社会人一年目のこと

少しだけ成人向けビデオの話が出てきます。

さっき思い出したことで、社会人一年目に出会ったおじさんのことです。

自分は、就職氷河期の終わりくらいに就活をしていて、まあ頑張ればみんな内定が貰える時期に就活をしました。それでもめちゃめちゃ嫌でした。その時、「洋服の並木」でモッズスーツを作って、それを着て会社説明会に行くことだけが楽しみでした。

結局118社にエントリーシートを送って、80社くらい一次試験に行き、内定は1つでした。

その会社での出来事です。

自分はその会社の仕事にとにかくついていけなくて、何ヶ月経っても何も出来ませんでした。原因はたくさんあるのですが、そのうちの一つは酒でした。会社が終わってから朝まで飲んで、そのまま出社してずっと二日酔いのまま時間が経つのを待っていたのですから仕事は覚えられません。そんな新入社員も珍しいと思いますが、それでも結構職場の方は仲良くしてくれました。

その中でも、わりと一緒に仕事をしていたおじさん(名前は忘れました)のことが記憶に残っています。

そのおじさんは、とても几帳面で仕事もていねい、後輩にも優しく、毎日昼飯を奢ってくれます。自分もそのおじさんにとても甘えていました。もちろん、自分以外の同期にもとても人気ものでした。

自分も若かったので、そのおじさんに色々聞くべきでないことも根掘り葉掘り聞いてしまいました。独身なこと、親もいないこと、趣味はパチンコ、そんなことを聞いているうちに、親近感がとても湧いてきて、自分もおじさんに色々と話しました。家族のことで悩んでいること、パンクスを気取っていたこと、キャッチボールもできないくらい運動神経が無いこと、とか。

自分は、おじさんに同じことを何度も教わりながら仕事を少しだけ覚えました。しかし、体(肝臓)が限界にきて仕事か酒かどちらを辞めるか選ばなければなりませんでしたが、退職届一発で辞められる仕事と比べて酒を辞めるのは本当に大変なのです。

おじさんに、「おじさんは酒は好きですか?」と聞いてみたら、「なんか悩みでもあるのか」と逆に聞かれて、そのまま無視したことを覚えています。

その後、夏場になり繁忙期、余りの忙しさに私はおじさんから離れて独り立ちを余儀なくされました。といっても、ベテランのおじさんはダメ新入社員にかまけずバリバリ働いて、若手で集まって半人前の仕事でもできれば、ということでした。

自分たち若手は、集まって仕事をしながらも話題もなく、自然とおじさんの話をはじめました。

同期が突然、
「お前はおじさんからどれ借りてんの?」と聞いてきました。
私はその言葉の意味がわかりませんでしたので、適当に「いやあ」と答えると、他の同期は次々と「おじさんに借りているもの」を答えるのです。それも大量に、そして、その答え一人ひとりに笑いが起きるのです。おじさんから借りているのものが10本の先輩に同期は大爆笑していました。

それは、「アダルトビデオ」だったのです。おじさんは、とんでもないアダルトビデオマニアで、家には数千本のDVDが保管されているようなのです。そのカタログを個人的にエクセルで作って社内で回して無償で貸しているのだそうです。そして、その貸し出しの輪に私は入っていなかったのです。おじさんはそんなに彼の人生の中で大きく体重を預けているアダルトビデオについて、私にただ一言も話すことはありませんでした。

私はすぐにそのことに気付き、目眩を抑えながら同期の話に頷いていました。若手によるおじさんの話はほとんどがアダルトビデオ関連の話で、私が知っているおじさんが50を超えてもパチンコでカツアゲされるのが怖くて靴下に札を入れていること、それを忘れて洗濯すること、揚げたての唐揚げを買うのに火傷が怖くて冷凍してから食べること、一人暮らしだけど頑張ってエスティマを維持していること、そのエスティマで週末は車中泊旅をしたいと思っているのに一度もできていないことなどを話す人はいませんでした。その後、私は誰にも相談せずに退職届を書いて一年目で仕事を辞めました。

自分もアダルトビデオが借りたかったわけじゃない。こういうとき頭数に入らない自分の、そういうところに嫌気が指したのです。そういうところは今も全く変わっていません。それでもなんとか酒だけはやめました。頑張っています。

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