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霰と地雷と天ぷらと

最近のわたしは、
近くの「ちょうど良いご飯やさん」を調べまくっている。
当たり障りない料理のラインナップで、
でも選択肢は多く、柔らかい食べ物もあって、
そして座敷ではなく椅子で、混み過ぎることもなく、
おしゃれすぎず、でもこざっぱりしていて……

嫌な夢を見た。


だから、急がないと。
今すぐにでも決行しないと。

祖父が「みんなでご飯を食べに行きたい」と。
その「みんな」とは「家族」を指しているけれど、
父はほぼ寝たきりで施設に入っているし、
母は家族のケアで疲弊しているし
いつ何で爆発するか分からない地雷を抱えたきょうだいと
わたしはいつも身体も心もいっぱいいっぱいだし
そもそも祖父は足が悪いし
大体、もう90歳を超えているし

そして、

目まぐるしいスピードで、
祖母の記憶障害が悪化している。

やっぱり、急がないと。
お店を決めた。
本当は、店の雰囲気はどうか、段差がないか、
ちゃーんと下見しようかと思っていたけれど、
そんな時間はない、
わたしはなぜかすごく焦っていた。
絶対今日行かないと。

でもその日は、
映画の撮影かなと思うくらいの豪雨と
8月なのに霰が降りまくった。

ちょっと笑っちゃった。

よりによって今日っすか。

でも食事会は決行した。決行することに決めた。
祖母は、
「こんな天気で、あらまぁ行くの?ねぇ行くの?」
ともたもたもたもたもたしていたけど、
祖父が、
「霰ごときで躊躇っていたら生きていけない」と
ごくごく自然な感じでつぶやいたから。

ちょっと笑っちゃった。

「そうだよね、霰で立ち往生しててもお腹は膨れないもんね!」と
わたしは返したけど、
祖母の病気による怒りっぽさや僻みっぽさや、
生活の不自由さに比べたら
霰なんて超可愛いもんだよね。

霰の大吹雪のなか、車を走らせる母は
「あはは!アトラクションみたいだね〜!」
と盛り上がる。いや、盛り上げる。
わたしも盛り上がる。いや、盛り上げる。
わたしのきょうだいは、そういうのはやらない。
気の利く人だから気づいているけど、
「あえて」やらないし、
「あえて」正論(のようなもの)と
自分の感じていることを正直に言う。
それさえ言わなきゃ、
誰も気分を害さず、その場が流れていくのに。
いや、本人がすでに気分を害しているのか。

お店に着いた。
その頃には雨も霰も止んでいた。
予約もせずに、ドお昼帯に行ったから、
入れなかったらどうしようかと思ったけど、
めちゃめちゃ空いていた。

そりゃそうだ、だって大嵐の霰だったんですもの。

めちゃめちゃ良かった。お店。

結論、すごくちょうどいいお店だった。
メニューも、内装も、
雰囲気も、一見さんが入りづらいでもなく、
アットホームすぎるでもなく。
やるじゃん、わたし。

お刺身とかお蕎麦とかのランチメニューを
人数分より少し少なめに頼んだ。
祖父は胃がないのでね。そんなに食べちゃだめなので。
そういうのも対応してくれる、本当に良いお店だった。
わたしはカニクリームコロッケを頼んだ。
届いたら、切り分けて祖父にあげた。
何なら、祖父は頼んだメニューのなかで一番気に入っていた。
やるじゃん、わたし。

祖母には、ビールも飲ませた。
ちょっとだけね。
そうするとね、機嫌がいいから。
祖父も、家でそうしているみたい。
じゃないと、やっていけないんだろうな。
わたしはみんながご機嫌なのが1番だと思う。
反対に誰かがちょっとでも機嫌が悪いのは、とてつもなく嫌。
すごく嫌。
とはいえ、そんなに飲ませるわけにもいかず、
瓶で頼んだビールをわたしも飲んだ。
別にそんなに好きじゃないけど、
お昼から、スーパードライなんて
なんて贅沢なのかしら。


なんとなく、こっそり食事風景の写真を撮った。
本当になんとなく。
これって遺影としてアリなのかな、ナシなのかな。
遺影加工アプリ……なんてないよね?!

「美味しいね~」
「みんなで来られて良かったね~~」
「また来ようね~~~」

にこにこにこにこ
るんるんるんるん
ぐるぐるぐるぐる
もやもやもやもや

でもさ……
ぶり返すようだけど、
みんなのご機嫌が悪くならず
その場が滞りなく「流れていくこと」の方がよっぽど大切じゃん?
なんでも。なにごと。
その「あえて」が「自立した大人の自我」から生まれるのだとしたら、
そんなもの、わたしは一生いらないや。
わたしは今までもそうやって生きてきたし、
それが別に苦にもなっていないし。
「えへへ〜」ってニコニコしながら
美味しそうにご飯を食べるだけでいいなんて
なんて贅沢なのかしら。楽勝楽勝〜〜

そういえば、わたしの母はよく
「ご飯のときくらい、みんなで楽しく食べようよ」と
とても悲惨な雰囲気を醸し出しながら言っていた。
家に父もいて、きょうだいもいた頃のこと。
今思うとあれって、すごく暴力的な言葉だなぁと。
わたしも自分の子どもとかに言っちゃうのかしら。
え……怖すぎる……。
こういうことを思い出すたびに
絶対産むのはやめようと思う。
呪いは受け継がれてしまうから、
誰かが断ち切らないとね。


はぁ、天ぷらって美味しい。
最近、外食のときは必ず天ぷらを頼んでいる。
天ぷらの美味しさが分かってきただなんて、大人だなぁ。
やるじゃん、わたし。



はぁ、しんどいなぁ
何がしんどい?
誰かの地雷が爆発しないように
そーっと生き抜くことが?

全部ないことにならないかなぁ
何がないことになったら楽なの?


というか、夏休みとかお盆なんて
みんなそんな気分だよね?
家族団らんでバーベキュー♡♡♡
なんて同世代いるんすか?

あ、いたわ。。
Instagramを開けば、みんなそれだった。
さすがZ世代???


つくづく、わたしには
愛情とか共感とかが備わっていないなぁと感じる。
生まれつきないのかなぁ。
でも、わたしは公式みたいに
それらを覚えて適切な解を出すことができる…はず
えっと、ある程度は出来ている……
よね………????
あれ……、ちがうかも。。。
感覚が変わってるねってよく言われるし。。。。
大体、感覚って何だし。。。。。。。。

こんなんで良かったのかなぁ。

みんなでお店を出てから、
母だけお店に戻り、数十秒後に出てきた。
お店の人にお礼でも言っていたんだと思う。
ありがとう、お店。また来たいです、お店。


でも、まぁ良かったんだと思う。
なぜなら、その翌日から、
輪をかけて祖母の症状が悪化していったから。
ふふふ、わたしってそういう勘だけはいいんだよなぁ。
だから、急がないとと思ったんだよね。
だから、霰でも、地雷でも、天ぷらでも
今、決行しないとと思ったんだよね。
やるじゃん、わたし。

はぁ、天ぷら美味しかったなぁ。
はぁ、しんどかったなぁ。
いや、しんどかったのは少しだけ。
でも、後からくるしんどさだなぁ。

はぁ、天ぷら美味しかったなぁ。


あれ、天ぷら???

サポートしてくださったら、世界が少しだけ良い感じになるかもしれません。でも今すぐっていうのは難しいです。とりあえず、わたしが元気になります。