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【書評】 "Progress in optics Chapter Two Consistent scalar imaging theory“

  2024年版Progress in opticsがElsevireから4月に刊行された。

Chapter One - Rotated reference frames in radiative transport theory:Manabu Machida
Chapter Two - Consistent scalar imaging theory:Masato Shibuya
Chapter Three - Single and few-photon detection using superconducting transition edge sensors:Daiji Fukuda, Takahiro Kikuchi
Chapter Four - Pearcey beams and autofocusing waves:Xiaoyan Zhou, Daomu Zhao
Chapter Five - Metamaterials for analog all-optical computation:Michele Cotrufo, Andrea Alù

という内容である。(Progress in opticsはElsevierから刊行されている総説論文を掲載した定評ある年刊誌で、Emil Wolf編集の元1961年に創刊された。2016年からはTaco D. Visserがその職を務めている)。第1章“Rotated reference frames in radiative transport theory”は近畿大学の町田学さん,第3章“Single and few-photon detection using superconducting transition edge sensors”は産総研の福田大治さんと菊地貴大さんの執筆である。
 第2章“Consistent scalar imaging theory”は,「レンズ光学の泉」(アドコム・メディア2023年12月刊行,光技術コンタクト誌に書評が掲載)の著書である渋谷眞人東京工芸大学名誉教授が書いており,簡単に紹介してみたい。 Consistentであるためには,以下3つの条件が成立する必要があるとしている。(i)対応原理(波長が無限小になったときの波動光学的点像強度分布がスポットダイアグラムに一致すること),(ii)点像を考えたときに,瞳面のエネルギーと像面上のエネルギーが等しいこと,(iii)相反定理(物体面のある点からの光波が像面のある点に作る振幅が,像面の点からの光波が物面の点に作る振幅に等しいこと)である。
 (i),(ii)はごく自然な要求であろう。(iii)は自然な要求とは言えないかもしれないが,長年にわたって行われている物体と像の入れ替えによる結像性能の検査の正当性はここからきている。(i), (ii),(iii)の議論を展開する上で,天下り的な演繹論法ではなく,レンズ結像の計測についての具体的な思考実験により丹念に論が進められていく(アインシュタインの特殊相対性理論の論文は、観測における思考実験の積み重ねにより組み立てられている。その理論の壮大さ・深淵さとは比べるべくもないが,それを彷彿とさせるような面白い記述である(岩波文庫33-934-1相対性理論,アインシュタイン著,内山龍雄訳・解説))。入射および射出のインクリネーションファクターを導入することで,これらの条件を満足する結像理論が導かれる。ここで,アッベやシュワルツシルドやホプキンスが提言している方向余弦としての瞳座標を用いることの重要性も指摘され,それを用いることで,軸外の結像,非アイソプラナチックな結像のconsistentについて論じている。
 実際の光学系では,物体や像面の材質は必ずしも,この理論の要求するものとは一致しない。そこで,物体や受光面の物理的性質を綿密に考慮したベクトル回折理論との対比(関連)について触れている。できれば,スカラー回折理論そのものにおける適用限界について,もう少し言及できたら良かったように思う。
 “Consistent scalar imaging theory”と「レンズ光学の泉」の第2章とはかなり重なるところがある。あるいは互いに補完的なところがある。 “Consistent scalar imaging theory”では,入射出のインクリネーションファクターの導入に絡んだ,思考実験による丁寧な議論がされている。一方「レンズ光学の泉」では斜め像面における入射インクリネーションの議論がある。また,「レンズ光学の泉」は連載をまとめたので全体の組み立てが冗長だったりする。それが逆に面白い所でもあるが,“Consistent scalar imaging theory”は流れがきれいにまとまっていて,英語ではあるがすっきりと読めるであろう。双方を読むことで,レンズ光学におけるスカラー回折理論の位置づけが,深く理解できるのではないだろうか。それは精密なレンズ開発にとって有意義であろう。

(文責:アドコム・メディア編集部,情報は公開時のものです)


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