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『トロとパズル』、君はいい友人だったが課金圧が足りなかった

『トロとパズル』がサービス終了を発表しました。

寂しく思う半面、やっぱりかと思ってしまうのも正直なところ。自分は楽しんでいたし、上のツイートへのRT数やリプライの内容を見れば多くの人にサービス終了が惜しまれていることがわかるでしょう。
ただ、『トロとパズル』の運営が十分な収益をあげられているとは感じられませんでした。遊んでいた多くの人が似たような感覚を抱いているでしょう。

今回はそんな“トロとパズルとお金”の話をユーザー視点から書いていこうかと。

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勝てない感覚が薄い

『トロとパズル』は、場のフルーツを入れ替えながら定められた手数でノルマの分だけ収穫するマッチ3パズル(同じものが3つ並ぶと消えるパズル)。パズルを一定数クリアするとストーリーを見られますが、逆に言えばパズルをクリアできなければ一切先のストーリーは見られません。

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パズルをクリアできなかったプレイヤーにはふたつの選択肢が与えられます。ひとつが、ハート(=スタミナ)を消費してパズルをやめること。そしてもうひとつがコイン(課金やゲームプレイで手に入るゲーム内通貨)を消費してコンティニューすること。ハートは時間もしくはコインの消費で回復できるので、両方をまとめると“パズルに失敗すると、待ち時間かコインが必要”という一見よくある構造になります。

ただ、上記のとおりハートはパズルをやめる際に消費するもの。つまり、パズルに失敗しなければいっさい消費されないんです。クリアすれば減らないスタミナというのは異質。遊んでいる身からすると快適ではありつつ、「これで運営していけるのか?」という不安はリリース当初からありました。

ただ、まあどこかでパズルは失敗しますし、再挑戦してまた失敗ということはあります。そこでコンティニューの出番です。
コンティニューは場の状況や消費したノルマを維持したまま、手数が5手増えるもの。同じステージで複数回コンティニューをすると消費するコインの数が増えるものの、こちらは繰り返せばいつかはステージをクリアできます。自分の腕前が足りていないと感じたなら、コンティニューする。普通ならこうなりますよね。

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ただ、『トロとパズル』は各ステージの形状こそ同じものの、各マスに配置されるフルーツはランダム。そのために腕前が不足しているからパズルをクリアできなかったという感覚がどうにも薄い。「ノルマに紐づいたフルーツが初手に少なかった」「フルーツをつなげにくい配置だった」と、どんな失敗をしても、運のせいにできてしまいます。

また、失敗するとハートを消費すると書きましたがパズルが始まった際に、最初の一手を動かす前ならハートを消費せずにパズルをやめることが可能。もちろん、この方法でパズルに再挑戦したときもフルーツの配置が変化します。つまり、いっさいのコストなしで初手のリセマラができてしまうんですよ。

今回はいけそう、この配置はリセット、と手軽にできるとどうしても初期配置運の良しあしが見えてくるもの。運を理由にコンティニューを渋りたくなる構造でした。

これに加えて、パズルをクリアすると報酬としてある程度のコインが入手できるという無料ゲームなら当たり前の仕組みも『トロとパズル』の運営においては足を引っ張った印象。
10ステージほどクリアして初めてコンティニュー代になるくらいの額ですが、『トロとパズル』のリリース当初のコインの使い道はハートを手に入れる、コンティニューに使う、に加えてゲームの進行にはかかわらない“称号”の入手に使うだけ。そして運のせいにしたくなるからハートにもコンティニューにも使いにくい。初期配置リセマラの末にやっぱり無理だと感じたときのコンティニューには、今まで貯蓄していたコインを消費とプレイが課金に結び付きにくい印象でした。

いわゆるガチャのような、コインを大量に使う用途があればよかったのですがリリース当初にはなし。用途がないからこそコインをスタミナやコンティニューに紐づけたのはわかるのですが、パズルを始める際にハートを消費してたくさん遊びたければ課金という構造の方がよかったのでは? と感じています。

入手しやすく購入しにくいブースターアイテム

『トロとパズル』には、もうひとつゲームの進行と課金の両方にかかわっているものがありました。それが“ブースターアイテム”というもの。このブーストアイテムの説明には、少しだけ『トロとパズル』のシステムの解説が必要なので脱線します。

『トロとパズル』はフルーツを入れ替えて3つ以上同じものが並ぶと消えるというのが基本ルール。そして、特定の並べ方をした場合にはフルーツが消えつつ、場に“おたすけピース”というアイテムが出現します。例えば横に4つ並べる(A、A、B、Aと並んだフルーツのBの上下どちらかにAがあった際に入れ替えるなど)と縦一列のフルーツを消す“ロケット花火(縦)”が出現といった具合。3つ並んだフルーツは強制的に消えるため、多くのフルーツを特定の形で並べるとより強力なおたすけピースが出現します。

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脱線終了。このおたすけピースをあらかじめ持ち込めるのがブースターアイテム。ブースターアイテムを使うと、次のパズルに限りランダムな位置におたすけピースが配置されます。
通常は一手につき3つ+α程度しかフルーツを消せないところを一列丸ごと消せるなど、おたすけピースは間違いなく便利なアイテム。いきなり場に置かれている時点で数手分のアドバンテージを確実に得られます。

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では、このブースターアイテムはどうやったら手に入るのか。ログインボーナスで手に入ります。特定のステージをクリアした際にも手に入ります。もちろん、有償でも入手できました。コインを購入した際のオマケとして。

うーん……。

ブースターアイテムが欲しくても、単体で購入できないのはどうにも手が出しにくいものでした。
また、コインがメインでオマケとしてブースターアイテムがついてくるという仕組みが明らかなため、ブースターアイテムだけが欲しいならオマケのために課金をしなければならないという心理的な抵抗も課金を渋る要因になっていたことでしょう。

ログインボーナスでいわゆるガチャ石をある程度配って、課金欲を煽るというのはよくある構造ですよね。『トロとパズル』もログインボーナスでブースターアイテムを配っていましたので、これを下地に課金欲を煽ることはできたはずです。

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だからこそ、“ロケット花火(縦)10個パック:〇〇円”のようなアイテムオンリーの課金要素がなかったことが不思議でなりません。

ログインボーナス分だけブーストアイテムを使う人と、課金しつつ潤沢にブーストアイテムを使う人の間にいただろう“少額のブーストアイテムをちまちま買ってしまう人”にお金を出してもらうことができなかったのもトロとの別れを早めてしまった一因ではないかと考えています。

おうえんバッジはよかったものの後付けの厳しさが

そんな課金周りが変化したのが、“おうえんバッジ”というアイテムの実装からです。
おうえんバッジは、セットしてパズルをすると“メロンを32個消すと場にアイテムが設置される”などの効果が得られるもの。おうえんバッジにはポケピのイラストが用意されており、バッジの効果を得られたときにはそのポケピが応援してくれます。

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この試み自体はよいものだったと感じています。というのも、『トロとパズル』は“メロンを10個消す”、“リンゴと箱を20個ずつ消す”など場のフルーツ(とそれ以外のオブジェクト)のうち特定の種類だけがノルマになっている構造。ノルマに関係のないフルーツを消す一手は小さなストレスだったんです。
そこにおうえんバッジが加わると「ノルマはメロンとレモンだけど、リンゴを消せばおうえんバッジの効果が発動する」といったように、無駄な一手を打った感覚がかなり軽減されました。

ただ、このおうえんバッジの主な入手手段はガチャ。ゲームの進行で手に入るものはいくつかありましたが、基本的にはガチャ産の方が強力です。後付けでガチャが実装されるのは多かれ少なかれ反感を買うもの。例えば『FFXIV』に突然ガチャが実装されて、最前線クラスの装備が手に入るという話になったら大炎上することが想像できますよね。

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実際、ガチャゲーになったからと『トロとパズル』から離れてしまった人もいた様子。後付けのガチャは収益にはつながるものの、リスクのある施策だったことでしょう。良心的な確率だったんですけどね。

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広告の視聴を自由意志に任せてしまった

ユーザーに課金してもらう以外にもうひとつ『トロとパズル』が収益を得る手段として用意されていたのが、広告収入。

パズルを始める前にときおり広告への誘導が表示され、それを見るとブースターアイテムを直後のパズルに持ち込めます。

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また、温泉街ではクロが「広告はいらんかねえ」くらいのゆるーいノリで、プレイヤーが広告の視聴をするように誘ってきます。こちらの方法で広告を視聴した場合はプレイヤーにコインがプレゼントされます。

ブースターアイテムもコインも、無料ならうれしいもの。また、キャラクターがプレイヤーに広告の視聴を求めるというメタい構図は通常ならあまり歓迎されるものではありませんが、クロのこれまでの所業を考えるとなんとなく許せてしまう。まさにベストキャスティングでした。

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ただ、この広告収入を得る仕組みにも大きな問題があったと感じています。それは、プレイヤーは広告を見てもいいし、見なくてもいいということ。

パズルを始める際に広告への誘導があっても、見なくてOK。クロがいくら広告に誘って来ようと無視すればOK。
上のとおり、広告を見ることにメリットはありますが、広告を見るメリットとゲームプレイが1分ほど阻害されるデメリットを天秤にかけて広告を見ないことを選ぶ人はいくらでもいるはずです。
そうでなければ、ほかのゲームや動画サイトなどで見かける課金をすれば広告が出なくなるというビジネスモデルが成り立つわけがありません。

広告収入が視聴回数ごとに入るものなのか、一定期間ごとの契約なのかはわかりませんが、『トロとパズル』はユーザーに広告を視聴するかの選択を任せたために、ユーザー数の割に広告収入が得られなかったのでは? と考えています。

広告を視聴させるなら、その日初めてハートがゼロになったタイミングで強制的に広告を視聴させてハートを回復。その後はユーザーの自由意志に任せるといった、ある程度確実に広告が見られる構造でもよかったでしょう。

最大の武器を無償で提供してしまった

いろいろと収益を得にくいように思えたしまった『トロとパズル』ですが、最大の問題点はリリース当初から武器を捨てていたことだと考えています。

『トロとパズル』にはリリース前の時点で大きな武器がふたつありました。ひとつはトロをはじめとした”ポケットピープル(ポケピ)”。そしてもうひとつが、ポケピに言葉を教えて会話を楽しむコミュニケーション要素。

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正直なところ、このどちらかに課金要素が用意されると思っていたんですよ。例えば、トロ以外のポケピを登場させるには課金が必要、教えられる言葉の数を増やすには課金が必要といった具合に。

ですが、実際にはポケピはストーリー上で登場したうえに、パズルでもストーリーの進行に即して自由に選択可能。教えられる言葉の数を課金で増やすというようなこともありませんでした。

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ありがたいんですよ。遊んでいる身としては。ですが、我々『どこでもいっしょ』ファンが一番お金を出しそうなのは、ポケピ周りです。
ジュンとパズルや会話を楽しむなら300円ですよ。と言われたら喜んで払います。ピエール:300円。払いましょうとも。『どこでもいっしょ』に登場したポケピとクロが全員セットで1000円と言われても当たり前のように購入する層はいたはずです。

また、ポケピを購入する必要があるIFの『トロとパズル』のことを考えていると、どうしても引っかかるのがおうえんバッジについて。

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ガチャで引けて、キャラクターが出てきて、個々に性能差がある。このおうえんバッジの仕組みがそのままポケピに紐づいていてもよかったのではないでしょうか? 強キャラの水着トロがピックアップ、トロを別のスマホゲーのキャラ名に置き換えればよくある話ですよね。

正直なところ、先にポケピやポケピとのふれあいを無償で提供していたために、いざガチャを実装するとなったらポケピが使えず、その代替品としておうえんバッジが用意されたのではないかと考えています。

ただ、キャラクターに思い入れのある人が多いコンテンツで“キャラクターが手に入ります。強いです。”と、“キャラクターのイラストが描かれたカードが手に入ります。強いです。”では、プレイヤーがガチャを引くモチベは雲泥の差でしょう。ガチャを引かずともポケピとパズルができて、コミュニケーションがとれる『トロとパズル』ならなおさらです。

ストーリーにポケピを登場させつつも、パズルに参加させるには課金が必要といった仕組みで最初からリリースしていれば、おうえんバッジよりもガチャでの収益もより得られて、今よりも『トロとパズル』が長いこと遊ばれるゲームになったのではと考えるともったいなさを感じてしまいます。

よく既存のIPを使った作品が失敗した際に「素材はよかったが調理法が悪かった」と揶揄されることがありますよね。
『トロとパズル』の場合は『どこでもいっしょ』という素材はよく、パズルは斬新ではないものの手堅さはあり。温泉街の持つのどかさと寂しさはどことなく『どこでもいっしょ』を思い出させるものと調理法も文句なし。ただ、課金への誘導がうまくいかず迷走したという印象です。

言うなれば「素材も調理法もよかったが、値段設定だけが間違っていた」というところでしょうか。残念な話です。

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