少女革命ウテナ考察2021 第38話

今回は38話の考察をしていきますが、この回を一言で表すと「自分の世界(殻)に閉じこもっている兄妹」です。筆者はこの回を繰り返して見るなかで、何とも言えないモヤモヤ感がありました。それは、暁生とアンシーがそれぞれ自分の殻に閉じこもり全く救いが無かったからでした。
※今回の考察は後日投稿した(再考察)で一番内容の訂正がされています。あえて過去の考察も残したいので、この投稿もこのまま残します。

第38話「世界の果て」

ー目次ー
①暁生はウテナをお姫様という枠組みに押し込めようとする
②あの日の夜のことーアンシーの本心①
③暁生(世界の果て)の正体
④暁生との決闘ーアンシーの本心②

考察

1.暁生はウテナをお姫様という枠組みに押し込めようとする

38話は、ウテナとアンシーが薔薇の門(世界の果て)へと向かうシーンから始まる。世界の果てにたどり着いたウテナとアンシーは強く手を握りあった。暗闇に大きな球体に座り込むディオスの幻影が浮かぶ。そこから伸びる階段から暁生が登場する。「やはりあなた(暁生)が世界の果ての正体だったのか」と警戒するウテナ。そして、この学園で行われている決闘や暁生の目的を問いた。暁生は勇ましいウテナの姿に感心しながらも、この世界において女の子の幸せは、勇ましい王子様になることではなく、お姫様になることだと話した。暁生はウテナの胸から剣を抜き抜く。その瞬間、ウテナはお姫様の姿となる。そして「王子様は俺で、お姫様は・・・君(ウテナ)だ」といった瞬間、傍らにいたアンシーは姿を消してしまう。戸惑うウテナに暁生は「アンシーならあそこだ」と言った。装いが変わったアンシーは苦しそうに階段に伏せていた。そして、暁生はウテナから剣を奪い「王子様とお姫様はお城で永遠に愛しあうのだ」と話す。しかし、ウテナは「姫宮はどうなるの?」と問う。暁生は「彼女は薔薇の花嫁だ。ずぅっとね」と答える。

胸から剣を引き抜かれた瞬間にウテナがお姫様の姿になる場面があるが、この胸から引き抜かれた剣は、その人物の気高さや王子たる心の象徴といえる。過去の決闘でウテナが胸から剣を引き抜いてもお姫様の姿にはならなかったのは、自分自身で剣を鞘から引き抜いたに過ぎなかったからである。しかし、このシーンでは暁生がウテナから王子たる心の象徴を奪い取った形になる。ゆえにウテナは暁生に恋心を抱く一人の女の子となった。お姫様の姿はそれを表現している。また、「お姫さまはウテナだ」と言った瞬間に花嫁姿のアンシーが消えたのは、アンシーはお姫様ではないということであり、薔薇の花嫁はお姫様とは違う別の存在であるということを意味していた。このシーンで、暁生はウテナをお姫様という枠組みに押し込めようとする。しかし、ウテナはそんな世界の理に疑問を抱くのである。王子さまはこういうもの、お姫様はこういうもの、薔薇の花嫁はこういうものという既にできてしまっている概念に真っ向から立ち向かうウテナは、やはり革命する者としてふさわしい存在である。

2.あの日の夜のことーアンシーの本心①

場面はいつかの夜に遡る。高い建物の屋上から身を投げようとしたアンシー。ウテナはごめんなさいと繰り返すアンシーをどうにか引っ張り上げた。
アンシーは「わたしは薔薇の花嫁だから、心の無い人形だから、体はどんなにさいなまれても心なんて痛くならないと思っていたのに、ごめんなさいウテナ様。私の苦しみは薔薇の花嫁としての当然の罰です。でもウテナ様まで苦しめて・・・・あなたはただ巻き込まれただけなのに。私はそれを知っていたのに、あなたの無邪気さを利用していた。あなたの優しさに私はつけこんでいた。ごめんなさいウテナ様。私は卑怯なんです。ずるい女なんです。ずっとあなたを裏切っていました。わたしは・・・・」と話し、ウテナはそれを遮った。「ちがう。僕が君の痛みに気づかなかった。君の苦しみに気づかなかった。それなのに僕はずっと君を守る王子様気取りでいたんだ。本当は、君を守ってやっているつもりでいい気になっていたんだ。そして、君と暁生さんとのことを知った時には僕は君に裏切られたとさえ思った。君がこんなに苦しんでいたのに、なんでも助け合おうって僕は言ったくせに・・・・。卑怯なのは僕だ。ずるいのは僕だ。裏切っていたのは僕の方だ。」「もういいですから、この学園から離れてください。すべて忘れてください、」「そんなことできるはずないじゃないか」という回想シーン。

アンシーは、前話で何度もウテナに嫌がらせをした。ウテナとの友情も決裂したはずだったのに、それでもウテナは、将来もずっとアンシーと友達でいたいと話すほどに心優しい人だった。アンシーは自分を大切にしてくれるウテナをこれ以上傷つけることができなくなり身投げ未遂をしたのだ。ここまでは、何とも感動的な展開である。ウテナはアンシーを本当の意味で救い出すことを誓い、アンシーもウテナを心から信頼したように見えた。
この夜に二人は本心をさらけ出したことは間違いない。しかし、この感動的なシーンで二人が視線を合わせることはなかった。本当に二人の心は通じ合ったのだろうか?

3.暁生(世界の果て)の正体

あの夜、ウテナはアンシーの苦しみを知った。そのため、アンシーをこの先も薔薇の花嫁でいさせるわけにはいかない。ウテナは、暁生からアンシーを解放するために暁生に刃を向けた。暁生は、「君を見ていると昔の俺を思い出す。王子様とか、永遠の城なんてまやかしだ。」といって、現実(世界の果て)をウテナに見せた。そこは、理事長室であった。この世界は永遠のものとか、奇跡の力が存在していてほしいという願望を持つ者に、おとぎ話の幻を見せるプラネタリウムによってつくられた幻想であると説明する。そして、ウテナとの会話の中で、暁生自身(世界の果て)の本性も明らかになっていく。暁生は世界を革命するといってウテナに剣を渡すように迫った。ウテナは妹のアンシーを救おうともしない暁生に世界を革命させるわけにはいかなかった。暁生もそんなウテナに対抗すべく、アンシーから黒い剣を抜きだした。

暁生は、「王子様とか永遠の城と言うまやかしの世界は存在しない」と否定し、この世界は理事長室のプラネタリウムが映し出す幻だと説明している。この装置は「永遠のものや奇跡の力が存在していてほしいという青臭い願望を持つ者におとぎ話の幻を見せてくれる」らしい。しかし、空に浮かぶ城やディオスの墓などは暁生が映し出したとしか思えない。青臭い願望を持つものとは暁生も含まれている。
また、暁生は今も昔も王子ではなかったと言っている。つまり、ディオスは自分自身で王子様という存在を作り出し王子様として生きていた。しかし、結局王子にはなりきれなかった。そんな兄を救おうと、アンシーもまた自分自身で魔女という存在となり、王子という存在を葬った。そして、ディオスを救う代わりに世界中の女の子から王子を奪った罪を自ら課し、永久にその罪を背負う薔薇の花嫁として(悲劇のヒロインとして)自分の殻に閉じこもったのだ。そして、アンシーによって王子という枠組みから解放された(を奪われた)暁生は、過去の自分をまやかしと言って否定しながらも「永遠・輝くもの・奇跡の力」を追い求め続ける。そして「世界を革命する力」が薔薇の扉にあると思いこみ(真実とは向き合わず)永遠をさまよっているのだ。そして、アンシーもまた自分の殻に閉じこもり、不運な運命の中に自分の居場所をつくってしまう。
暁生の「俺たちは愛し合っている。彼女はもう、こんな風にしか幸せになれないのさ。」という言葉は、筆者には現実と向き合えなくなった兄妹の慰め合いと感じ取れる。また、暁生はウテナを過去の自分と重ねている。そのため会話の中でウテナに話しているのだが、昔の自分自身に語りかけているようにも見える。

4.暁生との決闘ーアンシーの本心②

暁生とウテナの壮絶な決闘が始まる。そしてウテナの「僕はあなたから姫宮を開放するものになる!わかってるさ!僕が王子様になるってことだろう!」の一言で、暁生の作り出したまやかし(ディオスの墓や永遠の城)は崩れていく。

このシーンはウテナの信じる世界が暁生の世界を圧倒していることを表現している。そして幻が崩れ去るのと同じくして、ウテナの剣が暁生を圧倒していく。

そして暁生の世界が崩れていくなかで、アンシーは瞳を見開いた。プラネタリウムの電源が落ち、幻想が一時とまった。暁生が苦し紛れに近くに歩み寄っていたアンシーをウテナへ押し出す。アンシーをかばうウテナ。ウテナの背後でアンシーの表情が変わる。そして、アンシーはウテナに剣を突き立てるのだ。

ここではアンシーの本心が映し出されている。アンシーの本心、それは「このまやかしの世界の殻に閉じこもっていたい」である。アンシーも暁生と同様にこの世界の殻に閉じこもることが居心地がよかったのだ。そんな世界を今まさに壊そうとしているウテナをみて、アンシーは「私の世界を壊さないで」とウテナを拒んでしまったのだ。ウテナと本心を話した夜、アンシーは決して助けてくれと言わなかった。最後まで、ウテナに「もういい、去ってくれ」と言っている。その意図がここで明らかになったのだ。

あとがき的なもの

最後までアンシーの本心が分からず悶々とした日々を過ごしいていましたが、(まるでウテナになったかのような!なんて幸せな追体験でしょう!)なんとか納得のいく考察ができました。何よりも暁生が何を考えているか考察するのが大変でした。(何せ暁生に興味がもてなかったので・・・)でも、暁生の考察を進めることでアンシーの本心も少しずつ分かってきたので、まあ、彼の存在意義も一応ありましたね。よかったよかった。次回最終話の考察をします。一番最初に書いた考察と違いが生まれるか少し不安であり、楽しみです。

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