『妖使〜あやかし〜』第二話

あの日がしゃどくろ事件の翌日、田山くんたちは普通に登校してきた。

タマちゃんががしゃどくろを仲間にした後すぐに田山君たちは目を覚まし、お化けを見た!と私たちにしきりに訴えていた。

余程怖かったらしく、六万坂から逃げるように帰って行った。

あれから3日ほど経ったが、タマちゃんはあの時のことが嘘かのように普通の高校生として学校に通っていた。

私は彼と席が隣なので普通に会話はするけど、妖怪の事とか鬼門の事とか、すごく気になってるけど中々聞けずにいた。

そんな時、タマちゃんが私に言った。

「なんか、ずっと見られてる気がする」

「見られてる?お化けに?」

「いや…あの人」

と彼は見えないように体で隠しながらその人の方を指さした。

指の先に居たのは平和島 歩斗へいわじま あると君。
同じクラスの男の子。

平和島君はおそらくクラス一の秀才だ。
ピアノを習っていてコンクールで最優秀賞とかも貰っていて、ものすごく優等生ではあるんだけれど、制服の下にパーカーを着ていたり、先生たちへの態度もあまり良くなく、クラスメイトとも打ち解けていない、少し変わった子だ。

確かにこれでもかと言うくらいタマちゃんの事を見ている…。

「ねぇ、何か平和島君が怒るようなことしたの??」

「いや、マジで何もしてない。話したこともないし近寄ったこともないよ。」

何なんだろう。転校生だから気になるんだろうか。
それよりついでだ。
妖怪の事…もっと聞いちゃおう。

「あ、それよりタマちゃんさ…今日この後用事ある??ちょっと…妖怪の事とか…教えて欲しいかな〜なんて…」

タマちゃんはちょっと面倒くさそうな顔をした。

「んーーー、じゃぁ学校終わったら着いてきて。」

とタマちゃんは言った。

その間も平和島君はずっとこっちを見ていた。

授業中ということもあって、さすがに先生も平和島君のよそ見に気づいたらしい。

「おい、どこみてるんだ平和島。授業中だぞ。前を見ろ、前を。」

平和島君は言われるがまま姿勢を戻して前を向いた。
先生はそれでも平和島君への注意を辞めなかった。
「前から言おうと思ってたがな、お前少し態度が悪いぞ?そんな態度でいたら社会に出てもやって行けないぞ?ん?」

この先生はいつもそう。1つ問題を見つけたら2つ3つ掘り起こしてグダグダと説教を続ける。

私はこの教師があまり好きでは無い。

「聞いてるのか平和島!!」

平和島君は頬杖を付きながら先生の問いに答えた。

「聞いてますよ。もうわかったんで、どうぞ授業を続けてください。みんなが迷惑してます。」

先生は顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。

「邪魔をしてるのはお前だろうが!!」

「違います。僕は先生の注意を聞き入れ、よそ見を辞めました。これで終わりにすればいいのに、あなたが自分の鬱憤を晴らすためなのかなんなのかは知りませんがわざわざグダグダと説教を長引かせてるんです。」

「お前教師に向かってなんて口の利き方だ!!」

「まだ続きます?なら帰ります。こんな授業受ける意味ないし、みんなに迷惑だし、何より先生…」

「何より…何だ?言ってみろ」

「息、臭いです。スメハラってやつですね。無理です。限界。気分悪くなったので帰ります、さようなら。お疲れ様でした。」

平和島君は席をたちお辞儀をして教室から出ていった。

「おい待て!平和島!!おい!!」

先生の呼びかけ虚しく、平和島君は帰ってしまった。

その後授業はつつがなく終わり、私は言われるがまま、放課後タマちゃんに着いて行った。

タマちゃんについて行って着いたのは地元でも有名な心霊スポット…廃病院だった。

探索に来た人がみんな精神に以上をきたしたり、病気にかかったり…とにかく悪い噂ならいくらでも出てくる場所だ。

「ね、ねぇタマちゃん?こんなとこで一体何するつもり?」

「この前の話、覚えてるよね?」

「うん…」

「ここにはある妖怪をスカウトしに来たんだ。」

「おい、出てこい虎狼狸ころり。」

タマちゃんがそう呼びかけると、さっきまで明るかったはずなのに急に薄暗くなり霧が立ち込めて来た。

そしてその霧が集まってひとつに纏まり、そこには虎だか狼だかが合体したような恐ろしい生き物が現れた。

「た、タマちゃん!これは!?」

虎狼狸ころり。病気を司る妖怪さ。昔流行ったコレラとかの感染病の正体はこの妖怪だって言われてる。こいつは病院とかを好んで巣にして、やってきた人間の健康をエサにしてんのさ。」

タマちゃんがそう言うと虎狼狸はタマちゃんに向けて語りかけた。

「また貴様か小僧…何度来ても答えは変わらん。貴様には手を貸さん。人間を助ける気もない。」

虎狼狸はギロリと大きな目で私を睨んだ。

「もっともそこの小娘を喰っていいと言うなら話くらいは聞いてやらんでもないが」

虎狼狸はヨダレを垂らしニタリと笑った。
鳥肌が立った。

「ふざけんな。この子は俺の友達だ。手を出すな。」

「ふん。手を貸せ、娘を食うな、注文が多い餓鬼だ…」

「ココ数年人間の健康を喰らいすぎたせいか…人間どもがちっとも寄り付かなくなってだな…」

「?いいことじゃねぇか?お前もゆっくり出来んだろ?」

「お陰でいつも空腹よ…飢えて死ぬことは無いがこれではな…」

「だから俺と一緒に来れば解決するって言ってるじゃんか。」

「貴様の下僕になれと?ハッ!断る!」

「はぁ…やっぱダメか。まぁいいや、今日は帰る。また来るぜ?」

「待て」

「久方ぶりに来た健康な若い女、交渉も決裂してタダで帰すと思ったかよ…」

虎狼狸は唸り声を上げながら今にもこっちに飛びかかってきそうな勢いだ。

アタシを狙っている。

「タマちゃん…!」

「ったく!めんどくせぇなぁ…」
タマちゃんは左手を抑えながら何やらブツブツと念仏のようなものを唱えていた。

「まずは貴様からだ妖使のガキ!!喰らうぞその肉体からだ!!」

虎狼狸はタマちゃんに飛びかかった。

「出てこい!がしゃどくろ!」

タマちゃんがそう言うとタマちゃんの背後にがしゃどくろが現れ、両腕でタマちゃんを覆うように虎狼狸の攻撃から守った。

攻撃を防がれた虎狼狸ががしゃどくろに向けて言った。
「人間に与した愚か者め」

タマちゃんを守ったがしゃどくろは言った。
「御魂殿には指1本触れさせんぞ虎狼狸…」

がしゃどくろと虎狼狸は睨み合っている。

「虎狼狸、貴様鬼門が開くことは御魂殿から聞いたな?鬼門が開けばどうなるか想像できないわけではあるまい」
臨戦態勢の虎狼狸に向けてがしゃどくろは問いかけた。


「何だと?」

「鬼門が開けば我々など足元にも及ばない悪霊や妖怪達が現世にやって来る…貴様も無事では済むまい…」

「だから人間に使われろって?冗談じゃない。それなら死んだ方がマシだ。妖怪としての誇りがある。」

がしゃどくろと虎狼狸の会話を遮ってタマちゃんが虎狼狸に問いかけた。

「誇り?」

虎狼狸は地面に爪を掻き立て叫んだ。
「人間と協力するなど妖怪の恥!!妖怪とは人間に畏怖され!!人間を脅かし!!絶望を与えるべき存在なのだ!対等など有り得ん!!」

「鬼門が開く?大いに結構。近頃の人間は見えるものばかりに気を取られ、我々の存在すら認知しなくなっている。ここらで1つこの世界を恐怖のどん底に陥れるのも悪くない!!」

そう語る虎狼狸の顔は心の底から楽しみなような、まるで来週遊園地に連れて行って貰うことを自慢する子供のように無邪気に人間への嫌悪を物語っていた。

「昨日貴様がここに来た時は久方ぶりの人間、しかも私の姿が見えるものだと来たから会話でもと気まぐれに話してやったがな、元より貴様に手を貸すつもりは無い!!次きた時は食ってやろうと決めていた!!」

虎狼狸の体から霧が発生している。

「マズイ!若葉ちゃん!!口を塞いで息を止めて!!この霧を吸ったら病に侵される!!」

病に侵される?

やっぱり私はとんでもない所に連れてこられてしまった。そもそもタマちゃんはここで私に何を見せたかったんだろうか。

「ごめん若葉ちゃん…まさかこんなに人間に敵対心があるとは思わなくて…」

タマちゃんは口を学生服の袖で覆いながらがしゃどくろに命じた。

「がしゃどくろ!霧を払ってくれ!!」

「承知!!」

がしゃどくろはその大きな手のひらで霧を払うが、霧は中々晴れなかった。

「これが私の病の霧『殺里霧中ごりむちゅう』一呼吸で病に侵され、二呼吸目には体の自由を奪い、最後に命を奪う妖魔の瘴気よ…」
霧の奥から虎狼狸の嬉しそうな声が聞こえた。

ダメだ…どんどん霧が濃くなって来た。

「がしゃどくろ!ダメだ!本体を狙うぞ!!」

タマちゃんとがしゃどくろは本体へ向かって走り出そうとするが、霧が濃くて本体すら見失ってしまった。

「霧でやられて死ぬか?それとも直接噛み砕いて絶命させてやろうか?」

どこからとも無く虎狼狸の声が響く。

「クソ…がしゃどくろ!一旦戻れ!」

がしゃどくろはタマちゃんの体に消えていった。

「頼む天火!周りを囲め!」

タマちゃんは天火を使役し、私とタマちゃんの周りを炎で囲んだ。

これで虎狼狸は近寄れない。

けれど霧は晴れ無い。

呼吸も限界に近づいてきた。

その時だった。



輪風曲ロンド!!」

突如強烈な突風が私たちに向かって吹き荒れた。
思わず吹き飛ばされそうになってしまったが、タマちゃんががしゃどくろを使役して私たちを突風から守ってくれた。

突風によって虎狼狸の病の霧は飛ばされ、視界も回復した。

「ハァッ…ハァッ…!!す…すごい風だったね…」

「誰か来る…」

声がした方から現れたのは、同じクラスの平和島君だった。

「平和島君!?」

「あれ?若葉さんまでいたの?米國君だけだと思ったけどまぁいっか。」

「平和島…君だっけ?今のは君が?」

「そうだよ。」

「まさか…」

「そ。そのまさか。僕も妖使。君と同じね。」

クラスメイトの平和島君が助けに来てくれた。って事で良いのだろうか…。
なにより驚くのは彼がタマちゃんと同じ妖使だと言うことだった。

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