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元祖・樹木葬発祥の地、岩手県一ノ関「知勝院」で考えた「お墓参り」のあり方

東北新幹線に乗り、大学時代に慣れ親しんだ仙台で乗り継いで岩手県の一ノ関へ。一ノ関は、中学校の修学旅行で中尊寺を訪れて以来。今回は、日本葬送文化学会が主催した野外研修に参加し、一ノ関駅から車で25分のところにある、日本初の樹木葬墓地「知勝院」を訪れました。

樹木葬墓地を考案したのは、前住職の千坂げんぽうさん。仲間とともに立ち上げた北上川流域連携交流会で、生態系について学ぶようになり、農家が所有する里山が跡継ぎ不足で荒廃していることが問題になっていることを知ったそう。ちょうどその頃、自然葬の流れで一部の散骨推進派が、公共地の山林や市有林などに散骨し、近隣住民の遺骨に対する感情を無視するなどの事例が相次ぎ、宗教者としてなにかできないかと考えていた時期でもありました。

そこで千坂さんは、荒廃した山林を里山として再生し、「自然破壊を伴わない墓地」として利用できないかと樹木葬を考案。1994年に一ノ関市郊外の雑木林を取得し、樹木葬墓地へのアプローチをスタート。そして5年後の1999年、今から25年前に、現在の「知勝院」をはじめられました。

人の手が入らなくなった里山を再生するために行ったのは、決して特別なことではなく、昔の農家がやってきた日々の営みです。燃料にするための雑木林の間伐、堆肥にするための落ち葉かき、飼料にするための下草刈り、ため池の掻い掘りなど、農家の生業と結びついた作業が、生物多様性の高い環境を作り出すのにとても大事であることが、世界的にも認められているそうです。

こうした地域(保護地域以外で生物多様性に資する地域)はOECMといわれるそう。2022年12月に、2030年までに生物多様性の損失を食い止めるために、陸と海の30%以上を健全な生態系として保全する「30by30」という国際的な目標が定められています。日本でも、従来の国立公園法による原生的自然の保護区とあわせて、国土の30%以上を保護区として指定するために、OECMによる新しい保護区を「自然共生サイト」として認定。知勝院も宗教法人の所有地として唯一認定されています。

現在、知勝院では東京ドーム1個分に相当する47,000平米が墓地として活用されており、今回は、第2墓地、第3墓地を案内していただきました。墓地までは結構な山道なので、お墓参り時はすべて車で送迎していただけるそうです。

第2墓地からの景観。この日は見えませんでしたが、遠くに宮城県境にある栗駒山が見えるそうです。この景色の一部になれると思うとワクワクします
ところどころに見える木の棒は契約されている墓地のしるし
予約済になると、写真のように長い竹で印がつけられる
埋葬されたあとは、名前入りのプレートがつけられます
埋葬する穴

ちょうど、午後に埋葬しにこられる方がいるということで、堀った穴を見せてもらいました。穴はスタッフが手で掘るそうです。大変な作業。遺骨は約1メートルの深さの穴に埋葬され、土に還る副葬品以外はいれることができません。墓石代わりに植える低木は、里山に自生する約15種類のなかから選ぶことができます。山ツツジや実のなる木が人気とのこと。

高木を間伐して、木漏れ日が林床に届くようにすると、小さい植物が花を開くように
参道に敷かれたチップ

参道には、間伐した木材から生成したチップが敷かれ、樹木や草木の根を痛めないように、また、遠方からお参りにきた人たちの靴の裏についた植物の種が落ちて定着しないようにする目的もあるとのこと。お供え花などの園芸種も含めて、一ノ関に自生していない植物が入らないよう、スタッフが草刈りをしながら見回り、回収するなどして気をつけているそうです。

かつての棚田をいかしたビオトープ。将来の食糧危機にむけて水辺環境を維持する目的も

知勝院の墓地の永代使用料は1人50万円。契約者が生存中のみ、年会費8000円をおさめます(この年会費は、会報の制作・送付や事務管理費、里山整備のために使われる)。一般的なお墓と違って、継承の義務はないのですが、樹木葬契約者の7割が、墓地の使用権を継承するそうです。

契約者に割り当てられる墓地は、埋葬者の名前を記入した木札から直径2mの円周内で、何体でも埋骨することができます。2体目以降は1人10万円。改葬で、最大20名分の遺骨が入っているケースもあるそう。追加で納骨するときには、低木を一度抜いて、そこに埋葬するとのこと。最後の人の納骨が終わって33回忌を過ぎたあとは、新たな墓地として使用されることが、約款で定められています。

宗教に関係なく利用でき、最近は、友だちと一緒に入りたいと契約するケースも増えているそうです。分骨というかたちで、複数の場所を契約し、埋葬を希望する方もいるとか。ペット専門のエリアもあり、契約者はプラス1万円で利用することができます。

ペット専門のエリア

千坂さんは、「樹木葬で商標を取らなかったのは、全国で里山に土地をもつ寺院に追随してほしかったから」とのこと。でも残念ながら、樹木葬の表面的なイメージだけが広まり、現在日本中に広まる「樹木葬」は亜流のものばかり(墓石が樹木に変わっただけ)。千坂さんが30年近くかけて作り上げてきた樹木葬墓地は、簡単に真似できるものではありませんが、自然破壊を伴わない、真の意味で土に還ることができる樹木葬墓地が、正しく増えていくとよいなあと思います。

千坂げんぽうさん

実際、墓地であることを忘れてしまうほどで、とにかく気持ちがよかったです。森派のわたしとしては、「やっぱり、海より山がいいな〜」を再確認。こうした墓地が増えると、「お墓参り」というのは、近い将来、「お墓参り」のために行くのではなく、「山に遊びに行く」「紅葉狩りにいく」、それと一緒にお墓参りをする、という主語の入れ替えが起きるんだろうなあと感じます。

私たちが実現を目指している有機還元葬も、こうした自然とのつながりを感じることができたり、素敵な場所でできるとよいなあと妄想したりもしました。のぞみさんは海派なので、山と海、両方がある場所がマスト。さあ、どこにあるかな!

樹木葬に興味を持った方は、北海道大学の上田裕文先生の著書がおすすめ。樹木葬の先進地ドイツの事例や、日本らしい樹木葬の在り方についてまとめられていますので、ぜひ読んでみてください。

合同会社カレイドスタイル 代表。企業や経営者、アスリート、研究機関の伴走者となり、情報発信やコンテンツ制作を支援しています。堆肥葬を知り「自分もいつか利用したい!」という思いからをリサーチ&勉強をスタート。2024.4.14DEATHフェスPJ共同代表のひとり。