見出し画像

冬のやり取り

秋晴れが続いている。何も予定の無い日にベッドに伏したり、寺の軒先に座って雨音を聞くのも良いけれど、晴れの尾道は格別に良くて海が白む。

海岸通りの美容室に髪を切りに行った。扉を開けると海に面したガラス窓から光がいっぱいに差し込んで、白んだ海が少しだけ顔を覗かせている。店内には誰もおらず、椅子に座って数分待っているとオーナーさんがでてきて、確か前回来た時もこうだったなと回想を浮かべた。

髪を切るときは基本的に横と前髪をバツーン!と揃えてもらって、後ろをすっきり整えてもらっていたのだけれど、数か月前から襟足を伸ばすという愚行を働いていた。今回で愚行は終了、すっきりした襟足を取り戻したら、何かすっと収まったような感覚になった。
3、4回ほど、このくらいでよいか、いやもう少しお願いします、という問答を繰り返していると、2時間が経過していた。オーナーさんが度々手を止めてよくわからない話のために記憶を辿っていたことがこの時間の大半を占める。
わたしもだけれど、このオーナーさんも弁が立ついう訳ではなく、不思議な空気が広がっていて、いわゆる美容師さんらしくない。それを心地よいとも感じる。

美容室を出てからカレーを食べて、ポエムでコーヒーを飲んだ後、家に帰って新しい曲のデモを修正していると、京都から遊びに来ているknitのいちかわくんから連絡があり、鳥徳で待ち合わせをすることにした。
京都のバンドの話やこちらのバンドの話や仕事などの生活の話をした。精神的にやられていると言う発言に対して、即座に、やられているフリね、と訂正を入れるなつおちゃんと彼の空気感が面白かった。それから、cimaneの久保君やcimaneの新しい曲の歌詞の話を聞いて面白かった。cimaneの歌詞は、なかなか捉えられず、飄々とした孤独感に反して地に足を着けた感覚もあってすごく良い。自身に投影するわけではないが妙に惹かれる。

尾道で宿は取れず、福山で適当に泊まるか京都に帰るか決めあぐねているという事だったので、自宅に泊まっていってもらった。二件目!ということで、鳥徳を出てフレンドへ連れて行ったらとても喜んでくれて嬉しかった。
家の周りの星がきれいだと言っていた。星のきれいさは帰路で度々すっごーーーーーーーと感動しているので、この辺りでなんとなく感性が近いような気がした。この星のきれいさに触れた友達は実は彼が初めてだ。

彼と初めて会ったのは2年前だったか、大阪でシガーロスを観た翌日に奈良へcimaneを観に行った時のことだ。あの日はtiny script endingsの湯浅さんやpalpurpleのお二人、cimaneの面々など、色んな人と知り合うことができた日で、いちかわくんもその一人だった。ステッカーだったかカードだったか、URLが書かれたものを渡されたと思う。
その後、彼が大学で企画したbedやodd eyes、cimane、knitが出るライブを観に行って、odd eyesのライブ中に訳が分からない感じになってうろうろしている彼を見たり、その時に配っていたZINEがとても面白かったことをよく覚えている。KnitのCDを2枚買って帰ったけど、この日は話をすることはなかったと思う。
この頃に彼が作った京都4バンドのコンピを買うために、取り扱っている京都のレコ屋を探して自転車を走らせて行ったものの閉まっていた記憶があるけど、これは別の日だっただろうか。
今年に入ってからは、春に彼はレーベルとしてcimaneの音源をリリースした。そしてそのレコ発に東京スーパースターズとmerimeriyeahを呼んで、自身のknitも出演する企画を打ち、ぼくはそれを観に行って、東京スーパースターズのステージに引っ張り上げられる彼をまぶしく思った。
9月に前感覚祭に行った時もばったり会って、また来年良い企画をしようとしている話を聞いたりした。

これまで直接的な関わりはなかったけれど、こうして尾道に遊びに行くと連絡をくれたことが嬉しい。音楽、ないしはバンドが好きだということを通して、好きなようにしている事が地続きになって彼との繋がりが生まれたことが嬉しい。
これは彼だけではなくて、好きなものを通じて出来た人との繋がりは良いものだと思っている。近くにあるものを大切に抱えることも、遠くにあるものを探求して手を伸ばす事もどちらもなくてはならないと思う。

翌朝の日曜日、市川くんたちと別れて高松明日香さんの絵を観に行った。青と白が織り交ぜられた、いつ、どこなのかも分からない世界が広がっていて、ひっそりと静かな時間が佇んでいる。日常のなんでもないワンシーン、知らないいつかのどこかの世界だけど、なんとなく見覚えがある。"気づけば絵が青みを帯びている。きっと目が見えている色から青を多めに拾うのだろう。"と話していた。そういうものだなあ。

火曜日、バンドの練習に行く前に、どうにもこうにもリアの音がでないテレキャスターを診てもらう為に楽器屋へ行った。時折音が出ることはあるが、ピックアップ自体の出力が落ちていて、故障しているとの事だった。かなり奮発して買ったものだったのでショックが隠し切れないけれど、何とかするしかない。2代目のテレキャスターが欲しいとも考えるけれど、このギターを弾きたいという気持ちも強い。

その後、明治館で練習をした。この日は岩本さん不在のため久々に3ピースで、新曲を合わせたりしてなかなか良い仕上がりになってきてとても楽しかった。林くんのドラムが会心の良さで震えた。前回林くんが展開を覚えなさ過ぎてご立腹だったゆきのぶさんもご満悦のようだった。
最近はポストハードばかりを聞いているので、この新しい曲はそういう部分が少し入った曲になった。岩本さんのギターが乗るとどうなるのかが楽しみである!12/22には間に合わせよう。
JCに繋いで踏むと耳に付く感じになるなと思っていたBarbarshopは、Voxのアンプだと良い塩梅に潰れて角が取れるのでとても良い。かなり理想に近い。反対にシゲハルはVoxとの相性があまりよくない気がする。個人練に入ってファズ選手権を開催したい。年明けが明けたらプリプロを作ってアレンジしてレコーディングしたいなとか、構想を練っているだけでも楽しい。

今は全くハズレを引かなくても生きていける時代だという記事を読んだ。同じようにいろんなことを躱して生きていくことも出来て、それは身を守るための、うまくやっていくための手段なのだろうけど、例えばハズレを引いた時に持つ違和感や何かが突っかかった時に生じる反骨心のような、こんな風な生の感覚は大事にしたい。無視するとか、気付かずに、感じずにいることが一番楽なのだろうし、それだけではいられないのだろうとも思うけれど、ちゃんと付き合っていきたい感覚がある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?