夏の往復書簡 2020 : 一之瀬ちひろ ⇆ ひがしちか 6通目
一之瀬ちひろ様
こんにちは。お返事滞りまして失礼。
今日は日曜日。こちらでも30度を超える日が続いてます、最近川でよく泳いでるの。でも冷たすぎて、5分持たないけど滝に打たれる爽快感と、要らない気持ちや思考もをを流してくれるあの清らかさをいつか一緒に共有したいな。
ジル・クレマンの『動いている庭』気になっていたの。他の方からも勧められていて、でも値が張るなあと、躊躇していたけどこれは買わねば!と思い立ち購入しました。しかもオンリーディングさんで取り扱いがあったの!さすがや~って思ったよ。楽しみだな。
一之瀬さんは大学でジョナス・メカスの研究してたんだよね。私もラトビアへ行く時にほんの少しだけだけど、メカスについて調べたことがある。
先日のお便りの中の引用された言葉で、
「戦争中のことや、ブルックリンの飢えのことを考えずに歩けることを、自分でも不思議に思っていた。それはほとんど、多分、はじめてのことだった」
ということと、一之瀬さんの写真の被写体が「日常の気配であることに相似的なものを感じました。メカスが、森を歩いてて、それを忘れることが一瞬できたのは、逆を言うと、ずっとずっと考えているんだよね。戦争や飢え、作品のこと、国のこと。無心で自然と戯れる時間は、本質的なことに気づくことができたり、反作用もしかり、その多大な力はやはり叶わない存在だなと。
国、国家、憲法、立法、司法、行政・・・戦争、環境・・・手に負えない大きすぎる存在は、実は一人一人が当人のはずで、その現実ったらややこしくて、積載された問題ばかりで、それらの距離感がわからなくなったり、意識しなくなる危険性を孕んでてて、一之瀬さんが今回の写真集の意図としたかどうかはわからないけど、その距離感を改めて当人だと感じることができたの、私は。
日常の中に国家が、国家の中に日常がある、言葉で言うとだたそれだけのこと、もちろんわかっているけど、意識しないそれに気づかせてくれる、またはそれと同等なことという意識を持たせてくれたの。ああ、言葉が足らないかもな。ごめん!
一之瀬さんの2015年発刊の『STILL LIFE』も見返すと、やはり根っこでは繋がっているんだなって、改めて眺めさせてもらいました。この写真集についてもいろいろお話し聞きたいな。
そして、今回は私から質問したいことが。
膨大な意味を含有した「国家」を題材にしたのは?経緯など聞きたいな。
結構、いいえ、かなり攻めてると思うの!(笑)
冬にお会いした時にもチラリと伺って、確か何か強くメッセージ(例えば反戦!とかね)があるわけではなくて・・・と仰ってて、作品を通して何かでも浮き出てくるものがある。それはどんな設計図があったの?または、最後にタイトルがついたのかなあ?
もう一つお聞きしたい。
写真は、何を映して(写して)いると思う?何を撮っていると思う?
撮るときは構図とか光とかもちろん見ていると思うんだけど、最初に何かを感じて思わず撮ってる感じなのかな??
メカスは詩人でもあった訳だけど、写真も映像も、詩といえば詩だし。
戦争という日常の現実と、今ここで洗濯物を畳んでいる現実、現実という境目とそれについて時々考えるよ。
ちょうど『アンネの日記』をまた読み始めてて、アンネはあの悲惨な戦争の最中の日常を記したという現実だけでももう胸が張り裂けそうになる。今の私の日常をどう捉えていいのか・・・なんて、思っててもああ、もう夕飯の支度だ、猫に餌あげなきゃ、とかね。
ではでは またね!
とりとめない感じのお返事ですが。
2020年8月23日 ひがしちか
~展示情報~
Coci la elle exhibition “ひらく”
2020年9月5日(土) – 9月22日(火祝)
コシラエルの展示会を開催します。
一点ものやオリジナルプリントの傘、日傘、ハンカチなどコシラエルのアイテムをずらりと展示販売いたします。
http://onreading.jp/exhibition/hiraku/
一之瀬ちひろ 『きみのせかいをつつむひかり(あるいは国家)について』展
2020年9月5日(土) – 9月22日(火祝)
一之瀬ちひろによる私家版写真集『きみのせかいをつつむひかり(あるいは国家)について』の刊行を記念して、小展示を開催します。
http://onreading.jp/exhibition/chihiro/
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