息子が生まれた日のことを、私は知らない

私たち夫婦が
息子のことをはじめて知ったのは、
息子がこの世に誕生した
その翌日のことだった。

突然、
夫の携帯を鳴らした児童相談所からの電話。

いろいろあって、その日私たち夫婦は
ギリギリ電波が入るか入らないかの山の中にいたわけで、

気づかぬうちに切れていた
その着信の発信元が児童相談所であることを察し

え、いや、いま?
え?もしかしてもしかして、そういうこと?
なんてかなりテンパりながら

なるべく電波の入りそうな、
外の音が入らなそうな場所を探した結果、
行き着いた先は
キャンプ場のシャワールーム。

その小さな空間に
大の大人2人
きゅうきゅうに引っついて、
折り返しの電話をかけたのだった。

「もしもし、○○です。
先ほどはお電話取れず申し訳ありませんでした、、、」

「昨日、産まれた、
特別養子縁組希望の男の子が居ます」

その一本の電話で

つい前の日の夜に産まれたばかりの彼と、
私たち夫婦、

その瞬間まで
お互いの存在すら知りえなかった
私たち3人の人生がつながった。

そして
夫の携帯をスピーカーにして聞いていた
その通話が
「詳しいことは明日来所頂いてから」
ということで終わり、

携帯を持つ手を下ろした夫と
顔を見合わせた
その瞬間から、

・昨日産まれた
・男の子
という以外のパーソナリティ不明の
まだ見ぬ赤ん坊は、

私たち夫婦の
世界で一番大切な息子になった。

それが
私たちと息子のはじまり。





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