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ゆっくり実況大量転載問題

少し前にゆっくり実況系の動画の転載動画を繰り返しアップロードしているアカウントが問題となっていたので、ほんの少しだけ調べてみることにした。


ゆっくり実況とは?

ゆっくり実況(ゆっくりじっきょう)とは、音声合成ソフトを使用したゲーム実況や車載などの動画である(引用: Wikipedia)。広い意味でbiim式RTA動画もこれに含まれる。本稿で問題としているのはゲーム実況に関するものである。

転載問題

ゆっくり実況・biim式RTA動画の転載問題に関しては、投稿数が1000を越えるような規模の大きなものが現れているのが問題である。そのようなチャンネルは権利者からの通報によりチャンネルが閉鎖されるのではないかと思われる(いわゆる「スリーストライク制度」)が、数年来にわたって大量投稿を繰り返してきているのにもかかわらず活動を継続しているチャンネルもある。削除されないための何らかの工夫が施されているものと考えられる。

転載の態様

転載にあたっては、何らかの変更が動画に施されていることが多い。具体的には、転載者の側で数秒間のOPを挿入したり、複数Partに分かれていた動画を1本に結合したりといった具合である。また、削除対策としてどれほどの意義があるのかは不明であるが、biim式RTA動画の立ち絵を他の素材に挿げ替えているものも多い。
チャンネルの名称も「ゆっくり実況」「biimシステム」など、検索エンジン対策を意識したと思われるものが多い。2022年から導入されたYouTubeハンドルも"@biimRTA"、"@RTAbiim"など、デフォルトで付される覚えにくい文字列からユーザーが記憶しやすいものへ変更されているものもある。
大手転載チャンネルの中には、予備のアカウントを利用して人気チャンネルの名を冠したプレイリストに動画を機械的に追加させる仕組みを構築させているものがあるとみられる。

これらのチャンネルがアップロードした動画のコメント欄においては、転載を非難するコメントが多くの場合において皆無なことから、「動画投稿者はコメントを手動で削除している」などと推察する向きもある。しかし、筆者が試してみたところ、実際にはこれらのチャンネルにはいわゆる承認制が敷かれているものと思われる。

YouTubeはさまざまなコメント管理システムを動画投稿者に用意しているが、そのうちの一つが動画についたコメントをすべて保留するというオプション(承認制)であり、動画投稿者やモデレーターがコメントを承認するまではコメント主にしかコメントが見えない状態となるのである。

また、筆者の憶測ではあるが、以下の事業譲渡仲介サイトの案件はこのような転載動画チャンネルではないかとも考えられる。
https://sitestock.jp/sales_web_detail.html?id=6701

YouTubeの定める著作権侵害の紛争処理手続

YouTubeを運営するGoogle LLCはいうまでもなくアメリカの企業であり、そのため、YouTubeが定める著作権者と転載者との紛争処理プロセスは、連邦法であるDMCA法(デジタルミレニアム著作権法)の影響を強く受けたものであるとみられる(参考:Wikipedia)。そのため、本手続は基本的には米国人の法意識・商慣習に沿うものとしてデザインされたものであると考えられ、日本法の下で活動する動画クリエイターにとって、抵抗感の強いものとなっているといえる(「巨大プラットフォーマーがその巨大さをよいことにいい加減な手続を制定している」という見方は、おそらく不正確な見方である。ただし、米国外のクリエイターにとっては事実上の不利益を被ることが多いと予想されることは確かであり、また制度そのものではなく運用の局面に問題があると考えられる事例も存在する)。
YouTubeの定める手続は、①著作権侵害の通知②異議申し立て③提訴の3ステップで構成されている。Wikipediaには以下のような例が挙げられている(参考)。

  1. Alice puts a video with a copy of Bob's song on her YouTube.

  2. Bob, searching the Internet, finds Alice's copy.

  3. Charlie, Bob's lawyer, sends a letter to YouTube's designated agent (registered with the Copyright Office) including:

    1. Contact information

    2. The name of the song that was copied

    3. The URL of the copied song

    4. A statement that he has a good faith belief that use of the material in the manner complained of is not authorized by the copyright owner, its agent, or the law.

    5. A statement that the information in the notification is accurate

    6. A statement that, under penalty of perjury, Charlie is authorized to act for the copyright holder

    7. A written signature

  4. YouTube takes the video down.

  5. YouTube tells Alice that they have taken the video down and that her channel has a copyright strike.

  6. Alice now has the option of sending a counter-notice to YouTube, if she feels the video was taken down unfairly. The notice includes

    1. Contact information

    2. Identification of the removed video

    3. A statement under penalty of perjury that Alice has a good faith belief the material was mistakenly taken down

    4. A statement consenting to the jurisdiction of Alice's local US Federal District Court, or, if outside the US, to a US Federal District Court in any jurisdiction in which YouTube is found.

    5. her signature

  7. If Alice does file a valid counter-notice, YouTube notifies Bob, then waits 10-14 business days for a lawsuit to be filed by Bob.

  8. If Bob does not file a lawsuit, then YouTube may put the material back up.

削除申請にあたっては、住所を含む連絡先情報の記載を要求されることが心理的な壁となる。申請フォームには虚偽の情報を記載した場合に偽証罪に問われるおそれがあるなどとの記載があるからである(米国法については、筆者はよく分からない。日本法における偽証罪(刑法169条)とはかなり違う意味合いで使われているような気がする)。転載を繰り返しているような人物に対して個人情報を明かすと不正利用や嫌がらせを受けるリスクが高いとして抵抗を感じるという者も多いのではないかと推察される(ただし、入力したすべての情報が相手に渡る訳ではないと思われる。筆者もマイティーやり込みゲーム動画というYouTuberの代理人を称するGETNEWSJPと名乗る者から削除申請を受けたことがあるが、YouTubeから渡された情報は削除申請の撤回を交渉するための相手方のメールアドレス程度であった)。
削除申請を行うにあたってのもう一つの壁は、提訴である。相手方が削除申請に対し異議申し立てを行ってきた場合、異議申し立て通知に記載された情報に基づき法的措置をとったことを証する情報をYouTubeに提出しない場合、YouTubeは10日程度で動画を復活させてしまうのである。しかも、法的措置は米国の管轄連邦地方裁判所において行うことが想定されている(後掲のone氏のツイートを参照)。これは、心理的だけではなく金銭的にもハードルが高いものである。

転載アカウントには、どのようなものが存在するか

第一群(現在も活動中で機械的にプレイリストの内容を生成させていると思しきもの)

以上のチャンネルは以下に掲げるチャンネル群によるプレイリストの自動生成の対象とされている。人気チャンネルと同一の名称が付されているものがあるが、それらとは別物であることに注意されたい*1
なお下記のうち「チューブゆっくり」は転載チャンネルの一部にコメントを残していることが確認されている(参考)。また、「adam smail」については、"adam" という文字列が後述の異議申し立て通知の際に使われたことのある文字列と共通している。
*1 誤解を招くコンテンツ等に関する YouTube ポリシー違反を理由に削除されたようである(2023年12月31日追記)

本記事執筆後に一部のチャンネルが一部の再生リストを非公開化したようである。当該変更前は以下に掲げるどのチャンネルも数百の転載チャンネルの動画が格納されたプレイリストが複数作成されていた(2023年1月26日追記)。
しかしその後、プレイリストの公開・更新を再開したらしく、adamの文字列が別の文字列へと改定されている(2023年12月31日追記)。

以上のチャンネル群は見かけ上はそれぞれのチャンネルでOPやサムネイルのつけ方に違いはあるものの、後述の削除申請事例集を詳細に見ていくと、文体の類似性等から同一の運営主体ではないかとの見方も出てきている。

第二群(その他、規模の大きなもの)

各チャンネルの特色

動画まとめコメ付き

・登録者数および動画数の両方の点で最大手
・立ち絵のない動画が多い(biim式がはやる前の動画を好んで転載している?)
・権利者からの削除申請に対し異議申し立てを行っているとの情報あり

おやつ氏の事例

コメ付きゲーム 興味深い

・まんじゅう差替え
・権利者からの削除申請に対し許諾を得ているとして異議申し立てを行っているとの情報あり
・異議申し立ての居住地としてモロッコを指定していた
・アカウントが停止されたことがあるらしいが、何度も復活しているようである。

大福(zelpikukirby)氏の事例

権利者からの削除申請に対して、転載側は異議申し立てを行っている。

コメントは承認制がとられているようだ。本事例の場合、粘り強く抗議した結果、非公開という結果に落ち着いたようだ。

異議申し立ては、以下の通りフランス語で書かれていたようだ。構文が他チャンネルについておやつ氏の受け取ったものとよく似ていることに注目すべきである。

one氏の事例

one氏もまた、異議申し立て通知を受け取っている。

削除申請をした側が批判的なツイートをした場合、削除と引き換えにツイートの削除を要求することもあるようだ。

one氏の場合も、居住地がモロッコと表示されていたとのことである。
https://www.youtube.com/channel/UC88HAq2pSJu5qCRtHxDJCWQ/community?lc=UgzK8t5atb6lTlW1DyJ4AaABAg&lb=Ugkx9pUuQQ9X8b4TnrDZQ8S2ieAmXELX6JK5

コメ付きをゆっくり実況【RTA】

・以前はポケモンやワンピースなどのアイコンで実況者の動画を転載していたようだ
・饅頭差し替え
・権利者からの削除申請に対し許諾を得ているとして異議申し立てを行っているとの情報あり
・Adam Molinoと称していたという情報がある
・居住地はモロッコという情報とチュニジアという情報がある

ペリカン氏の事例

ペリカン氏は生声でポケモン等の実況を投稿している人物であるが、特別にここで取り上げる。彼もまた、無断転載に苦しめられており、YouTubeが誤って本家チャンネルを削除してしまうこともあった。

当該転載アカウントは、アイコンの見た目が異なってはいるものの、コメ付きをゆっくり実況【RTA】と同一のアカウントであると考えられる。本件について記述する当時のブログ記事や匿名掲示板の書き込みにおいて、ペリカン氏の偽アカウントが運営するチャンネルとして記載しているURLが、コメ付きをゆっくり実況【RTA】のものと同一であるからである。

その後、転載者は転載元の動画製作者に対して慈悲を乞うようなDMを送っていたようだ。

ほとぼりが冷めたころに活動を再開している。

運の香氏の事例

カルアミルク氏の事例

やはり、削除と引き換えにツイートの削除を要求していたようだ。

風野しあ氏の事例

mukamuka氏の事例

謎のGAMER コメ付き

・ずんだもんという動画に無関係のキャラクターがサムネに好んで使われている
・権利者からの削除申請に対し許諾を得ているとして異議申し立てを行っているとの情報あり
・居住地としてモロッコを指定していたようだ

ヤムシン氏の事例

【biim兄貴リスペクト】 ゆっくり実況RTA 【biimシステム】


  • 正面顔のゆっくり霊夢で立ち絵を差し替えているものが多い

  • 権利者からの削除申請に対し許諾を得ているとして異議申し立てを行っているとの情報あり

  • 居住地としてモロッコを指定していたようだ

なが氏の事例

暫定的なまとめ

転載者たちは、適法な著作権侵害の申し立てに対し、異議申し立て通知を発することによって、おそらく米国法に基づき差止めの訴えを連邦地方裁判所に提起したことを証する文書をYouTubeへ提出するという、心理的・金銭的にハードルの高い手続を権利者に要求している。YouTubeによる削除ではなく、削除申請の失効による転載動画の復活後に改めて動画を非公開化することによって、YouTube側の設ける著作権侵害のペナルティの加算を回避し、現在までチャンネルの閉鎖を免れている状況にあるものとみられる。加えて、チャンネル内においてコメントに承認制を設けたり、動画の削除と引換えに批判的なツイートの削除を求めたりすることを通じて、悪評や手口が広まるのを防いでいるように思われる。複数チャンネル間で異議申し立て通知の文面が似るという事例もみられ、同一人の関与も疑われる。

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