私はそこに住んでいた?

東京ではどの時間帯でも人がいる。

田舎の高校を卒業し、大学進学とともに上京した。上京とは言っても東京では無いのだが。都会に行きたくて、とりあえず関東に進学しようと進んだ先にあったのは田んぼと畑とイオン。

どうみてもそこは地元と似た雰囲気の田舎だった。とはいっても、新宿までは1時間ほどで着く。東北の田舎から出てきたと思えばマシなものだろう。

「地元に似てていいとこじゃないか。」父はそう言ったが、私は都会に住みたかった。そのまま父に流され、田んぼの中に佇むアパートの一室を借りた。2Kで家賃3万円。当時の私は理解出来ていなかったが後に激安だということを知った。

入学当初はやりたいことも見つからず、ただボーッと過ごした。バイトもせず奨学金も借りていなかったため、引越し祝いという名目で親から貰った20万円をやりくりして生活した。

そして6月になった。お金が尽きかけていた私が選んだバイトはキャバクラのボーイだった。場所は新宿。初めてのバイトでボーイを選んだことは、今考えてみればとてもいい選択だったと思う。だって、私は都会に行きたかったのだから。

朝9時から講義を受けて夕方18時には新宿に向かい、朝の始発でアパートに戻るか同僚の部屋に行かせてもらい、シャワーと洗濯を済ませ大学で寝る。講義に遅刻しないためだ。

そのため、部屋にいることなんかほとんどなかった。ただ、洗濯をしてシャワーを浴びるだけの部屋。2年後にボーイを辞めるまで、開かなかったダンボールもあった。キッチンにはホコリが積もっていた。

ボーイを辞めたきっかけは、身体を壊したことだった。親類の不幸などが重なり無理をしてしまった。そんな時、私の隣には幼なじみがいてくれた。関東の違う大学に通う彼女はお見舞いに来てくれたり、身の回りの世話をしてくれた。そんな彼女が好きになった。

そして、その幼なじみは今でも私の隣にいてくれている。妻としてだ。いまでも大学生で初めて住んでいた?家のことを妻と話す。

「地元に似てていいとこだったね」と。

#初めて借りたあの部屋

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