『妖使〜あやかし〜』第一話

ここは茨城県御身魂市おみたまし
この市には様々な曰くがある。
例えば市役所が建っている前の坂道には「六万坂」の名が付けられ、それはかつてこの坂で大きな合戦が起こり、六万を越える骸が眠っている事に由来している。
他にも河童の手が祀られた神社があったり、その河童の死体が流れ着いた湖があったり、何かと曰くのある場所がここにはあった。

私はこの街に住む高校2年生の若葉那智わかばなち。私は今、通っている高校へ向かう為に六万坂の道を必死に自転車で渡っていた。

この六万坂、六万の骸が眠っていると言うだけでも不吉には十分すぎるのにも関わらず、この六万坂にはかつて処刑場が存在していた。
江戸末期、かの天狗党の人間たちを処刑した場所である。
そんな地元の人間も避けて通る場所に1人の少年が立っていた。
私は地元の人間ですら近づかない処刑場跡に人が居ることに驚いた。
その少年はまるで何かを探しているかのような表情で辺りを見渡していた。
私は少しだけ気になったが、学校に間に合わなくなるのも嫌だったので急いでその場を後にした。

無事学校に着き教室に入ると、同級生の女子が私に話を掛けてきた。

「おはよ。今日は間に合ったね。」

「もう、本当に最悪だよ。通学路に六万坂だなんて…足がパンパンになっちゃう。」

「あはは、毎朝あの登り坂はキツいよねぇ…」

他愛のない会話をしていると、担任の教師が教室に入ってきた。

「みんなおはよう。前に話したかもしれないが今日からこのクラスに転校生が来る。おーい、入って来い!」

教師が廊下に向かって声を上げると、1人の少年が教室に入って来た。

「あ!あの時の!!」

私は思わず声を上げてしまった。その転校生とは、今朝六万坂の処刑場で見かけたあの少年だったのだから。

「なんだ若葉、知り合いか?」

「あっ…いえ…全然……」
私はみんなに注目されることが恥ずかしく、顔を赤らめながら彼との関係を否定した。

「うん?まぁいい。ほら自己紹介しなさい。」

米國御魂よねくにみたま。今日からよろしく。」

その少年は伸びた髪を頭のてっぺんでお団子にまとめて、右腕には包帯が巻いてあり、数珠を付けていた。

「いや…中二病…?」

クラスの誰かが言った。

そう思われても仕方の無い風貌だった。

「じゃぁ…米國、あそこの空いてる席に座ってくれ」

このクラスの席の並びは五十音順、つまり若葉那智わたしが1番後ろであり、その隣は空席だった。米國君は私の隣に座り、「よろしく」と一言だけ呟いた。

普通転校生と言えば周りに人が群がり、どこから来たのとか、趣味とか部活とか、何かしら聞きたいことがあるだろうに、米國君の周りには誰1人近づこうとしなかった。
奇抜な風貌のせいだろうか、休み時間になっても彼は1人で机に座ってじっとしていた。

彼を不憫に思った私は、勇気を持って話しかけた。

「け、今朝さ……居たよね?六万坂…」

米國君はいきなり話しかけられた事に戸惑いつつも「あ、ああ居た。」と答えた。

「何してたの?」

「何って……あの…あそこさ…あの坂?なんかあった??」

この会話を黙って聞いていたクラスメイトが食いついた。

「なんかあったって、なんか見たの!?」

「あそこはね、本当に近づかない方がいいんだよ!」

急にクラスメイトが話しかけてきたことに戸惑う彼に、私は六万坂の由来について説明した。

「あの坂は六万坂って言ってね、昔大きな合戦があっての。たくさんの死体が埋まってるんだって。だから六万坂って言うの。」

「六万の遺体?」

疑った様な顔をする米國君にクラスメイト達も答える。

「あの坂はマジでやべぇーんだって!俺の姉貴はバイト帰りに夜あの道通ったら道に女の人が立ってるの見たって!」
「あたしの先輩はあそこ通ると心臓痛くなったって!」
「通るなって声がするとかしないとか…」

出てくるでてくる六万坂の曰く。

「とにかく…あそこには近づかない方がいいんだよ!」
私は彼に念押しした。

「でもさ、そこまで色んな噂があるとちょっと夜肝試ししてみたくない?」
クラスメイトの男子が言った。

「確かに!そうだ!今日の夜さ、米國くんの歓迎会も兼ねて!肝試し!!やろうぜ!!」

「は!あたし無理!親うるさいもん!」
「俺もパス!夜は寝たい」
「俺行く!」
「あたしも!面白そう!!」
みんなが盛り上がる中、若葉は申し訳なさそうに言った。
「わ、わたしは無理かな…テスト近いし…」

「俺も行かん。お化けとか妖怪とか幽霊とか…そういうのって面白半分で関わるものじゃないでしょ」と、米國君が口を開いた。

「はっ?ノリ悪っ…てかさ、お前のための歓迎会ってわかんねーの?つーかアレ?もしかしてお化け怖い系??」
クラスの男子の一軍である田山君は米國君に突っかかった。

「怖いとか怖くないとかの話をしてるんじゃねぇよ、面白半分で関わるとロクな目に遭わねぇって言ってんだよ」

「だからビビってんだろ?」

2人は睨み合い、一触即発の状態に思えたが、クラスメイトたちがお互いを宥めた事で事なきを得た。
クラスメイトが自分の席に戻り、雑談を始める中で私は米國君に言った。

「田山くん、悪い人じゃないんだよ。たぶん米國くんと仲良くしたかったのに断られちゃったからカッとなったんだと思う。」

「そっか…悪いことしたな。謝っとくよ。ところで君…」

「あ、私は若葉那智!ごめんね自己紹介するの遅くて!」

「若葉さんさ、この近くに図書館ってある?」

「図書館?あるけど」

「よかったら学校終わったら案内してくんない?」

「え!?私が!?」
「別に…良いけど」

正直男の子と2人でってのは気が引けたが、帰り道だし、学校のすぐ近くだったので案内する事にした。

そして放課後、私は米國君と図書館へ向かった。

「米國くんはさ、どうして転校してきたの?親の都合?」

「んーまぁそんなとこ。若葉さんは?ずっとこの市に住んでるの?」

「そうだよ。米國君はどこから転校して来たんだって?」

「どこって…うーん、言ってもわかんねぇと思うよ。めっちゃ田舎だし。」

「え?ここより?」

「全然、車とかめったに走ってないとこ。吉幾三の世界。」

「なにそれ」

米國君は見た目とは裏腹にかなり話しやすい人だった。
よかった、これならきっとクラスにも馴染めそう。

《ピロン》

他愛のない会話がスマホの通知音で途切れた。

「えっ…」

私はスマホを見て言葉を失った。

「どしたの?」

「なんか……今これクラスのグループLINEなんだけど…あ、後で米國くんも誘うね!で、田山くんたち…結局何人かで今夜…六万坂に行くって言ってる…みんな止めてるけど」

「げっ…」

「まずいかな?」

「なんで俺に聞くの?」

「いや…なんか米國くん、知ってそうだし…」

「いや、知らないよ。マジで。ただそういうのって危険じゃん、だからやめた方が良いって言っただけ。」

「あ、そっか…あ、着いた。ここだよ、図書館。」

「お、ありがとう。帰るの?」

「うん、勉強したいし……じゃあまたね」

「そっか、ありがとね。」

「あーー若葉さん。田山くん?たちにさ、俺が言ってたって、本当にやめた方がいいって…言ってくんないかな?」

「え?」

「一応さ、念の為!ごめんね面倒で!あ、案内ありがと!LINEも交換ありがと!」

そう言うと米國君は図書館へ入っていった。

何かひっかかる言い方だったが、私は自転車に乗り帰宅した。

「図書館になんの用だろう…」

気にしながらも私は家に着いたので勉強を始めた。

途中何通もスマホの通知が来たが、勉強を終えてからにしようと通知を見ることも無かった。

そして数時間後に勉強を終え、時間を確認するためにスマホ確認した私は驚愕した。

大量のLINEが溜まっていた。
集中する為にマナーモードにしていたから、全く気づかなかった。

クラスのグループLINEでは田山君グループとクラスメイトのやり取りが残っていた。

「今日行く人ー」
「はーい」
「やめた方が良くね?」
「行くー」
「まだ行く気だったの?笑」
「やめとけって」
「米國くんは?」
「このグループ誘ってないでしょ」
「明日LINE交換しとく!」
「え?本当に行くの?」
「行くよ!」
「米國くんとさっき話したけどやっぱりやめた方がいいって言ってるよ!」
ここから未読メッセージ

「いや草 米國くん霊能力者なの?」
「来ないなら関係ないでしょ」
「暗くなってきたー!!」
「10時頃行きます!」

「4人集合!今から行ってくる!」

「来た!なんも無いけど雰囲気やばい」

「あ」

「あ」

「たすけて」

「助けて?なんかあった?」

「おーい!」

「どした?」

「ふざけてんの?」

「ネタでしょ?」

「なぁ今田山の親から電話きた、まだ帰ってきてないって!!」

勉強してる間に思いもよらない展開になっていた。
私は正直半信半疑で明日には普通に田山たちが登校してくるのでは無いかと考えていた。
しかし、やはり気がかりなのは米國君の存在。彼がなぜあんなに止めていたのか、米國君なら何か知ってるんじゃないか。
私は米國君に電話した。

「…はい」

「米國くん!?若葉ッ…若葉那智だけど…遅くにごめんね…」

「わかるよ。どうしたの?」

「あのね…なんて言ったら…田山くんたち結局行っちゃったの!!六万坂!!」

「…マジ?」

「で、でね、グループLINEで「たすけて」って、それから返事なくて…1時間くらい!で、家にも帰ってないみたいで…」

「……っちゃー…」

「警察とか…呼んだ方がいいかな?」

「いや…警察じゃちょっと……うーーーん、わかった。とにかくわかったから落ち着いて。」

「警察じゃダメなら…どうするの?」

「いや、とにかく大丈夫。心当たりがあるから、警察には電話しないで、グループLINEでもみんなは絶対探しに行かないように注意しておいてくれる?」

「とにかく大丈夫って…?なにが大丈夫なの?返事ないんだよ?ねぇ!」

「……ツーツー」

米國君は電話を切った。私は居てもたってもいられなくなり、気づいたら自転車で六万坂へ向かっていた。

米國君に言われてた事を軽視してた。まさか本当に行くとは思ってなかったし、こんな事になるとも思ってなかった。
私は少し責任を感じていた。

「米國くんに頼ろうとした私がバカだった…ただの高校生だよ?私が近くの交番に行って事情を説明すれば…」

などと1人で話してるうちに私は六万坂に着いてしまった。

夜の六万坂は人も通らず1つの街灯があるだけで、田んぼに囲まれて蛙の鳴き声しか聞こえない。

「ピロン」

スマホの通知音が聞こえた。

けれどこれは私のスマホの音ではなかった。

米國君が来たのだろうか…後ろを振り返るとそこには1台のスマホが落ちていた。

「これ……田山くんの…スマホ?」

スマホを拾い上げた瞬間、背後に強烈な寒気を感じた。
絶対に振り向いては行けない空気。
自分の背後に「何か」がいる。

私は少しずつ…後ろを振り返った。

振り返った先には上半身のみの巨大な…10mはあるだろう巨大な骸骨が若葉を見下ろしていた。

「あっ………あっ…」

声も出ない。体も動かない。

死を覚悟した、その瞬間。

「なんで来ちゃったのかなぁ…」

米國君が立っていた。

「緊急事態だしさ、見られたくもないし…若葉さんいい人だがら嫌われたくないんだよね。」

「米國…くん……?こっ、これ…」

「がしゃどくろ」

「え?」

「埋葬されなかった戦死者の怨念が集まって産まれた妖怪だよ、こいつは」

「妖怪!?」

「妖怪なんているわけ…」

頭では否定していても目の前には巨大な骸骨が今にも私に襲いかかろうとしている。

「こ、この人が田山くんたちを……食べちゃったの?」

「いや…血の匂いはしない…恐らく田山くんたちは生きてる」

「と、とにかく警察…いや自衛隊…じゃないと」

私がスマホでどこかに電話をかける素振りを見せると、がしゃどくろは初めて言葉を発した。

「通サン」

「へ?とおさん?」

「驚いた…本当に言ったよ…通さないって…」

「ココハ通サン!!!」

がしゃどくろは骨だけの腕で辺りを薙ぎ払った。

「危ない!下がって!」

「なんなの?通さないって?ここを?六万坂を?」

「若葉さんに案内してもらった図書館でね…色々調べたんだ。」

「もともと今朝来た時点でここにがしゃどくろが住み着いてるのは気配でわかってた。」

「分かってたって…」

「気になったのはクラスの子が言ってた「通るなって声がした」ってとこ、俺も朝似たような言葉を感じたからね。」

「がしゃどくろは本来見境なく人を襲う妖怪、「通るな」なんて交渉じみたこと言う前に人をぶっ殺しちまうような奴だ」

「だから調べてきた。この六万坂の歴史。図書館でね。」

「あ、だから図書館に!」

「すっげえ昔この御身魂市には城があって、そこのお姫様と殿様に仕える武将は恋仲だったらしい。」

「恋仲?恋人って事?」

「そう、しかし敵の軍が攻め込んできてその武将は姫を守るためにここで敵を迎え撃つために軍を出兵した。」

「えっ?じゃぁ通さないって…」

「そう。このがしゃどくろにはその武将の怨念が強く残ってる。死んで、妖怪になって、それでもなおお姫様を守ろうとしてるんだ…」

「じゃぁいい妖怪なの?」

「良い…って訳じゃないけど、多分本人もギリギリのところで戦ってる…人間と妖怪の意識の狭間で…」

がしゃどくろは続けて攻撃を仕掛けてきた。

「通サァァン!!」

がしゃどくろの攻撃を回避した米國君は腕の包帯をほどいた。

「絶対に誰にも言わないでね、若葉さん。」

「我が身に宿る妖よ…我が身に汝の力を与えよ」

米國君はブツブツと呪文?のようなものを唱え始めた。

「出てこい、天火てんか!」

米國君がそう唱えるや否や、米國の右腕は炎に包まれた。

「なっ…米國くん!?なにそれ!?」

米國君の燃える腕を見てがしゃどくろは口を開いた。

「聞イタ事ガアル…自身ノ肉体二妖怪ヲ飼イ、使役スル人間ガイルト…」

「へぇ…通さん以外にも喋れたんだな。」

「そう。俺は自分の体に妖怪を飼って使役する「妖使あやかし」だ。」

「こいつは俺の相棒で火の妖怪「天火」。」

「こいつの炎はただの炎じゃない!悪しき魂をも浄化する裁きの炎!!」

「ダカラ何ダト言ウノダ!ココハ通オサン!!」

がしゃどくろが米國を殴りつけたが、米國は手の炎を噴射させ後ろへ下がり攻撃を回避した。

がしゃどくろが殴りつけた地面はアスファルトが凹んでいた。

「すっげぇパワー…本当に骨だけかよ…」

がしゃどくろは続けて米國君に向けて拳を振り上げた。

「危ない!米國くん!!」

「成仏しやがれ…くらえッ!!」

漆廻成仏しっかいじょうぶつ!!」

米國君は巨大な炎を手から放出し、がしゃどくろは炎に包まれた。

「ゥ!ウォォオオ!!ガッ!!オノレ…ココハッ!!」

のたうち回るがしゃどくろを横目に若葉は米國に近づいた。

「これ…殺しちゃうの?」

「いや…この炎は……悪い魂だけを浄化させる…つまり」

米國君がそういうや否や、がしゃどくろの様子が少し変わった。

「こ、ここは一体…私の体は…」

「天火の炎《漆廻成仏》で、お前の中に混ざってた悪い魂を浄化して成仏させたんだ」

「悪い魂?」

「よっ。全部覚えてるかい?」

米國君はがしゃどくろに近づいて声をかけた。

「君は……そうか、私は妖怪になってしまったんだな…」

「えっ?この人もしかしてさっきのお話の…」

「そう、おそらく姫の恋人の武士だった人…もともとがしゃどくろって妖怪は無数の怨霊が集まって産まれる、その中にこの人の魂も混ざってて、より強い意志があったからこそ人を「通さない」ようにしてたんだ。そして今天火の炎によって無数の怨念が浄化され、この人の本来の意識のみが残ったんだ。」

「私は…救えなかったんだな。姫を。」

「あまつさえ妖怪に身を落とし…罪なきものに手をかけるなどと…」

「少年…君が私の意識を取り戻してくれたことには感謝する。だが、私は……ここで私を殺してはくれないか…」

「ちょ、その前に!わっ私の同級生知りませんか!?ここに来たはずなんですけど…」

「確かに来たが…あやつらの事か?」

がしゃどくろが指を指した方向を見ると、田んぼの中で気を失っている田山たちの姿があった。

「あ!いた!!」

「私の姿を見るやいなや動転して気を失ったのだろう」

「よかった…」

「ところで少年…頼むから私をここで」

「断る」

がしゃどくろの言葉を米國君は遮った。

「俺がこの街に来たのは強い妖怪を従えるため」

「がしゃどくろ、お前の死んでもなお姫を守ろうとする心意気、めちゃくちゃ気に入った。」

「だからお前を従えたい。俺の身体で飼われないか?」

「確かに妖使あやかしは自身の五体にそれぞれ1匹ずつ妖怪を飼うことが出来ると聞くが…なぜそこまで強き妖怪を求めるのだ?」

がしゃどくろの問いに、米國は仕方がなさそうに答える。

「……俺ん家はな、両親がいなくて、じいちゃんとばあちゃんと3人で暮らしてたんだ。じいちゃんもばあちゃんも妖使あやかしでな、色んなとこに呼ばれて妖怪退治して生計立ててんだ。」

「で、ある日妖怪が出たっつーんで現場に向かったら、そこにはくだんが産まれてた。」

「くだん?」

「予言の妖怪だ。今までもちょいちょい現れてはいくつもの予言を的中させて来た。関東大震災とか第二次世界大戦とか。予言の的中率はほぼ100%。」

「件か…して、どのような予言を残したのだ?」

「残す?」

「件は予言とその対応策を伝えるとすぐに死んじまうんだ」

「まぁいいや、そんでその件が残した予言だ。」

「今から1年後、鬼門が開く」

「きっ鬼門が!?」

「鬼門って何??」

「鬼門っつーのはあの世とこの世の扉みたいなもんさ。鬼門が開けば悪霊怨霊妖怪…地獄にいるとんでもない奴らが現世に現れるようになる。簡単に言えば世界は終わり。妖使俺たちでもどうしようもねぇ。」

「そんな……」

「して、その対応策と言うのは?」

「件は対応策としてとんでもねぇ課題を残していった。」

「開いた鬼門を閉じるにはとんでもねぇ妖力で鬼門を封印しなきゃならねぇ…」

「妖力で封印とはいえそこらの妖怪の妖力じゃ鬼門を1ミリ閉じることすら出来ねぇ」

「つまり…どういう事……?」

「まさか…!」

「そう、件の残した予言はこうだ。」

「1年後に鬼門が開く。」

「日本に眠る大妖怪、九尾の狐、八岐大蛇やまたのおろち、大天狗、酒呑童子、犬神形部狸いぬがみぎょうぶだぬき、ダイダラボッチ」

「この6匹の大妖怪を使役して、鬼門を閉じろ」

「これが対応策。」

「馬鹿な…そんな事…」

「そう、ほぼ無理ゲー。でもやらなきゃ世界は終わる。」

「だからといって人間に「はいそうですか」と力を貸してくれるような奴らでも無い。」

「だから必要なんだよ。大妖怪やつらを使役できるほどの強さが。それにはがしゃどくろ、お前の力が必要なんだ。」

「ここで死ぬより、俺と手を組んで大妖怪たちと鬼門閉じて世界救ってよ、そんでその時初めて胸張って姫さんのところ行こうぜ?」

私はあまりの事の大きさに何も言えずにいた。

がしゃどくろは考え込んだ挙句、米國に手を向けた。

「なるほど、確かにその方が私も胸を張って姫に会える。力を貸そう。」

「俺は米國御魂。タマって呼んでくれ。」

「それではタマ殿。この時より我が身、そなたに授けよう。」

「あぁ、よろしく。」

がしゃどくろと米國が手を合わせると、がしゃどくろは米國君の身体に吸い込まれて行った。

「おしっ」

「あの…米國くん?」

米國君は完全に私存在を忘れていた。

「あっ!!!わ、若葉さん…完全に忘れてた…………あのっ…これさぁ…誰にも言わないで…ね??」

「多分言っても信じないと思う…こんな事…」

「だよね…」

「あのさ…」

「ん?」

「私もタマちゃんって呼んでもいい?」

「えっ、いいけど…本当に誰にも言わないでよ??」

「言わないって!ほら!田山くんたち引き上げよう!」

「あ、忘れてた。」

突然転校してきた不思議な男の子、米國御魂よねくにみたま君。
彼が言ってる鬼門とか妖怪とか全部信じられないけど、信じるしかないほどの証拠を目の当たりにしてしまった。

彼は無事大妖怪を使役することが出来るのだろうか。
そして、彼はなんでこの街に来たのだろうか。

私と米國くんと、みんなの物語が今日始まった。

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