最強・元気女子・『背中』(17)の場合

#いいねした人の小説を書く
〜@takuGAL編〜


前例がないからと言って一方的に生徒の嘆願を拒むのは教師として如何なものでしょうか。そもそもその前例というのはあなたが知る限りの前例であり、この学校、引いてはアメフトというスポーツの長い歴史において女性が男性に混ざり参加したことがないとほんとに言えるのでしょうか?言えるとするならばその根拠はどこにあるのでしょうか?男女共同参画社会が叫ばれる昨今、女性の社会進出は大きく進んでおり性別による大きな違いは無くなりつつます。前例がないからと言って教師が生徒の自主性を損ねる判断を下すのは早計と言う他なく、それはこの学校全体のイメージダウンに繋がりかねないとも思います。人間においてはそれぞれに個性があり、それは時に身体的格差や国籍などの帰属の違いを生みそれらが有利・不利に働きます。男性優位の激しいスポーツに女性が参加することも有利・不利以上の危険を生むかもしれません。しかしことスポーツへの参加においては誰しも平等であるべきではないのでしょうか。スポーツという文化は誰しも楽しめるものであり、現代を生きる人間の基本的権利に含まれます。だから私はその基本的権利を奪わないで欲しい、そんな簡単なことを言っているだけなのです。だから改めてお願いします。私をアメフト部の足ふきマットとして入部させてください!


春と夏の間、雨が続くこの季節に土壌から水を吸い上げ大輪の花を咲かせているアサガオを横目に見ながら、体育教師は生徒である最強・元気女子・『背中』の狂った主張を聞いていた。最強・元気女子・『背中』が体育教師のもとを訪れ意味不明な主張をしだしたのは今日が初めてではなく、春先から毎日昼休みの時間を使って体育教師の昼食の時間を奪っている。如何に教師が彼女を諭しても、彼女の眼はバキバキにキマっておりアメフト部の足ふきマットとしての入部を取り下げることはなく、もはやそれは執念というか意地、更には彼女はこの討論自体を楽しんでいる節があり、もはや彼女は足ふきマットとしての入部という当初の主張よりもいかに相手を言い負かしてやろうかという方向でこの場所を訪れているようにしか思えない程だった。その証拠に彼女のスマホをちらりと見ると壁紙が西村ひろゆきに設定されていた。どこの女子高生が西村ひろゆきを壁紙に設定するだろうか。今やYouTuberとして活躍するひろゆきであるが彼の本質は2ch文化を中心としたレスバトル、論破に尽きる。衰退した2ch文化であるが現代においてはオールドスクールな文化としてリバイバルし、現代で逆にレコードを聴くみたいなノリで若者たちに消費されているのだ。2chの殺伐とした空気が昨今のやさしい世界のアンチテーゼとして彼女の目には新鮮に映っているのかもしれない。

校舎の方から若々しい男女の騒ぎ声が聞こえた。教師は試しに最強・元気女子・『背中』への再度の対話を行おうとするが、相変わらずその目はバキバキにキマっており彼女との対話は不可能であるということの確認にしかならなかった。教師は少し箸をつけただけの昼食である幕の内弁当を横目で見て、幕の内弁当って妥協の塊だなとぼんやり思った。

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