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探索するは地下か雲の上か

世の中の繋がりとは良く分からないもので、目に見える物理的な距離や目には見えない精神的な距離をもひょいと飛び越えて出来上がることがある。
この数年、そんな出来事が幾度かあって、そこでしか起こりえない出来事や存在を盲信していた頃の考えは霞んでしまう。ここは夏休みの街なんじゃないかなんて、昨日読み返した町田洋の漫画を思い出した。

2020年6月15日 日本国内のバンドで3指に入る事は間違いないという程に敬愛している札幌のcuthbartsがノルウェーのslow down recordsというレーベルから過去の音源のリマスター版をBandcamp上でリリースした。
過去の音源は持っているので目新しさはなかったけれど、たまらなく好きなコンピやファンジンにだけ収録されていた『最果て』や『夏色の列車に乗って』がこのリマスター版にも収録されていることを目にしてめちゃくちゃ興奮した。アルバムには収録されていない2つ超良曲が掬い上げられている事が嬉しかった。
また、おそらく唯一持っていない1stシングルに収録されているであろう『光の人』と『kiristo』のライブテイクまで収録されていて、またライブを観たいなと思った。音源化されていない『カモメ』『波ニ揺レル』『メモリーズ』もゆくゆくは音源化してくれたら嬉しい…。その時は大いに歓喜する。


cuthbartsを取り上げるノルウェーのレーベルはなんぞやと思い、slow down recordsのMarius氏をTwitterでフォローした。プロフィールからYou could be a copのベースの方だと分かった。

You could be a copは2017年にFriend of mineやイギリスやドイツ、アメリカ、ノルウェーの計10つのレーベルが共同リリースした12インチがRodentia CollectiveLFRで扱われていて、ジャケットのデザインがすごく良くて気になったバンドだ。Christie Front DriveMineralEmpire! Empire!のようなキラキラしていない叙情的なエモを純然と継承した音がとても良い。今回初めてMV観たけど良すぎた….。曲との親和性がやばい。

イギリスのSSW、Natalie Evansがゲストボーカルで参加しているのだと思っていたけど、正規メンバーだということを今回知った。
彼女のことはOwenのカバーをしている動画で知った。そしてソロもとても良い。

Twitterでフォローして数時間の内にフォローが返ってきて、その日のうちに1通のDMが届いた。自分がプロフィールに貼っているsour thoughtへのリンクから音源を聴いてくれて、Slow down recordsからリリースしないかという誘いの連絡だった。目を疑ったし、何か裏があるんじゃないかとすら正直思ってしまった。それでも、cuthbartsの音源をリリースした、You could be a copの人のレーベルから誘いをもらったことは、紛れもなく事実なんだと何度か確認してから、全身の毛穴が一気に開くほど昂ぶった。
この日は明治館でゆきのぶさんと1曲レコーディングをしたけれど、興奮していてとても気持ち悪い有様を晒したと思う。

何度もDMでやり取りを交わす中で、好きなバンドとしてcuthbartsの他にClimb the mindやMineralを挙げて、クライムの事をgreat band indeedと言っていたり、ミネラルのことは "i love mineral endserenading record"と言っていて最高だと思った。
ミネラルに関しては、1stのPower of Failingの方が好きだという人が多いような気がするけれど、個人的にはendserenadingはその上を行って好きなので、勝手に共感を覚えて本当に最高な気分になり、英語を学んでいてよかったと心から思った。


2020年6月25日 昨夜深夜3時過ぎまで作業をしてくれたようで、夜にはリリースのリマスターが完了してリリースに漕ぎ着けた。正式な依頼をしたのは前日のことである。

英題として "these contrasting lines calms my restless beating heartという名前をつけてくれて、ジャケットも用意してくれた。自主制作盤で自分の好きなように作るのはやり尽くしたし(低予算パッケージだけど)、海外リリース版として違う仕様にするのもいいかと思い、その提案のままリリースしてもらうことにした。
slow-coreのタグが付けられていて嬉しくなった。スロウコアは好きだけど、自分自身、自分の音楽をそう思ってはいなかったし、そう言われたことがなかった。それでも自分の音楽の中にスロウコアの要素を感じ取ってくれたんだなあとしみじみ思った。
それと、2つもあるTillerは何なんだろう。


after works distroが自分達を見つけてくれた時もそうだったけれど、意識の外から生まれる想定外の繋がりには、驚きと不安と興奮が介在する。その先に自分の持つ小さな世界が広がったという充実感がある。

そういえば、自分は大学で国際文化学を専攻して、イギリスに留学もしたことを思い出した。
その学問は、明確に「こんな学問です」と説明するのが難しいのだけれど、知らない世界を開くための確かな力を身に付ける学問だと思う。そしてその実感は、海外の知らない世界と繋がった今も確かにあった。
英語を使って海外と仕事をしていても、オフィスワークを主としているとそういった系譜になった出来事もうっかり忘れてしまったりする。
今回のやり取りで、世界が拡張していくことが好きだということから、国際学部を選んだという系譜をちゃんと思い出すことができて良かった。外的な助けを受けなければ埋もれてしまっていた事は恥ずかしくて情けないけれど、これからは自分だけでも時折思い出せるようにしたい。

やりたい事を実現するには圧倒的に能力が足りていなくて、絶望的な気持ちになるのは相変わらずずっと続いて情けなくなる。そんなことばかり言ってるならやめてしまえと思うだろう。分かる、でもうるさいよ。去年の年末から続く正体不明の喉の異物感は、少し和らいだけれど大きな声を少し出すとすぐに声が枯れてしまう。
多分、力を抜くことが必要だと教えているのだろうと思う。そうすることで自分に足りていないものを補ったり修正することにも繋がるんだろうなと分かってはいる。それは良い事なのだろうけれど、切実に切実に歌を歌って音を出したい自分は、まだそうすることができないず。そうする術を持てずにいる。

言葉選びって大事なことだけれど、絞り出した言葉をどうやって発するかの方が大事だ。発さなくても伝わるものがあって、歌を歌って音楽をするのはそういうものを信じているからだ。

今が一番いいとはいつも言えず、まだやれるまだできるはずだって言い聞かせながらやり続けているけれど、こんな風に掬い上げてもらえると救われたような気持ちになる。早く新しい曲の音源を作りたい。

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