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林家あんこさんのこと/私の推し活(^^♪

東京都杉並区、高円寺。
「この氷川神社はなんと、アニメ『天気の子』に登場した天気の神様を祀った神社なんですよ」
と、慣れたバスガイドのように、さらりと彼女は言った。
「実は私もさっき聞いたばかりなんですけどね」

うっすらと冷気の漂う社務所の一室。パイプ椅子に座った十数人の観客を前に、そんなマクラから彼女の噺は始まった。

彼女とは、林家あんこさん。
私がじんわりと推している、女性の噺家さんである。

2023年2月19日、『高円寺演芸まつり』の中の口演。一見の客が多い中で語りだしたのは、自作の持ちネタ「北斎の娘」であった。

墨田区在住で区の親善大使を務める彼女が、地元ゆかりの噺をしたいと模索していて出会ったのが、稀代の天才浮世絵師・葛飾北斎……の娘「お栄」の存在だった。
父・北斎を「親父殿」と呼んで、女だてらに(という言葉は現代にはそぐわないが)画業に打ち込み、家事炊事はまったくやらなかったというお栄。北斎の落款のある作品でも、実は彼女の手によるとされるものも少なくないのだとか。

ベテラン噺家、二代目・林家時蔵師匠の娘として生まれ、二世の女性噺家として修行の日々を送る中で、自らの境遇と重なる部分のある「お栄」との運命的な出会いを果たした、あんこさん。
2022年の春から語りだし、冬までの短期間で三部作にまとめ上げたのだからその意気込みたるや、推して知るべしである。

そもそも、私があんこさんの存在を知ったのは2021年の秋ごろだったろうか。ひょんなことから目に留まった「おきゃんでぃーず」という名の3人の女性噺家によるユニット(気になる方は各自調べて!)。
あまりと言えばあまりなネーミングセンスに一瞬気が遠くなったりもしたが、3人の中で一番、愛想を振りまくことが苦手そうなあんこさんがやたらと気になってしまったのが「推し」の始まりだったようだ。

「おきゃんでぃーず」の解散ライブに馳せ参じたり、あんこさん目当てに寄席に出向いたりしているうちに、その人となりが少しづつ見えるようになってきた。

彼女を見ていて感じることは、「育ちの良さ」。
いい人なのである。そしていい人は損をしがち。
人を押しのけ、出し抜いての成功は願わない。
そして責任感が強い。
「時蔵の娘」として、恥ずかしくない存在でいたい。
目下の若手の面倒もしっかり見てあげたい。

きっとそんな人なのではないか。
そんな人であろうからこそ、「推し」たいのである。

芸が達者な人はいくらもいる。
そうした人に目をつけて、成長を楽しむ推し方もあるだろう。
だが私は、証券取引所で急騰しそうな株を選ぶわけではない。
万券狙いの穴馬を探すわけでもない。

これと思った「人」を推す。
そんな楽しみがあることをを教えてくれたのが、あんこさんだ、と思う。

「離縁されたんじゃないよ。こっちから見限ってやったんだよ!」

嫁ぎ先の北斎の弟子・南沢等明の絵を笑い、出戻ることとなった「お栄」。
父・北斎のもとで画業を極めようと改めて決意する姿が、あんこさんの啖呵で浮き上がってくる。

自作の看板演目は、大きな武器。
しっかりした武器を持てば、自信に繋がり、自信は余裕を生む。
芸の真骨頂は余裕から生まれるのではないかと、私は思っている。
「北斎の娘」からあんこさんが得るものは、ご本人が思っているよりも大きなものになるのかもしれない。

ところで私はいまのところ「北斎の娘」の第一話しか聞けていない。エラそうなことをのたまっておいて、ファンの名折れである。
6月の独演会ではどうやら「北斎の娘」が通しで聴ける!
(なんと「江戸のラブソング」柳家小菊さんがゲストとは!粋曲だけで30分くらい聞きたいw)
なんとかして行かねば、と心に決めたところなのであった。


と、話はひと段落なのだけれど、終演後にあんこさんから「きょうの高座に上がっていた入船亭扇太さんは、いぬいさんと同じ北海道出身なんですよ」と教えていただいた。

タカトシのトシのようでもあり、正岡子規のようでもある風貌の扇太さん。
いきなり推すわけにはいかないけれど、『道北の星』としてのご活躍をお祈りしております!

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