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目の前 #4

あらかじめ

この文章は2022年3月沖縄を歩いて旅した時の記録です。まだ読まれてない方はマガジンBeginning biographyより#1からご覧ください。

お久しぶりです。

 文章化する時は特にそうなんですけど話始めって難しい。久しぶりに旅の話を書こうと思って、旅中の日記を眺めながら何となく書く内容を考えるけれどPCを前にして今日も時間だけを消費している。「音楽でも流そう」と一度携帯に手を伸ばしてみるも返って集中できない。まるで夏休みの日記と勉強机を前にした小学生のように時間の経過をいつもより強く体感し始めている。大人なった今も大きな違いはない。

 文章は会話とは違って冒頭(話始め)から結末(オチ)までのペースを自分でコントロールしなければならない。目の前に人がいる状態で話す現場型のコミニケーションを好む人間にとっては少々難儀だと感じる。文章を書くことが小学生の僕にとって難しかったことも無理はない。できれば難しいことは避けたいが、大人になった今、文章に残す理由が僕の中では2つほどある。

1.話し言葉は吐くと同時に消えるが、書き言葉は同型のまま後々まで残る。
2.文章化した時、目の前は「話し相手」から「読み手」に変わる。

 小学生の頃、たった20分の休憩で校庭に人を集め線を引きドッヂボールをした頃の記憶などを今更書いたところで想像の世界に過ぎない。考えたことや感じたこと、記憶、感情にも賞味期限は存在するのかもしれない。その理論からするとこれから書き進めていく旅のエピソードも時間が経過すると想像の世界へと昇華されていくのだろう。思い出作りが目的ではなかったあの旅を昇華させてしまうのは少しもったいない気がしてこの様に文章に残している。

 子供の頃の旅行と違い、大人になってからの旅はいいものだ。行き先に到着することを目的とせず定義が無い。家を出たその時から旅路に転がる無数のヒントを得ながら新しい刺激、知らなっかた知識を求めて冒険をする。筋書きもレールもなく自分で選んだ道からしか得れないものを拾い集めていく遊びなのだ。必要なのは自分のルールだけ。少しだけ人生に似ている。

 大学生の頃、旅先で出会った40代の男性に言われた「大人になれたなら、子供のように人生を選択してみると良い。」というシンプルで何気ない言葉が深く刺さって抜けないでいる。似た環境にいる人たちに同じ言葉をかけてあげれるよう子供のように選択してみようと思う。それが今自分に課しているルールの一つだった。

2022 無題

さて、旅の話をしよう。

居酒屋パラダイス

 3月の旅中、コザを出てうるま市を歩いていたときの話。旅とはいえここまで宜野湾→中城→沖縄市コザを歩き進めて生活範囲と変わらないエリアを歩いていた。「ここからが旅の本番」と歩き進めるうちに気持ちが徐々に昂った。3月とはいえど沖縄の平均気温は20°を軽く上回る。幸運か不幸かしばらく晴れ間が続いていた。その中10kg近くの荷物を持ち写真を撮りながら1日20kmから30km程歩き続ける。この説明だけを聞くと今でもゾッとする。
 うるま市石川に差し掛かったあたり僕は川沿いを歩いていた。午前中から3時間ほど歩いて昼ごはんが食べれる場所をボーッと歩き探していた。川に沿って歩いていると視力が悪い僕ですら遠くから存在に気付くほど随分派手な看板が目に飛び込んできた。

”居酒屋パラダイス”怪しさしか感じない。居酒屋にも関わらず駐車場には車がたくさん止まっていたのでご飯さえ食べれればよかった僕は居酒屋パラダイスのドアを覗き見るようにゆっくりと開けた。はっきり覚えてないがカウンター席とテーブル席、座敷の席と別れていて僕は大きい荷物をドサっと置いてカウンター席に座った。僕の背中の先では常連客であろう3人組の方がワイワイ騒ぎながら日替わり定食を食べていた。そしてその3人は僕の大きな荷物に気づき声をかけてきた。

客「お兄ちゃん、旅でもしてるの?」
僕「はい。沖縄を歩いて旅している途中でお腹減ってたらここのお店見つけて。」
 「この後うるま→金武→宜野座と歩いて山越えて名護に向けて歩きます。」

いつも通り歩いて旅をしている旨を伝えていたらお店の人(見ればわかる店長)が笑いながら話しかけてきた。

店「兄ちゃん、腹減ってるんか?」
僕「めちゃくちゃ腹減ってます!」
店「大盛りにするか?サービスするで。」
僕「是非、お願いします!」

その後も、常連客と店主が「どの山道を通れば安全に名護にたどり着けるか」当の本人を置いていく勢いで話していた。あまりにも優しい雰囲気に包まれた場所で食べたカツ丼沖縄そばセットは世界一美味かった。

世界一美味いカツ丼

 昼ごはんを済ませた僕は感謝を伝え、お店を後にしようとした。店を出る前に店主が僕を呼び止め「またお腹空いたらこれ食え。」と手のひらサイズの大きいおにぎりを僕に渡してくれて「何かあったらここに電話してこい。車はあるから。」とお店の名刺をつられて笑顔になるような笑い顔で渡してくれた。その日出会った僕にとってはあまりにもこの優しさはオーバーサイズでどうすれば良いか分からなかった。

大袈裟な話、世界平和は無理でも目に見えるもんくらい平和になったら全員平和になると信じれた瞬間で同時にそう在りたいと祈った。

旅は本当に良い。偶発的にこうして一生分のギフトを用意してくれる。いろんな場所に足を伸ばせば伸ばすほど自分が想像していた社会が縮小されていたものと再確認できる。この連鎖からは当分抜けれそうにない。

目の前大事にして。目の前にいる人喜ばせたい。
そう思えた1日でした。

居酒屋パラダイスさん
ありがとうございます。また行きます。

2022/03/08

p.s

旅を終えてから確認したんですけど、この旅で最長距離を歩いた日は3/8でした。

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