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誤解を招く地震リスク情報発信

南海トラフ地震の「臨時情報」について今日12月26日のヤフーニュースで以下のように紹介された。

南海トラフのリスク知らせる「臨時情報」 想定地ですら認知度3割弱(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュースhttps://news.yahoo.co.jp/articles/a56e7fe6a388bb43f7b035cd0e2305e46a5969d5

朝日新聞デジタルによるニュースの内容は以下に全文引用しておく。

 南海トラフ地震の想定震源域で、時間差で起きる後発地震への注意や警戒などを呼びかける「臨時情報」について、内閣府が対象地域の住民の認知度を調べたところ、3割弱にとどまっていることが分かった。
 最大32万人の死者・行方不明者が想定される南海トラフ地震では、主にマグニチュード(M)7以上の地震が起きた際、隣接する想定震源域で次の地震が起きる想定がある。この後発地震について知らせるのが臨時情報だ。「注意」であればすぐ避難できるよう準備しておけば良いが、「警戒」だと沿岸住民は1週間の事前避難が必要だ。2017年から運用が始まった。まだ出されたことはない。
 内閣府が25日に公表した地震防災に関するウェブ調査(全国3万人余りが回答)で臨時情報の認知度も明らかになった。

■「事前避難する」の回答も一部どまり
 南海トラフ地震で著しい被害の恐れがある「対策推進地域」の住民1万6171人に尋ねたところ、臨時情報を「知っている」は28・7%で、「詳しく知らない」(35・5%)、「知らない」(35・8%)だった。
 後発地震に備えて事前に1週間避難すべき「事前避難対象地域」に自宅が入っているかを聞いたところ、「分からない」が54・6%と半数を超えた。さらに、「入っている」と答えた1309人(8・1%)でも、事前避難が必要な「警戒」が出た場合に「事前避難する」と答えたのは35・0%だった。
 このほか、この10年間での減災対策では、公立学校の耐震化率(目標値100%)は99・8%、災害拠点病院の耐震化率(同95%)は94・6%だった一方、「家具の固定率」(同65%)は35・9%、津波避難訓練を毎年実施する市町村の割合(同100%)は52%だった。(大山稜)
朝日新聞社

臨時情報の認知が進んでいないことを危惧する内容の記事である。
まあ知らないよりは知っていた方がいいかとは思うが、この南海トラフ地震の臨時情報は現状では正直なところ役に立つかどうかわからない情報である。内閣府防災情報のページでは以下のリンクのように紹介されている。
南海トラフ地震臨時情報が発表されたら! : 防災情報のページ - 内閣府 (bousai.go.jp)
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/rinji/index3.html

これは過去の南海トラフ巨大地震が1707年宝永地震のように駿河湾から四国沖の広い領域で同時に巨大地震として発生したり、1854年安政東海地震、安政南海地震あるいは1944年昭和東南海地震、1946年昭和南海地震のようにM8クラスの地震が隣接する領域で時間差を置いて発生したりした事例にあるように時間差で巨大地震が発生することを念頭に置いて、南海トラフ沿いである程度以上の規模の地震が発生した場合に注意、場合により事前避難を呼びかけるものである。

具体的には、気象庁において、マグニチュード6.8以上の地震等の異常な現象を観測した後、5~30分後に南海トラフ地震臨時情報(調査中)が発表され、その後、「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」の臨時会合における調査結果を受けて、該当するキーワードを付した臨時情報が発表されることになっている。

調査結果を受けて発表される臨時情報は以下の2種類の情報が最短で2時間程度で発表されることになっている。
・南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)
・南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)

このうち、巨大地震注意の場合は「大規模地震の可能性がなくなったわけではないことに留意しつつ、地震の発生に注意しながら通常の生活を行う」こととなっているが、巨大地震警戒のキーワードがついた場合は「事前避難対象地域」に居住する住民には1週間程度の事前避難が要請される。
その後の1週間程度の間に巨大地震発生がなければ
・南海トラフ地震臨時情報(調査終了)
が出されることになり、「大規模地震の可能性がなくなったわけではないことに留意しつつ、地震の発生に注意しながら通常の生活を行う」こととなっている。
 このあたりは発生するのかしないのか判断できない状況で日常生活を規制して避難要請をするのは1週間程度が限度と考えていることになる。
 ただし、過去に隣接地域で巨大地震が時間差を置いて連動した事例が認識されているとは言え、昭和のように2年の間隔だったりそれ以上の間隔だったりした場合も確認されており、何とも言えない面がある。

そして、南海トラフ巨大地震の被害想定として報道されているのは、過去には連動したことが知られていない日向灘沖も南海トラフと同時に活動した場合のM9クラスの地震についてのものであり、以前紹介した確率評価では評価できない、つまり今後30年間の発生確率はゼロと計算されることになる事例についてのものである。

一般には最大死者数30万人を超えるような巨大地震が今後30年間に70-80%の確率で起きると認識されている、あるいはそのように認識されることがむしろ期待されるような報道のされ方がなされているのではないだろうか。

近年、さかんにNHK特集などで報道されていた「半割れ地震の連続発生」についても地震規模で言えばM8.8レベルの地震が連続して発生するケースに基づいて構成されており、およそ現実的なものではない。

だいたい固有地震説に基づいて現在の計算方法で確率計算をすれば今後30年間の南海トラフ地震の発生確率は30-50%程度で、規模的にも8.0ー8.6程度といったところが妥当なところだろう。

それでもこの確率でも他の地域に比べればかなり高い値になることは確かであり、M8.0の規模でもかなり大きな被害が出ることは予想されるが、政府の被害想定とは桁違いに被害レベルとしては小さいものになるように思われる。

人間、自分がよく知らないリスクの存在を知らされると怖いものであることは心理的傾向としてあることは間違いない。普段の生活を阻害することのないように合理的に対策できる範囲で対策を行っていくことを促すような報道にしてほしいと思う。言われても自分でできないことはできないのである。


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