新テイク_扉絵

『アトランティスの魔導士〈0〉』〈序章〉  part‐5

 おおぬきたつや・著。          

              まどうし
     『アトランティスの魔導士〈0〉』
        ~はじまりのはじまり~

 〈序章〉  part‐5


 安らかな、気分だった。
 とても暖かく、ふわふわ、ふかふかと…。
 それはまるでお空に浮かんだ綿雲(わたぐも)の上に、この身をまんま委ねている。
 そんなまさしく夢のような心地のよさだ。
 ただ真上から容赦(ようしゃ)なく照りつけるお天道様(おてんとさま)だけがやけに明るくて、この顔のすぐ間近で、これでもかあっ! と、ひたすらに燃えさかる。

 ギン・ギラ・ギンっ!!

「んっ、んん、むんっ…!」

 つむった目をこれをムリヤリにでもこじ開けるかの強引さだ。
 こんな間断(かんだん)なく降りかかる百光(びゃっこう)に、それまですっかり寝こけきっていた夢見心地から、もうじき自称『立派な10歳児』となる少年は、やがていやいやながらにも現実へと引き戻された。
 すると、その途端(とたん)…!
 ひどいねぼけ眼(まなこ)が天井で輝く蛍光灯にぴたりとその焦点が合わさるや、これがたちまちギョッとなる。
 気がつけばみずからの身体(からだ)にぼんとおっ被(かぶ)さる布団(ふとん)ごと、彼はその小柄な上半身、ただちにガバリ! とまっすぐに起き上げた。
 おまけ反射的に、ハトが豆鉄砲を食ったようなびっくり眼のまんま、あたりをキョロキョロ…!?
 あわわっと大慌てで見回してしまうのだった。

「あ…? まぶしっ、あれっ! なんだっ、ここどこだっ? おれどうしてっ…じいちゃん!」

 ひどい驚きの中にも、よくよく見たらばそこはいつもの見覚えのある景色だ。
 これにおなじくぐるりと見渡した視界の中に入る、これまたしごく見知った顔に、しばし呆気にと取られながらもどうにか状況を飲み込めたとおぼしき寝坊助だった。
 よってそのアトラは、ただいまのおのれがなすあまりにもしどけないありさまに、しまった! と束の間(つかのま)だけバツの悪い表情をしながらにだ。
 またすぐにもそれを持ち前の負けん気で打ち消しては、むしろのことでガッ! と牙(キバ)を剥(む)く。

「なんだよっ、帰ったんならそういってくれたらいいじゃん! おれずっとずっと待ちくたびれてたんだぞっ! それにさっ、お茶だってさ、とびっきりあつあつのヤツ、わざわざ用意だってしてたのにっ!!」

 知らぬ間にすっぽりくんるで寝かしつけられていた、じぶんにはまだサイズの大きな来客用の布団をはねのけそそくさと抜け出す。
 そこからまたすぐさまにだ。
 この右手でお互いを隔てる大きな黒い座卓のそのまた向こうっ側で、今やゆるりとその身を落ち着ける相手へとけたたましい抗議を発した。
 するとだが真顔でとかく冷めた目つきをしていたあちらは、それでいいさか動じるでもありはしない。むしろのことでその堂とした居住まい同様、落ち着き払ったそれは辛辣(しんらつ)なるお言葉を、ぴりりと皮肉混じりですかさずに突き返してくれたりする。

※雑です♪ おまけにじいちゃんの着ているのが、設定としてとりあえず〝作務衣(さむえ)〟かいわゆる〝甚兵衛(じんべえ)〟なのですが、あれってこんなんでしたっけ??


「…ふん、よう言うわ! くたびれた挙げ句、だらしもないことよだれを垂らして寝こけておったんじゃろうが? まったく、とんだ留守番小僧だわい。帰ってきて早々(そうそう)、くつろぐ間もなしでいらん世話を焼かせてくれおってからに。それにな、茶ならばもうたんといただいたぞ? ああそうじゃ、あのしっかりとした、出がらしをのっ!」

「ぶうううっ!」

「ふう、おのれにとり本来一番たる学業を怠(おこた)り、あまつさえその家業すらをも意に介さずとは、まったくもって…! まあ、それはそれとしてだ、どうやらシュウのやつが顔を出したようだの? あちらの様子からするにはだ?」

 はじめに居たはずの古ぼけた四畳半とはがらりで様変わりのした、ここは今や青い畳を十うん枚ばかしも敷き詰めた、それなり余裕のあるこぎれいな〝お座敷〟だ。
 そしてそこにもっともらしくひとり背筋を伸ばして構えたる主とくれば、ほっぺたぷうっと膨らましたむくれっ面で座卓越しに相対するお子様とはまるきりに打って変わった、それはさも風格と威厳のあるご老人だった。

 その名を、ハイクと言う。

 ちなみ漢字では、これをひねりをきかせ〝五七五〟とか表記するのだが、それらの似つかぬ音と字面の結びつきのゆえん、まだ若輩(じゃくはい)のアトラなどはそれとはっきりとはわかりかねていた。
 ともかくにぶすりとした睨めっこ状態の小学生とは、まさに孫と祖父くらいの歳の開きがあるだろう。またそれを裏付けるかのした当人たちのやんやと気兼ねのないやりとりであって…。
 だからこの叱(しか)りつけるようなきつい眼差しの前にも、もはやでそこは悪びれたそぶりのひとつとないやんちゃ盛りのアトラだ。
 いいやばかりかこの上はいきなりすっとんきょうな声音でもって、好き勝手なものの言いようまでもぶちかます!

「うん、あんちゃんまたあした来るってさ…そうだっ、じいちゃんアレどこやった! あのハコ入りのおみやげ、アレってばあしたの〝お祝い〟じゃねえんだかんなっ!?」

「ん、何を言うておる? そんなものはもうとっく、我が家の冷蔵庫の中に大事にしまってあるぞ。無論、おぬしの手の容易に届かん死角にの! 外見からこの中身を察するに、ちょうど都合がよかろうて? ほほ、あやつもほんに気がつきよるわ。おかげで面倒な手間が省けたというもんじゃろ!」

 しめしめとしたしたり顔に、身体中で地団駄(じだんだ)踏むアトラは声がいっそう、裏返った。

「わあっ、なんでだよっ! うそだっ、そんなのおれぜってえみとめねえぞっ!!」

                     ※次回に続く…!

※過去の挿し絵です♪

※どっちもどっちですかね♡