リヴリーアイランドが令和の世にリブートするという/home(あごぶろぐ)
自分は普段まったくスマホアプリをしない。何故ならスマホというのはそもそも携帯電話であり、厄介な事態となったときアプリのバッテリオーが切れたら……もうなにもかもが……ダメ。そんなようなことを自分が行きつけの美容院のマスターもガンスピンをしながら話していた。もっともだ、と自分もうなずいたものだ。だが世の中には例外がある。自分がいっときの住処としているこの荒廃した町に「リヴリー・リブート……」と書かれたぼろぼろのビラが乾いた風に乗って届いたからだ。自分はその信じがたいビラを拾い上げると、風化して砂になりつつあるスマホを買い替えにDOCOMOSHOPに向かった……新たな戦いが始まる、そんな胸騒ぎを覚えていた。
・Livly Island?
リヴリーアイランドはインターネット黎明期に女性を中心として流行った不思議な生物の育成コンテンツだ。と、一言でいえば簡単だがこの時代のブラウザコンテンツはどいつもこいつもどっかのネジが数本外れているので一筋縄ではいかない。旧リヴリーの世界には死の概念があり、普通にエサを与え忘れ続けると死ぬ……死ぬととうぜん墓が建つ。ここまではわかる。誰もがたまごっちで経験済みの義務教育内容だ。しかしこの後が問題だ。アイランドには大型のモンスターがうろついており、平気で自分のリヴリーが暮らす箱庭に襲来する。撃退できなければ当然何度目かの攻撃により死ぬ……死ぬととうぜん墓が建つ。さて、ここで疑問を浮かべるやつもいるはずだ。
なぜ仕事に疲れたOLが手軽に架空の生物を飼育できる、というコンセプトなのにあほみたいにデカいスズメバチとかが飛び回っていて殺し合いをさせるのか? その疑問はもっともだ。だがあの時代のコンテンツはそういうものだった。
マジカロスを覚えているか? あのゲームでは部屋の模様替えをして遊ぶのがコンセプトだが、10分置きくらいに部屋にワイバーンとかペガサスが現れ、絨毯や階段の上を暴れまわった。もはや平成という時代が、インターネット黎明期というケオスが……暴力を呼び寄せるのだ。そこにおおもとのコンセプトなどは関係ない。甘えたことを言っているやつはリヴリーを守れない。だから誰もが技を覚え、投石や魔法とかで化け物に対抗した。そして打ち勝ってきたからこその16年もの期間、サービスが継続したという歴史がある。
もちろんモンスターとの戦い以外に関しては優れたコミュニケーションツールだ。パブリックな場所であるパークに赴けばさまざまなリヴリーが闊歩し、飼い主たちはチャットを用いて交流していた。サービス期間が16年という膨大な年数ということは、今の学生や社会人の中にはこのコンテンツが初めてのインターネットだったやつもいるだろう。リヴリーアイランドはそういう悲喜こもごも、様々なドラマを背負って立っていたコンテンツということだ。
いま社会人のやつが息をするようにしている課金も子供時代のリヴリーアイランドでは親にねだり、テストでいい点を取って、風呂の掃除とかをしてようやく認められるものだった……はじめてのインターネットコンテンツとはそういうものだ。そういう初々しい記憶や、めちゃめちゃどうでもいいことを発端としたガキ同士のあほな口喧嘩などを経た上で今の大人たちはすまし顔でインターネットをやっている。つまりそれらのすべての経験が必要なプロセスだったということに他ならない。それはリアルな羅生門と化しているツイッターみたいなろくでもない文化とは違い、健全な成長の一部だ。旧リヴリーはそういうインターネット稽古場の一つだったと言えるだろう。
自分は旧リヴリーを二度ほどプレイした。そのどちらもゲッコウヤグラという回転するクラゲみたいなやつを飼っていた。一度目はめちゃくちゃ小さくなるようにエサを与え、小規模な回転を楽しんでいた。しかし長くは続かなかった。当時のパソコンがあほだったのでパークでの大規模戦闘の際に負荷がかかりすぎ、耐え切れずパソコンは爆発し……自分が目を覚ましたときにはゲッコウヤグラは戦死していた。この痛ましい戦いに自分は深い傷を負い、墓に背を向けてあイランドを去った……。
それから傷が癒えた数年後にまた舞い戻り、今度はデカいゲッコウヤグラを育てて巨大なる回転を楽しんだ。赤いエサと黒いエサを交互に食わせ、赤黒い大回転クラゲとなったゲッコウヤグラはどこかうれしそうだった。その頃にはパソコンもマシになっていたため、デカいカマキリに雷撃を落としたりしながらパークを飛び回り、/bigでさらに巨大化したりした。いついかなるときも友と呼べる相手はほとんどいなかったが、自分とゲッコウヤグラは思うがままにパークを飛び回り、飼い主たちが交流するのを見守った。
・新リヴリーアイランドになって生まれ変わった
そんな様々なやつの思い出をフラスコにしまって2019年にサービス終了したリヴリーアイランドがスマホアプリとして新生する……このニュースは衝撃的だった。自分はリヴリーアイランド自体をプレイしていた期間は短いが、あの時代のブラウザコンテンツへの思い入れはひとしおだ。野菜村、バルビレッジ、トリネシア、パペットガーディアン、メロメロパーク……枚挙にいとまがないほどに遊びつくし、あの時代のブラウザコンテンツを知る生き証人というポジションを担い続けている。
アメーバピグで座布団の奪い合いをしているのも遠目に見たし、ピグライフが速水もこみちとコラボしたときはオリーブの木をめちゃくちゃな数植えた。そして何よりも数えきれない終わりを見届けてきた……あの時代のコンテンツは終わることはあれどまた始まることは滅多にない。そんな中、この令和の世にリヴリーアイランドがリブートするというBIGニュースが駆け巡り、いてもたってもいられなくなった。自分はすぐさま事前登録し、それからは鷹のごとき眼光で公式ツイッターを毎日見守り続けてきた。そして来たる7月15日についに新リヴリーアイランドがリリースされた……。
自分はゲッコウヤグラしか飼ったことがないからあまり意識したことがなかったがリヴリーにはめちゃくちゃな数が存在する。だがサービス開始時からそれだけいたら飼い主の頭も財布もパンクするのでいわゆる一般種からじょじょに開放していくのだろう。
ゲッコウヤグラがいれば迷わずにゲッコウヤグラにしたところだが、現状は未実装のため自分はモモスを選ぶことにした。いずれ新リヴリーの世界にもデカい蜂とかトンボがやってきたときに暴力で箱庭を守れそうなのがモモスだったからだ。こいつは今は地べたを這っているが、いざというときは勇猛に敵を刺し貫く度胸も持っている……自分の目にはそう見える。そもそもマンモスをモチーフにしているようなのでその時点で強い。
登録時には規約が用意されていたが、内容がおもしろい。すべてを載せてしまうと面白味がなくなるのであえてすべてを紹介することはないが、まず「リヴリーにお腹いっぱい餌を食べさせてあげること」……その条項から始まっている。
そのほかにもここには犬の十戒のような温かみのある文言が並んでいる。よく見かけるズラズラと並んだ利用規約の羅列はさして読み込む気にはならないが、この飼い主規約には読ませる力がある。このページは単にチュートリアル前の情報入力画面などではなく、リヴリーアイランドの世界観に飛び込むための扉でもあるのだ。
今回の新リヴリーアイランドにはリヴリー以外にホムと呼ばれるホムンクルスが登場する。こいつは飼い主の分身らしく、旧リヴリーには存在しなかった。ただ突っ立っているように見えるが、このホムと通心することにより飼い主はホムを介してリヴリーの世話をすることができる。着せ替えもできるようで、いわゆるコミュニケーションアプリのアバターという立ち位置のようだ。
旧リヴリーに親しんでいればいるほどホムに違和感を覚えそうではあるが、これからホムとリヴリーのコミュニケーション機能が充実すればホムにも愛着が湧くだろう。自分は最初モモスを見るのにホムが邪魔なので指でどかしてみたりしたりしたが、モモスに乗ったホムが歩いているのを見て考えを改めることにした。ホムはリヴリーとの間に設けられた新たなコミュニケーションツールなのだ。
そもそも新リヴリーでは何をするのかと言えば、モンスターとの闘争といったバイオレンス要素が現状はないためほかの飼い主のところに移動して木に水をやりながら散歩するスローライフを送ることになる。木に水をやるとたまに虫が落ちてくるので、帰ってそれをモモスに食べさせる。それをモモスが消化し……やがてdoodooという宝石のウンコになる。そのdoodooで虫を買い、エサとしてモモスにやる。doodoo→虫→モモス→doodoo……以下繰り返すこととなる。生命の神秘だ。
虫エサにはそれぞれ色が存在し、食わせたエサによってリヴリーの体色が変化する。これは旧リヴリーから引き継がれた仕様だ。旧リヴリーではどれだけ食わせてもなかなか体色が変わらなかったが、今回はそれなりに簡単に変わるような仕様になっている。自分はモモスのカラーをッシミュレートし、オレンジ色にすることに決めた。だがそれまで野放図に色んなエサをやっていたため、理想の色になるのにはまだまだ時間がかかりそうだ。
また旧リヴリーではリヴリーに与えるエサによってリヴリーのサイズを変化させることができたが、今回はホムが乗ったり抱きかかえたりできる関係上その仕様はなさそうだ。できるものならモモスを超巨大なサイズに変化させ、スマホの画面に収まらないくらいの大きさになったモモスに原始の記憶を呼び覚ましてやりたかった。そうすればもう、だれにも負けない強さを得られるだろう。
・UIが超やる気に満ちている
これはラボワークという、いわゆるデイリークエストのようなものをこなす場所だ。飼い主はリヴリーを世話することで研究に貢献し、金やdoodooなどの報酬を得る。この画面にはどこか既視感がないだろうか? これは一時期流行った、なんかすると電子ポイントがもらえる類のサイトに酷似している。アンケート調査などの仕事もあるのがさらにらしさを加速させている。
これはさらに細かい特別な仕事の内容だ。仕事内容の下には「経験者優遇」「未経験歓迎」「面接不要」「シフト自由」「急募」などのタグが並んでいる。もちろん飼い主が応募してほかの飼い主と集団面接とか殴り合いをして勝ち取るわけでもなんでもなく、恒久的に用意されている仕事なので本来はこんなタグが書かれている必要はない。
しかし飼い主は確かにリヴリーを育てる研究に貢献しており、その成果に応じて報酬を受け取るようになっている。そうした繋がりを確かなものとするためにこういったデザインのUIが設定されている。自分はこの画面を見て興奮し、グラスを呷りながら他のUIも確認していった。
画面下部には各メニューが並んでいるが、ここもこだわりを感じさせる出来だ。よく見るとそれぞれの項目にスラッシュがついている。「/shop」「/item」といったふうにだ。これは旧リヴリーにおけるチャットコマンドを意識してこういう風に表記されている。当時はチャット欄に/〇〇とコマンドを打ち込むことで各コマンドを発動することができた。
/homeで家に帰り、/thunderでいかずちを落とす……その時代の名残が新リヴリーのUIにも残されている。どれもこれもかつてのリヴリーに愛着がなければできない、あるいはやらない仕事だ。また、ホムとリヴリーが移動するときの音も例の「ビブョン」という効果音だった。
これだ。
また、事前登録で配られたアイテムの中にはかつての旧リヴリーを再現するパーツがある。思わず下のUIを押しかねないので設定するかどうか迷うところだ。葉っぱの上の「ようこそ」も震えるほどなつかしい。
・サポーターズパックは絶妙に購買意欲をそそらないからなんとかしたほうがいい
気になる課金要素だがこの記事執筆時点ではいわゆるガチャと、手っ取り早くリヴリーを迎えるためのお迎えセットが中心の様子だ。ガチャと聞いて身構えたりバックステップするやつもいるかもしれないが、これまで数多のアプリを渡り歩いた自分の見立てではかなり良心的なほうだった。
まずガチャには各シリーズの中でも二種類あり、箱庭を飾るための「アイランド」とホムを着飾る「ファッション」のどちらかを選んで回すことができる。この時点で闇鍋に突っ込んでわけのわからないものが出る可能性が減る。さらにダブったアイテムは他の飼い主と交換できる仕様だった。これは……運営を危ぶんでしまうほどのデカい仕様だ。大丈夫なのか?
リリース当初の課金要素としては前述したガチャ以外にはこうしたパッケージが用意されていた。最初の三種以外のリヴリーを手っ取り早く入手するためのパッケージ……と、サポーターズパックA/Bだ。Tシャツと……団扇。あまり購買意欲をそそられないデザインだがこれは売れるのか? しかも販売期間はあと半月ほどしかない。自分は研究員が焼き鳥とかを食べられるようにABともに購入したが、もっとまともなデザインの返礼品を用意しなければ大多数の飼い主に買ってもらえないのではないか、という危惧を抱いている。
あるいは、手作りのあたたかみ感を印象付ける高度なマーケティングの可能性もあるが。何にせよ今のところは課金要素が薄いため月パスなどの実装が待たれる次第だ。また、サポーターズパックにもし次があるならTシャツと団扇以外のものにしてくれ。
・モモスが腹を空かせているのでもう帰る
リヴリーアイランドは一度サービスを終了している。サービスを一度終了させたコンテンツが再起する、というのは並大抵の難しさではない。パン屋がつぶれた跡に入ったパン屋はだいたい潰れるし、ライジングインパクトも打ち切りされてからまた復活したがまた打ち切りになり二度死んだ。新リヴリーにおける勝機はかつてリヴリーを楽しんでいたティーン層などが成長し、社会人になったところだろう。課金要素と聞いて顔をしかめるやつはいるかもしれないが、金がなければ運営が立ち行かないのは当然のことだ。平成のネット文化を代表するコンテンツの一つであるリヴリーが令和の世で続いていくかは、今の飼い主たちに懸かっている。自分も微力ながら変なTシャツや団扇を購入することで貢献していくつもりだ。
新生リヴリーアイランドはまだ出来立てホヤホヤであり、今のところはヴィネット調の箱庭を飾り付けたり、リヴリーの色をゆっくり変えながら散歩するくらいしかできない。旧リヴリーにあったパブリックパークで大人数とチャットしたり、モンスター襲来などのコンテンツが実装されるまではどうしても手持ち無沙汰な時間が続くだろう。しかし、16年の歴史が詰まったコンテンツを短期間で再現するのは無理がある。自分はのんびりと箱庭の中で酒でも飲みながら待つつもりだ。そして来たるべき時がくればモモスに乗って駆け付け、オオカマキリに怒りの雷撃を与えるだろう。奴らはビビる! その日が来るのを楽しみに待っている。
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ドーモ! ドネートは常時受け付けています。 ドネートはときにおやつやお茶代に使われます。