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クリス・ロック殴打事件の心理的背景について愚考してみた

日本社会のウィル・スミスのビンタを称賛する声はとどまるところを知らない
ウィル・スミスは本来はナイスガイだと思うし、幼児期にウィルの父親が日常的に母親に対して行っていた虐待の光景がフラッシュバックしてしまったのではないかと勝手に推測している
つまり、母親を常時、傷めつけている父は最大の悪であり猛烈な憎悪を感じているが、父はあまりにも強大でありそれには従わざるを得ない
このエディプス的葛藤がウィルの内部で常に渦巻いていて解消されていない
母親を守りたい
しかしそのためには父より強くならなくはならない
そうすると自分は父親のようになってしまう
父親のようにはなりたくないが強くはなりたい
そうしなければ愛する者を守れない
父のようにならないようにしながら強くなるにはどうしたらいいのか?
母親への虐待を目撃することは子どもに強い罪悪感を与える
子どもは自分のせいで母親が殴られるのだと考える
こういう葛藤はかなり普遍的なので、クリス・ロックもまたそういう葛藤をかかえているのかもしれない
笑いで母親を幸せにしたい
笑いでみんなを幸せにしたい
だが父親は倒したい
誰も傷つかないお笑いをしたい
だが父親は倒したい
クリスは笑いの中に毒矢を仕込む名人として成長していく
クリスの放った毒矢はあらぬ方向へ飛んでいき誰かの心臓に突き刺ささる
ただこれは単なる勘だが、クリス・ロックにはあまりエディプス的葛藤を感じないので報道されている通り彼は、アスペルガー症候群に近い非言語性学習障害をもった人物で、人の表情を読み取ることができないのかもしれない
確かにクリスにはウーマンラッシュアワーの村本にも似た人の表情、場の空気を一切読まない人物特有の宇宙人感がある
ウィキペディアをみる限りクリス・ロックの根底にあるのは学童期に受けた白人からの暴力である
長期に渡って白人の悪ガキからサンドバッグのように扱われることは誰にとってもつらいことだ
その暴力は学年があがるにつれて激しさを増していったという
クリス・ロックは困難な思春期、青年期を経てお笑いの道へ入っていく
暴力に対して暴力で対抗するのではなく笑いで対抗するために
ウィル・スミスにビンタされたときにクリス・ロックは一切、反撃しようとしていない
さすがに左の頬は差し出してはいないがヒロイックな態度といえるだろう
あそこで両者の殴り合いになって大混乱が起こり式が中断される可能性は大いにあった
クリス・ロックが大島渚していたらそれはそれは醜悪な光景が展開していたに違いない
日本社会ではなぜかウィル・スミスがヒーローになってしまっているが欧米ではクリス・ロックの方がヒーロー視されているのである
ただ地球レベルで考えるとアカデミー賞なんてものに興味も関心もない人々が大半でありこの事件もコップの中の嵐感があるのは否めない


https://theriver.jp/rock-didnt-know-alopecia/


一番、謎なのはクリス・ロックがジェイダ・ピンケット・スミスの脱毛症を侮辱したという説である
SNSでもこの説に固執する日本人が圧倒的に多い
固執の度合いが極めて強い
彼らの中でまさに耳を聾せんばかりの超自我による怒号がなり響いている
病人をからかうなんてなんということだ !
クリス・ロックは絶対に許されてはならない !
裁かれなければならないのはウィル・スミスではない !
クリス・ロックだ !
クリス・ロックはアフリカ系アメリカ人の女性の髪を扱ったドキュメンタリーをつくっている
そういうドキュメンタリーをつくっておきながら脱毛症をジョークにするとはクリス・ロックはますますもって許しがたい !
奴はわかってやってやがるんだ !
どこまでねじまがった野郎なんだ !
狂ってる !
ウィル・スミスよくやった
さすが漢だね
ウィルこそ男の中の男
よっ大統領 !
やっちまえ やっちまえ ぶっ殺しちまえ
悪い奴をぶちのめして… なにが悪いの ?
クリス・ロックを擁護するサヨクの暴走恐ろしや
ウィル様、悪を成敗してくださりありがとうございます
あれは朝敵征伐せよとの
錦の御旗じや知らないか
一天萬乗ウィル・スミス
トコトンヤレ、トンヤレナ
そんな声が聞こえてくるようだ


デミ・ムーアは悪い人ではない
GIジェーンは素敵な映画である
クリス・ロックはジェイダ・ピンケット・スミスに君の頭、素敵だよといいたかっただけである
これを嘲りや侮辱ととらえるのは無理がある

ジェイダ・ピンケット・スミスはなぜ笑っていないのか?
ジェイダ・ピンケット・スミスはおばあちゃん子で、おばあちゃんはジェイダの芸能界へのあこがれを支援した
ジェイダの祖母マリオン・バンフィールドはジャマイカ系アメリカ人で場合によってはアフリカ系アメリカ人より差別される境遇にあったのかもしれない
ジェイダはそのおばあちゃんから公民権運動の話やアンジェラ・デイヴィスの話を聞かされて育った
アンジェラ・デイヴィスは新左翼のアイドル、ヘルベルト・マルクーゼに学んだアメリカの左翼のゴッドマザー的存在でマルクス主義フェミニストである
要するにラジカルな人だ
髪を白人風のストレートにすることなぞ絶対にない人物である

ジェイダは幼少期におばあちゃんからアンジェラ・デイビスの話を聞かされ今もアンジェラ・デイビスの話を聞いている
ジェイダ・ピンケット・スミスはアンジェラ・デイビスをリスペクトしている
そしてジェイダの親友であった伝説のラッパー、2パックはブラックパンサー党の党員を両親に持つラジカルな人物であった

ジェイダ・ピンケット・スミスの自伝的事実について詳しく調べられなかったので憶測になるが彼女も最初はドレッドヘアかアフロヘアーだったと思う
ただいろんな事情があって悪名高いクリームクラックを使ったのだろう
クリームクラックは強力なパーマ液で、あまりにも強力なため皮膚を侵す薬剤である
ジェイダ・ピンケット・スミスは本来はラジカルにシンパシーを感じている人物だが、それでもいろんな事情で白人のようなストレートヘアにしてしまった

ジェイダには「わたしは日和っちゃったんだ」という罪の意識があるのかもしれない
わたしは日和ってしまった
おばあちゃんを裏切ってしまった
アンジェラを裏切ってしまった
2パックを裏切ってしまった
ジェイダの沈痛な表情の底にその感情がある
クリス・ロックが放った矢はその感情に刺さった
クリス・ロックはやはりアフリカ系アメリカ人が白人側へ日和ることをよくは思ってないのだろう
それをネタにしたジョークもいってきたに違いない
グッドヘアーというドキュメンタリーもまだ三歳の娘が白人の美意識に侵食されてしまっていることへの驚きから始まっている
パパ、なんであたしの髪はグッドヘアーじゃないの ?
なんであたしの髪はチリチリなの ?

ジェイダという名前は母、エイドリアン・バンフィールド・ノリスのお気に入りだった白人女優のジェイダ・ローランドにちなんでつけられており、1971年に自分の娘に白人の女優の名前をつける母親はそこまでブラックパワー的なラジカルな人物ではなかったのかもしれない
ジェイダを産んだとき彼女は17歳だった
そのあたりで、ラジカルだった祖母とそこまでじゃなかった母親の間で幼きジェイダは板挟みにあっていた可能性も捨てきれないが、ことの詳細を知るにはジェイダの回想録を読んでみる必要があるだろう
ただそれよりもジェイダの幼少期に影を落としたのは暴力的な父親の存在だった
ジェイダの父、ロブソル・ピンケット・ジュニアはアフリカ系アメリカ人で有害な男らしさを体現したようなどうしようもない人物だった
性的同意についての母と娘の語らいの中で母エイドリアン・バンフィールド・ノリスはロブソルとの間で合意のない性交があったことを示唆している
二人はジェイダが生まれて数カ月後に離婚した
バンフィールド・ノリスの体にはロブソルの激しい暴力によって生じた傷が残っていた
幼きジェイダは母に聞いた
ママ、これはなに?

ロブソルはジェイダにずっと無関心だったがこういう最低な父親にありがちなこととしてジェイダが有名になると近づいてきたという
おう、おめぇ有名になったんだってな
この行動はジェイダを傷つけた
2010年、麻薬の乱用者だったロブソルはオーバードーズで死んだがジェイダは父を許していない

薬物問題は父と母と娘に影を落としている
母はヘロインに依存していた時期がありジェイダ自身も2パックと親交があった頃に薬物の売買を行っていた
クリスがアルコール依存症をネタにした段階でジェイダは既に気分が悪くなっていたのかもしれない

母と娘はスピリチュアルなエクササイズの実践者であり、それはさまざまな依存の問題を自律的に解決したいという意志の現れに違いない
ジェイダの癒やしの季節という表現にはそれが含意されているとみるべきだろう
ジェイダは直接行動ではなく自身の内に平静をつくることで問題の解決を図ろうとしている
今回の殴打事件はこのような複雑な背景をもった事件であって、さすが漢だねで済まされるような話ではない
以上がクリス・ロック殴打事件に関する僕の憶測のすべてである














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