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「崖っぷちの女」後編~決着は土曜日に~/さわきさん×すまスパ企画 後編(#火サスどうでしょう)

※このお話は「さわきゆり」さんに後編を書いてもらいたいがために作成した前編について、抽選に外れ、やむなく自分でオトシマエをつけるための作品です。物語の前編はこちら!


「さて姫川さん、その前に私からいくつか伺ってもいいでしょうかね?」

沈黙を破ったのは老刑事・五十嵐だった。
こんな老いぼれがいまさら何を聞きたいというのか。まあいい、時間稼ぎにはなるだろう。

「・・・私が話を聞きたいのはどちらかというとあなたではなく公安の方ですが、『余興』という言葉を出した手前、いやとも言えませんね。お聞きになりたいこととはなんでしょう」

「あなたの愛する人、とは毎朝新聞の記者・タカダユウスケさんのことですか」

「・・・ユウスケではありません。ユウイチロウです」

こんな場面で人の名前を間違うとは、いよいよもってお里が知れる。さんざん冷や飯を喰らい続けてきた無能に違いない。

「ああ、失礼。年を取るといろいろ覚束なくなりまして・・・。おや?訂正はそれだけですか?」

「それだけ、とは?」

ユウイチロウは確かに毎朝新聞の記者だったはず。

「いやいや、思い返すとタカダ、ではなくタカタ、でしたな」

「・・・そのとおりですが、いまそんな細かい訂正をする必要がありますか?時間の無駄です。公安のあなた、高木さんと言ったかしら。ユウイチロウを殺したのは誰ですか」

老刑事から顔をそらし、私は公安のほうに向きなおると強い口調で問いただした。

「それは・・・」

口ごもる高木。とその前に、遮るように老刑事が立つ。

「あなたですよ」

「・・・はあ?意味が解りません。そして、あなたには聞いていません」

「タカタ記者と一緒に事件を探っていた中年の男がいたでしょう?あの男はまだ海の中でしょうかね?」

ユウイチロウと一緒にあれこれ探っていた男と言えば、私立探偵の大河内大二郎だ。部下にユウイチロウを始末させたあと、大河内は睡眠薬で眠らせ、車に乗せたまま海中に突き落としたはず。それをなぜこの男が?
予想外の事態に、私の思考は瞬断した。

「姫川さん、いや『青蜥蜴』という呼び名のほうがふさわしいですかな?」

言い放った老刑事はベージュのサファリハットを投げ捨て、あごの下に手をかけるとメリメリという音とともに、顔面の皮膚のようなものを引きはがした。

「アッ!」

私を含む周囲の人間が驚きの声を上げる中、そこに現れたのは誰あろう、大河内大二郎の顔であった。

「青蜥蜴、お前が時間稼ぎをしながら待っていた脱出用のドローンはここにはこない。このエリア一帯に、一時的に強い電磁波発生装置を作動させている。つまりはお前の持っているデジタルデータもすべて使い物にならなくなっている」

「青蜥蜴だと!?国家機密を売買するあの国際スパイの青蜥蜴か?」

公安の高木がはたと思い当たったように手を打つ。

「そうか、一連の事件はヤツの仕組んだワナだったということか!

「・・・くっ、大河内、どこまでも邪魔なヤツ・・・」

そういうと私は着ているワンピースを両手で引き裂いた。こんなこともあろうかと、下にウエットスーツを着込んでいたのだ。
大河内が声を上げる。

「いかん!ヤツを押さえるんだ!」

そうはいくか。私は瞬時に身をひるがえし、崖下の海へと頭から飛び込んだ。

私立探偵・大河内大二郎。次こそ必ず息の根を止めて見せる。・・・そういえば今日は土曜日か。土曜日はどうも分が悪いようだ。

思いながら私は着水の衝撃に備え、身を固くした。

<終>


※「火曜サスペンス劇場」オマージュ企画の抽選にはずれましたので、あえて「土曜ワイド劇場 江戸川乱歩の美女シリーズ」的な展開にさせていただきました。

江戸の仇を長崎で討つ。

筋違いの一席、お付き合いいただきありがとうございました!


本物の「#火サスどうでしょう」企画についてはこちらから!


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