「爆発前のsupreme」のこと

川村有史さんの歌集「ブンバップ」の帯に書かれた歌

みんなして写真の中で吸う紙のたばこ爆発前のsupreme

にとても惹かれました。
修辞について語る技量が無いので、この歌をきっかけにまた自分語りをすると思います。

自分が思い浮かべた景は、「紙のたばこ」を吸う「みんな」が映った写真、これはすべてが過去のことだろう。

そして、つい最近のことでは無いことが「爆発前のsupreme」でわかる。

つまり、supremeがアパレルブランドとして不動の地位を得る前の(おそらくは2000年以前の)仲間と撮った写真だろう。

その頃に電子タバコは無い。写真の中のたばこを見て「紙の」と付け加えるのは現在の自分の価値観。

写真の中の青年たちはのちのsupremeが世界中の老若男女が血眼で争奪戦を繰り広げるメガブランドになるとは思わずに着ている。大学生くらいの年齢だろう。比較的ファッションに興味があり、スケートボードをはじめストリートカルチャーに親密だろう、音楽を通じた仲間かもしれない。

自分の思い出の中だと、supremeの爆発は二回あって、一度目はたぶん1995年ごろのエアマックスブーム終了のちょっとその後だと思います。当時のスケーターはラッパー系の格好をしている人が多くて、なんとなく自分も普段は全く着ないダボダボのジーンズともこもこのDCのスケシューをスケートボードをする時だけ履いていた。その方が滑りやすいのかと思っていたけど、鳶服の超ロンみたいに特に意味はありませんでした。

その頃、雑誌でよくsupremeのボックスロゴのTシャツが紹介されていました。スケートブランドとして紹介されていたけど、デッキが売っているわけでもなく、アパレルだけ売っているsupremeというブランドがよくわからなかったのが本音です。当時ネットもなく、田舎の少年だったので。

a love supreme(1995) ジョン・コルトレーンのアルバム名から取られたsupremeの名作skatevideo。当時はイケイケの音楽に攻めまくりの高難易度トリックでハイテンションなビデオが主流だったはずで、後で見たこのビデオのオシャレさには驚きました。コルトレーンの気だるげなジャズをバックに、スケートと関係のないアーティスティックな映像が長尺で入り込み、何よりアパレルメーカーのビデオなのに全編モノクロで何を着ているのかわからないのもいい。トリックの難易度よりスタイル重視の価値観は、後にどんどん拡大していきますが、a love supremeあたりが始まりなのかも、と思いました。

当時、supremeは本当にボックスロゴTしか見なくて、実物を見ても「これ本物なの?」と驚くほどペラペラでした。98年の代官山店オープン時にそのペラペラさが本物だったことにさらに驚いた気がします。当時はsupremeのボックスロゴのパチモノ(samuraiとか)が世の中にあふれていました。あと、そもそも"supreme"がみんな読めなくて「サプレム」「スーパーミー」など適当に読んでいました。

このあたりが、supreme第一次ブームで、そのブームは裏原ブームと重なっていたと思います。でも、その頃のsupremeは熱狂的なブームを起こした裏原ブランドとはちょっと違って、またスケーターとも違って、なんとなくファッション寄りのちょっと変わった人が着るTシャツだったような気がします。2003年ごろに、埼玉の病院で医療治験のバイトで入院した時に隣のベッドの青年がsupremeのボックスロゴのTシャツを着ていました。その後、supremeは人々の記憶から忘れかけられていきます(たぶん)。

その後の2011年ごろからsupremeはまさに大爆発を起こし、今のsupreme像へと変化します。世界中で争奪戦を起こし、ECサイトは常にダウンし、supremeを名乗るニセ会社が世界中で登記され世界有数の大企業まで騙されるありさま、最近は少し落ち着いていますが、押しも押されもせぬメガブランドとなりました。自分の考えだと、supreme大流行の原因はスマホの普及だと思います。実際自分はsupremeを追っていたこともなく、そもそも買ったこともないのですが、SNSで目にするsupremeのウワサの質量には驚かされます。まさに「爆発」としか言いようのない大流行です。

自分の周りでは、ファッションブランドとしてのsupremeを知らない人は全くおらず、有名ゆえにそれぞれのsupreme像があるかと思いますが、やっぱりスケートボードをやっていた人間としたら、95年に全くのインディペンデントであれだけとびぬけてセンスあるビデオ"A love supreme"を作ったsupremeは凄いという思いが強く、リスペクトしています。「爆発前」である90年代のsupremeの持つエネルギーを知っていれば、第二次supremeブームがあながち「作られた爆発」でもないような気がします。

自分としては、「爆発前のsupreme」がダウナーなエネルギーをため込む青年たちのようであり、それで「爆発後のsupreme」とリンクしないだろうという安心感もちょっとある、ような気もします。

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