戦死者の弔い方について

・ブログに2010年8月14日公開した文章の転載
・この文章を基にして2014年4月「靖国問題の争点」という文章を公開し、noteにも転載しています

戦死者に国家・政府がどう対処すべきかについては、大きくわけて3つの考え方がある。
1・「英霊として顕彰すること」にも「戦争の被害者・犠牲者として慰霊・追悼すること」にも反対する立場。
2・「英霊として顕彰すること」には反対だが、「戦争の被害者・犠牲者として慰霊・追悼すること」には賛成する立場。
3・「英霊として顕彰すること」「戦争の被害者・犠牲者として慰霊・追悼すること」ともに賛成する立場。

1つめの「英霊として顕彰すること」にも「戦争の被害者・犠牲者として慰霊・追悼すること」にも反対する立場は、絶対平和主義的な考えから憲法9条護持を唱える人たちに多いだろう。
戦死者を慰霊・追悼するということは、これから戦争がおこることを前提にしていることにもなるので、このようなテーマを議論すること自体に反対するかもしれない。

3つめの「英霊として顕彰すること」に賛成する立場は、靖国神社を国家護持すべきと考えているような右派・保守派に多くみられる。
なお、戦死者を顕彰・慰霊するというと、多くの日本人は靖国神社に祀ることを想定するが、靖国神社以外の施設で顕彰・慰霊するという方法も当然ある。
「靖国神社で顕彰・慰霊することには反対だが、靖国神社以外の施設で顕彰・慰霊することには賛成だ」と考える人もいるだろう。
また「靖国神社以外の施設で顕彰・慰霊することには断固反対する」と考える人はかなりいるだろう。
私自身は、靖国神社の存在を当然のこととはせず、靖国神社を一旦脇においた上で考えをすすめることにしている。

○靖国神社に関して


靖国神社は本来、国家のために死亡した人を顕彰する施設で、戦死者を慰霊・追悼する施設ではないという意見も耳にする。
だが多くの日本人は、戦死者を慰霊・追悼する施設として認識しているかもしれない。
戦後、靖国神社の存在自体が憲法との関係も含め曖昧になっていたので、この神社をどう位置付けるかは、左右のイデオロギーの衝突の場となっていることもあり、政府の当局者にとっては頭の痛い問題だろう。

また、戦死者を顕彰するのは国家・政府が行うべきであり、戦後、民間の一宗教法人となった靖国神社が、戦死者を顕彰する機能を担っているのはおかしなことだろう。
靖国神社が戦死者を顕彰する施設であるのなら、これを公的機関・国家機関としないと論理的に矛盾するだろう。
だが、靖国神社が公的機関・国家機関となると憲法の政教分離の原則に抵触する。
また、靖国神社に祀られることを望まない人を、本人や遺族の意思を無視して祀ることは、憲法の「信教の自由」を侵す行為だろう。
靖国神社自体、戦後の憲法と矛盾した存在であり、これを公的機関・国家機関とするのなら、憲法を改正するか、靖国神社自身が戦後の憲法の精神に則った存在に自己変革を遂げるかしかないだろう。

○個人的見解

私自身は、条件付きで2の「英霊として顕彰すること」には反対だが「戦争の被害者・犠牲者として慰霊・追悼すること」には賛成する立場を支持する。
国家・政府が正当性のない戦争を行ったとき、戦死者を英霊として祀るという行為は、戦争指導者の責任をうやむやにすることになるだろう。
また、「死んだら英霊として祀ってやるからお国のために死ね」という戦前の国家主義的な考えには全面的に反対するので、戦死者を顕彰する方針には賛成できない。
だが、戦死者を慰霊・追悼する行為は遺族の心のケアにもなるので、これには反対しない。
条件付きで賛成というのは、戦死者やその遺族が国家・政府に慰霊・追悼されることを望んだ場合、戦死者や遺族の望む方法で慰霊・追悼することには賛成するという意味である。
これは、本人の意思に反して強制的に戦争に参加させることには反対するという意味だし、靖国神社に祀られることを望まない人を、本人の意思に反してこれに祀ることには反対する、という意味でもある。
ただ、戦死者や遺族の望む方法で慰霊・追悼するといっても、宗教は無数にあるだろうから、実際にこの方針が採用されたときは、政府の設置した慰霊・追悼施設で形式的に慰霊することになるかもしれない。

私自身の靖国神社に対する個人的な考えは、これを廃止したいと考える極左的な立場に近いが、本人や遺族が望む方法で慰霊するという方針を貫くと、靖国神社で慰霊・追悼されることを望む場合はそれを認めなければいけなくなる。
仮に戦死者を国家・政府が慰霊・追悼することになったときには、大多数の日本人は靖国神社に祀られることを望むかもしれない。
このあたりは、個人的な願望や理想と、政府がとるべき最善の政策とを分けて考えているので、個人的な考えと背反する政策が実現するケースもあるだろう。

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