: 成長のサポート
手法2: 後継者のいない(特に中小に多い)企業に後継者を提供する

・企業価値向上施策は、基本的に売り上げアップとコストダウンの二分類

・企業価値向上の応用としてクロスボーダーM&Aがある。
例)海外の買収会社にて新規事業や現地の他企業の買収を実施するなど 

・ベンチャーキャピタル: 高い成長が見込まれる未上場企業に投資し、IPO実行時もしくは高額で大企業に買収される際に投資を回収し利益を上げるファンド。
銀行から融資が得にくいため、ファンドから資金と共に経営アドバイスももらう。リスキーな投資対象。
・現在、時価総額が1000億円を超えるベンチャーであるユニコーン企業の数は日本は3つしかなく、中国アメリカに比べはるかに劣る。これが、日本の経営人材不足、ひいては日本の事業創造力につながっている。
・上記の背景として、バブル崩壊およびリーマンショックによる「失われた20年」で日本企業は債務返済のためにコストカットに明け暮れ、売り上げ向上、新規事業創造に力を入れられなかったことがあると思料する。

第7章 次世代ビジネスと日本企業のM&A

今後注目すべき業界は以下4つ
・テクノロジー
2020時点で、テクノロジー企業の代表格はソフトバンク。あらゆる業界の会社とM&Aを実施し、自社のIT通信を活用している。
・フィンテック、金融
特に新興国では、アンバンクが多いが故にモバイルでの口座開設などが普及した
・ヘルスケア
売上を上げている世界諸国の企業は日本企業より研究開発費を投じている
・モビリティ
トヨタは2019にソフトバンク、2020にNTTと資本業務提携を実施した

語彙

・EBITDA(イービットディーエー):Earnings before intereset taxes depretiation and amortization 税引前利益+支払利息+減価償却費。国によって金利、税率、減価償却の計算法に差異があるため、その差異を最小限にとどめられる点から、国際的に企業の収益力を比較する際の指標として使用される。
・第三者割当増資:特定の相手(取引先や自社の役員など)に対して増資し、会社の資本金を増やすこと

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?