人は見かけによらぬもの

 高校を出てからだから十、いや十一年振りか。久しぶりに地元へ戻ってきた。もう誰も私のことなんてわからないだろう。期待はしてないし、学生時代の友人に連絡を取る勇気もなかった。結局、私が拒んでいるのだ。
 午後六時過ぎ。実家にいるのが辛くて、外に出た。どこか食事出来る良い店はないか、と駅前を歩く。ポーキーというバルがあった。新しい店だった。まだ客も多くないだろう、と入った。
 赤ワインとポテトサラダ。お勧めだというカツレツを食べた。午後七時手前。グラスが空いた。二杯目だった。
「ここ、日本酒もあるんですよ」
 隣に男が座る。顔を見た。同級生だった。名前は清川。
「あ、そうなんですか」
「いつもはワインなんですか?」
 私が誰だか気付いていないようだ。
「そうですね」
「新政のNo6っていうんですが、ワインみたいで飲みやすいですよ。瓶もね、シャンパンみたいなデザインなんです」と清川はマスターに頼んで、ものを見せてくれた。
 結局、清川と一緒に頼んだ。飲んでみると確かにそうだ。一杯が軽く感じる。飲みやすい。
 清川が、少しずつ距離を詰めてきた。そうか。彼は私を口説いてるんだ。日本酒のせいだ。酔いが回るのが早い。自惚れるな、という自分がどこかへ消えた。復讐のチャンスじゃないか。悪魔が囁く。私はこいつに苛められいた。
 会計は清川持ち。最後は私から誘った。男がどんな生き物かはよくわかってる。一人暮らしをしている清川の部屋に行った。[[改ページ:ここで行う]]
 私は仰向けになって受け入れた。あの清川が私を抱いているのだ。気分はいい。最中、天井の染みばかりが気になった。
 果てた清川はすぐに寝た。私もユニットバスでシャワーを浴びてから、眠りについた。
 翌朝。清川よりも早く起きた。股関節が痛い。ユニットバスに行き、顔を洗う。鏡に映る私の顔。伸びた髭を摩った。

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